公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

Volume 21, Number 3, October 2022

更新日時:2023年10月23日

EDITORIALS

■D. KESTEL. Transforming mental health for all: a critical role for specialists. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 333–334.

Transforming mental health for all: a critical role for specialists
全ての人のためのメンタルヘルスへの変革:専門家の重要な役割

<要旨>
WHOは「すべての人のためのメンタルヘルスへの変革」と題した世界メンタルヘルス報告書において、メンタルヘルスケアの世界的な変革の必要性を訴えている。メンタルヘルスを啓発して投資を行うこと、メンタルヘルスを守るための環境を再構築すること、スティグマに対処した公平なメンタルヘルスケアを強化すること、という3つの重要な戦略の概要を示している。この変革を起こす上で、メンタルヘルスの専門家は、助言者、提唱者、革新者、教育者として、重要な役割を果たす必要がある。

〔翻訳:清水 俊宏〕

 

■G. THORNICROFT. Psychiatric diagnosis and treatment in the 21st century: paradigm shifts or power shifts? World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 334–335. 

Psychiatric diagnosis and treatment in the 21st century: paradigm shifts or power shifts?
21世紀の精神科診断と治療:パラダイムシフトかパワーシフトか?

<要旨>
Steinらの論文を踏まえ、脱施設化と地域密着型サービスの展開の関係、精神科診断システムの開発・利用における患者・サービス利用者の関与の2点に対して筆者の考えが本稿では論じられている。前者に対して精神科病院の閉鎖に対するほぼ全てのエビデンスが高所得国のものであると指摘し、病院か地域サービスかを選択するのではなく、それぞれの環境に応じて病院と地域ケアのバランスを調整することが望ましいと述べている。また、後者に対しては患者と精神科医やその他の精神保健スタッフとの間のパワーバランスを変え、診断システムや治療システムなど患者を支援するために設計されたすべてのプロセスに、精神疾患の患者を完全に含めることが重要だと論及している。

〔翻訳:畠田 順一〕

SPECIAL ARTICLES

■C.F. REYNOLDS 3RD, D.V. JESTE, P.S. SACHDEV ET AL. Mental health care for older adults: recent advances and new directions in clinical practice and research. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 336–363.

Mental health care for older adults: recent advances and new directions in clinical practice and research
高齢者のメンタルヘルスケア:臨床と研究の最近の進歩と新たな方向性

<抄録>
世界の人口は高齢化し、高齢者の精神障害の負担はますます大きくなっている。多疾病の併存という問題があり、これらの人々とその家族介護者のメンタルヘルスケアには労力を要する。同時に、精神障害の有無にかかわらず、年齢差別は高齢者にとって大きな問題である。レジリエンス、知恵、向社会的行動といった老化のポジティブな要素は、スティグマと闘うためにも、高齢者のメンタルヘルスを保護し改善するためにも、強調され促進される必要がある。老化のポジティブ精神医学は、矛盾したものではなく、研究エビデンスに強く基づいた科学的な構成である。私たちは、老年精神医学のより広い概念、すなわち病気だけでなく健康も包含する概念を提唱している。本論文では、障害生存年数の最大の要因となる4つの障害(神経認知障害、大うつ病、統合失調症、薬物使用障害)の文脈で、これらの問題を取り上げる。私たちは、包括的な評価、臨床管理、集中的なアウトリーチ、精神・身体・社会的健康サービスの連携など、多職種チームによるケアの実施の必要性を強調する。また、治療反応変動の調整因子と介在因子に関するさらなる研究の必要性を強調する。精神障害を持つ高齢者の最適なケアは、患者中心であると同時に家族中心であるため、家族介護者の幸福度を高めるためのさらなる研究が必要である。薬物療法の安全性と有効性を最適化するためには、代謝、心血管系、神経系の忍容性へのさらなる配慮が必要であり、自殺のリスクを低減する薬剤のさらなる開発・試験も必要である。同時に、ポジティブエイジングや正常な認知機能の老化についても、年齢差別に対する対抗策として、また老化そのものや老年期の精神障害に対する考え方を変えるきっかけとして、取り上げている。このような文脈から、私たちは今後の臨床ケアや研究の方向性を提示している。

<要旨>
高齢化が進む現代社会において、高齢者は多くの疾患を抱え、精神障害に対する治療や介護は非常に負担が大きく、さらに高齢者に対する年齢差別も社会問題となっている。しかし、高齢者にはレジリエンス、知恵、向社会的行動といったポジティブな面も存在し、これらを積極的に取り入れることで、社会におけるスティグマを減らすだけでなく、高齢者の精神的健康を保護・向上させることもできる。本論文では、認知症、うつ病、統合失調症、薬物使用障害について疫学、予防、最近の治療の進歩、サービス提供の新モデルを取り上げている。また、ポジティブエイジングや正常な認知機能の老化にも触れられ、今後の臨床ケアや研究の方向性を提示している。

〔翻訳:山口 博行〕

■R.S. MCINTYRE, M. ALDA, R.J. BALDESSARINI ET AL. The clinical characterization of the adult patient with bipolar disorder aimed at personalization of management. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 364–387. 

