公益社団法人 日本精神神経学会

English

見解・提言/声明/資料|Advocacy

精神保健福祉法改正に関する見解

更新日時:2015年2月24日

平成16年11月23日
社団法人 日本精神神経学会
理事長 山内 俊雄

 このたび、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」見直しの時期に当たり、日本精神神経学会の見解をとりまとめました。法改正に当たって当学会の見解を反映していただくようお願いいたします。
平成17年の法改正を控えて、厚生労働省障害保健福祉部は平成16年10月に障害者保健福祉施策改革のための「グランドデザイン(案)」を公表しましたが、そのなかで障害福祉サービス法(仮称)を制定し、身体・知的・精神障害者の福祉を一元的に提供する仕組みを導入するとしております。本学会はかねてから精神障害者の福祉に関する条項は「障害者総合福祉法」を制定し、それへ委ねるべきだと主張してきましたので、障害福祉サービス法(仮称)の制定に基本的には賛意を表するものです。ただし、障害者福祉の一元化が介護保険制度との統合に直接的に結びつくことの是非については慎重な検討を要するものと考えます。 本見解では、最初に、精神障害者福祉施策が新たに制定される障害福祉サービス法(仮称)のもとで提供されることを前提に基本的考え方を述べ、次に個々の条項については現行法の条項と照らし合わせる形で改正すべき点を指摘しました。特に、これまでの改正で実現あるいは徹底できなかった精神障害者の自立と社会参加、人権の尊重と権利擁護、精神障害の定義の見直し、非自発的入院の要件の明確化、保護者の義務の見直し、説明と同意、情報の公開、不適切な用語の見直しなどについて具体的な提案をしております。それぞれの条項が改正後どの法律に移されることになろうと、本提案の意図するところが生かされるべきです。

基本的な考え方

法体系の見直し
 現行法は、精神疾患の医療、精神保健、精神障害者福祉の3領域をすべて網羅した精神障害者のための特別法という位置づけになっている。 このことには、精神保健施策を医療、保健、福祉の統合的観点から進めるという利点があるにしても、 実際には医療、保健、福祉のいずれの領域においても精神保健問題を特殊なものとして位置づけ、施策の遅れや歪みを生じさせる要因となっていたことは否定できない。 特に、現行法は、精神障害者の医療と保護および発生予防によって、国民の精神健康の保持と向上を図ることを目的とした精神衛生法(昭和25年制定) を基にして、その上に福祉条項を追加して現在に至ったものである。そのような歴史的経緯から、この法律には精神障害者の医療と保護のための色彩が強く残り、 精神障害者の人権擁護、自立支援、社会参加が法の主たる目的とはなっていない。
以上の点から、精神保健福祉法改正に当たっては、この法律の法体系上の位置づけを、その目的に沿って根本的に見直し、現行法の医療、 保健に関する条項をそれぞれ医療法、地域保健法へと移行するとともに、福祉に関する条項は新たに「障害者総合福祉法(仮称)」 (厚労省案の障害福祉サービス法に相当)を制定しそこに組み入れ、残る非自発的入院に関する部分に関しては、 「精神疾患のために非自発的入院が必要とされる人々の適正医療に関する法律(仮称)」を策定することも検討すべきである。

当事者の視点を反映した精神保健医療福祉施策への転換
 これまで精神保健医療福祉施策は、明治33年の精神病者監護法から平成15年の医療観察法に至るまで、当事者の視点が施策に反映されることなく推進されてきた。 しかし、今後は、人権を尊重しつつ最良な保健、医療、福祉サービスをあまねく提供できる、当事者の立場に立った施策展開がなされるべきである。

国民の義務の明確化と差別禁止法の制定
 また、そのような施策が受け入れられるために、国民に対しては、精神障害者が社会を構成する尊厳ある一市民であることを理解し、 差別や偏見の解消に努め、併せて精神障害者の自立と社会参加に協力する義務があることを明確に示す必要がある。 さらに、精神障害者の偏見や差別の禁止、権利擁護を実効あるものとするために、一歩進めて「差別禁止法」を制定する必要がある。

