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以下は論文のタイトルと要旨です。
■J. TOROUS, K. MYRICK, A. AGUILERA. The need for a new generation of digital mental health tools to support more accessible, effective and equitable care. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 1–2.
The need for a new generation of digital mental health tools to support more accessible, effective and equitable care
効果的で隔たりのない治療を補助し容易に使用できうる新世代のデジタルメンタルヘルスツールの必要性について
<要旨>
デジタルメンタルヘルスは、スマートフォンの台頭とともに支持を集め、COVID-19の流行時には遠隔医療の普及とともに普及しつつある。しかし、有効性については限られたエビデンスしかないのが現状である。より適切かつ有効にデジタルメンタルヘルスツールの活用するためには、デジタルリテラシーを支援し、最もニーズの高い人々に役立つ新たなヘルスケアサービスを創出することが優先事項である。
〔翻訳:俊野 尚彦〕
■O.D. HOWES, L. BAXTER. The drug treatment deadlock in psychiatry and the route forward. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 2–3.
The drug treatment deadlock in psychiatry and the route forward
精神科における新薬開発の行き詰まりとこれから
<要旨>
2011年から2021年の10年間に、精神医学領域で米国食品医薬品局(FDA)に承認された新薬はわずか12例であった。この背景には精神医学領域において臨床試験が非常に困難であることと、新規化合物が殆ど開発されていないことがある。これらに対処するには短期的には臨床試験のデザインを改善するための戦略を実施する必要があり、根本的には精神疾患の神経生物学に関するメカニズムを解明するための更なる研究が必要であると述べている。
〔翻訳:俊野 尚彦〕
■O.A. ANDREASSEN, G.F.L. HINDLEY, O. FREI ET AL. New insights from the last decade of research in psychiatric genetics: discoveries, challenges and clinical implications. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 4–24.
New insights from the last decade of research in psychiatric genetics: discoveries, challenges and clinical implications
過去10年間の精神科遺伝学研究から得られた新たな知見:発見、課題、臨床的意義
<要旨>
精神科遺伝学は過去10年で進歩し、精神疾患の遺伝的原因に新たな知見が提供され、遺伝的プロファイルを利用してリスク評価を個別化する精密精神医療の可能性が開かれた。精神疾患は何千もの遺伝的変異が相互に影響し合って引き起こされ、一般的な変異も含めると誰もが精神疾患の遺伝的リスクを持っている。大規模な遺伝学的研究により、主要な精神疾患と関連する遺伝子変異が発見されている。これらの知見は精神疾患分類の再解釈を促し、将来的には精神疾患の遺伝学的リスクスコアツールが臨床診療の一部として利用される可能性がある。
〔翻訳:篠原 陸斗〕
■B.E. WAMPOLD, C. FLÜCKIGER. The alliance in mental health care: conceptualization, evidence and clinical applications. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 25–41.
The alliance in mental health care: conceptualization, evidence and clinical applications
メンタルヘルスケアにおけるアライアンス:概念化、エビデンス、臨床応用
<要旨>
治療目標の合意、課題についての合意、つながりの構築から定義されるアライアンスという概念は、心理療法の領域から生まれ、臨床家と患者の協力関係を反映したものである。この概念は助けを求める人と社会的に承認された治療者が関わるあらゆる行為に適応可能である。研究や臨床の関心は、対面での臨床医と患者との間のアライアンスに集中しているが、患者と医療スタッフ、ケアシステム、あるいはインターネットを介したサービスについては予備的なエビデンスにとどまっている。これらの新しい研究分野は、更なる発展が必要である。
〔翻訳:新福 伸久〕
■L.S. BRADY, C.A. LARRAURI, AMP SCZ STEERING COMMITTEE. Accelerating Medicines Partnership® Schizophrenia (AMP®SCZ): developing tools to enable early intervention in the psychosis high risk state. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 42–43.