The clinical characterization of the adult patient with bipolar disorder aimed at personalization of management
個別化された管理を目的とした、双極性障害患者の臨床的特徴の把握

<抄録>
双極性障害は、症状、経過、治療反応性など、あらゆる点で多様な疾患である。エビデンスがある多くの治療が存在するにもかかわらず、この疾患に罹患した患者の大部分は、完全な寛解や満足のいく回復に至ることがない。”multi omi”のような階層的電子健康記録などの様々な情報ソースと進歩した計算機能(例えば機械学習)を組み合わせることにより将来的な診断や治療選択が予測できる可能性について期待が高まっている。  
実際の臨床場面で、特定の治療法に対する反応に差がある臨床的に有意義なサブグループを識別することは、目下の重要な課題である。 
本論文では、双極性障害の臨床的特徴づけにより重要な領域をまとめ、患者管理や治療の検討上有用な情報を提供し、患者の健康アウトカムを改善させることを目的としている。これまでの研究報告から、実効的な情報を示し患者と医師との共同意思決定(SDM)の良いガイドとなることが示されている。
例えば、混合性の特徴-特にうつ病エピソードの間の-や、身体および精神疾患の合併が存在する場合、経過として、治療反応性の問題や自殺リスクを示すということが確認されている。また、幼時の逆境体験(例えば性的、身体的虐待やネグレクト)は高率に疾患像を複雑化させ、統合的な発達志向的治療アプローチを必要とする。 
双極性障害のサブタイプに関する検証(例えば1型/2型双極性障害)は、特に薬物療法に関連してこれまでに著しい発展を遂げてきた。他の重度の精神疾患と同様に、社会的機能、対人/家族関係、内的スティグマなどの要因は、再発リスクや健康予後、QOLに大きく関連する。また、双極性障害の患者における自殺企図の完遂による死亡率が高いことから、全ての患者についてこの特徴を特定する必要性が高い。 
本論文の主要な目的は、前述したような重要な疾患群の全てを描写することにより、現存の理論を統合し、実際の臨床の場面において治療決定の助けとなる支援ツールや、臨床指標に関する推奨事項を提供することである。

<要旨>
本論文では、多くのエビデンスを基に双極性障害の経過予測や治療選択において重要な意味を持つ15のカテゴリーを特定し、それぞれのカテゴリーについての臨床評価尺度、および治療効果との関連について体系的にまとめ、詳細に解説を行った。筆者らは、これらの臨床的特徴の描写が、共同意思決定と適切な治療管理の統合による更なる個別化治療の実現と臨床予後を実現するために、重要な指標であると示唆している。

〔翻訳:城谷 麻衣子〕

PERSPECTIVES

■P.W. CORRIGAN. Coming out proud to erase the stigma of mental illness. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 388–389.

Coming out proud to erase the stigma of mental illness
精神疾患のスティグマを払拭するために、誇りを持ってカミングアウトする

<要旨>
本稿では、患者自らが精神疾患についてカミングアウトすることによって、パブリック(社会的な)スティグマだけではなくセルフスティグマも軽減することができると述べている。
筆者を含む当事者らはHonest, Open, Proud(HOP)プログラムを開発し、カミングアウトまでの4つのステップを丁寧に踏むことで、カミングアウトの意思決定の支援およびスティグマの払拭を目指している。

〔翻訳:北岡 淳子〕

■M.F. STEGER. Meaning in life is a fundamental protective factor in the context of psychopathology. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 389–390. 

Meaning in life is a fundamental protective factor in the context of psychopathology
人生の意味は、精神病理に関する基本的な保護因子である

<要旨>
心理的ストレスが大きい時代には、多くの人が心の空虚感に悩まされることになる。人生の意味は、認知的・動機的側面を統合することによって幸福をサポートすると考えられている。 患者の人生の意味に注目することは、治療、回復、心理的な健康維持のすべての過程で価値があることである、 と筆者は述べている。

〔翻訳:宮野 史也〕


■ C. SUNKEL. A lived experience perspective on the new World Mental Health Report. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 390–391.

A lived experience perspective on the new World Mental Health Report
当事者の視点を取り入れた新しい世界精神保健報告書

<要旨>
世界保健機関(WHO)の新しい世界精神保健報告書は、精神保健問題のある人々の声を重視し、コミュニティベースのアプローチを推進している。報告書では当事者の意見や提案を重視し、政策立案やサービス改善に役立てることを推奨している。さらに、多様性を尊重し、異なる背景や立場の人々の意見を取り入れることが重要であると強調している。今後、政府や国際社会が当事者の声を真摯に受け止め、包括的で人間中心のメンタルヘルスケアの実現に向けて取り組むことが求められている。

〔翻訳:安藝 森央〕

 

FORUM – PSYCHIATRIC PRACTICE AND RESEARCH: THE VALUE OF INCREMENTAL AND INTEGRATIVE ADVANCES 


■D.J. STEIN, S.J. SHOPTAW, D.V. VIGO ET AL. Psychiatric diagnosis and treatment in the 21st century: paradigm shifts versus incremental integration. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 393–414. 

