公益社団法人 日本精神神経学会

English

学会活動|Activities

Fellowship Award受賞者一覧

更新日時:2025年2月13日

第121回学術総会 受賞者

Natural disasters and mental health, including due to global climate change

【受賞者】古川 渉太

【発表概要】
・発表演題名:Mental Health in Disaster Preparedness: Insights from Japan’s DPAT System
・発表内容:
日本は、災害がメンタルヘルスに及ぼす影響に対応するため、包括的なシステムを構築してきた。その中心となるのが、2013年に設立された災害派遣精神医療チーム(DPAT)である。DPATは、災害時の精神医療ニーズに迅速かつ協調的に対応する仕組みを提供し、大きな進展をもたらしている。
今後10年間、日本は南海トラフ地震や首都直下地震のような大規模地震災害、また気候変動に起因する台風や豪雨といった災害に直面するリスクが高い。これらの災害は、ストレスレベルを悪化させ、地域社会を混乱に陥れるだけでなく、高齢者や精神疾患を抱える人々など、社会的弱者に特に深刻な影響を及ぼすと予想される。
これに対し、日本は災害への備えと回復力を強化するため、以下のような取り組みを進めている。地域の支援ネットワークの構築、心理的応急処置(PFA)の訓練普及、避難所におけるメンタルヘルス資源の確保などがその一例である。また、DPAT活動の地域災害対応計画への組み込み、地域精神科病院との合同訓練の実施、自治体と医療機関の事前ネットワーク構築も重要な施策として挙げられる。
これらの対策を通じて、日本は災害に強い地域社会の構築を目指している。これにより、災害への備えを一層強化するとともに、災害時および災害後における社会的弱者への適切なメンタルヘルス支援の提供を実現していく。


【受賞者】北岡 淳子

【発表概要】
・発表演題名:Mental Health Support in Japan During Disasters: Past, Present, and Future
・発表内容:
日本は台風や集中豪雨に加え、大規模地震が発生しやすい災害多発国である。1995年の阪神・淡路大震災を契機に、被災者のみならず救援者のこころのケアの重要性が認識されるようになり、「こころのケアセンター」が設置された。またその後、東日本大震災の経験を踏まえ、DPAT(災害派遣精神医療チーム)も設立されている。
今後10年以内にも日本で大規模地震が発生する可能性は高い。地震は予測が難しいため、被災者に強いショックを与え、余震は緊張状態を長引かせる。また、被害が広範囲に及ぶと支援が分散し、被災者が孤立感や無力感を抱えやすくなり、不安、うつ、依存症、PTSDなどの精神疾患を発症するリスクが高まる。
そのため、平時から地域住民にサイコロジカルファーストエイド(PFA)やストレス対処法を学ぶ機会を提供すること、地域コミュニティのネットワークを強化すること、さらに遠隔診療の体制を整備することが重要と考える。

Case Vignette

【受賞者】釋迦郡 詩織

【発表概要】
・発表演題名:Addressing Sexual Victimization in Children and Adolescents in Japan
・発表内容:
このケースは思春期に継続的な性被害を受けた16歳女性の複雑性PTSDという診断が適切であると考えられます。治療には希死念慮や再被害のリスクを評価するための包括的なインタビューや、トラウマインフォームドケアの実施が不可欠です。実施にあたっては、安全な環境を提供し、治療者がトラウマ反応を理解することが重要です。2014年以降、日本ではワンストップ支援センターを拠点に被害者が迅速に医療、心理、法的サービスを受けられるよう支援しています。しかし、他国と比べて法整備は遅れをとっており、不同意性交罪等についても2023年に刑法が改正されたばかりです。またサービス提供者側のトラウマに関する知識不足が二次被害を引き起こすこともあります。専門家の育成に加え、サービスに関わる非専門家向けにもトラウマ教育を行うことで、このようなケースに対するサポート環境はさらに充実することが期待されます。

 


【受賞者】田鎖 遥

【発表概要】
・発表演題名:From Trauma to Healing: Managing PTSD and Addressing Sexual Violence
・発表内容:
症例は情緒的交流が乏しい両親のもとで育ち、性的虐待を受けてから再想起、回避、過覚醒を呈し、心的外傷後ストレス障害と診断する。治療はトラウマ記憶の制御、自律性と尊厳の回復を目指し、安全の確立、トラウマ記憶の想起と再構成、エンパワメントされた新しい人生の構築の三段階がある。症状は逆境を生き抜くための自然な反応であるといった心理教育は必須である。治療同盟の中で育まれた「人を信頼する力」は支援の輪を広げる糧となる。
本邦では児童相談所を中心に増加する未成年者の性的虐待に介入しているが、女性の性的虐待の推定生涯経験率(0.78%)と児相の年間報告数(年間約2,000件)には乖離がある。2015年には被害者への負担低減のため司法面接制度が導入され、2023年に性交同意年齢が13歳から16歳に変更されたものの、いまだ課題は多い。発表では本症例を通し我が国における思春期の性被害の現状と支援の課題を報告する。

 

外国人の受賞者はこちら

このページの先頭へ