Accelerating Medicines Partnership® Schizophrenia (AMP®SCZ): developing tools to enable early intervention in the psychosis high risk state
精神病のハイリスク状態における早期介入を可能にするツールの開発
<要旨>
精神病ハイリスク状態(CHR)は、精神病の発症を減らし、長期的な機能的転帰を改善することを目的とした介入を開始するにあたり重要な時期である。本研究では14ヵ国42施設のネットワークを用いてCHR患者のデジタルデータを収集し、24ヵ月後までの主要評価項目として精神病への転換、副次評価項目としてCHR状態の寛解または回復、および非転帰/非寛解、臨床的転帰として陽性症状の減弱、気分や不安、心理社会的機能、陰性症状の持続など、複数の領域について評価した。研究の最終的な目的は、どのような患者が寛解する可能性が高いのか、急性精神病エピソードを経験する可能性が高いのか、あるいは機能障害とともに持続的に減弱した精神病症状や気分症状を特徴とする中間的な転帰をたどる可能性が高いのかを正確に予測することであると著者らは述べている。
〔翻訳:城谷 麻衣子〕
■F. LEICHSENRING, C. STEINERT, F. ROST ET AL. A critical assessment of NICE guidelines for treatment of depression. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 43–45.
A critical assessment of NICE guidelines for treatment of depression
うつ病治療に関するNICEガイドラインに対する批判的評価
<要旨>
イギリス国立保健医療品質向上機構(NICE)が最近更新したうつ病のガイドラインを筆者らは批評している。まず、評価法が正式な外部審査を受けておらず、信頼性が担保されてない。また、参考にしている研究の質は低く、除外されている研究があり、その妥当性は検討されていない。最後に、ガイドラインの推奨事項とエビデンスの関連が不明瞭である。
〔翻訳:宮野 史也〕
■E. ABOUJAOUDE, M.W. SAVAGE. Cyberbullying: next‐generation research. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 45–46.
Cyberbullying: next‐generation research
ネットいじめ:次世代研究
<要旨>
本稿では、ネットいじめに関して、自分ネットいじめ、いじめられっ子現象、傍観者の役割、年齢によるデジタルデバイドの解消、ネットいじめの種類とテクノロジーによる進化、ネットいじめの文化的特質、ネットいじめの管理方法について各々論じられている。そして、特にネットいじめの管理に焦点を当て、多くの若者が被害にあっている現状から、ネットいじめの管理者が違法行為に対してどのように立法プロセスや法執行機関と連携していくかをはじめとした、効果的な管理方法について正確に理解するために不可欠な分野を早急に調査するべきであると結論づけている。
〔翻訳:北岡 淳子〕
■T. FLEMING, M. POPPELAARS, H. THABREW. The role of gamification in digital mental health. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 46–47.
The role of gamification in digital mental health
デジタルメンタルヘルスにおけるゲーミフィケーションの役割
<要旨>
スマートフォンアプリやe-セラピーのようなデジタル技術を用いた介入は、満たされていないメンタルヘルスのニーズや、過重な負担を強いられているメンタルヘルスシステムを改善する可能性を秘めているが、しばしば期待外れに終わっている。ゲーミフィケーションは、非ゲームの文脈でゲーム機能を使用することであり、デジタルメンタルヘルスツールの魅力と粘着性を高める可能性がある。ゲーミフィケーションはメンタルヘルス介入を改善する上で有望であるが、現時点では精神医学におけるエビデンスは限定的であり、他の手段と並行してさらに追求されるべきである。
〔翻訳:山口 博行〕
■C.U. CORRELL, M. SOLMI, S. CORTESE ET AL. The future of psychopharmacology: a critical appraisal of ongoing phase 2/3 trials, and of some current trends aiming to de‐risk trial programmes of novel agents. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 48–74.
The future of psychopharmacology: a critical appraisal of ongoing phase 2/3 trials, and of some current trends aiming to de‐risk trial programmes of novel agents
精神薬理の未来:進行中の第2/3相試験の批判的評価と、新規薬剤の臨床試験プログラムのリスク軽減を目的とした最近の傾向について
<要旨>精神科領域では疾患の病態生理や生物学的マーカーについて未だ不明点が多いが、本論文で示した具体例のように、新規の作用機序を持つ精神科治療薬として臨床試験中の薬剤もかなり出てきている。しかし、新規薬剤の開発や既にある薬剤の適応拡大のために臨床試験をデザインする際には、精神疾患に関する臨床試験に特有の問題が障壁となり、本来あるはずの効果を適切に検出できないことがある。本論文ではそうした問題を解決できる適切な臨床試験デザインのための具体的な方策について述べている。
〔翻訳:可児 涼真〕
■L.N. YATHAM. All levels of the translational spectrum must be targeted to advance psychopharmacology and improve patient outcomes. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 75–76.