Psychiatric diagnosis and treatment in the 21st century: paradigm shifts versus incremental integration
21世紀の精神科診断と治療:パラダイムシフトと漸進的統合の比較

<抄録>
精神医学は常に、精神障害に対する様々なモデルやアプローチによって特徴づけられており、それらは時に臨床に進歩をもたらす一方で、しばしば分野内外からの批判を伴ってきた。DSMとICDは精神医学の臨床と研究に強い影響を与える一方、精神医学が危機的状況にあることを訴え、診断と評価のための全く新しいパラダイムを提唱することにもつながっている。病因論を考える際、現在多くの研究者が生物心理社会モデルを参照しているが、このアプローチは、一部の評論家によって過度に折衷的で曖昧であると見なされ、大きな批判を受けている。エビデンスに基づく様々な薬物療法や心理療法が開発されているにも関わらず、現在のエビデンスでは精神保健分野の治療のギャップと研究・臨床間のギャップの両方があることが指摘されている。本稿では、現在の臨床を考慮した上で、最近特に注目され、将来的に精神医学の臨床と研究に大きな影響を与える可能性のある、臨床神経科学と個別化薬物療法、精神科病名分類・評価・研究への新しい統計的アプローチ、脱施設化と地域精神医療、根拠に基づく精神療法のスケールアップ、デジタル表現型とデジタル治療、グローバル精神保健とタスク共有アプローチといった新しい視点について提案している。現在のやり方から新しいアプローチへの移行が提案された場合、どの程度誇大広告や希望的観測が反映されているかを検討する。私たちのレビューでは、それぞれの新しい視点は将来への希望を抱かせる重要な示唆をもたらすが、同時に、それぞれが部分的な見解しか提供せず、この分野のパラダイムシフトを期待することには根拠が乏しい、と言及している。
ここ数十年、精神科の診断と治療には決定的な進歩があったこと、この重要な進歩にも関わらず評価と介入にはさらなる改善が必要であること、そのような改善は精神科診療と研究における特定のパラダイムシフトによってではなく、漸進的進歩と反復的統合によって達成されるであろうことを結論付けている。
 

<要旨>
現代の精神医学の臨床・研究は、治療や研究−臨床間にギャップが存在するなど改善を要する状況である。それらの改善のためには、特定のパラダイムシフトだけではなく、漸進的な統合アプローチが必要であると提唱し、臨床神経科学と個別化薬物療法、精神科病名分類・評価・研究への新しい統計的アプローチなど、具体的な新しい視点についても提案をしている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

Commentaries

■K.S. KENDLER. Incremental advances in psychiatric molecular genetics and nosology. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 415–416.

Incremental integration of nosological innovations is improving psychiatric diagnosis and treatment
診断学における革新の漸進的な統合が精神医学の診断と治療を向上させる

<要旨>
本稿では、精神医学の研究・臨床の発展のためには、破壊的なパラダイムシフトではなく漸進的な統合的アプローチが望ましいと提唱するSteinらのレビュー論文に関して論評がなされている。Steinらのレビュー論文で扱われている文献の網羅性を評価した上で、統合的アプローチを唱えるSteinらの視点に賛同を示している。さらに、パーソナリティ障害の診断基準の変遷を例に挙げながら、あるアプローチが破壊的であるか統合的であるかの判断は、最終的には個々の評価者の視点に委ねられる、ことに言及している。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

■M.G. CRASKE. The future of CBT and evidence‐based psychotherapies is promising. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 417–419.

The future of CBT and evidence‐based psychotherapies is promising
CBTやエビデンスに基づく心理療法の将来は有望である

<要旨>
エビデンスに基づく心理療法、特に認知行動療法(CBT)は「目覚ましい前進」を示しているが、世界の精神保健システムにおけるその実施には漸進的な進歩を要する。筆者はCBTやその他のエビデンスに基づく心理療法のより有望な未来は、より的を絞った個別化された介入とテクノロジーの活用を忠実にスケールアップすることで達成できると主張する。

〔翻訳:宮野 史也〕
 

■J. TOROUS. A path towards progress: lessons from the hard things about digital mental health. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 419–420.

A path towards progress: lessons from the hard things about digital mental health
進歩への道:デジタルメンタルヘルスに関する困難からの教訓

<要旨>
精神医学においては、漸進的な進歩と反復的な統合を追求すべきであり、デジタルメンタルヘルス分野でも同様である。この分野では、データのプライバシー性と安全性、アプリの有効性、ユーザー体験とアドヒアランス、データ統合という課題が存在する。華やかに増幅されたデジタルメンタルヘルスの幻想に惑わされず、これらの現実的な課題に漸進的に取り組むことで、実際の変革がもたらされると考えられる。

〔翻訳:山口 博行〕

■J. UNÜTZER. Psychiatry in the 21st century: the glass is half full. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 422–423.