改正された障害者基本法との整合性の確保
 平成16年6月に障害者基本法が改正され、その基本的理念に差別禁止が追加されたこと、国や地方公共団体の責務が明確にされたこと、 家族への役割期待への言及が削除されたこと、保護概念が破棄されたことなど重要な改正がなされている。 精神保健福祉法を障害福祉サービス法(仮称)と精神保健法(仮称)に分けるかどうかにかかわらず、すべての条項について、 改正された障害者基本法との整合を徹底して図る必要がある。

適正な精神科医療の確保
 精神医療の水準の向上を妨げてきたいわゆる精神科特例は現在なお実質的に残されている。 精神科医療の質の向上、入院患者の人権尊重、適正な入院期間、適正な地域医療計画の策定と精神病床の地域偏在の是正、 情報公開の徹底などは、精神保健福祉法の改正だけでは実現しない。医療法の改正を含めた環境整備が必須である。

精神障害者の自立支援のための社会基盤整備
 精神障害者の自立と社会参加が唱えられて久しいが未だ実現するに至っていない。 精神障害者福祉制度を介護保険制度と統合することが検討されているが、保険制度に移行することで精神障害者の生活支援が円滑に進展するという保証はない。 いわゆる三位一体改革(税財政改革)のなかで、地域における精神障害者社会復帰施設整備や居宅生活支援事業等の後退も危惧される。 遅れた精神障害者福祉施策を取り戻すためにも、地方公共団体に精神障害者のための社会基盤整備を義務づけ、 その実現を促進するために時限立法として、障害福祉サービス法(仮称)に加えて、たとえば「精神障害者の地域ケアを実現するための財政支援に関する法律(仮称)」を制定すべきである。

具体的な見直し点

法の目的の見直し(第1条)
  法の目的は、「国民の精神健康の維持と向上」、「精神障害者の自立と社会参加のための支援」、「精神障害に対する偏見や差別の克服」にあるはずであり、その目的に近づくための方策として保健、医療、福祉が位置づけられなければならない。また目的条項に加えて理念条項が加えられるべきである。たとえば、仮に現行精神保健福祉法の第1条を踏襲するとした場合は、「この法律は、国民の精神健康の維持と向上及び精神障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本的理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、精神障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本的事項を定め、精神障害者のための保健・医療・福祉施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民の精神健康の維持と向上及び精神障害者の自立と社会参加を推進することを目的とする」と書き直されるべきである。

理念を定めた条項の新設(新設条項)  基本的理念として次のことが盛り込まれるべきである   (ア) すべての国民は精神的健康を維持し向上するための機会が与えられること。   (イ) 精神障害者は、個人としての尊厳を有する社会の一構成員であり、自立と社会参加の権利、差別や偏見に晒されることなく生活する権利、他の市民と同等の水準で保健・医療・福祉を享受する権利を有すること。

国・地方公共団体の義務、国民の義務の見直し(精神障害者の権利保障、情報公開の徹底) (第2条、第3条、48条) (ア) 国、地方公共団体、国民の義務として「精神障害者の社会構成員としての諸権利を尊重すること」および「差別の禁止」を追記する。   (イ) 国民の義務規定のうち「精神的健康の保持及び増進に努め、・・・」はあたかも精神的不健康になることが、国民の義務に反するかのような表現であるので、この記述を削除する。   (ウ) 国、都道府県、市町村の役割を明確にするとともに、現行法では努力規定となっている精神障害者の社会復帰、自立、社会参加への支援を、「精神障害者の自立と社会参加の権利を保障する施策を講じなければならない」と義務規定に変更する。   (エ) 精神科医療機関や精神障害者社会復帰施設・福祉施設等の適正配置を促し、偏在を是正するために、「国や地方自治体は、精神障害者が自分の居住する地域で治療や支援を受ける権利を保障するために、医療機関や支援施設を精神障害者の生活圏内に適正に配置しなければならない」という条項を追加する。   (オ) 「国、地方公共団体は,個別の精神病院,社会復帰施設その他の事業に関し保有する情報を、厚生労働大臣が定める基準に基づいて、公開しなければならない」という条項を追加する。