All levels of the translational spectrum must be targeted to advance psychopharmacology and improve patient outcomes
精神薬理学を発展させ、患者の転帰を改善するためには、あらゆるレベルのトランスレーショナルリサーチを対象としなければならない
<要旨>
精神薬理学の進歩にもかかわらず、多くの精神疾患の治療は不十分である。改善するために、がん治療プロトコルと同様に、承認された治療法を実臨床のプロトコルやアルゴリズムに組み込みエビデンスを創出すること、臨床現場において学習型医療システムを利用し、各治療に対する反応を予測するバイオマーカーを発見するために分析可能なデータを収集することなどが考慮される。生物学的基盤から、臨床応用、公衆衛生と連続したトランスレーショナルリサーチでイノベーションを起こす必要があると筆者は述べている。
〔翻訳:新福 伸久〕
■C.A. ZARATE JR. Key considerations for clinical trials in psychopharmacology. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 76–77.
Key considerations for clinical trials in psychopharmacology
精神薬理学の臨床試験における重要な検討事項
<要旨>
コレルらによるレビューは、新しい作用機序の向精神薬の開発状況や開発における障壁について述べている。特筆すべきは、臨床試験の方法学と設計と実践における発展についての議論である。その中で、第2相概念実証試験の重要性と治療薬の正確な作用機序の同定についての指摘は、現在の薬理学的治療法の開発に伴った落とし穴と解決策を提示している。数十年間進展のない向精神薬の開発に繋がる可能性があると筆者らは述べている。
〔翻訳:宮野 史也〕
■W.Z. POTTER. Real changes can enhance information yield on novel psychopharmacologic agents. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 77–79.
Real changes can enhance information yield on novel psychopharmacologic agents
真の変化は新規精神薬理学的薬剤に関する情報収量を向上させる
<要旨>
Correllらによる精神薬理学の現在の取り組みと問題点に関するレビューは、情報の制約から懐疑的な意思決定者を納得させる難しさがある。臨床試験のデザインや化合物の選択、新技術の活用についても議論されており、肯定的な第2相試験が有望な化合物の特定に役立つことが示されている。近い将来、脳機能測定や新しい評価方法、多能性細胞の利用、関連データの共有が、精神薬理学の進展に寄与する可能性がある。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
■T. KISHIMOTO. Will digital technology address the challenges of drug development in psychiatry? World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 79–80.
Will digital technology address the challenges of drug development in psychiatry?
デジタル技術は精神医学における医薬品開発の課題を解決するか?
<要旨>
薬物療法は寛解や回復を達成できる患者は一定の割合にすぎず、症状の完全な消失は依然として遠い目標である。新しい作用機序を持つ薬剤の開発とともに病態生理の理解を深めた上で患者を最適な治療選択肢に的確に割り当てることが求められている。そのためには、現在の問題点を解決してより良い臨床試験を実施し、新薬をより早く患者に届けることが重要である。「測定に基づく精神医学」は、デジタル技術を用いれば、より容易に提供できるだろう。結論としてデジタル技術を利用することで精神薬理学の進歩を促進できる。
〔翻訳:畠田 順一〕
■M.E. THASE. Ongoing phase 2/3 trials of psychotropic drugs: is help finally on the way? World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 80–82.
Ongoing phase 2/3 trials of psychotropic drugs: is help finally on the way?
進行中の向精神薬の第2/3相臨床試験:ついに救いの手が差し伸べられるのか?
