公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

若手国際シンポジウム発表賞(受賞者一覧)

更新日時:2024年1月11日

第120回学術総会 受賞者

Suicide Prevention

【受賞者】伊津野 拓司

【発表概要】
・発表演題名:Suicide Prevention in Japan
・発表内容:
日本の年間自殺者数は、1998年以降3万人台に急増、2010年以降は徐々に減少し年間2万人となった。COVID19パンデミック以降は増加、女性と若年者の増加が目立った。
ACTION-J研究は、日本の自殺対策の成功例と言える。救急搬送された自殺企図者をレジストリ登録する仕組みが構築されている。自死遺族の専門外来を開設した医療機関もある。
市民向けの自殺対策として、メンタルヘルスファーストエイド、ゲートキーパー養成研修、こころのサポーター養成研修などがある。小中学校では援助希求行動を促す教育が行われているが、高等教育の自殺対策教育は不十分である。全国大学の保健管理センターの報告では、自殺企図に及んだ大学生の約8割は保健管理センターに相談していない。
医療従事者が自殺予防のスキル向上させる必要がある。患者に希死念慮を尋ねることに抵抗がある医療者も多い。メディア報道において、自殺予防を促進するような配慮を追求する必要がある。


【受賞者】宮野 史也

【発表概要】
・発表演題名:Three Efforts to Prevent Suicides of Hokkaido University Students
・発表内容:
北海道大学では、自殺予防のために3つの取り組みを行っている。入学時に自己記入式尺度によるスクリーニングを行い、カットオフ値を超えた学生には北海道大学保健センターへの受診を促す。受診した学生は医師の診察を受け、必要に応じて医療機関を紹介する。その他、心理的介入を必要とする学生にも対応している。
我々の研究では、自殺念慮は一貫して低い自己志向性と低い自尊心と関連しており、自己認知が重要な介入ポイントとして浮上してきた。自己志向性と自尊感情には自己受容の概念が含まれており、強い自己批判と自己受容の欠如が自己破壊的思考につながると推測される。自己認知を修正することが自殺念慮の軽減に効果的であるという仮説を立て、検証する必要があると思われた。また日本の大学生の自殺予防心理教育プログラムの作成に向けた介入研究として、「自己認知の修正による自殺予防のための心理教育プログラム」を開発中である。


【受賞者】千葉 俊周

【発表概要】
・発表演題名:Suicide prevention - the impact of stress symptoms and strategies for its management
・発表内容:
日本の自殺率は経済バブル崩壊を契機に増加し高止まりを続けていた。これに対し自殺対策基本法などが導入され、自殺率は長年減少し続けてきた。しかし、COVID-19禍では、自殺率が再び上昇に転じた。コロナ禍のようなストレスが自殺に与える影響を理解し、早期発見と適切な予防策を促進する必要がある。我々はCOVID-19パンデミック下で縦断オンライン調査を実施し、COVID-19関連のPTSD症状と自殺増加の時間特異的な連動を明らかとした(Chiba et al., Nat Mental Health, 2023)。イベント関連のPTSD症状を自殺リスクの代替指標として用いることで、自殺予防を促進できる可能性がある。その一助として、我々は同データにおけるPTSD症状のリスク・保護因子解析を行っている。本シンポジウムでは、これらの知見を踏まえ、将来的な自殺予防のアプローチについて議論したい。

Case Vignette (Late-life Depression)

【受賞者】片山 祐

【発表概要】
・発表演題名:Approaches to older adults living alone in Japan
・発表内容:
提示された症例は、経過や社会的に孤立していることを考慮すると、老年期うつ病と考えられる。他の鑑別診断としては、レビー小体型認知症、水頭症、電解質異常、糖尿病、甲状腺機能低下症、脳梗塞、薬剤惹起性などが挙げられる。甲状腺機能検査、ヘモグロビンA1c、脳波、睡眠ポリソムノグラフィ、CT、MRIなどの検査や、ハミルトンうつ病評価尺度、ミニメンタルステート検査などの心理検査も有用である。うつ病とフレイルは関係するため、早期介入が必要である。
孤独は死亡率の増加にもつながるが、独居の高齢者(65歳以上)は約670万人にのぼり、高齢者人口の約4分の1を占めている。また、生活保護を受けている世帯の約56%が高齢者世帯であり、高齢者の貧困も社会問題となっている。
日本には介護保険制度をはじめ、様々な高齢者支援制度があるが、それらの利用方法を知らない人も多いため、認知度を高めることが重要である。

 