精神障害者の定義の見直し(第5条)  「基本的な考え方」で触れたごとく、現行法は保健・医療・福祉と広範な領域に対応している。従って、保健の対象となりうる健常者、医療の対象となる精神疾患患者、福祉の対象となる精神障害者まで同一の定義の下に置いているが、今後は以下のように改めるべきである。   (ア) 対象者を、法の目的に応じて、たとえば、「精神保健の問題を抱える、あるいは抱える可能性のある者」、「精神疾患を有し医学的医療を必要とする者」、「精神疾患により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と区別して定義する。   (イ) 特定の疾患名・障害名を単純に列挙して定義することを改め、法の目的とする領域に応じて、精神医療の対象となる精神疾患とその状態像、福祉の対象となる障害を厳密に規定する。とりわけ非自発的入院の対象はその範囲を明確に限定すべきである。   (ウ) 精神疾患名については国際疾病分類を採用する。   (エ) 精神障害の範囲、程度については、国際生活機能分類(ICF)に準ずるなど、精神障害者の福祉ニーズが的確に反映される明確な基準を用いる。

精神医療審査会の機能強化(第6条、第12~15条) (ア) 「都道府県に精神医療審査会を置く」を「都道府県から独立した第三者機関に置く」と改正し、精神医療審査を行うための公的機関を都道府県・政令指定都市単位であらたに設置する(第12条)。併せて、精神保健福祉センターの業務から「精神医療審査会の事務を行う」を削除する(第6条)、   (イ) 都道府県・政令指定都市単位の精神医療審査会の上級機関として、中央精神医療審査会を設置し、 ① 地域の精神医療審査会の決定に対する不服申し立ての審査を行う。 ② 精神病院に勤務する指定医等からの病院内処遇違反事実報告を受理し、都道府県・政令指定都市の精神医療審査会の協力を得ながら、その審査を行う。 ③ 併せて、精神医療審査会の審査状況の調査・研究、研究会の開催等を行う。(新設条項)   (ウ) 精神医療審査会の委員資格として、「精神保健又は精神障害者の福祉に関し学識経験があり、医療機関から独立して地域で精神障害者の支援に携わる者」を追加する(第13条)   (エ) 合議体の委員構成に、「精神保健又は精神障害者の福祉に関し学識経験があり、医療機関から独立して地域で精神障害者の支援に携わる者」を追加し、医療委員を2名とする。   (オ) (オ) 精神病床数および地域特性(人口密度等)を考慮し、少なくとも2,000床に1合議体とするとともに、合議体あたりの開催頻度を高め、審査の厳正化、迅速化を図ること。   (カ) 処遇改善請求の審査範囲を、隔離・拘束等の行動制限に加えて、通信・面会等の制限、不当な使役・搾取、任意入院患者の不当な閉鎖処遇、その他患者の尊厳を傷つける処遇等とする。   (キ) 合議体が審査をするものに、医療保護入院の移送、措置入院の3ヶ月後、閉鎖病棟に6ヶ月以上在棟している任意入院を加える。(第15条政令への委任)

