公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

Volume 21, Number 2, June 2022

更新日時:2024年1月12日

EDITORIALS

■L. SASS. Subjectivity, psychosis and the science of psychiatry. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 165–166.

Subjectivity, psychosis and the science of psychiatry
主観的体験と精神病、そして科学としての精神医学

<要旨>
患者の「生きた」体験を理解することは精神医学にとって重要であるにもかかわらず、今まで主観的体験に関する研究は限定的であった。近年のFusar-Poliらによる研究は、精神病に特徴的な兆候や症状に関して、一般的な理解と患者の主観的体験が大きく異なっていることを示した。患者の主観的体験の研究は、精神医学の倫理的な側面、科学的な側面の両方にとって不可欠である。

〔翻訳:篠原 陸斗〕

■D.K. TRACY, D.M. PHILLIPS. What is good acute psychiatric care (and how would you know)? World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 166–167. 

What is good acute psychiatric care (and how would you know)?
よい精神科急性期医療とは何か?(どうすればわかるのか?)

<要旨>
急性期精神医療において、従来のように「安全確保」や「入院の回避」を重視していては、弱い立場にある利用者個人の要望とのギャップが生じている現状がある。この複雑な倫理的な現実と向き合う重要なステップとして、強制力の低減、トラウマへの対処、治療法と人材の多様化、意思決定とケアを真に協力的なものにすることを提示する。専門家は、利用する人たちの声に対して、防衛的に対応するのではなく、耳を傾け、理解し、関わる必要があり、ここに革新の機会がある。

〔翻訳:清水 俊宏〕

SPECIAL ARTICLES

■P. FUSAR-POLI, A. ESTRADÉ, G. STANGHELLINI ET AL. The lived experience of psychosis: a bottom‐up review co‐written by experts by experience and academics. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 168–188. 

The lived experience of psychosis: a bottom‐up review co‐written by experts by experience and academics
精神病の生活体験:経験専門家と学者の共著によるボトムアップレビュー

<抄録>
精神病は、精神疾患の中で最も言葉で言い表せない体験である。私たちは、精神病の生活体験に関する初の共同執筆によるボトムアップレビューを提供する。このレビューでは、経験専門家(精神病の生活体験を持つ個人)が最初に主観的なテーマを選択し、その後、現象学的な情報に基づく視点によって幅を広げている。医療分野内外の一人称の語りが選別され、精神病の生活体験を持つ多くの個人、家族、支援者が参加したグローバルなネットワークを持つ組織を代表する共同ワークショップで議論された。この資料は、意味解析によって補完され、クラウドベースのシステムですべての共同研究者間で共有された。精神病の初期段階(すなわち、病前および前駆期)は、常識の喪失、当惑と現実との重要な接触の低下を伴う世界への没入感の欠如、感覚の強まりと何かが起ころうとしている感覚、自我意識の動揺、激動する内的経験を隠す必要性などの中核的な実存的テーマによって特徴づけられることが判明した。第1エピソード期は、妄想の出現に関係した一過性の解決感、強烈な自己言及性と自我境界の溶解、騒々しい内的ノイズ、社会的引きこもりによる自我意識の分離によって示されることが判明した。後期(すなわち、再発と慢性期)の中核的な生活体験は、個人的な損失への嘆き、分裂した感覚、また、絶え間ない内的混乱や新しい自己、診断、不確かな未来を受け入れようと努力することであった。入院や外来治療、社会的介入、心理療法、薬物療法などの精神科治療を受ける経験は、ポジティブな面とネガティブな面の両方を含んでおり、これらの治療経験は回復を達成するという希望によって決意され、人間らしさを再構築し、意味のある目標に向かって失われた他者との絆を再確立する永久的な旅路として理解されていた。これらの知見は、臨床診療、研究、教育に役立てることができる。精神病は、最も苦痛を感じ、また動揺する実存的経験の一つであり、普段の生活パターンとは驚異的に異なる、言いようのないほど謎めいた人間的なものである。 

<要旨>
精神病の生活体験を持つ個人と、学者の初の共同執筆によるボトムアップレビューが行われた。精神病の各段階において、精神病患者の主観的な体験に対し、精神病者の内的世界を現象学的に理解しようとするアプローチが加えられた。これらの知見は臨床診療や研究、教育にも役立てることができると考えられる。

〔翻訳:北岡 淳子〕

■G.M. REED, M.B. FIRST, J. BILLIEUX ET AL. Emerging experience with selected new categories in the ICD‐11: complex PTSD, prolonged grief disorder, gaming disorder, and compulsive sexual behaviour disorder. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 189–213.

Emerging experience with selected new categories in the ICD‐11: complex PTSD, prolonged grief disorder, gaming disorder, and compulsive sexual behaviour disorder
ICD-11の新しいカテゴリー、複雑性PTSD、長期悲哀障害、ゲーム性障害、強迫性行動障害に関する新たな経験

<抄録>
ICD-11の重要な変更点の中に、21の新しい精神疾患が追加されたことがある。新しいカテゴリーは通常、a) 罹患率統計の有用性を高める、b) 適切な管理を行うために、臨床的に重要だが分類が不十分な精神障害の認識を容易にする、c) より効果的な治療法の研究を促進するために提案される。精神科医療分野と世界保健機関(WHO)加盟国にとって大きな意味を持つことを考えると、ICD-11導入の初期段階において、これらの新しい分類が与える影響を検証することは重要である。本稿では、複雑性心的外傷後ストレス障害、遷延性悲嘆症、ゲーム症、強迫性性行動障害の4つの障害に焦点を当てた。これらのカテゴリーが選ばれた理由は,かなりの活動や論争の焦点となってきたこと,また,ICD-11に含めることは,DSM-5の決定とは異なることを意味するからである。主著者らは、これらの疾患の専門家を招き、ICD-11に追加することが重要であると考えられた理由、その診断カテゴリーがない場合のケアへの影響、その疾患の追加に関する重要な論争、WHOがICD-11に含める意図を表明して以降のそのカテゴリーに関する証拠の生成とその他の進展についての洞察を提供してもらった。4つの診断カテゴリーのそれぞれは、これまで認識されなかった臨床的に重要で特徴的な特徴を持つ集団と、そうでなければ満たされない可能性の高い特定の治療ニーズを記述しているように思われる。ICD-11 にこれらのカテゴリーが導入されたことで、各領域における研究が大幅に拡大し、その妥当性と有用性が一般に支持され、適切なサービスの利用が大幅に増加した。