<要旨>
Correllらの総説は、精神障害の治療における課題を指摘している。疾患の病態生理の限られた理解、バイオマーカー不足、作用機序制約、RCTの問題を包括的に扱う。有望な薬剤研究と臨床改善策に焦点を置いた2つのセグメントから成り、新たな治療法の発見と、GABAニューロンや幻覚剤に関する研究による新アプローチが注目されている。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
■R. EMSLEY. The future of psychopharmacology: challenges beyond efficacy and tolerability. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 82–83.
The future of psychopharmacology: challenges beyond efficacy and tolerability
精神薬理学の未来:有効性と忍容性を超えた課題
<要旨>
現在ではほとんどの精神疾患に対して何らかの有益な効果を持つ薬剤が存在するまでになった。新規のメカニズムをターゲットにし、有効性の優位性を実証しやすいように臨床試験をデザインする、というアプローチを再考させることにもなった。疾患や治療の理解ができず服薬アドヒアランスが低下する患者について一部の製薬会社も認識しており、経口薬よりも確実で中断のない投与が可能な治療方法の開発に、多くの労力を費やされている。新しくより良い薬剤を探し続ける人々を励ますと同時に、必要としている人々がより多くの薬剤を利用できるように保証するべきである。
〔翻訳:畠田 順一〕
■B.A. FISCHER, T.R. FARCHIONE. Clinical trials of novel psychotropic agents: some caveats. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 83–84.
Clinical trials of novel psychotropic agents: some caveats
新規向精神薬の臨床試験:いくつかの注意点
<要旨>
Correllらは新しい向精神薬の臨床試験に関する提案とその批評について述べており、リスク回避の戦略や適応試験の問題点に焦点を当てている。提案の中での医薬品の承認要件が無視される可能性や、臨床試験のデザイン修正の重要性、精密医療と一般化可能性の意義が強調されている。また、サブグループ効果の生物学的妥当性や新しい統計的アプローチの導入に際しては、スポンサーは規制当局との協議が推奨される。
〔翻訳:河岸 嶺将 〕
■E. VIETA. Tough times never last too long: the future of psychopharmacology. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 84–85.
Tough times never last too long: the future of psychopharmacology
厳しい時代は長く続かない:精神薬理学の未来
<要旨>
精神薬理学は70年の進歩を経て、個別化された治療法への移行が進んでいる。ビジネスの変革により代替の標的や新たな治療法の探求が増え、中小企業やバイオテクノロジー企業による新薬の開発が進行中である。統合失調症やうつ病の治療の進展と同時に、精密医療と新たなバイオマーカーの導入も進行中であるが、プラセボ対照試験の困難さや規制の違いも課題として浮上している。精密精神医学は医療アクセス問題や費用増加の問題にも影響を及ぼし、精神障害患者の健康と公平性の向上に向けた進展が期待されている。
〔翻訳:河岸 嶺将 〕
■E. DRAGIOTI, J. RADUA, M. SOLMI ET AL. Impact of mental disorders on clinical outcomes of physical diseases: an umbrella review assessing population attributable fraction and generalized impact fraction. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 86–104.
Impact of mental disorders on clinical outcomes of physical diseases: an umbrella review assessing population attributable fraction and generalized impact fraction
精神障害が身体疾患の臨床転帰に与える影響:集団寄与危険率および一般化影響率を評価したアンブレラレビュー
<要旨>
本稿では、任意の精神障害と身体疾患の臨床転帰との前向きな関連性についてのアンブレラレビューについて論じられている。精神障害が身体疾患の臨床転帰に与える影響は、Population attributable fractionおよびGeneralized impact fractionによって評価され、特にアルコール使用障害やうつ病性障害、統合失調症はいくつかの身体疾患において臨床転帰を悪化させるリスクがあり、これらの疾患を予防することで転帰を改善できる可能性がある。
〔翻訳:北岡 淳子〕
■P. CUIJPERS, C. MIGUEL, M. HARRER ET AL. Cognitive behavior therapy vs. control conditions, other psychotherapies, pharmacotherapies and combined treatment for depression: a comprehensive meta‐analysis including 409 trials with 52,702 patients. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 105–115.