精神保健指定医の役割、指定条件等の見直し(第18~19条、第37条の2) (ア) 精神保健指定医が入院精神障害者の人権擁護の観点からその機能を果たすためには、次の条件が必須である。 ① この法律において、精神障害者の権利擁護、自立と社会参加の理念が明確に示され、その実現のための具体的な施策がなされていること ② 人権に配慮した適正な精神科医療の提供を可能とする医療経済的環境が整っていること。特に実質的に残されている医療法上の差別的規定が廃止され、診療報酬制度上で一般医療と同等な医療水準を保つことができる精神医療施策がなされていること。  しかし、これらの条件が未だ満たされていない中で、精神保健指定医は精神障害者の強制処遇を合法的・形式的に整えるための役割を担わされているのが現状である。上記諸条件を無視した精神保健指定医の業務の厳正化は見かけの改善をもたらすことはあっても、真の改善に繋がらない。精神保健指定医制度を生かすために早急に上記諸条件の整備が必要である。   (イ) 指定医の性格と職務を明確にするために、「指定医は精神疾患の診断・治療・処遇に当たって精神障害者の人権の尊重に努めなければならない」の一項を追加する(第8条)。   (ウ) 指定医の処遇違反事実の報告規定の見直し(第37条の2) 入院患者への処遇違反があり、管理者が改善を怠った場合、指定医は違反事実を中央精神医療審査会へ届けるものとする。   (エ) 「18条の1の3に基づく告示(指定を受けるための診断・治療経験)」の中の措置事例は統合失調症圏内である必要はない。   (オ) 「19条に基づく告示(指定後の研修)」については、精神保健指定医の資質向上のために指定後の研修を充実させるとともに、都道府県・政令指定都市においては定期的に地方精神保健指定医会議を開催して医療現場における問題点を相互に点検し改善する機会を設ける。

保護者規定の見直し(第20~22条の2、41条)  民法に扶養義務が規定されている中で、保護者としての家族が精神障害者の医療と保護の役割をある程度担うことは避けられないにしても、現行の精神保健福祉法の実際の運用をみると、保護者には精神障害者の権利擁護的な役割よりも、精神障害者の医療と保護を担保する役割が担わされている。しかし、今後は、保護者の役割を、国連原則における個人的代理人に近づけ、より権利擁護的なものにする必要がある。あわせて、家族がその役割を担いきれない場合にはすみやかに、国・都道府県・市町村等が公的な見地から実質的な保護義務を遂行できるシステムを構築する必要がある。  そのような観点から、   (ア) 保護者の義務のうち「診断への協力義務」、「医師の指示に従う義務」、(22条)、「措置入院解除者の引き取り義務」(41条)を削除する。「精神障害者の財産上の利益を保護する義務」を残し、「治療を受けさせる義務」を「適正な医療を受ける機会を保証し、その権利を擁護する義務」に変更する。   (イ) 家族等に保護者になるべき者がいない場合に市町村長が代わって保護者となる規定は実質上形骸化している。精神障害者の権利擁護を行う機関を新たに「指定」し、家族等が保護者になれない場合には、その機関あるいはその機関に登録された「公的代理人」が、保護者としてあるいは本人の意志を尊重した自立支援を行う役割を果たせるようにする。こうした機関として、成年後見制度の法人後見を行う機関などを想定する。(第21条)   (ウ) 保護者が精神病院内に設置された権利擁護委員会へ参画できるようにするなど権利擁護的な役割を遂行できる仕組みを作ることも検討されるべきである。

