公益社団法人 日本精神神経学会

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お知らせ

自殺総合対策大綱改正に向けての提言

平成23年12月9日
日本精神神経学会理事会
精神保健に関する委員会

 全国の年間自殺者数が3万人を超える深刻な事態を抜本的に改善することを目的として、2006年自殺対策基本法制定が制定され、自殺対策は国、地方公共団体の責務と規定し、国民ひとりひとりが自らの問題として自殺対策に取り組むこととなった。そして、基本施策の中で調査研究の推進、医療供給体制の整備(精神科医療の整備と連携強化)が主要項目とされた。また、精神科医は同法15条で「精神保健に関する専門的知識を有するもの(自殺対策基本法15条)」として規定され、自殺対策に関連して精神科医の果たす役割は一層重要となった。

 2007年自殺総合対策大綱により具体的な方策が決定されたが、いまだ自殺者数、自殺率の大きな減少は達成できていない。

 自殺の原因には、多くの要因が複雑に関与するが、自殺をした人の多くが、死の直前には何らかの精神疾患に罹患していたとされている(WHO, 2000)。しかし、わが国においては自殺既遂者の心理学的剖検を含めた精神医学的調査研究の体制が十分に確立されておらず、自殺予防の総合対策の実効を挙げにくくしている。

 一方、厚生労働省は、地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾患として指定してきた「がん」、「脳卒中」、「急性心筋梗塞」、「糖尿病」の四疾患に新たに「精神疾患」を加え五疾患とする方針を決定した(2011年7月6日)。これは、国もうつ病等が国民に広く関わる疾患であり、自殺予防のためにも重点的な対策が必要と判断したためと考えられる。

 このような事実を踏まえ、各精神科関連学会の提言とともに、以下のような自殺総合対策大綱改正への基本的視点・重要項目を列挙する。

1) 自殺対策を支える精神医学的調査・研究に特化した枠組みの拡充と、そのための予算措置を講じ、調査研究の推進が必要である。

2) 「地域医療供給体制の整備」の実効的な実施;地域医療計画において、誰でもが経済的にも心理的にも偏見を超えて精神科を受診できる切れ目のない医療供給体制を確立し、自殺予防および自死遺族へのケアを含めた精神保健福祉を充実させるための医療ができる抜本的な予算措置を講じる。

3) 適切な精神医療が受療されやすい体制づくりが必要であり、長期的観点からも地域ケアを含めた精神医療の質、量の充実を図る施策が必要である(診療報酬制度の充実)。

4) 精神科医がさまざまな活動へ参画を行い、助言等ができる体制の確立、例えば、職域、教育機関・専門職育成、介護保険サービス、医療機関・各種相談機関等の社会サービスでの支援における教育や研修等が必要である。

5) プライマリケア医への精神疾患に対する理解を深める活動をなお充実させ、精神医療との連携を一層強化するための施策が必要である。

6) 救急医学分野での精神科以外の医師と精神科医及び関連コメディカルの充実によるチーム医療の導入、すなわちリエゾン・コンサルテーション精神医療の充実は、直接的に自殺防止対策につながると考えられ、その充実のための施策が必要である。

7) 産業医学分野では、正規労働者はもちろんのこと、非正規労働者、失業者など精神医療へのアクセスが困難な人に対しても、産業医等と連携して精神科医が自殺防止対策を講じることのできるような体制づくりが必要である。

8) 住民健診、職場健康管理等における精神的不調の把握と、そこから迅速に適切な相談・医療を受けることが可能になるような体制の確立が必要である。

9) うつ病だけでなくアルコール依存症など様々な精神疾患に対して、精神科関連学会の提言を尊重した緻密な対策を策定する必要がある。


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