Cognitive behavior therapy vs. control conditions, other psychotherapies, pharmacotherapies and combined treatment for depression: a comprehensive meta‐analysis including 409 trials with 52,702 patients
うつ病に対する認知行動療法 vs. 対照群、ほかの心理療法、薬物療法、組み合わせ治療:52702人の患者に対する409の研究に関する包括的メタアナリシス
<要旨>
本稿は、うつ病に対する認知行動療法の短期および長期の効果を検証する無作為化試験の新たな包括的なメタ分析を、すべての治療形式(個人、グループ、グループ、研究)で実施し、また、対照条件(待機リスト、通常通りのケア)および他の有効な治療(他の心理療法、抗うつ薬、併用療法)関する比較をおこなったものである。結果として、認知行動療法はうつ病の治療に有効であり、その効果は12ヶ月まで優位に持続し、長期的には薬物療法よりも優れた効果があり、併用療法は薬物療法に比べ長期的には効果があるものと考えられた。
〔翻訳:城谷 麻衣子〕
■A. BURSCHINSKI, J. SCHNEIDER-THOMA, V. CHIOCCHIA ET AL. Metabolic side effects in persons with schizophrenia during mid‐ to long‐term treatment with antipsychotics: a network meta‐analysis of randomized controlled trials. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 116–128.
Metabolic side effects in persons with schizophrenia during mid‐ to long‐term treatment with antipsychotics: a network meta‐analysis of randomized controlled trials
抗精神病薬による中長期治療中の統合失調症患者の代謝副作用:ランダム化比較試験のネットワークメタ分析
<要旨>
統合失調症患者は、何年もあるいは生涯にわたって抗精神病薬を服用しているが、これらの薬剤は代謝系副作用により深刻な健康への影響をもたらし平均寿命を短縮させる可能性が指摘されている。本研究は、ランダム効果ベイズネットワークメタ解析を用いて、31種類の抗精神病薬の中長期的な代謝系への作用を評価した。その結果、クロルプロマジン、クロザピン、オランザピン、ゾテピンが体重増加と最も関連していることが明らかになり、統合失調症患者に対する抗精神病薬の選択において、代謝系副作用に関する長期的なデータを考慮する重要性が強調された。
〔翻訳:山口 博行 〕
■S. CORTESE, M. SOLMI, G. MICHELINI ET AL. Candidate diagnostic biomarkers for neurodevelopmental disorders in children and adolescents: a systematic review. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 129–149.
Candidate diagnostic biomarkers for neurodevelopmental disorders in children and adolescents: a systematic review
小児・思春期の神経発達症の診断バイオマーカー候補:システマティックレビュー
<要旨>
本システマティックレビューでは、神経発達症の診断に有効なバイオマーカーを見つけることを目的に、主にGWAS・神経画像研究・神経生理学研究の解析を行っている。残念ながら、複数の研究で同方向の変化を示し、特異度・感度が80%を上回るバイオマーカーは見つからなかったが、現在の研究の限界並びに、将来の展望として多変量解析の重要性について言及している。
〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕
■A.S. MORRIS, J. HAYS-GRUDO. Protective and compensatory childhood experiences and their impact on adult mental health. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 150–151.
Protective and compensatory childhood experiences and their impact on adult mental health
幼少期の保護的・補償的体験、その成人期メンタルヘルスへの影響
<要旨>
保護的・補償的体験(PACEs)は、まだしばしば見逃されがちであるが、レジリエンスを育み、逆境体験の影響をも軽減する。PACEsは「サポーティブな関係」と「豊かな資源」の2つの領域に分類され、その促進によって幼少期の健康的な発達成長を促すだけでなく、成人期において精神疾患の発症予防因子として働くことが示された。本論文では、成人に対するPACEs Heartモデルによる保護的・補償的体験に注目した治療の効果についても述べられている。
〔翻訳:城谷 麻衣子〕
■J. FIRTH, R.E. WOOTTON, C. SAWYER ET AL. Clearing the air: clarifying the causal role of smoking in mental illness. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 151–152.
