公益社団法人 日本精神神経学会

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見解・提言/声明/資料|Advocacy

精神保健福祉法改正に当たっての要望書

更新日時:2015年2月25日

-「精神保健福祉法改正に関する見解(平成16年11月23日)」に沿った十分な国会審議を-

平成17年7月4日
社団法人 日本精神神経学会
理事長 山内 俊雄

 現在、国会に精神保健福祉法の改正案が上程され、障害者自立支援法案とともに審議されております。
精神保健福祉法改正は今後の精神医療・保健・福祉を進めるにあたり大きな影響を及ぼすものです。本学会は平成16年11月23日に「精神保健福祉法改正に関する見解」(別添)を厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長宛に送付し、精神保健福祉法の抜本的な改正が必要であるとの観点から、個々の条項に沿って具体的な提案をいたしました。しかし今国会に提案された改正案を見ますとごく一部のみの改正に留まり、国会においても障害者自立支援法の論議が中心になり、精神保健福祉法改正についての審議が十分なされていないように見受けられます。
 上記の状況を踏まえ、精神保健福祉法改正に当たって、特に下記のような点について十分な審議を尽くされるようお願いいたします。

今回の精神保健福祉法改正案の基本的な問題点

障害者福祉分野における財源不足を回避するための、障害者自立支援法の制定に力点が置かれている。その結果として精神保健福祉法自体の改正はきわめて限定的であり不十分なものとなっている。
社会保障審議会等において十分な検討を経ることもなく、法案提出が行われている。
精神保健と精神医療を精神保健福祉法に委ね、精神障害者福祉を障害者自立支援法に委ねるという法構造上の整理が行われており、その方向性は評価できる。 しかし、精神障害者保健福祉手帳制度を精神保健福祉法に残し、一方で精神障害者の通院医療を保障する通院公費負担制度を自立支援医療費として障害者自立支援法に移行させるなど、両法の間の境界が不鮮明でかつ整合性を欠いている。
単に書類手続き上の法令遵守に留まらず、精神保健福祉法の理念に沿って人権に配慮した適正な医療を実質的に提供するためには医療法改正および診療報酬制度の適正化が必須であり、これらについても早急に見直す必要がある。

学会見解からみた今回の改正案の具体的な問題点と要望事項

法の目的および定義の見直しがなされていない精神障害者福祉の大部分を障害者自立支援法に移行するのに合わせて、精神保健福祉法の目的および法対象者の定義の見直しがなされるべきである。
国・地方公共団体の義務、国民の役割や義務の見直しが不十分である精神障害者の権利保障、差別禁止、医療機関や支援施設の適正配置と偏在是正、情報公開の徹底等についての国・地方公共団体の役割や義務が法に明記されるべきである。
入院精神障害者の人権擁護については一定程度の改善がみられるが、見直しが 不十分である
○ 措置入院に関わる定期病状報告の頻度の見直し、任意入院患者の病状報告制度の導入、改善命令に従わなかった精神病院の公表制度の導入などは一定の評価ができる。
○ 精神医療審査会の第三者機関への移行や地方精神医療審査会の上級機関の設置を検討する必要がある。
○ 処遇改善請求の範囲の拡大を図り入院患者の処遇改善請求の機会を増やす方策がなされるべきである。
○ 精神障害者の権利擁護活動を支援する制度の創設が必要である。
精神保健指定医の役割規定が一部後退している
○ 医療保護入院、応急入院、任意入院者の退院制限の決定が、緊急その他やむを得ない理由がある場合とはしながらも、非精神保健指定医でも可能とするのは、精神障害者の人権擁護という観点からは後退であり、見直しすべきでない。
○ 精神保健指定医等を構成員とした院内倫理会議は、すべての精神病院に設けられるべきである。
○ 精神保健指定医を含む精神病院職員が、入院患者の処遇に問題があり管理者による改善が期待できない場合、その事実を外部の中立機関に申し立てることができる仕組みが必要である。
保護者規定見直しおよび医療保護入院のあり方の検討がなされていない
○ 保護者の役割を、国連原則における個人的代理人に近づけ、より権利擁護的なものへと見直す必要がある。
○ 医療保護入院を受け入れる病棟の職員配置基準、医療保護入院の対象要件を規定すべきである。
○ 後見制度の導入などによって市町村長同意の医療保護入院のあり方を改善する必要がある。
精神科病院の情報公開のあり方についての検討がなされていない
医療機関による自主的情報公開、自治体による情報提供、医療機能評価機構や市民団体による情報公開の促進など、精神病院の透明性が高まるような仕組みを法に規定することが検討されるべきである。
都道府県等の地方精神保健福祉審議会設置義務を外すべきではない

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