<要旨>
ICD-11に追加された疾患の中で、複雑性心的外傷後ストレス障害、遷延性悲嘆症 、ゲーム症、強迫性性行動障害の4つの障害に焦点を当てた。著者らは、これらの疾患の専門家を招き、ICD-11に追加することが重要であると考えられた理由、その診断カテゴリーがない場合のケアへの影響、その疾患の追加に関する重要な論争、WHOがICD-11に含める意図を表明して以降のそのカテゴリーに関する証拠の生成とその他の進展についての洞察を提供してもらった。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

PERSPECTIVES

■G. DUMAS. From inter‐brain connectivity to inter‐personal psychiatry. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 214–215.

From inter‐brain connectivity to inter‐personal psychiatry
脳間結合から対人精神医学まで

<要旨>
2002年に開発されたハイパースキャニング記録により、個体の脳神経活動だけでなく、被験者間の脳神経活動を調べられるようになり、脳間結合性(IBC)という新しい神経相関が同定された。IBCは、精神医学の症状や治療に影響を与える根本的な生物学的要因を、個体内だけに限定せず2人以上 の脳活動を測定することにより正確に捉えることを可能にする。この多脳間神経科学の研究は、脳間相関を測定して臨床診断に繋げたり、脳間神経調節で治療を行う等まで、精神医学における革新的な応用につながる可能性をもつと論じている。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

■W. LUTZ, J. RUBEL, A.-K. DEISENHOFER ET AL. Continuous outcome measurement in modern data‐informed psychotherapies. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 215–216.

Continuous outcome measurement in modern data‐informed psychotherapies
現代のデータインフォームド・サイコセラピーにおける継続的なアウトカム測定

<要旨>
継続的アウトカム測定システムは、セッションごとに患者の進捗を評価する質問票から構成されてており、この情報をもとに、治療者は現在の治療法の可否や奏功の度合いを評価することができる。 この手法はデータ情報治療法(DIT)の基礎となるものでもあり、DITは疾患概念の理解を広げ、臨床技術を向上させる可能性を秘めている。

〔翻訳:河岸 嶺将〕


■M.J. HORNSEY. Reasons why people may refuse COVID‐19 vaccination (and what can be done about it). World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 217–218.

Reasons why people may refuse COVID‐19 vaccination (and what can be done about it)
COVID-19の接種を拒否される理由(と対処法)

<要旨>
ワクチン接種への躊躇はCOVID-19の流行以前から存在した新しくないものだが、反ワクチン派の態度は科学者や専門家にとっては理解しがたく腹立たしいものである。しかし事実を伝え続けるだけでは彼らの不安や世界観、イデオロギーを強める可能性がある。彼らの唱える陰謀論などの論理はとても受容できるものではないが、科学者や専門家に対する不信感には何かしらの良識的な根拠が伴っていることが多い。彼らを社会的孤立から防ぐためには、その信念に敬意を表した疎通を図ることが前提になる。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

 

■M.B. FIRST, L.H. YOUSIF, D.E. CLARKE ET AL. DSM‐5‐TR: overview of what’s new and what’s changed. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 218–219. 

DSM‐5‐TR: overview of what’s new and what’s changed
DSM-5-TR: 新規・変更事項の概要

<要旨>
2013年にDSM-5が初版が発行されて以来、初めてのテキスト改訂版であるDSM-5-TRが発行された。今回の改定作業では、本文修正に加えて、疾患・診断基準に関わる変更など臨床医や研究者にとって影響の大きい変更もなされた。本稿では、DSM-5-TRの主な変更点を、診断名と症状コードの追加、診断基準や特定用語の定義の変更、用語の更新、そして本文の包括的更新という4項目に細分化し、概要を説明している。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

 

FORUM –  ACUTE PSYCHIATRIC CARE: INCREASING THE RANGE OF SERVICES AND IMPROVING THEIR EFFECTIVENESS AND ACCEPTABILITY


■S. JOHNSON, C. DALTON-LOCKE, J. BAKER ET AL. Acute psychiatric care: approaches to increasing the range of services and improving access and quality of care. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 220–236.

Acute psychiatric care: approaches to increasing the range of services and improving access and quality of care
精神科の急性期医療 : サービス範囲の拡大、アクセスやケアの質の向上へのアプローチ

<抄録>
メンタルヘルス上の危機に対する急性期サービスは、サービス利用者とその支援者にとって非常に重要であり、多くの国でメンタルヘルスの資源の大半を消費している。しかし、急性期医療はしばしば不人気で、時には強制的であり、危機状態にある人々を対象とした研究の実施における課題を一部反映して、どのモデルが患者の経験や転帰にとって最良であるかについてのエビデンスは、驚くほど限られたままである。初期アセスメントと当面の管理に関する最良のアプローチに関するエビデンスは特に不足しているが、アセスメントの延長、短い介入、支援を提供するための設定や戦略の多様化を含むいくつかの革新的なモデルは、潜在的に有用である。急性期病棟は引き続き危機後の集中治療段階の中心的存在だが、強制性の低減、トラウマへの対処、治療と入院患者の多様化、意思決定とケアの共同化といった新しいアプローチの開発、評価、実施をする必要がある。集中的在宅療養サービス、急性期デイ・ユニット、地域危機管理サービスは、一部のサービス利用者を入院から回避させるという裏付けがある。様々な状況下でこれらをどのように実施するのがベストなのか、またどのようなサービス利用者に何が一番効果的なのか、より深く理解することが重要であろう。非政府非営利セクターにおける危機管理のアプローチは、より柔軟で非公式なものである。こうしたサービスは、特にサービスが行き届いていない、または離脱しがちな一群に対し、法定部門のサービスを補完し、貴重な学習機会を提供する可能性を持っている。このようなアプローチには、メンタルヘルスの危機を個人的に経験したスタッフが関与することが多く、彼らはセクターを超えた急性期ケアの質を向上させる重要な潜在的役割を担っている。多くの低・中所得国では、質の高いメンタルヘルスケアへのアクセスが悪いために、大きな格差が存在する。既存のコミュニティの対応と文脈に応じたエビデンスを基盤にして、対応策を構築する必要がある。低資源環境では正式なシステムの外に出る必要があるため、地元に根付いた戦略から広く学ぶことができるかもしれない。