Clearing the air: clarifying the causal role of smoking in mental illness
精神疾患における喫煙との因果関係を明らかにする
<要旨>
様々な研究デザインや集団から、喫煙が精神疾患のリスクを高め、診断の有無にかかわらず精神症状を増加させるという点で、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすというエビデンスが増えている。研究の優先性は、その影響の原因メカニズムを解明することにあるが、臨床的には、精神疾患で治療を受けている喫煙者の身体的・精神的健康の両方を守るために精神医療における効果的な禁煙介入を確立し、普及させることが、優先される。
〔翻訳:畠田 順一〕
■C.J. HOPWOOD, A.L. PINCUS, A.G.C. WRIGHT. A clinically useful model of psychopathology must account for interpersonal dynamics. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 152–154.
A clinically useful model of psychopathology must account for interpersonal dynamics
臨床的に有用な精神病理学モデルは、対人関係のダイナミクスを説明しなければならない
<要旨>
精神病理の有用な分類法は、それらがどのように発生するかを説明し、治療的解決策を指し示すものでなければならない。現代統合的対人関係理論(CIIT)は人々が生活する文脈の中でどのように機能するかに関心を寄せている。このモデルの第一前提として、パーソナリティと精神病理の基本的に重要な機能的表現は、対人関係の中で起こるということがある。個人差の構造モデルと人と環境の相互作用の機能モデルを結びつけることによって、CIITはパーソナリティ、精神病理学、介入に関する完全な理解を支援し、HiTOPやRDoCのような個人ベースのモデルを関係的かつダイナミックに補完する。
〔翻訳:清水 直樹〕
■P. ZACHAR. Non‐specific psychopathology: a once and future concept. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 154–155.
Non‐specific psychopathology: a once and future concept
非特異的精神病理学:これまでとこれからの概念
<要旨>
本稿では、現在主流となっている操作的診断では症状像を十分に捉えられておらず内的妥当性を欠いていることを指摘し、その課題への提案として非特異的精神病理学を取り上げている。精神疾患の構成概念はその性質からして常に不完全であり、操作的定義は新しい知識や概念によって修正や拡張されうる。精神医学的問題がときに非特異的な症状から始まり、変幻自在であり、ある場合には特定の症候群に収束することを説明することが重要であると筆者は述べている。
〔翻訳:田鎖 遥〕
■Raquelle I. Mesholam‐Gately, Dan Johnston, Matcheri S. Keshavan. What's in the name “schizophrenia”? A clinical, research and lived experience perspective. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 156–157.
What's in the name “schizophrenia”? A clinical, research and lived experience perspective
「Schizophrenia」の名称に何が含まれるか?臨床、研究そして生活体験の視点
<要旨>
「Schizophrenia」という単語は1908年に考案されて以来、現在に至るまで差別、スティグマ、誤解を含みながら使い続けられてきている。「Schizophrenia」の名称変更は、ただ言葉を変更するだけでなく、精神疾患やその他の精神疾患を持つ人々の幸福と希望を支援するために、パーソンセンタード、回復志向、経験に基づいた言葉を使おうという大きな動きの一部である。患者の大多数が馴染めず、汚名を着せられ差別されていると感じ、治療を求める意欲を失わせるような病名の変更が、精神病を患う人々の生活改善につながる一部となるのであれば、その価値はあるのではないかと筆者は結んでいる。
〔翻訳:新福 伸久〕
■Carla Agurto, Raquel Norel, Bo Wen, Yanyan Wei, Dan Zhang, Zarina Bilgrami, Xiaolu Hsi, Tianhong Zhang, Ofer Pasternak, Huijun Li, Matcheri Keshavan, Larry J. Seidman, Susan Whitfield‐Gabrieli, Martha E. Shenton, Margaret A. Niznikiewicz, Jijun Wang, Guillermo Cecchi, Cheryl Corcoran, William S. Stone. Are language features associated with psychosis risk universal? A study in Mandarin‐speaking youths at clinical high risk for psychosis. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 157–158.