Psychiatry in the 21st century: the glass is half full
21世紀の精神医学:グラスはもう半分に満たされた

<要旨>
数十年の脳神経科学への研究投資により脳の仕組みが解明されつつある。しかし、エビデンスに基づいて治療した場合でも、診断や治療の初期段階が的外れであるなら期待した効果が得られないこともあり、謙虚にアプローチを変更していくことが重要であると筆者は述べている。また、2つ目の課題として有効な治療法があってもその治療にアクセスできないことが多くあり、この治療ギャップを埋めるための革新と投資が必要である。そして精神疾患と依存症が、現在世界中で健康被害の主要な原因として認識され、今後はそれらに対するスティグマへの対処や治療アプローチについて世界中の仲間と距離を超えて提携していくことが重要になるだろうと結論付けている。

〔翻訳:畠田 順一〕

■A. HEINZ, S. LIU. Challenges and chances for mental health care in the 21st century. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 423–424. 

Challenges and chances for mental health care in the 21st century
21世紀のメンタルヘルスケアへの挑戦とチャンス

<要旨>
身体医学とは異なり精神医学は長い間、精神疾患を定義できていないと批判されてきた。社会的に望ましくない特性を重篤な精神疾患の症状と混同してしまわないように、精神医学も医学の一分野であることを踏まえると、どのような精神機能が人間の生活に普遍的に関連しているかを定義し、世界的に取り組むべき問題を明らかにする必要がある。世界のメンタルヘルスケアを改善するためには、精神疾患の分類を見直す必要がある。その際には、患者や家族の代表を参加させ、参加型研究を推進し、ヘルスケア計画のあらゆる側面に市民社会を関与させなければならない。

〔翻訳:畠田 順一〕

■L. ATWOLI, J. MUHIA, C.W. GITAU. From diversity to individualized care: Africa’s contribution to psychiatry. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 424–426. 

From diversity to individualized care: Africa’s contribution to psychiatry
多様性から個別ケアへ: アフリカの精神医学への貢献

<要旨>
アフリカ大陸は、世界で最も文化や風習や信仰の多様性に富んでいる。治療や診断のモデルは、この多様性を考慮して個人に対応して差別なく提供する必要がある。国際的に認められた個別化された診断と治療の枠組みを作ることが、医療ケアへのアクセスの不公平をなくし、標準ケアを最も恵まれない人々でも利用できるようにするための最初のステップであると、筆者は述べる。多様性に富むアフリカが、このコンセプトを検証するための最良のモデルとなりうる。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

RESEARCH REPORTS

■J.B. ANDRESEN, C. GRAUGAARD, M. ANDERSSON ET AL. Adverse childhood experiences and mental health problems in a nationally representative study of heterosexual, homosexual and bisexual Danes. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 427–435.

Adverse childhood experiences and mental health problems in a nationally representative study of heterosexual, homosexual and bisexual Danes
異性愛者、同性愛者、両性愛者のデンマーク人を対象とした全国代表調査における逆境的小児期体験とメンタルヘルスの問題

<抄録>
非異性愛者は異性愛者よりも逆境的小児期体験(ACEs)を報告することが多く、一般的にメンタルヘルス上の課題をより多く負っているとされる。しかし、このテーマに関する集団ベースのデータは乏しい。性の健康に関する世界最大級のコホート研究であるProject SEXUSの中の全国代表研究において、我々はデンマークの57,479人のデータを用いて、異性愛者を自認する者、同性愛者を自認する者、両性愛者を自認する者、および同性間性的経験のある異性愛者を自認する者、同性間性的経験のない異性愛者を自認する者におけるACEsとメンタルヘルスの問題の相互作用を調査した。異性愛者と比較して、非異性愛者は調査したACEsの大半を報告する傾向にあり、ACEカテゴリー「虐待」のオッズ比(OR)は、同性愛女性で1.38から1.75、同性愛男性で1.76から2.65、両性愛女性で2.52から3.64、両性愛男性で1.58から6.07の範囲であった。さらに、非異性愛者では、メンタルヘルス上の問題を抱えるオッズが一貫して統計的に有意に高かった(OR: 1.50~4.63) 。ACEsと非異性愛者の組み合わせは、特に両性愛者において、メンタルヘルスの問題のオッズを顕著に上昇させた。これには、「ネグレクト」(女性:OR=12.82、男性:OR=35.24)および「虐待」(女性:OR=11.81、男性:OR=11.65)の過去を持つ両性愛者の自殺念慮/企図が高い確率でみられていた。異性愛者を自認する者では、ACEsと同性間性的経験の組み合わせが、メンタルヘルスの問題の一貫したオッズ上昇と関連していた(OR:2.22~12.04)。同性愛者を自認する者、特に両性愛者におけるACEsの苦痛の大きさは、彼らのメンタルヘルスの問題における過剰リスクの一部を説明するものと考えられる。これらの結果は、ACEsの苦痛を最小限に抑え、その有害な長期的影響を回避するための予防措置の公衆衛生上の重要性を強調するものである。さらに、性別不合の子供や青少年の福祉を守る必要性も強調される。

<要旨>
筆者らは性の健康に関する世界最大級のコホート研究であるProject SEXUSからデンマークの57,479人のデータを用いて、異性愛者(同性間性的経験のあるもの、経験のないもの)、同性愛者、両性愛者の間で、逆境的小児期体験(ACEs)とメンタルヘルス上の問題の相互作用に対する調査を行った。非異性愛者は異性愛者に比べ、ACEsの報告やメンタルヘルス上の問題が多く、異性愛者では同性間性的経験のある者とACEs の組み合わせが、メンタルヘルスの問題の増加と関連しており、非異性愛者とACEsの組み合わせでは、特に両性愛者において、メンタルヘルスの問題が顕著に多くなっていた。本稿では、これらの結果から、ACEsの苦痛を最小限に抑え、長期的影響を予防するための公衆衛生上の重要性や、性別不合な思春期児童の福祉を守ることを強調している。
 

〔翻訳:北岡 淳子〕
 

■U. LÅNG, H. RAMSAY, K. YATES ET AL. Potential for prediction of psychosis and bipolar disorder in Child and Adolescent Mental Health Services: a longitudinal register study of all people born in Finland in 1987. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 436–443. 