<要旨>
メンタルヘルス上の危機に対する急性期サービスの中で、急性期病棟は引き続き危機後の集中治療段階の中心的存在であり、強制性の低減、トラウマへの対処、治療と入院患者の多様化、意思決定とケアの共同化といった新しいアプローチの開発、評価、実施をする必要がある。急性期ケアの質を向上を図る上では、急性期病棟以外にも、英国で導入されている集中的在宅療養サービス、急性期デイ・ユニット、地域危機管理サービスや、非政府非営利セクターにおける非公式の危機管理のアプローチ、あるいは低資源国においては既存のコミュニティでの対応を有効活用することが重要である。

〔翻訳:清水 俊宏〕

Commentaries

■A. ROSEN, L. SALVADOR-CARULLA. No service is an island: towards an ecosystem approach to mental health service evaluation. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 237–238. 

No service is an island: towards an ecosystem approach to mental health service evaluation
どのサービスも孤立させない:精神医療サービスの評価のためのエコシステムアプローチ

<要旨>
精神医療分野において、地域レベルでの継続的なケアは再発を防ぎ、早期介入を促し、急性期ケアの必要性を回避する。過去20年間、急性期精神医療において病院から地域へのケアの移行という大きな変革が起こり、個人レベル〜国家レベルのさまざまな領域での医療提供のために、システム全体の視点が求められている。著者らは、その改革の背景とともに、新しいサービスや介入に関するエビデンスが欠如しており体系的な評価が不十分であるという現在の課題を述べている。

〔翻訳:篠原 陸斗〕

■K.S. JACOB. Acute psychiatric care: the need for contextual understanding and tailored solutions. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 238–239. 

Acute psychiatric care: the need for contextual understanding and tailored solutions
精神科急性期医療:文脈の理解と個人に応じた治療法の必要性

<要旨>
精神科急性期医療における世界基準のエビデンスに基づくケアを実践する際には、それぞれの国や地域により社会的、経済的、物理的環境を多面的に評価する必要があり、標準化することは困難である。急性期症状の異質性や、介入方法の違い、環境の多様性があることから、その地域の現実に根差した事情・文脈を分析・解釈・理解し、それぞれに合った個別の解決策が必要である。

〔翻訳:島田 裕希〕

■G. NEWTON-HOWES, S. GORDON. The need for a rights‐based approach to acute models of care. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 240–241.

The need for a rights‐based approach to acute models of care
急性期医療モデルにおける患者の権利に基づくアプローチの必要性

<要旨> 
精神保健システムにおける急性期ケアやその評価方法、評価後の選択肢に関する研究は多数あるが、エビデンスに基づく明確な方向性は欠如している。筆者は、苦痛を感じている人のニーズと権利がケアモデルの指標になるべきだと主張する。権利に基づくリカバリー志向のアプローチが、急性期医療の範囲の拡大、およびそのアクセスや質の向上につながると提案している。

〔翻訳:山村 啓眞〕

■T. RUUD, S. FRIIS. Continuity of care and therapeutic relationships as critical elements in acute psychiatric care. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 241–242.

Continuity of care and therapeutic relationships as critical elements in acute psychiatric care
精神科急性期医療におけるケアの継続性と治療的関係の重要性

<要旨> 
精神保健においてケアの継続性と治療的関係の構築と維持は重要な要素であるが、精神科急性期医療ではアクセスの迅速性に焦点が当てられ、入院期間も短いことから薬物療法に重点が置かれやすい。本稿では、精神科急性期医療においても、一人の人間として患者と接する十分な時間を持ち、退院後の地域でのフォローアップ体制を確保することによって、ケアの継続性を確保し治療同盟を築くことが、再入院の減少など良好な転帰に寄与することを主張し、これらを提供する一例としてノルウェーでの取り組みを紹介している。

〔翻訳:入來 晃久〕

■A. SIMPSON. Activities and technologies: developing safer acute inpatient mental health care. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 242–243. 

Activities and technologies: developing safer acute inpatient mental health care
急性期入院患者の精神科治療をより安全にするための行動と技術

<要旨> 
急性期入院治療を患者にとって安全でより良い環境で行うための研究が急務となっているが、その介入研究には病棟スタッフの人員不足や勤務中の多大な緊張が大きな障壁として存在している。監視カメラなどの電子監視装置の使用に関して、現時点で説得力のあるエビデンスが乏しいことは強く懸念される。

〔翻訳:中野 心介〕

■M.L. GOLDMAN, S.Y. VINSON. Centering equity in mental health crisis services. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 243–244.

Centering equity in mental health crisis services
精神科危機管理サービスにおける不平等の改善

<要旨>
精神科危機管理サービスのアクセス性や質には人種や社会経済状況等による不平等が潜在している。主に米国において急性期医療の格差是正は喫緊の課題であるが、人口統計学的データの基盤が不十分であるため、新たな危機管理プログラムの導入を試みてもその評価が困難であることが多い。政策立案者は危機対応システムの設計と評価の双方においてより積極的に公平性の枠組みを活用すべきである。

〔翻訳:中野 心介〕

■A.R. SCHNEEBERGER, C.G. HUBER. Crisis within a crisis – the fragility of acute psychiatric care delivery. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 245–246.

Crisis within a crisis – the fragility of acute psychiatric care delivery
危機の中の危機 - 精神科急性期医療の提供体制の脆弱性

<要旨>
COVID-19パンデミックによってメンタルヘルスサービスの利用が急増し、メンタルヘルスサービス維持に困難が生じ、また急性期精神科医療の中で強制力がより行使されるという後退も生じており、従来の急性期精神科医療の提供体制の脆弱性が明らかとなった。臨床医の視点を反映してきた従来の研究や政策ではなく、患者や消費者の視点を反映した新しい研究や政策を推進して、メンタルヘルス上の危機を抱えた人々の多様なニーズに対応できる連続性のある地域の統合的な危機管理システムを構築することが望まれている。

〔翻訳:清水 俊宏〕

■D. SISKIND, A. YUNG. After the acute crisis – engaging people with psychosis in rehabilitation‐oriented care. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 246–247. 