Are language features associated with psychosis risk universal? A study in Mandarin‐speaking youths at clinical high risk for psychosis
精神病リスクと関連する言語の特徴は普遍的か?CHR状態の 北京語を話す青年を対象とした研究
<要旨>
統合失調症や精神病の臨床的ハイリスク(CHR)状態で会話の一貫性と複雑性が低下することが欧米圏の自然言語処理(NLP)分析により解明されている。筆者たちは、英語と文法的差異の大きい言語でも共通の発見があるか調査するため、北京語を話すCHR状態の青年 20人と健常対照者25人を対象とした30分ずつのインタビューを行い、中国語、Google英語翻訳、音響で機械学習にかけて分析した。CHRには国際的に共通する言語障害があるという考えを支持する結果となった。
〔翻訳:武藤 健太郎〕
■Marco Colizzi, Alexis E. Cullen, Natasha Martland, Marta Di Forti, Robin Murray, Tabea Schoeler, Sagnik Bhattacharyya. Association between stressful life events and psychosis relapse: a 2‐year prospective study in first‐episode psychosis. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 159–160.
Association between stressful life events and psychosis relapse: a 2‐year prospective study in first‐episode psychosis
ストレスフルライフイベントと精神病再発との関連:初回エピソード精神病に関する2年間の前向き研究
<要旨>
精神病発症後に発生するストレスフルライフイベントは、長期的な転帰の悪化と関連している。しかし、既存のエビデンスには方法論的な問題があり、これらの出来事が精神病の前駆的役割を果たすことを証明することは困難であった。本検討では、前向きコホート研究として、初回エピソード非器質性精神病患者を対象に、精神病発症後2年間の入院を指標とした再発リスクに対するストレスフルライフイベントの影響を調査した。結果は、ストレスフルライフイベントを経験した患者は再発リスクが有意に高かった。この結果は、ストレスフルライフイベントが精神病再発の危険因子になることを示した。精神病の再発予防において、患者が経験するライフイベントを観察し、適時的な介入を行うことは臨床的・公衆衛生的な意味を持つ可能性がある。
〔翻訳:篠原 陸斗〕
■Inka Weissbecker, Caoimhe Nic A. Bhaird, Vania Alves, Peter Ventevogel, Ann Willhoite, Zeinab Hijazi, Fahmy Hanna, Prudence Atukunda Friberg, Henia Dakkak, Mark van Ommeren. A Minimum Service Package (MSP) to improve response to mental health and psychosocial needs in emergency situations. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 161–162.
A Minimum Service Package (MSP) to improve response to mental health and psychosocial needs in emergency situations
緊急事態におけるメンタルヘルスと心理社会的ニーズへの対応を改善するためのミニマム・サービス・パッケージ(MSP)
<要旨>
紛争や災害などの緊急事態は、メンタルヘルスに多大な影響を与えるものの、現場におけるメンタルヘルスの優先順位は依然として低い。 メンタルヘルスおよび心理社会的支援のミニマム・サービス・パッケージ(MHPSS MSP)は、メンタルヘルス支援を人道支援活動に組み込むことを目的にし、緊急事態に見舞われた人々の緊急かつ重要なメンタルヘルス・ニーズを満たすために優先するべき活動の概要を示している。MSPを活用することで、限られた資源を有効に活用していく計画を立てられるようになると筆者は論じている。
〔翻訳:武藤 健太郎〕
■Danuta Wasserman, Helen Herrman, Afzal Javed, Roger M.K. Ng, Peter Falkai, Jerzy Samochowiec, Jonas Eberhard, Norman Sartorius. WPA's humanitarian actions for Ukrainian psychiatrists and psychiatric patients. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 166–167.
WPA's humanitarian actions for Ukrainian psychiatrists and psychiatric patients
ウクライナの精神科医と精神科患者に対するWPAによる人道的活動
<要旨>
WPAは、2020年5月に緊急事態への対応のための諮問委員会(ACRE)を設置しており、2022年2月ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、ウクライナの精神科医と精神医学会に人道的・医療的支援を提供するための小委員会が設置され、WPA加盟学会を通じて人道的・医療的援助を計画・実施している。本稿においては、紛争中にウクライナ人が直面したメンタルヘルス上の課題に対応できるよう、トラウマを抱えた人を助ける方法について一般の人々に知識を提供する目的でWPAが設立したオンライン・トラウマ・リソース・センターや、WPA加盟協会を通して行われている様々な支援について紹介している。
〔翻訳:清水 俊宏〕
■Marco O. Bertelli, Annamaria Bianco, Luis Salvador‐Carulla, Afzal Javed. WPA Working Group on Defining and Managing Autism Spectrum Disorder: spreading knowledge for the next generations of psychiatrists. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 168–169.