Potential for prediction of psychosis and bipolar disorder in Child and Adolescent Mental Health Services: a longitudinal register study of all people born in Finland in 1987
児童・思春期精神保健サービスにおける精神病と双極性障害の予測の可能性:1987年にフィンランドで生まれたすべての人を対象とした縦断的レジストリ研究

<抄録>
精神病を予測する現在の戦略では、リスクのある個人のごく一部を特定するに過ぎない。重篤な精神疾患の予知と予防の機能を高めるためには、理想的には小児期と青年期に、さらなる方策が必要である。一つの可能性として、精神病の危険因子が集中する小児期に関するシステムを調査することが考えられる。そのようなシステムで注目すべきなのは、児童思春期精神保健サービス(CAMHS)である。CAMHSでは精神病性障害はまれであるが、精神病の危険因子の多くは、このシステムに通う若者に非常に多く存在する。したがって、CAMHSに通う若者は、成人期まで追跡すると精神病の高リスク群であり、さらに、CAMHSシステムは将来の精神病症例のかなりの割合を占めるという仮説をたてた。1987年生まれのフィンランド人全員(N=55,875)を対象に、出生から28歳までの医療機関との接触に関する広範なレジストリデータを連結して、全人口コホート研究を構築した。28歳までに精神病または双極性障害と診断されたすべての人を特定した(N=1,785)。28歳までに精神病/双極性障害となるリスクは、幼少期または思春期にCAMHSに通院したことがない人では1.8%であったが、CAMHSに何らかの外来通院歴がある人では12.8%となった(オッズ比、OR=7.9、95%CI: 7.2-8.7 )。さらに、28歳までに精神病/双極性障害となるリスクは、CAMHSの入院歴がない人では2.3%であったが、入院歴のある人では24.0%(OR=13.3、95%CI:11.9~14.9)、思春期(13~17歳)に入院歴がある人では36.5%となった(OR=24.2、95%CI: 21.2~27.6)。精神病/双極性障害を発症するリスクは、CAMHSに通院していた際に精神障害の診断を受けなかった人は、なんらかの精神障害の診断を受けた人と同程度に高かかった(OR=0.9, 99.5% CI: 0.7-1.1).他のCAMHS受診者と比較して、CAMHSでうつ病またはその他の気分障害(OR=2.3, 99.5% CI: 1.6-3.0) と秩序破壊的行動障害(OR=1.7, 99.5% CI: 1.2-2.5 )と最初に診断を受けると、精神病または双極性障害を発症する傾向が強かった。28歳までに診断された全て精神病/双極性障害のうち、50.2%は幼少期または思春期のある時点でCAMHSに通っていた人に発症しており、CAMHS受診歴は精神病/双極性障害のハイリスクになるだけでなく、予測能力の高いシステムであることが示された。
これらの知見は、既存の専門的なCAMHSにおいて、大規模な精神病/双極性障害の予知・予防研究が可能であるという、未開拓で巨大な可能性があることを示唆している。

<要旨>
1987年生まれのすべてのフィンランド人を追跡したコホート研究では、28歳までに精神病・双極性障害を発症するリスクが、児童思春期精神保健サービス(CAMHS)の通院歴のある群で高まることを示した。CAMHSの通院が単にリスク因子となるだけでなく、発症の予測・予防の研究に役立つ可能性があることを示唆している。

〔翻訳:新福 伸久〕

■M. HØJLUND, K. ANDERSEN, M.T. ERNST ET AL. Use of low‐dose quetiapine increases the risk of major adverse cardiovascular events: results from a nationwide active comparator‐controlled cohort study. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 444–451. 

Use of low‐dose quetiapine increases the risk of major adverse cardiovascular events: results from a nationwide active comparator‐controlled cohort study
低用量クエチアピンの使用は主要心血管イベントリスクを増加させる:全国規模の実薬対照コントロールコホート研究の結果