After the acute crisis – engaging people with psychosis in rehabilitation‐oriented care
急性期危機の後で~精神病患者とのリハビリテーションを指向する治療構築

<要旨>
急性期精神医療サービスの改善と同様、治療後の再発を防ぐためのリハビリテーションを志向した治療サービスもウェルビーイングの向上に重要である。精神病早期介入サービス(EIPS)は個々人のニーズに応じて統合的なケアを提供するシステムである。システムの詳細として、クロザピンなどの薬物介入、就労支援・心理教育といった心理社会的介入などの効果とエビデンスを示し、不良な転帰もたらすリスクファクターについてレビューをまとめた。

〔翻訳:中野 心介〕

RESEARCH REPORTS

■C.U. CORRELL, M. SOLMI, G. CROATTO ET AL. Mortality in people with schizophrenia: a systematic review and meta‐analysis of relative risk and aggravating or attenuating factors. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 248–271.

Mortality in people with schizophrenia: a systematic review and meta‐analysis of relative risk and aggravating or attenuating factors
統合失調症患者の死亡率:相対的リスクと危険因子および保護因子に関する系統的レビューとメタ解析

<抄録>
統合失調症患者は15-20年早く亡くなる。この格差を減らすためには、死亡リスクと危険因子・保護因子を理解することが不可欠である。我々は、統合失調症患者と一般集団、身体的な併存疾患をマッチさせた群、異なる精神疾患を持つ群との死亡リスクを評価した前向き研究あるいは後ろ向き研究、全国規模あるいは対象をしぼったコホート研究の系統的レビューとランダム効果メタ解析を行い、調整効果についても評価を行った。主要評価項目は全死因死亡リスク比(RR)、主要な副次評価項目は自殺による死亡率と自然死による死亡率とした。その他の副次評価項目に、その他の特定の原因による死亡率も含めた。出版バイアス、サブグループ解析およびメタ回帰分析、および品質評価(ニューキャッスル-オタワ スケール)を施行した。1957年から2021年までの135件の研究(統合失調症患者:N=4,536,447、一般集団対照群:N=1,115,600,059、その他の精神疾患対照群:N=3,827,955)において、統合失調症患者では統合失調症患者でない対照群と比較して全死因死亡率が上昇し(RR=2.52、95%CI: 2.38-2.68, n=79)、一般集団と比較して、初回エピソード統合失調症(RR=7.43、95%CI:4.02-13.75、n=2)および新規発症(すなわち発症早期)の統合失調症(RR=3.52、95%CI:3.09-4.00、n=7)において、リスクが最も大きかった。原因別による死亡率は、自殺または外傷-中毒または不詳の外因によるもの(RR=9.76-8.42)が最も高く、次いで自然死の中の肺炎(RR=7.00、95%CI: 6.79-7.23)であった。 感染症、内分泌、呼吸器、泌尿器、糖尿病(RR=3〜4)、アルコール、消化器、腎臓、神経系、心血管系、すべての自然死(RR=2〜3)、肝臓、脳血管系、乳がん、結腸、すい臓、すべてのがん(RR=1.33〜1.96)の順で減少していた。全死因死亡率は調査年の中央値でわずかに、しかし有意に増加した(β=0.0009、95%CI:0.001-0.02、p=0.02)。40歳未満の統合失調症患者では、40歳以上の患者と比較して全死因死亡率および自殺関連死亡率が高く、女性の割合が高いほど統合失調症の患者集団における自殺関連死亡率リスクは高くなることが示された。全死因死亡率はもともと統合失調症に罹患していた者よりも新規発症の統合失調症患者で高かった(RR=3.52 vs. 2.86、p=0.009)。物質使用障害の併存は全死因死亡率を増加させた(RR=1.62、95%CI:1.47-1.80、n=3)。抗精神病薬は、抗精神病薬を使用しない場合に比べ、全死因死亡率に対する予防効果があり(RR=0.71、95%CI:0.59-0.84、n=11)、第2世代持続性抗精神病薬注射製剤(SGA-LAI)の効果が最も大きく(RR=0.39、95%CI:0.27-0.56、n=3)、クロザピン(RR=0.43, 95% CI: 0.34-0.55, n=3)、あらゆるLAI(RR=0.47, 95% CI: 0.39-0.58, n=2)、あらゆるSGA(RR=0.53, 95% CI: 0.44-0.63, n=4)において最大の効果を示した。抗精神病薬は自然死に関連する死亡率に対しても保護的であったが、第一世代抗精神病薬(FGA)は発症早期の統合失調症患者における自殺および自然死による死亡率の上昇と関連していた。研究の質が高く、解析の調整に使用した変数の数が多いほど、自然死リスクの大きさは緩和され、研究年が新しいほど、抗精神病薬の予防効果の大きさは緩和された。これらの結果から、統合失調症における超過死亡率はいくつかの修正可能な因子と関連していることが示された。物質使用の併存、抗精神病薬の長期維持療法、SGA-LAIやクロザピンの適切かつ早期の使用を目標とすることで、この死亡率の差を縮めることができる可能性がある。
 
<要旨>
本研究は統合失調症患者における早期死亡と関連する因子について、統合失調症患者約450万人・対照群約11億人を含む135件の研究を対象に調査した大規模な系統的レビューとメタ解析である。統合失調症患者の死亡率は対照群に比べ有意に高く(RR=2.52、95%CI: 2.38-2.68, n=79)、1957年以降経年的に上昇傾向にあった。死因別では自殺のリスクが最も高かったが、心血管系疾患や外因死、自然死によるリスクも上昇した。物質使用障害の併存は死亡率を上昇させ、第2世代持続性抗精神病薬注射剤やクロザピンによる抗精神病薬の維持療法は死亡率を低下させた。著者らは臨床医に対して、定期的な心血管系・身体疾患のモニタリングと、自殺につながりうる抑うつ症状や物質使用のスクーリングを推奨している。

〔翻訳:五十嵐 江美〕

■R.C. KESSLER, A.E. KAZDIN, S. AGUILAR-GAXIOLA ET AL. Patterns and correlates of patient‐reported helpfulness of treatment for common mental and substance use disorders in the WHO World Mental Health Surveys. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 272–286. 