WPA Working Group on Defining and Managing Autism Spectrum Disorder: spreading knowledge for the next generations of psychiatrists
自閉症スペクトラムの定義と治療に関するWPA作業部会:次世代の精神科医のために知識を広める
<要旨>
ASDを持つ人が他の神経発達障害やメンタルヘルス上の問題を経験することが多い一方で、ASDに関する専門的なトレーニングやケアへのアクセスには大きな課題がある。本稿では、 WPAのASDの定義と治療に関する作業部会が、次世代を担う精神科医やその他の精神保健専門家に知識を広めるために出版した教科書や開発した教材について紹介している。
〔翻訳:清水 俊宏〕
■Andrea Fiorillo, Giovanni de Girolamo, Ivona Filipcic Simunovic, Oye Gureje, Mohan Isaac, Cathy Lloyd, Jair Mari, Vikram Patel, Andreas Reif, Elena Starostina, Paul Summergrad, Norman Sartorius. The relationship between physical and mental health: an update from the WPA Working Group on Managing Comorbidity of Mental and Physical Health. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 169–170.
The relationship between physical and mental health: an update from the WPA Working Group on Managing Comorbidity of Mental and Physical Health
身体的健康と精神的健康の関係:精神的健康と身体的健康の併存症の管理に関するWPA作業部会からの最新情報
<要旨>
重度の精神障害を持つ患者の平均余命は10~25年ほど短い。その要因として、身体疾患の合併、精神科診療における身体的加療の限界、精神科と他の診療科との連携の不足などが挙げられる。世界精神医学会(WPA)によって「精神疾患と身体疾患の合併症の管理に関するワーキンググループ」は、合併症に関する研究、教育、サービスを強化するために設立された。このグループは、身体疾患と精神疾患の合併に対処するためのシンポジウム、ウェビナー、共同研究を開催し、さまざまな合併症に関する教材を提供している。
〔翻訳:武藤 健太郎〕
■Matteo Di Vincenzo. New research on validity and clinical utility of ICD‐11 vs. ICD‐10 and DSM‐5 diagnostic categories. World Psychiatry. 2023 Feb; 22(1): 171–172.
New research on validity and clinical utility of ICD‐11 vs. ICD‐10 and DSM‐5 diagnostic categories
ICD-11とICD-10およびDSM-5の診断カテゴリーの妥当性と臨床的有用性に関する新たな研究
<要旨>
本稿では、ICD-11に新たに組み込まれた診断カテゴリー(複雑性心的外傷後ストレス障害、遷延性悲嘆障害、ゲーム障害、強迫性性行動症)、並びにICD-11で改変が加えられた診断カテゴリー(気分障害、知的発達症、性別不合、反抗挑発症)の妥当性や臨床的有用性を、ICD-10やDSM-5との比較を通して検証したエビデンスについて要約している。
〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕
【監訳】
秋山 剛 NTT東日本関東病院
【翻訳】
認定NPO法人 日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/
可児 涼真 亀田総合病院
河岸 嶺将 千葉県精神科医療センター
北岡 淳子 垂水病院
九野(川竹) 絢子 マウントサイナイ医科大学
篠原 陸斗 市立釧路総合病院精神神経科
清水 俊宏 埼玉県立精神医療センター
清水 直樹 埼玉医科大学病院 神経精神科・心療内科
城谷 麻衣子 城谷病院
新福 伸久 北海道大学 精神神経科
田鎖 遥 神奈川県立精神医療センター
俊野 尚彦 高岡病院 /神戸海星女子学院大学 現代人間科学部
畠田 順一 東松山病院
宮野 史也 北海道立向陽ヶ丘病院
武藤 健太郎 東京医科大学病院メンタルヘルス科
山口 博行 国立精神・神経医療研究センター