医療保護入院の見直し(第33条)  現行の医療保護入院には次のような問題点がある。 ○ 指定医1名の診断で非自発的入院が無期限で行われうる制度である ○ 医療保護入院を適用すべき診断基準が明確でない ○ 保護者(扶養義務者や市町村長)の同意を基本としている 家族制度の変化とその機能の弱体化、市町村長同意の形骸化、強制入院についての国際的基準を充分満たしていない現状からも、近い将来、現行の医療保護入院制度を、人権に十分配慮しつつ適正な医療が提供でき、しかも短期間で終了することを基本とした新たな非自発的入院制度へと見直すことが検討されなければならない。 しかし、保護者に代わる公的代理人制度が確立されていない現状で、一気に医療保護入院を廃止することは困難である。今回の改正では、精神障害者の地域生活を重視する立場から、入院が遅滞なく行われることを保障すること、入院する精神障害者の人権が確実に擁護されること、そして入院の長期化を防ぐことが充分配慮されなければならない。それに関連して公的代理人制度の創設や成年後見制度の法人後見を行う機関が保護義務を遂行できる制度の創設について検討するとともに、措置入院も含めた非自発的入院制度の抜本的な見直しを視野に入れた環境づくりを開始する必要がある。そのような観点から、当面の見直しとして   (ア) 医療保護入院の決定は、これまで通り1名の指定医の診察によるが、入院後6ヶ月を経過した時点で、精神保健指定医2名が診察を行い、その継続の可否について判定を行う。以降、6ヶ月に一度2名の指定医(そのうち1名は入院医療機関以外の指定医が望ましい)による判定を行う。   (イ) 医療保護入院の決定には、保護者の同意を必要とするが、市町村長同意で入院する場合には、併せて、あらかじめ公的な機関(家庭裁判所の指定する機関、人権擁護委員会等)に登録されたPSW等一定の資格を有する保護者に代わる「公的代理人」を選任し、医療保護入院患者の権利擁護者として関与させる。あるいは、こうした機関に登録された者、もしくは機関が保護者に就任することができる規定を設ける。   (ウ) 入院後6ヶ月を経過し、それ以降も入院継続が必要とされた場合は、当該入院患者には病院選択の権利を保障するために、本人もしくは保護者等の申し出により、転院について斡旋や調整を行う機関を都道府県単位で設置もしくは指定するとの規定を盛り込む。   (エ) 医療保護入院は本人の同意を得ない強制入院であることに鑑み、医療保護入院を受け入れる病棟については措置指定病院と同等水準の職員配置基準、施設基準等を満たすこととする。   (オ) 医療保護入院の要件を次のように定める。 ① 国際疾病分類による医学診断 ② 精神疾患による判断能力の喪失あるいは減退 ③ 入院治療による改善あるいは悪化防止の可能性

任意入院の適正化(第22条の3)
(ア) 任意入院では開放処遇が原則であることを明示する
(イ) 閉鎖病棟に6ヶ月以上継続して入院している任意入院患者については精神医療審査会に定期病状報告を提出し審査を受けるものとする。

通報制度および措置入院制度の適正化(第23~32条、第19条の8)
(ア) 通報制度等の見直し
① 第23条「精神障害者又はその疑いのある者を知った者は、誰でも、そのものについて指定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる」の条文は、精神障害者の危険性を前提として収容を優先させた時代のものであり、あたかも軽微な者も含めて精神障害の疑いがあれば、診察と保護の申請の対象であるかのごとき誤解を招く。また、「誰でも」という文言によって、国民すべてが監視者となりうることを示唆し、精神障害者への偏見や差別を助長しかねない。 この条文については削除するか、残すとしても「自傷他害の恐れがあり、緊急に診療を必要とする精神障害者又はその疑いにある者を知った者は、そのものについて指定医の診察を都道府県知事に申請することができる」と変更する。
② 第24条~26条の「通報」を、「診療要請」という用語に変更する。
③ 事前調査の適正化(第27条)
事前調査ためのガイドライン、事前調査書の統一様式を作成し、調査の標準化を図る。
  (イ) 措置要件の厳正化と指定医診察の適正化 ① 措置入院の要件を「自傷他害のおそれ」を「自傷他害の差し迫ったおそれ」に変更する。(28条の2、29条) ② 指定医の診察の適正化(第28条の2) 厚生労働大臣の定める指定医判定基準を、医療保護入院の要件の見直し(8のオ)と同様に改正する。   (ウ) 指定病院の指定基準の見直し(第19条の8) ① 指定病院を病棟単位で指定することを検討する。 ② 指定病棟には、患者数3に対して看護師数1以上、精神保健指定医1名以上および精神保健福祉士または臨床心理技術者を配置することとする。 ③ 地域医療圏ごとに必要な指定病床数を算定し指定病床の偏在を是正する。   (エ) 措置解除後の医療や支援の明確化(第29条の5) 措置入院者の症状消退届けの様式を改善し、措置解除後の医療や地域での支援体制などが明確になるようにする。