Patterns and correlates of patient‐reported helpfulness of treatment for common mental and substance use disorders in the WHO World Mental Health Surveys
WHOの世界精神保健調査での患者報告による一般的な精神疾患と物質使用障害に対する治療効果の傾向と関連性

<抄録>
患者が報告する治療有効性は、良質な患者中心のケアの重要な指標である。我々は、大うつ病、全般性不安障害、社交恐怖(社交不安症)、 限局性恐怖症、心的外傷後ストレス障害、双極性障害、アルコール使用障害の治療を受けたことがあると報告した世帯調査への回答者を対象に、その受診継続のパターンと予測因子を検討した。世界保健機関(WHO)の世界精神保健(WMH)調査の一環として実施された30の地域疫学調査(うち17は高所得国(HICs)、13は低・中所得国(LMICs))から得られたデータを用いた。各疾患の治療効果があったか、効果があった場合はその治療を受ける前に受診した専門家の数を調べた。すべての調査および診断カテゴリーにおいて、26.1%の患者(N=10,035)が、最初に受診した治療者で効果を得たと回答している。最初の治療の効果が見られなかった後、2人目の専門家に治療を受けると、治療効果があった確率は累積で51.2%になった。さらに、8人の治療者に相談した場合、その確率は90.6%になった。繰り返し治療を受けても効果がみられなかった患者で、その後もこのように多くの専門家に診てもらい続けたのは22.8%に過ぎないと推定される。HICsではLMICsよりも治療を求めた患者の割合が高く、より継続して受診していたが、有効な治療を受けた割合はHICsとLMICsの間で差がなかった。有効な治療となる予測因子は、診断カテゴリー間で一貫したものもあれば、特定の障害に特有のものもあり、幅広いものであった。これらの結果より、診断やその国の所得水準の違いを越えて治療に対する患者からの評価についての新たな情報が得られた。そして、初期の治療効果が現れなかった場合でも根気よく他の医療機関へ受診するよう奨励することが精神疾患の治療の質を向上させるために重要であることが示唆された。

<要旨>
患者が報告する治療の有効性は、良質な患者中心のケアの重要な指標である。一般的な精神疾患および物質使用障害に対する治療を受けたことがある患者を対象に、経路と予測因子を検討した。診断やその国の所得水準が異なっていても、初期には治療効果が得られない場合でも根気よく他の医療機関へ受診することが、患者からの治療に対する評価や精神科治療の質を向上させるために重要であることが示唆された。 

〔翻訳:島田 裕希〕

■R.A. MCCUTCHEON, T. PILLINGER, O. EFTHIMIOU ET AL, Reappraising the variability of effects of antipsychotic medication in schizophrenia: a meta‐analysis. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 287–294.

Reappraising the variability of effects of antipsychotic medication in schizophrenia: a meta‐analysis
統合失調症における抗精神病薬の効果の多様性についての再検討:メタアナリシス

<抄録>
精神科医にとって、統合失調症患者の抗精神病薬に対する反応に大きなばらつきがあることは共通の経験である。しかしながら、このばらつきが、自然な症状の変動やプラセボ反応のような非特異的な効果の変動ではなく、薬物特異的効果の変動(「治療効果の不均質性」とも呼ばれる)を反映しているかどうかは明らかではない。これまでのメタアナリシスでは、治療効果の不均質性を示す証拠は見つからず、「画一的な」アプローチが適切であり、統合失調症の個別化治療戦略を開発する努力は成功しそうにないことが示唆されていた。しかし、最近の進歩により、以前のアプローチでは、プラセボ反応と薬物特異的効果の相関という重要なパラメータが無視されていたため、治療効果の不均質性を正確に定量化できなかった可能性があることが示されている。本論文では、この欠点に対処するため、個々の患者データと研究レベルのデータを用いてこの相関を推定し、統合失調症における抗精神病薬の治療効果の不均質性を定量的に明らかにすることを目的としている。個々の患者データ( 抗精神病薬を投与された384人とプラセボを投与された88人)は、Yale University Open Data Access(YODA)データベースから入手した。試験レベルのデータは、17,202人の患者を含む66の臨床試験の メタ分析から得た。個々の患者レベルの解析と研究レベルの解析の両方で、PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)の総スコアについて、プラセボ反応と治療効果の間に負の相関が認められた(それぞれ、 ρ =-0.32, p=0.002 と ρ =-0.39, p<0.001)。これらの推定値のうち最も保守的なものを用いて治療効果の不均質性をメタ解析したところ、統合失調症の患者間で抗精神病薬の効果に顕著なばらつきがあり、上位4分の1の患者ではPANSS総スコアで17.7点以上の有益な治療効果が得られ、下位4分の1の患者ではプラセボと比較して有害な治療効果が示された。この治療効果には臨床的に意味のある不均質性があるというエビデンスは、統合失調症の抗精神病薬治療を個別化する取り組みが成功する可能性を示唆している。

<要旨>
統合失調症患者の抗精神病薬に対する反応には個人差が大きい。本論文では、患者個人データと研究データを用いた解析を行い、その個人差が非特異的なものではなく、薬物特異的効果の不均質性によるものであると結論付けている。この結果から筆者らは、将来的に統合失調症の個別化治療が行えるようになるのではないかと期待している。

〔翻訳:神崎 佑佳〕

■G. OSTUZZI, F. BERTOLINI, F. TEDESCHI ET AL. Oral and long‐acting antipsychotics for relapse prevention in schizophrenia‐spectrum disorders: a network meta‐analysis of 92 randomized trials including 22,645 participants. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 295–307.