第119回学術総会 受賞者

Roles of psychiatrists in emergency medical services

【受賞者】河岸 嶺将

【発表概要】
・発表演題名:Psychiatry-related issues in emergency medical services.
・発表内容:
精神科医が所属している総合病院の数は少ないため、精神科へのコンサルトが常に行われてきたとは言い難い。喜屋武1)によれば埼玉医科大学病院内の身体科救急外来における精神科の緊急介入を要する状況において、自殺企図・自傷が全体の43.4%で最も多いと報告している。埼玉医科大学付属病院以外の他の病院も自殺企図・自傷で救急搬送された場合は精神科へのコンサルテーションのニーズが有るのかもしれないが、全容を明らかにされてこなかった。
演者の所属する千葉県精神科医療センターは、2023年に千葉県救急医療センターと合築することもあり、救急医療における精神科のニーズを明らかにするため、さらなる文献検索や、救急医療を担当する医師、看護師にアンケートを実施することによって検討を行い、当日はその内容に基づいて発表を行いたい。
 
1)喜屋武 玲子:救急外来における精神科的問題と身体科的問題 臨床精神医学 51(11): 1285-1290, 2022

 


【受賞者】星野 瑞生

【発表概要】
・発表演題名:Cooperation with Emergency Physicians to Rescue Psychiatric Patients Visiting ER in Japan
・発表内容:
我が国における身体的救急医療と精神科医療との協働において、我々は多くの課題に直面している。我が国では精神科を標榜していない総合病院が少なくなく、精神科医が身体的救急医療に参加できない場合、精神科医療が必要な救急患者に対して適切な医療が提供されない。精神症状を主として繰り返し救急外来を受診する患者がいると、救急医療スタッフの作業負荷が増し、精神症状を有する患者に対するスティグマを招きかねない。対策として、近隣の精神科病院と総合病院とが協働しやすくするための政策を打つことや、総合内科医が精神症状についてもプライマリケアを提供できるようになるためのトレーニングを提供することなどが挙げられる。一方、精神科を有する総合病院内でも精神科と救急部との連携は大変重要である。これをスムーズにするために行われている実践例をいくつか紹介したい。

 


【受賞者】宮崎 秀仁

【発表概要】
・発表演題名:Importance of collaboration between psychiatrists and emergency physicians
・発表内容:
精神科医と救急医の連携の重要性
救急部の患者が精神疾患に関連する問題を抱えていることは多い。自殺企図者がその代表ではあるが、背景となる精神疾患や危険因子は様々である。また救急部を受療したことをきっかけに、精神科医が介入すべき問題が明らかになることがある。救急部ではこれら患者の精神面を対応することが必要である。
こういった患者に社会支援の介入も必要である。しかし、必要な治療を短時間で的確に行う救急医と長期的に患者と関わっていく精神科医では、必要な医療を行う上で時間的な視点が異なる。そのため救急部では精神科医と救急医が連携し、最小限の時間で医療とケースワークを行い、退院後の長期的な生活を考える必要がある。
また救急医は精神科医療が、精神科医は救急医療を苦手としている。それぞれの医療の苦手分野を補うために、精神医療と救急医療共に習熟した医師を増やしていく必要がある。現在、救急現場での精神疾患患者の初期対応の講習会が実施されている。

 

Case Vignette (chronic pain)

【受賞者】高松 直岐

【発表概要】
・発表演題名:The role of psychiatrists in the interdisciplinary care of chronic pain
・発表内容:
提示された症例の鑑別としては身体表現性障害に合併した物質使用障害を考える。一般的な対応としては痛みの発症や分布等、症状の特徴を把握し、身体的精査を要する病態を探る。その上で、知的水準や性格特性を考慮した身体化の程度の把握や、抑うつ・不安の関与の程度を評価する。
身体表現性障害あるいは慢性疼痛に対して十分な心理教育の実施がない鎮痛薬や抗不安薬の慢性的な使用は最適な治療効果が得られないだけでなく、乱用や依存の問題にも発展する。治療のアプローチとしては、痛みに注目するのではなく、日常機能の改善が目標とされる。その中で、認知行動療法は痛みによる日常生活の不自由さや悲観的な考えを軽減し、充実感のある生活を取り戻すのに有効であることが示されている。演者の所属機関で現在行っている慢性疼痛に対する認知行動療法プログラムの無作為化比較試験について紹介する。