精神病院における人権尊重、情報公開、処遇適正化等の推進(第36~38条の3)   (ア) 精神病院管理者の義務として、入院患者の尊厳を重んじ、その尊厳にふさわしい処遇をしなければならことを規定する(新設)   (イ) やむを得ず行動制限をしなければならない場合には、その最小化に努めなければならない旨を法文上で規定する(新設)。   (ウ) 精神病院管理者の義務に、治療に関する「説明と選択(インフォームド・チョイス)」についての努力規定を追加する(22条の3)   (エ) 密室的になりがちな精神病院がその透明性を高め、住民にとって身近で信頼できる存在となるように、「精神病院は、患者・住民が医療機関を選択する上で参考となる構造設備、職員配置、診療状況等を厚生労働大臣が定める基準にしたがって公開する」という規定を設ける(新設)。   (オ) 厚生労働大臣が定める行動制限に閉鎖処遇を含ませる。   (カ) 精神病院管理者は、措置入院については3ヶ月ごと、医療保護入院および閉鎖病棟に6ヶ月以上入院している任意入院については6ヶ月ごとに、定期病状報告を都道府県知事等に提出するものとする(38条の2)。   (キ) 退院および処遇改善請求(38条の4) 国連原則を踏まえ、請求権者の範囲を本人、保護者に加えて「法定代理人または弁護士」に拡大する。   (ク) 患者の権利に関する文書の掲示(新設) 患者の権利について周知徹底を図るために、病棟内に患者の権利に関する文書を掲示することを精神病院に義務づける。   (ケ) 第37条の2の条文を「精神病院勤務者は、その勤務する精神病院に入院中の者の処遇が第36条の規定に違反していると思料するとき又は前条第1項の基準に適合していないと認めるときその他精神病院に入院中の者の処遇が著しく適当でないと認めるときであって管理者がこれを放置するときは、当該精神病院に入院中の者の処遇の改善が図られるよう中央精神医療審査会に届け、当該精神病院に入院中の者の処遇の改善のために必要な措置が採られるよう努めなければならない。当該勤務者はその行為をもって就労上の不当な処遇など労働者としての権利が侵害されることはない」に変更する。   (コ) 入院精神障害者の相談、自立支援、人権擁護を強化するために、精神病院への精神保健福祉士の配置を必須とする(第38条)。

地方障害者福祉審議会(仮称)の役割の明確化とその機能を評価する仕組みの導入(第9条、第10条)  障害福祉サービス法(仮称)が制定された場合には、現行の地方精神保健福祉審議会は地方の障害者福祉施策に関する審議会(以下、地方障害者福祉審議会)に一本化されるであろうが、その場合、精神保健医療についての審議の場も併せて確保する必要がある。地方障害者福祉審議会の機能として以下のことが明確に示されなければならない。   (ア) 精神保健、精神医療についての審議を行うために、地方精神保健医療審議会を設置するか、地方障害者福祉審議会のなかに精神保健・医療特別部会を設置する。   (イ) 地方障害者福祉審議会あるいは地方精神保健医療審議会の役割を明確にするために「定期的に精神障害者のための医療資源や福祉資源等の現状を調査分析し、知事等に社会基盤整備のための年次計画策定等についての意見具申を行うこと」を条文に加える。   (ウ) 地方障害者福祉審議会(または地方精神保健医療審議会)の委員及び臨時委員に精神障害を持つ当事者を含めることを明文化する。   (エ) 地方障害者福祉審議会(または地方精神保健医療審議会)において精神保健福祉に関連する審議が遅滞なく行われているかどうかが定期的にチェックされる仕組みが必要である。