Oral and long‐acting antipsychotics for relapse prevention in schizophrenia‐spectrum disorders: a network meta‐analysis of 92 randomized trials including 22,645 participants
経口及び持効性の抗精神病薬による統合失調症圏の再発予防:22,645名、92の無作為化試験のネットワークメタ解析

<抄録>
現在のエビデンスやガイドラインでは、抗精神病薬の継続投与が統合失調症圏の患者の再発予防に不可欠とされているが、維持療法でどの抗精神病薬を選択するかについて、エビデンスに基づいて推奨されているものはない。実務な理由で経口の抗精神病薬が第一選択薬として処方されることが多いが、持効性注射剤(LAI)は、発症初期の段階からアドヒアランスの問題に取り組むための有用な選択肢となる。Medline、EMBASE、PsycINFO、CENTRAL、CINAHLデータベースおよびオンライン登録を用いて、2021年6月までに発売されたLAIまたは経口抗精神病薬を直接比較またはプラセボと比較した無作為化対照試験を検出した。相対リスクと標準化平均差は、ランダム効果ペアワイズおよびネットワークメタ解析を用いてプールした。主要アウトカムは、再発と有害事象による脱落であった。研究の質を評価するためにCochrane Risk of Biasツールを使用し、プールされた推定値の信頼度を評価するためにCINeMAアプローチを使用した。100件の対象研究のうち、92件(N=22,645)がメタ解析に使用できるデータを提供した。再発予防に関しては、対象となった31の治療法の大多数がプラセボを上回った。プラセボとの比較では、効果の大きい順に、アミスルプリド経口剤(OS)、オランザピンOS、アリピプラゾールLAI、オランザピンLAI、アリピプラゾールOS、パリペリドンOS、ジプラシドンOSで「高い」結果が得られた。パリペリドン-LAI 3ヶ月製剤、イロペリドン-OS、フルフェナジン-OS、ブレクスピプラゾール-OS、パリペリドン-LAI 1ヶ月製剤、アセナピン-OS、ハロペリドール-OS、ケチアピン-OS、カリプラジン-OS、ルラシドン-OSは結果に対して「中程度」の信頼性が認められました。忍容性については、どの抗精神病薬もプラセボに比べて有意に悪いことはなかったものの、信頼度は低く、アリピプラゾール(LAI、OSとも)のみが「中程度」の信頼度を示した。これらの知見から、オランザピン、アリピプラゾール、パリペリドンは、これらのLAIおよび経口製剤の両方が最も成績の良い治療法であり、再発防止に関するエビデンスの信頼度が最も高いことを考えると、統合失調症圏の維持療法に最も適した選択肢と言えるだろう。この知見は、選択できる薬剤が少ない低・中所得国や資源に制約のある環境において、特に重要な意味を持つものである。このネットワークメタ解析の結果を、臨床ガイドラインや国内および国際的な薬物規制政策に反映させることができる。

<要旨>
統合失調症圏の患者に、再発予防のために維持療法でどの抗精神病薬を選択すべきかを検証すべく、92件のランダム化比較試験でメタ解析を行った。その結果、オランザピン、アリピプラゾール、パリペリドンの経口及び持効性注射剤の両方が治療成績もよく、信頼性も高いことから、統合失調症圏の維持療法に最も適した選択肢と考えられる。

〔翻訳:入來 晃久〕

INSIGHTS

■J.C. MURAN. The alliance construct in psychotherapies: from evolution to revolution in theory and research. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 308–309.  

The alliance construct in psychotherapies: from evolution to revolution in theory and research
心理療法におけるアライアンスの構成概念:理論と研究における進化から革命へ

<要旨>
アライアンスの概念は、患者とセラピストの相互作用における協力の重要性と現実的で人間的な側面の重要性を強調するために開発された。著者は近年のアライアンス断裂の構成と修復プロセスの解明を目的とした研究に注目し、アライアンス断裂によってもたらされる失敗のリスクに意義のある形で対処することで、心理療法における失敗を減らすことができると期待している。

〔翻訳:宮野 史也〕

■S.B. NORMAN. Effectiveness of currently available psychotherapies for post‐traumatic stress disorder and future directions. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 309–310. 

Effectiveness of currently available psychotherapies for post‐traumatic stress disorder and future directions
心的外傷後ストレス障害に対する現在利用可能な精神療法の有効性と今後の方向性

<要旨>
40年以上にわたる研究により、患者や医療者が選択できる効果的なPTSD心理療法のメニューが存在する時代になった。より多くの研究が進行中であり、今後数年のうちに、より多くの人々がPTSDからより完全に回復するのを助けることができるという楽観的な見通しを持つことができる、と筆者は述べている。

〔翻訳:宮野 史也〕

■R.A. BRYANT. Post‐traumatic stress disorder as moderator of other mental health conditions. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 310–311. 

Post‐traumatic stress disorder as moderator of other mental health conditions
他の精神疾患のモデレータとしての心的外傷後ストレス障害


<要旨>
PTSDは他の精神疾患の発症や悪化に影響を与えることが知られている。PTSDの様々な特徴自体が精神疾患の危険因子となりうること、トラウマに晒される前から脆弱性があること等が明らかとなり、PTSDが他の精神疾患の発症や悪化につながることを説明する過程は相互作用的で複雑だと言える。PTSDが他の心理的問題にどのような影響を与えるかを理解することが治療に役立つため今後の重要な研究分野となる、と筆者は述べている。

〔翻訳:宮野 史也〕

■L.M. HOWARD, C.A. WILSON, P.S. CHANDRA. Intimate partner violence and mental health: lessons from the COVID‐19 pandemic. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 311–313.

Intimate partner violence and mental health: lessons from the COVID‐19 pandemic
親密なパートナーからの暴力とメンタルヘルス:COVID-19パンデミックからの教訓

<要旨> 
COVID-19による公衆衛生上の制限により、パートナーと自宅で過ごす時間が増え、それに伴い親密なパートナーからの暴力が増加した。より暴力にさらされやすい女性は支援サービスにアクセスしにくく、問題は複雑化する。筆者は今回のCOVID-19流行により、そのような暴力に対するアドボカシーなどの協力体制の必要性が明確となったと主張する。精神科医は社会的・構造的要因への取り組みに焦点を当てた、より幅広い変化のための代弁者となり、精神衛生上の負担を軽減することができると主張している。

〔翻訳:山村 啓眞〕

LETTERS TO THE EDITOR

■Eric J. Lenze, Angela M. Reiersen, Paramala J. Santosh. Repurposing fluvoxamine, and other psychiatric medications, for COVID‐19 and other conditions. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 314–315.