<抄録>
クエチアピンは統合失調症や双極性障害の治療で用いられる標準的な用量において、体重増加や心血管疾患、死亡の危険因子であるトリグリセリド、総コレステロール、低密度リポタンパク(LDL)コレステロールの上昇と関連することが知られる。クエチアピンは抗不安作用や催眠作用を目的に低用量で適応外使用されることも多く、現在世界で最も処方されている抗精神病薬の1つである。しかし、低用量クエチアピンの心血管系に対する安全性は明らかでない。
低用量クエチアピンによる主要心血管イベントのリスクについてリアルワールドデータを用いて評価するため、著者らは全国規模の実薬対照コントロールコホート研究データを利用し、低用量クエチアピンと催眠作用を有する非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を比較することで主要心血管イベントのリスクについて検討した。
調査対象者は、2003年から2017年までのデンマークにおけるいずれかの薬剤の新規使用者で、虚血性脳卒中や心筋梗塞・がん・重度の精神疾患の既往歴がない18〜85歳の者とした。主要評価項目は主要心血管イベントの発生(致死的でない心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管系を原因とした死亡を含む)とした。頑健性を高めるため実施した感度分析においては、代替の実薬対照として抗不安作用を有する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を選択した。
低用量クエチアピン(クエチアピン50mg以下)使用群60,566人と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬使用群454,567人を比較し、intent-to-treat解析では890,198人年、as-treated解析では330,334人年追跡した。2群間でベースライン時点での心血管疾患のリスク因子に有意差を認めなかったものの、intention-to-treat解析で低用量クエチアピンは、主要心血管イベント(調整ハザード比(以下、aHR)=1.13、95%CI:1.02-1.24、p=0.014)および心血管系を原因とした死亡(aHR=1.26、95%CI:1.11-1.43、p<0.001)のリスク上昇と関連した。as-treated解析で低用量クエチアピンの継続使用は、主要心血管イベント(aHR=1.52、95% CI: 1.35-1.70、p<0.001)および致死的でない虚血性脳卒中(aHR=1.37、95% CI: 1.13-1.68, p=0.002 )、心血管系を原因とした死亡(aHR=1.90, 95% CI: 1.64-2.19, p<0.001) のリスク上昇と関連した。サブグループ解析の結果、主要心血管イベントは女性(aHR=1.28、p=0.02)と使用開始時の年齢が65歳以上の群(aHR=1.24、p<0.001)でリスクが上昇した。感度分析においてSSRIと比較した場合も、低用量クエチアピンの使用は主要心血管イベント(aHR=1.42、p<0.001)および致死的でない虚血性脳卒中(aHR=1.27、p=0.0028)、心血管系を原因とした死亡(aHR=1.72、p<0.001)のリスクの上昇と関連した。
最終的に、低用量クエチアピンの使用は、特に女性と65歳以上の高齢者において、主要心血管イベントのリスク上昇と関連していると結論付けられた。これらの知見に基づき、鎮静または睡眠導入の目的で低用量クエチアピンを適応外使用することは控えるべきだと提言する。

<要旨>
本研究は催眠作用や抗不安作用を目的に適応外使用される低用量クエチアピンの心血管系に関する安全性について、リアルワールドデータを用いて検討した。統計学的手法を工夫することで、低用量クエチアピンにおける主要心血管イベントおよび心血管系を原因とした死亡リスクが増加することが比較的頑健性をもって示された。この結果から、著者らは鎮静または睡眠導入の目的で低用量クエチアピンを適応外使用することは控えるべきだと提言した。

〔翻訳:五十嵐 江美〕

■L. LI, Z. CHANG, J. SUN ET AL. Attention‐deficit/hyperactivity disorder as a risk factor for cardiovascular diseases: a nationwide population‐based cohort study. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 452–459.

Attention‐deficit/hyperactivity disorder as a risk factor for cardiovascular diseases: a nationwide population‐based cohort study
心血管疾患の危険因子としての注意欠陥・多動性障害:全国規模の人口ベースコホート研究

<抄録>
蓄積されたエビデンスは、精神障害者における心血管疾患のリスクが高いことを示唆しているが、注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者における心血管疾患全体および特定のグループのリスクについては、ほとんど知られていない。
この知識ギャップを埋めるため、我々は成人におけるADHDと広範な心血管疾患との前向きな関連性を調査した。
全国規模の人口ベースのコホート研究において、1941年から1983年の間に生まれた、心血管疾患の既往のない成人5,389,519人をスウェーデンの登録から同定した。
研究期間は、2001年1月1日から2013年12月31日までとした。発症した心血管疾患イベントは、ICDコードに従って特定した。
ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は、ADHDを時間変動する曝露として、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて算出した。
平均11.80年の追跡調査の結果、ADHDの38.05%、ADHDでない人の23.57%が、少なくとも1回は心血管疾患の診断を受けた(p<0.0001)。
ADHDは、性別および出生年で調整した後も、あらゆる心血管疾患のリスク増加と有意に関連していた(HR=2.05、95% CI: 1.98-2.13)。
教育水準、出生国、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、睡眠障害、多量喫煙を     調整すると、関連は弱まったが、有意なままであった(HR=1.84、95%CI: 1.77-1.91)。
さらに精神疾患の併存を調整すると、関連性は弱まるが、完全に説明することはできなかった(HR=1.65、95%CI: 1.59-1.71)。
最も強い関連は、心停止(HR=2.28、95%CI: 1.81-2.87)、出血性脳卒中(HR=2.16、95%CI: 1.68-2.77) および末梢血管疾患/動脈硬化(HR=2.05、95% CI: 1.76-2.38 )で認められた。
向精神薬の有無や心血管疾患の家族歴では同等の関連が認められた一方で、男性および若年層でより強い関連が認められた。
これらのデータは、ADHDが広範な心血管疾患の独立した危険因子であることを示唆している。
また、ADHD患者の心血管リスクを軽減するために、心血管の健康状態を注意深く観察し、年齢に応じた個別の戦略を立てることの重要性が強調された。