第118回学術総会 受賞者

Efforts to ensure continuity of psychiatric care under the COVID-19 pandemic

【受賞者】黒川 駿哉

【発表概要】
・発表演題名:Changes in Telepsychiatry in Japan During the COVID-19 Pandemic, Countermeasures Taken, and Challenges Faced.
・発表内容:
COVID-19パンデミック以前から日本の児童・思春期精神医療のリソース不足が指摘されているが、パンデミックにより医療へのアクセシビリティの問題がさらに顕在化している。本発表では、まず、COVID-19が日本の一般人口の精神的健康に及ぼしている影響についてのオンライン調査の結果を通じて、日本の精神医療の変化を報告する。次に、演者らによる神経発達症児とその保護者を対象としたオンライン重症度アセスメントの妥当性試験の結果を紹介し、この技術が医療へのアクセシビリティを向上させることができるかについて議論する。最後に、オンライン集団療法(PEERS®プログラム)の実践事例を紹介し、遠隔診療の可能性と課題について議論する。

 

Mental health of healthcare workers under the COVID-19 pandemic

【受賞者】香田 将英

【発表概要】
・発表演題名:Stress and support of healthcare workers under the COVID-19 pandemic
・発表内容:
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号入港後の2020年1月に、日本における最初のCOVID-19感染者が確認された。その後、2021年9月までに5回のピークを経験し、168万人以上の患者が確認され、17,294人の死者が報告された。
厚生労働省および関係省庁より、COVID-19に対する医療機関向けのガイドラインが発行された。しかしながら、当初の対応における政策と臨床のギャップ、対応医療機関の温度差、新興感染症に対する恐れなどから、COVID-19患者への対応は困難を伴い、特に精神疾患を基礎に持つ患者への治療環境の確保には困難を極めた。
医療従事者や保健福祉関係者の間で、COVID-19に対する不安や恐怖をはじめ、睡眠障害、燃え尽き感などの精神的苦痛が明らかに認められた。また、ケア提供職には女性が圧倒的に多いため、学校閉鎖や家族のリモートワーク、非常事態宣言による社会構造の変化などが、女性労働者の心理的負担をさらに高めていると推測された。
精神科や緩和ケア科の設置されている医療機関は、COVID-19対応者のための支援の仕組みを積極的に立ち上げたところもあった。このような医療機関では、自己記入式のストレスマネジメント資料を病院のイントラネット上にアップロードしたり、対面・オンラインによるカウンセリングを実施した報告がある。また、外傷性心的ストレスやメンタルヘルス、心理社会的支援に関する多くの専門家は、ストレスマネジメントに関するオープンアクセスの資料の公開やヘルプライン設置を介して、医療従事者への支援の仕組みを提供している。
本発表では、一精神科医として個人と組織の両レベルで、COVID-19対応者への支援経験を紹介したい。


【受賞者】曾根 大地

【発表概要】
・発表演題名:Impact of COVID-19 on epilepsy practice, psychological distress in EEG technicians, and barriers to telemedicine: Insights from a multi-center nation-wide survey in Japan
・発表内容:
COVID-19は世界的なインパクトをもたらし、社会を劇的に変化させている。日本の精神神経科臨床への影響も大きく、入院患者数の大幅な減少や、遠隔医療やオンライン会議に注目が集まるなど、様々な変化が生じた。本演題では、我々のグループ(Japan Young Epilepsy Section: YES-Japan)が実施した全国大規模多施設調査に基づき、COVID-19がてんかん診療や脳波検査等に与えた影響について紹介する。調査の結果、2019年に比べ2020年は外来・入院患者数、脳波検査数等が大きく減少し、遠隔医療は特に緊急事態宣言時に大きく増加していた。また、患者と直接接する脳波検査技師の35%が心理的苦痛を受け、COVID-19疑い患者の検査は重大なリスク要因となっていた。遠隔医療の障壁として仕事量が独立した要因であり、精神科医は脳神経外科医や神経内科医に比べて遠隔診療に消極的であった。調査結果と共に、ポストコロナ時代の精神神経科臨床への教訓についても議論したい。

 

Mental health of the general population under the COVID-19 pandemic: including a brief case description

【受賞者】田久保 陽司

【発表概要】
・発表演題名:Psychological impacts of the COVID-19 pandemic on postpartum mothers in Japan
・発表内容:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行による社会的制約は長期に及んでいるが、日本において周産期メンタルヘルスに与えた影響についての詳細な調査はなかった。そのため、2017年4月1日から2021年12月31日までに済生会横浜市東部病院の産後1か月健診を受診したほぼ全例の女性である5143人を対象として、産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)と赤ちゃんの気持ち質問票の得点を、COVID-19流行前後で比較した。COVID-19流行中群は不安が著しく増大しており、妊産婦はコロナ禍でのストレス反応に伴って心理的過覚醒状態となっていることが示唆された。さらに、2021年にはEPDS項目10(自傷念慮)の平均得点が上昇していた。コロナ禍に対応した妊産婦ケアの重要性が示され、リモート環境を考慮したWebや情報通信技術を活用した地域包括ケアシステムの構築や普及が必要であると考えられた。周産期ケアにおいて多職種連携は基本であるが、COVID-19によって連携が困難となった症例も提示する。
 