Repurposing fluvoxamine, and other psychiatric medications, for COVID‐19 and other conditions
COVID-19およびその他の疾患に対するフルボキサミンおよびその他の向精神薬の利用

<要旨>
本稿では、フルボキサミンをはじめとした抗うつ薬が、COVID-19の重症化や死亡率の低下のみならず、COVID-19感染後の精神神経症状にも効果があるかもしれないと述べられている。筆者は、今後COVID-19へのSSRI利用に対するさらなる研究が望まれるとともに、その知見は、他の感染症や炎症性疾患、神経変性疾患、がん等へ向精神薬を使用する際に重要になると論じている。

〔翻訳:北岡 淳子〕

■Matti Cervin, OCD Severity Benchmark Consortium , David Mataix‐Cols. Empirical severity benchmarks for obsessive‐compulsive disorder across the lifespan. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 315–316.

Empirical severity benchmarks for obsessive‐compulsive disorder across the lifespan
生涯を通じた強迫性障害の経験的重症度基準

<要旨>
強迫性障害(OCD)の重症度はY-BOCSで評価される。この尺度は数十年にわたり長く使用されてきたが、重症度分類の基準の根拠は不明確であった。執筆者達は、年齢を問わず国際的に使えるOCDの明確な重症度基準を提供するために、多国籍の 研究データを基に検証を行った。結果、0〜13点が潜在的OCD、14〜21点が軽度OCD、22〜29点が中等度OCD、30〜40点が重度OCDのスクリーニングに有用であった。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

■Michael Linden. Twelve rather than three waves of cognitive behavior therapy allow a personalized treatment. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 316–318.

Twelve rather than three waves of cognitive behavior therapy allow a personalized treatment
認知行動療法は3つどころか12の波によって個々に合わせた治療が可能である

<要旨>
第三波(第三世代)の認知行動療法(CBT)という表現が浸透しているが、本稿では現代のCBTが包含している12の「波」(12の基本的な理論的概念と治療アプローチ)を紹介している。そして認知行動療法の治療者は、これらすべての理論に精通し、適切な行動分析を行った上で、患者が抱える問題を個別に評価することにより、診断横断的に、個々人に合わせた「精密な治療」を提供できると述べている。

〔翻訳:入來 晃久〕

■Christine Mauro, Robert A. Tumasian, 3rd, Natalia Skritskaya, Margaret Gacheru, Sidney Zisook, Naomi Simon, Charles F. Reynolds, 3rd, M. Katherine Shear. The efficacy of complicated grief therapy for DSM‐5‐TR prolonged grief disorder. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 318–319. 

The efficacy of complicated grief therapy for DSM‐5‐TR prolonged grief disorder
DSM-5-TRの遷延性悲嘆症に対する複雑性悲嘆の認知行動療法の有効性

<要旨>
本稿では、複雑性悲嘆に対して有効な認知行動療法((complicated grief therapy : CGT)が、DSM-5-TRにおける遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder : PGD)においても有効かについて検討している。CGTの効果について検証された3つの無作為化対照試験のうち1つが解析データとして用いられ、20週経過時点での臨床全般改善度(CGI-I)が「大いに改善した」または「非常に改善した」と評価された割合が、CGT実施有無によって変化するかどうかを検討した。その結果、非実施群と比較してCGT実施群のCGI-Iは有意に高くなり、複雑性悲嘆に対するCGTの効果とほぼ同じ結果であった。筆者らは、CGTが、遷延性悲嘆症治療(PGDT)としても活用できると結論付けている。

〔翻訳:神崎 佑佳〕

■Ben Coleman, Elena Casiraghi, Hannah Blau, Lauren Chan, Melissa A. Haendel, Bryan Laraway, Tiffany J. Callahan, Rachel R. Deer, Kenneth J. Wilkins, Justin Reese, Peter N. Robinson. Risk of new‐onset psychiatric sequelae of COVID‐19 in the early and late post‐acute phase. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 319–320. 

Risk of new‐onset psychiatric sequelae of COVID‐19 in the early and late post‐acute phase
COVID-19患者の感染後早期および後期における精神神経学的後遺症の新規発症リスクについて

<要旨>
COVID-19患者の一部が  感染急性期または感染後に精神症状を発症することが報告されている。著者らは2021年10月20日までのNational COVID Cohort Collaborative(N3C)のデータを活用し、COVID-19陽性患者とCOVID-19以外の呼吸器感染症と診断された患者の精神医学的後遺症の新規発症のリスクを検討した。  感染後早期においてハザード比(HR)1.3(95%CI:1.2-1.4) 感染後後期においては有意差はなかった(HR:1.0、95%CI:0.97-1.1) これは感染後早期における新規の精神症状の発症に注意を要することを示唆している。本研究はCOVID-19感染後に新たに発症する精神疾患のリスクが高いというこれまでの報告を支持するものでありCOVID-19の精神症状の自然経過を理解する上で重要な意味を持つ。 

〔翻訳:俊野 尚彦〕

■Colin A. Espie, Joseph Firth, John Torous. Evidence‐informed is not enough: digital therapeutics also need to be evidence‐based. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 320–321. 

Evidence‐informed is not enough: digital therapeutics also need to be evidence‐based
エビデンス・インフォームドだけでは不十分だ:デジタル治療もエビデンス・ベーストである必要がある

<要旨>
本稿では精神科領域におけるデジタル治療(DTx)のエビデンス検証の重要性について論じている。DTxがエビデンスに基づいたコンテンツを含んでいるからといって、必ずしもDTx自体が臨床的有効性を示すとは限らないことを指摘し、DTxの臨床的有効性が示されるまでは既知のエビデンスに基づく治療法の代替にすべきではないと主張している。 

〔翻訳:五十嵐 江美〕

■Zixuan Wang, Adrienne Y.L. Chan, Phoebe W.H. Ho, Kirstie H.T.W. Wong, Ruth Brauer, Frank M.C. Besag, Patrick Ip, Louise M. Howard, Wallis C.Y. Lau, Katja Taxis, Li Wei, Ian C.K. Wong, Kenneth K.C. Man. Prenatal exposure to antidepressants or antipsychotics and the risk of seizure in children. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 322–323. 