<要旨>
精神障害者における心血管疾患のリスクは高いとされているが、注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者におけるリスクについては、ほとんど知られていない。本稿で行われた前向き研究の結果、 ADHDが広範な心血管疾患、特に、心停止、脳出血、末梢血管疾患/動脈硬化の独立した危険因子であることが示唆された。男性および若年層ではより強い関連が認められたため、筆者らは、ADHD患者の心血管の健康状態を注意深く観察し、年齢に応じた個別の戦略を立てることの重要性を強調している。

〔翻訳:神崎 佑佳〕

INSIGHTS

■K.L. GRATZ, M.T. TULL. A clinically useful conceptualization of emotion regulation grounded in functional contextualism and evolutionary theory. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 460–461. 

A clinically useful conceptualization of emotion regulation grounded in functional contextualism and evolutionary theory
機能的文脈主義と進化論に基づく臨床的に有用な感情制御の概念化

<要旨>
感情制御は、精神病理学と適応機能の最重要ファクターの一つである。臨床現場において感情制御を、感情の修正を目標とするのでなく、適応した対応を導く情報として感情を理解し、受容・活用していくことを推奨したいと筆者は述べる。感情制御の受容に基づくモデルは、このアプローチの良い例であり、それに基づいた尺度として感情制御困難性尺度(DERS)がある。DERSや機能分析を活用して感情を評価していくことは、精神科の臨床にも研究にも大いに役立つ。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

■B.J. TURNER. Detecting and managing non‐suicidal self‐damaging behaviors. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 461–462.

Detecting and managing non‐suicidal self‐damaging behaviors
非自殺的自傷行為の検出と管理

<要旨>
非自殺的な自傷行為は、通常幼児期または成人期早期に始まるが、実臨床において慢性的で定着した状態となるまで注目されないことが多い。この行為を早期に発見し管理することは、世界的な精神疾患の罹患率と死亡率を大幅に削減する可能性があり重要性が高い。本論文においては、現時点で非自殺的自傷行為の早期の検出と管理を達成するのに障壁となっている2つの課題と、達成のために必要な具体的対策について考察がなされている。
 

〔翻訳:城谷 麻衣子〕

■S. EPSKAMP, A.-M. ISVORANU. New trends in network modeling of psychopathology. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 463–464.

New trends in network modeling of psychopathology
精神病理のネットワークモデルの新潮流


<要旨>
ネットワーク理論は、症状と外的要因が直接影響し合う複雑なシステムから出現する現象として、精神障害を捉えることができるという考えである。この理論的な枠組みから生まれたネットワーク心理計量学は、疾患の概念化を促進し、さらなる治療を導く可能性が期待されている。このアプローチには、共通現象を説明するための普遍的な理論の形成だけでなく、臨床実践における患者の個別ケースの概念化においても、大きな可能性がある。筆者は、この様な複雑系の理解と説明法の開発が、精神医学研究が今後数十年間に直面する大きな課題の一つであると述べている。
 

〔翻訳:清水 直樹〕

■J. VENTURA. Computer‐based virtual reality assessment of functional capacity in primary psychosis. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 464–465.

Computer‐based virtual reality assessment of functional capacity in primary psychosis
初期精神病におけるコンピューターベースの仮想現実を用いた機能的能力評価

<要旨>
機能的能力の評価は、日常生活での自立性を維持するための能力やスキルを測定し、初期精神病で低下することからその感知にも重要な指標である。長年、機能的能力評価のツールとしてはUPSAが一般的であったが、技術の進歩に伴い、仮想現実を用いた評価方法が開発されている。VRFCATやVirtual Cityなどの新たな評価ツールでは、臨床使用にはさらなる研究が必要なものの、より現実感のある環境での能力評価が可能である。今後の研究で、精神病を持つ患者の機能的能力評価を行うようになれば、初期精神疾患の治療計画・介入において重要な役割を果たし得る。

〔翻訳:安藝 森央〕

LETTERS TO THE EDITOR

■Gordon Parker, Gabriela Tavella. Burnout: a case for its formal inclusion in classification systems. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 467–468.