精神障害者保健福祉手帳の判定の適正化(第45条)   (ア) 対象の明確化、診断書記載の厳密化、判定の精密化のために、判定基準・診断書様式を改訂する。   (イ) (イ) 手帳申請診断書の内容に疑義がある場合の再判定あるいは障害程度が変化したと推定される場合の再判定のための診察(手帳返還命令のための診察を含む)は、精神保健福祉センターに設置されている判定委員会の委員の業務とする(第45条の2の3項)。

地域における精神障害者の自立と社会参加の支援の強化(第47条~50条の2)
(ア) 社会復帰施設および精神障害者居宅支援事業の整備を進めるために、都道府県・政令指定都市・市町村それぞれに施設設置計画・事業計画の策定および施設整備を義務づける。   (イ) 精神障害者の自立と社会参加を促進するために、「都道府県・政令指定都市は、保健所単位に『地域精神保健福祉審議会』を設置し、精神保健福祉施策の策定、推進、評価を行わせ、併せて関係諸機関の連絡調整を図らせること」として、あまねく精神保健福祉が行き渡るようにする。(新設)   (ウ) 精神保健福祉センター、保健所及び市町村に、精神障害者の相談・訪問支援等を行う精神保健福祉相談員の配置を義務づける(第48条)

不適切な用語の見直し
 本学会は、平成14年総会において長年使用されてきた「精神分裂病」を「統合失調症」へと呼称変更し、当事者・家族・精神保健医療福祉関係者の間に新呼称が定着したところである。また、最近、「障害」を「障がい」と用語変更している地方自治体も現れている。法改正に当たっては誤解を生じさせるような用語の見直しを検討すべきである。具体的には   (ア) 「精神分裂病」を「統合失調症」と変更する。「精神病質」については、国際疾病分類に準じて「人格障害」等と見直すことを検討するとともに、非自発的入院となる場合の条件等も厳格に規定する必要がある。   (イ) 「障害」については、「障害者基本法」と整合の問題があるが、変更の是非について検討する。   (ウ) 「保護」、「通報」、「社会復帰」などについては、「支援」、「診療要請」「退院、社会参加、自立」などと文脈にふさわしい用語に使い分ける。   (エ) 「衣類あるいは綿入れの帯等を使用して・・の拘束(厚労省告示第129号)」の表現の見直し

関連法・制度等の見直し
 精神保健福祉法の目的を達成するためには、関連法・関連制度の見直しが必須である。
(ア) 医療法および診療報酬制度の改正
○ 精神病床における職員配置基準を見直し、患者の尊厳を損なうことなく、その状態に応じて迅速、適切な医療が提供できるように医療法を改正するとともに、機能に応じた適正な医療水準を担保できる診療報酬制度とする。
○ 地域で中核的な役割を果たす一般病院(総合病院)に精神病床を設置し、どの医療圏でも合併症医療、精神科救急・急性期医療が提供できる施策を講じる。
○ 精神病床の偏在を是正し、身近な日常生活圏で医療が受けられるように、都道府県単位でないきめ細かな地域医療圏設定を行うとともに、病床機能に応じた病床配置計画を策定する。
○ 医療法施行規則第10条3項「(病院、診療所又は助産所の管理者は)精神病患者を精神病室でない病室に入院させないこと」を廃止すること。
(イ) 差別禁止法の制定
精神障害者の精神保健・医療・福祉の充実には、障害者の差別を禁止する法律が必須である。障害者基本法をさらに進めて障害者差別禁止法を制定する。
(ウ) 「精神障害者の地域ケアを実現するための財政支援に関する法律(仮称)」の制定
(エ) 精神障害者権利擁護活動を支援する制度の創設
あらたに「精神障害者の権利擁護活動を支援するための制度」を創設し、NPO法人など市民レベルの権利擁護活動に対する財政的支援を行う。

このページの先頭へ