Prenatal exposure to antidepressants or antipsychotics and the risk of seizure in children
出生前の抗うつ薬や抗精神病薬への曝露と小児の痙攣発作リスク

<要旨>
抗うつ薬または抗精神病薬への出生前の曝露と子どもの痙攣発作リスクについて検討した香港からの報告において母親の服用有無やその時期、精神疾患の有無によって子どもの発作リスクが上昇するか検討されたが、明らかな因果関係は認められなかった。筆者らは、抗うつ薬や抗精神病薬への出生前の曝露が小児期の痙攣のリスクに関係している可能性を完全に排除することはできないが、その関連が交絡因子によって説明される可能性があるため、さらなる研究が必要であると結論づけている 。

〔翻訳:神崎 佑佳〕

■Nora D. Volkow, Susan Maua, Giovanna Campello, Vladimir Poznyak, Dzmitry Krupchanka, Wataru Kashino, Anja Busse. Prevention, treatment and care of substance use disorders in times of COVID‐19. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 323–324. 

Prevention, treatment and care of substance use disorders in times of COVID‐19
COVID-19の時代における物質使用障害の予防、治療、ケア

<要旨>
物質使用障害を有する人は、物質使用による健康被害と未治療の併存症があることに加え、貧困やスティグマ、劣悪な住環境など様々な要因によって、COVID-19 に感染するリスクが高く、適切なケアへもアクセスしにくく、予後が悪い。国連薬物犯罪事務所(UNODC)-世界保健機関(WHO)非公式科学ネットワーク(ISN)は2021年の声明で、COVID-19の時代においても物質使用障害を有する方が取り残されることなく、質の高い物質使用障害の予防、治療、ケアにアクセスできるようにすることを提言している。

〔翻訳:島田 裕希〕

WPA NEWS

■Afzal Javed. Implementation of the WPA Action Plan 2020‐2023: an update. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 325–326. 

Implementation of the WPA Action Plan 2020‐2023: an update
WPAアクションプラン2020―2023の実施:アップデート

<要旨>
本稿では、アクションプラン2020−2023に関してWPAが2021年に行った活動内容を報告している。コロナ禍という制約がある状況下であったが、オンライン教育コンテンツの提供、アクションプランに掲載された研修・研究・臨床分野の活動の実施、戦争・災害地域の支援、ニュースレターや機関誌の発行、バーチャル世界精神医学会議の実施を成功させており、3年間のアクションプランの目標達成に向けて引き続き活動を推進していく、と述べられている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

 

■Kerim M. Munir, Ashok Roy, Afzal Javed. The WPA Working Group on Intellectual Developmental Disorders: the need for a second paradigm shift. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 327–328.

The WPA Working Group on Intellectual Developmental Disorders: the need for a second paradigm shift
知的発達症に関するWPAワーキンググループ:第二のパラダイムシフトの必要性

<要旨>
WPAアクションプラン2020-2023は、知的発達症(IDD)に関するワーキンググループを結成し、2019年8月にポルトガルのリスボンで開催された第19回世界精神医学会議の会長シンポジウムで初めての会合を開催した。特に中低所得国に焦点を当てながらIDD患者のケアに関するトレーニングを精神医学の主軸に含めていくことが、第二のパラダイムシフトとして必要であり、今後の国際会合でも引き続き話し合われる予定であると述べられている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

■Jonathan Campion, Afzal Javed. WPA Working Group on Public Mental Health: objectives and recommended actions. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 330–331.

WPA Working Group on Public Mental Health: objectives and recommended actions
公衆精神衛生についてのWPAワーキンググループ:目的と推奨行動

<要旨>
WPA行動計画2020-2023は、指導原理として公衆精神衛生を推進しており、公衆精神衛生ワーキンググループが設立された。ワーキンググループの主目的は以下4つの方法で公衆精神衛生の介入策の実施を促すことである。4つの方法とは国の政策における公衆精神衛生の優先度を上げること、国における公衆精神衛生のアセスメントを促すこと、公衆精神衛生トレーニングを促すこと、公衆精神衛生とプライマリーケアや一般医療の連携を促すことである。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

■Pasquale Pezzella. The ICD‐11 is now officially in effect. World Psychiatry. 2022 Jun; 21(2): 331–332.

The ICD‐11 is now officially in effect
ICD-11が正式に発効された

<要旨>
2022年1月1日に発効された 国際疾病分類の第11回改訂版( ICD-11)は、疾患群に対応する26の章と、機能評価のための補足的なセクション(第V章)で構成されている。ICD-11とは別に作成が進められたICD-10の臨床記述および診断ガイドライン(CDDG)に対応する床記述および診断要件(CDDR)は、ICD-11に不可欠な要素である。CDDRの完成に先立ち、膨大な数の国際的フィールドスタディが実施され、ICD-11 CDDR は ICD-10 CDDG と比較して、 有意に高い診断精度 (71.9% 対 53.2%) と、 使いやすさ、明確さ、適合性、診断に要する時間の短さが示された。CDDRに焦点を当てた国際的なトレーニングプログラムが現在実施されている。 

〔翻訳:俊野 尚彦〕

翻訳協力者一覧

【監訳】
秋山 剛           NTT東日本関東病院
【翻訳】
認定NPO法人   日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/

五十嵐 江美           東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野
入來 晃久            大阪精神医療センター
河岸 嶺将            千葉県精神科医療センター
神崎 佑佳              大阪精神医療センター
北岡 淳子              垂水病院
九野(川竹) 絢子  マウントサイナイ医科大学
篠原 陸斗      市立釧路総合病院
島田 裕希              大阪精神医療センター
清水 俊宏              埼玉県立精神医療センター
俊野 尚彦              高岡病院/十条産業保健事務所
中野 心介            大村共立病院
宮野 史也              北海道立向陽ヶ丘病院
武藤 健太郎           東京医科大学病院メンタルヘルス科
山村 啓眞              京都府立洛南病院

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