Burnout: a case for its formal inclusion in classification systems
燃え尽き症候群:分類体系への正式な組み込みを目指して

<要旨>
燃え尽き症候群は、いくつかの国では職業上の「病気」としての地位を有しているが、精神疾患の分類体系に正式に組み込まれていない。著者らは、燃え尽き症候群の認知を妨げてきた論点に対し反論した上で、燃え尽き症候群を精神疾患として診断するための基準を提案している。
 

〔翻訳:清水 俊宏〕

■Michał Lew‐Starowicz, Małgorzata Draps, Ewelina Kowalewska, Katarzyna Obarska, Shane W. Kraus, Mateusz Gola. Tolerability and efficacy of paroxetine and naltrexone for treatment of compulsive sexual behaviour disorder. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 468–469

Tolerability and efficacy of paroxetine and naltrexone for treatment of compulsive sexual behaviour disorder
強迫的性行動症に対するパロキセチンとナルトレキソンの忍容性と有効性の検討

<要旨>
ICD-11に導入された強迫的性行動症(CSBD)の患者に対するパロキセチンとナルトレキソンによる薬物療法の有効性について、異性愛者の男性73名(平均年齢:35.7±8.1歳)を対象とした二重盲検プラセボ対照RCTを実施した。
副作用による中止率は6.8%で、ナルトレキソン群における鎮静を除き他の適応症と同程度であり、重篤な副作用は発生しなかった。生態学的瞬間評価(EMA)および臨床面接にて両薬剤はプラセボと比較してCSBDの症状軽減に有効であることが確認できた。しかし、自己申告による質問票や自己申告によるポルノ消費量のデータについては、有意差が認められなかった。したがって、CSBDに対するこれらの薬剤の臨床的有効性に関してさらなる研究が必要である。

〔翻訳:俊野 尚彦〕

■Kimmo Suokas, Christian Hakulinen, Reijo Sund, Olli Kampman, Sami Pirkola. Mortality in persons with recent primary or secondary care contacts for mental disorders in Finland. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 470–471. 

Mortality in persons with recent primary or secondary care contacts for mental disorders in Finland
フィンランドにおける精神疾患でプライマリーケアまたはセカンダリーケアを直近で受診した人の死亡率

<要旨>
フィンランドにおいて2011年から2017年にかけて全国登録データを用いて行われたオープンコホート研究では、精神疾患でプライマリーケアおよびセカンダリーケアで受診した人の超過死亡率は、セカンダリーケアのデータのみを考慮したものと比較して低かった。プライマリーケアにおいてメンタルヘルスケアの統合する流れがある中、プライマリーケアを含めた精神障害に関する死亡率データは世界的に不足しているが、本研究から得られた知見の示唆についても論じている。

〔翻訳:清水 俊宏〕

■Dana Tzur Bitan1,2, Noga Givon‐Lavi, Khalaf Kridin, Ehud Kaliner, Israel Krieger, Arnon Dov Cohen, Orly Weinstein. Severe breakthrough COVID‐19 infections in vaccinated patients with schizophrenia in Israel. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 471–472. 

Severe breakthrough COVID‐19 infections in vaccinated patients with schizophrenia in Israel
イスラエルでのワクチン接種した統合失調症患者におけるCOVID-19感染症の深刻な流行

<要旨>
統合失調症患者は、ワクチンを接種した場合、COVID-19の重症化および関連死亡のリスクが大幅に減少するとされているが、その長期的な有効性については疑問が呈されている。本稿で行われた後方視的検討の結果、イスラエルの感染第4波において、ワクチン接種をした統合失調症患者で COVID-19 の好ましくない転帰のリスクが増加したことが判明した。筆者らは、重度の精神疾患患者に対する感染予防戦略を促進することを目的としたアウトリーチプログラムの開発が必要であると結論付けている。
 

〔翻訳:神崎 佑佳〕

■Fredrik Hieronymus, Alexander Lisinski, Søren Dinesen østergaard, Elias Eriksson. The response pattern to SSRIs as assessed by the Montgomery‐Åsberg Depression Rating Scale: a patient‐level meta‐analysis. World Psychiatry. 2022 Oct; 21(3): 472–473. 

The response pattern to SSRIs as assessed by the Montgomery‐Åsberg Depression Rating Scale: a patient‐level meta‐analysis
うつ病評価尺度で評価したSSRIへの反応パターン:患者レベルのメタ分析

<要旨>
ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)によって評価される17の症状において、抗うつ薬とプラセボの効果の大きさには大きな差があることが知られている。Montgomery-Åsbergうつ病評価尺度(MADRS)はHDRSと重複している部分もあるが、諸症状の記載方法や評価項目に関して大きな違いがある。本稿でMADRSの各項目に対するSSRIの影響を患者レベルで解析した結果、選択した尺度の特殊性に関連することなく、HDRSで評価されない項目についてもSSRIによる改善が見られた。また、個別項目や総スコアでの個人差が少ないことも明らかになった。

〔翻訳:神崎 佑佳〕

翻訳協力者一覧

【監訳】
秋山 剛           NTT東日本関東病院
【翻訳】
認定NPO法人   日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/

安藝 森央              京都大学医学研究科 脳病態生理学(精神医学)
五十嵐 江美           東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野
神崎 佑佳              大阪大学医学部附属病院 神経科・精神科
北岡 淳子              垂水病院
九野(川竹) 絢子  マウントサイナイ医科大学
清水 俊宏              埼玉県立精神医療センター
清水 直樹              埼玉医科大学病院
城谷 麻衣子           城谷病院
新福 伸久              北海道大学病院精神科神経科
俊野 尚彦              高岡病院 /神戸海星女学院大学 現代人間科学部
畠田 順一              医療法人緑光会 東松山病院
武藤 健太郎           東京医科大学病院
宮野 史也              北海道立向陽ヶ丘病院 
山口 博行              国立精神・神経医療研究センター

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