 

第117回学術総会 受賞者

Gambling disorder

【受賞者】宋 龍平

【発表概要】
・発表演題名: Gambling Disorder in Japan: current situation, recent studies, and future perspectives
・発表内容:
日本では、2016年に特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称:IR法案)、2018年にギャンブル等依存症対策基本法が成立したこともあり、ギャンブル関連の問題が注目を集めている。本発表では、まず都市部や郊外にパチンコ店が多いことなど日本特有のギャンブル事情、学校を中心とした地域の予防教育、自助グループや非営利団体の活動、ギャンブル障害の専門治療提供体制などについて概観する。続いて、日本発のギャンブル関連研究を四つ紹介する。一つ目は一般人口対象の全国調査、二つ目はホームレスの方々を対象とした記述研究、三つ目は問題ギャンブラーを対象としたチャットボットの無作為化比較試験(RCT)、四つ目はギャンブル障害患者を対象とした集団認知行動療法に関する多施設共同RCTである。以上を踏まえて、ギャンブル問題の支援、研究、教育の今後について議論したい。


【受賞者】矢野 幹一良

【発表概要】
・発表演題名:The Social and Healthcare Situation on Gambling Disorder in Japan
・発表内容:
日本ではパチンコ・パチスロが日本の巨大産業になっており、市場規模は20兆円を超えている。2017年に実施された全国調査では、ギャンブル障害の過去12か月間の有病率は比較的高く、パチンコ・パチスロがギャンブル障害全体の約8割を占めている。
ギャンブル障害は深刻な経済的、社会的問題、自殺の問題まで引き起こすが、日本においても、ギャンブル障害では、物質依存と同様、いわゆるトリートメントギャップが大きく、患者への支援は家族の関係機関への相談から始まることが多い。
しかし、日本ではギャンブル障害に対する医療資源が不足しており、精神保健福祉センターや保健所等が患者や家族に相談支援を行なっている。治療は限られた専門医療機関や精神保健福祉センターで行われており、ギャンブル障害の自助グループも未だ増加途上にある。
よって、日常臨床でのギャンブル障害の早期発見が必要な状況にある。

 

Case Vignette (Reactive attachment disorder)

【受賞者】岡﨑 康輔

【発表概要】
・発表演題名:Approaches to Reactive Attachment Disorder in Japan
・発表内容:
近年、本邦において児童虐待は社会問題となっており、その背景に少子高齢化社会などの影響が示唆されている。児童虐待に関連した児童思春期にみられる精神疾患の一つに反応性愛着障害が挙げられるが、知的能力障害や自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症などの神経発達症との鑑別を要する。診断の鑑別において、詳細な生育歴や発達歴の聴取及び心理発達検査、逆境的小児期体験の評価は有用である。
反応性愛着障害の治療において、本邦の児童福祉分野で重要な役割を担う児童相談所などの福祉関係機関、教育機関及び医療機関など、多機関が連携した児童及び養育者への心理社会的な介入は重要である。一方で、情緒及び行動の問題に対して薬物療法が効果的なケースもみられる。
なお、本演題のなかで提示する演者らの研究については、奈良県立医科大学医の倫理審査委員会の承認を得て行った。また、本演題に関連し、開示すべき利益相反は存在しない。


【受賞者】佐々木 祥乃

【発表概要】
・発表演題名:The current status of child abuse and other relevant issues in Japan
・発表内容:
提示された症例検討に加え、日本における児童虐待や関連事項の現状を伝える。
1.  DSM-5では反応性愛着障害と診断される。診断過程で心理検査としてWISC-IVを行う。併存疾患として反抗挑戦性障害がある。注意欠陥多動性障害と重篤気分調節症、間欠性爆発性障害は鑑別診断に挙がる。
2. 児童相談所が対応した児童虐待件数は1990年から28年連続で増加している。日本は、子どもを保護する制度や法令が十分でなく、その背景には日本独特の文化である「ウチとソト」「恥の文化」がある。
3. 精神療法、薬物療法、環境調整など種々の治療技法が主診断、併存疾患に用いられる。しかし、大事なことは病院や支援施設がお互いに連携する中で途切れることのない支援が提供されることである。
4. 虐待児を保護する社会資源として児童相談所の一時保護が挙げられる。一時保護の目的は子どもの生命の安全を確保することである。

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