公益社団法人 日本精神神経学会

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見解・提言/声明/資料|Advocacy

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」について

更新日時:2015年2月24日

平成14年11月16日
社団法人 日本精神神経学会
理事長 佐藤 光源

標記法案は通常国会において審議未了となり、10月18日に開会された臨時国会において継続審議されることになりました。
日本精神神経学会は、昨年来、数次にわたり見解を発表し、重大な疑義を表明してまいりました。通常国会における審議では、それらの懸念が残念ながら払拭されませんでしたので、ここに重ねて見解を表明いたします。

1.精神科医に「再犯」の予測はできない

本法案は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、適切な処遇を決定するための手続を定め、継続的かつ適切な医療ならびに必要な観察および指導を行い、病状の改善およびこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、社会復帰を促進する」ことを目的としている。
本法案の目的が重大な犯罪の「再犯」防止にあることは明白である。本学会が繰り返し主張してきたように、精神科医は「病状の再発」の予測はできても、高い蓋然性をもって「再犯」を予測することはできない。欧米の研究報告においても、そのことが論証されている。
本法案は精神科医に精神医学上不可能なことを要求しており、法の目的を達成することがそもそも困難である。

2.現行の精神科医療制度と司法制度の改善こそが急務である

精神保健福祉法にもとづく措置入院制度の運用、とりわけ警察官通報制度や検察官通報制度の実態を改善する必要がある。 精神障害者による不幸な事件のほとんどが初犯である実情から、精神科救急システムの構築が急務である。 そしてなによりも、精神保健医療福祉の質の向上のため、適切な財政援助と十分な人員配置とが必要である。 現行の起訴前鑑定、とりわけ簡易鑑定の実態を見直し、重大犯罪については原則として正式な裁判鑑定を実施することが重要である。 さらに、矯正施設における精神科医療の質の向上が図られるべきである。

以上、現行の精神科医療制度と司法制度の改善が並行して進められることこそが急務である。

3.司法システムと精神科医療システムの協同をめざす必要がある

裁判段階および刑の執行中も適切な精神科医療が提供できるように、司法と精神科医療との協同を目指すべきである。 すなわち、精神科医療システムから必要に応じて司法システムに速やかに移せる制度あるいは司法システムから精神科医療システムに必要に応じて速やかに移せる制度の整備が不可欠である。

4.情報公開が必要である

これまで、精神科医療と司法の双方にかかわる問題について、情報がほとんど国民に知らされていない。 措置入院制度運用の実態、起訴前鑑定の実態、矯正施設における精神科医療の実態等々、本来、本法案作成の基本とすべき資料すら公開されて来なかったのが現状である。 臨時国会における法案審議の過程でそうした情報が明らかにされることが必要である。

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