公益社団法人 日本精神神経学会

English

学会活動|Activities

Volume 21, Number 1, February 2022

更新日時:2023年2月24日

EDITORIALS

■L. DAVIDSON, J. TONDORA. Person-centred care planning as foundational to clinical practice. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 1–2.

Person‐centred care planning as foundational to clinical practice
臨床実践の基本としての「パーソン・センタード・ケア」

<要旨>
「パーソン・センタード・ケア」は、ケアを受ける本人が自ら人生の目標や希望を希求できるように促すアプローチであり、各個人の自己決定権を尊重・保護し拡大することを目差している点で従来の治療法と根本的に異なっている。その治療効果についてのエビデンスも蓄積されてきてはいるが、この治療法がより広く浸透するためには、コミュニティにおいて様々な差別や偏見が残っていることを認識し、その構造的・社会的な要因の解決に取り組まなければならない。

〔翻訳:清水 俊宏〕

 

■M. CANNON, E. POWER, D. COTTER ET AL Youth psychiatry: time for a new sub-specialty within psychiatry. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 2–3. 

Youth psychiatry: time for a new sub‐specialty within psychiatry
青年期精神医学:精神医学の新しいサブスペシャリティの時代へ

<要旨>
疫学的・臨床的エビデンスの蓄積と発達神経科学の進歩により、児童・青年期と成人期の精神保健サービス提供が分裂していることはもはや支持されない。発達神経科学の進歩や社会の変化に対応していくためには、10代後半から20代後半までの期間をカバーする児童・青年期と成人期の精神保健サービスの間に組み込まれた新しいサブスペシャリティとして青年期精神医学(Youth Psychiatry)の確立が必要である。

〔翻訳:清水 俊宏〕

SPECIAL ARTICLES

■J.C. WAKEFIELD. Klerman’s “credo” reconsidered: neo-Kraepelinianism, Spitzer’s views, and what we can learn from the past. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 4–25.

Klerman's “credo” reconsidered: neo‐Kraepelinianism, Spitzer's views, and what we can learn from the past
クラーマンの「クレド」再考:ネオクレペリン主義、スピッツアーの見解、そして過去から学ぶべきこと

<抄録>
1978年、クラーマンは、当時勃興しつつあった「ネオクレペリン派」運動を「クレド」と名付け、この運動の本質的な主張と大望を表す9つの命題からなる論文を発表した。
クラーマンの論文は、ネオクレペリン派の考察がDSM-IIIで優勢となる直前に掲載されたものである。 しかし、この診断システムはその後、非難に晒され、精神科診断学の未来に関する案の競合への道が開かれた。
この論文では、何が問題かをよりよく理解するために、過去40年間の研究と考察に照らして、クラーマンのクレドを精読し考察する。このクレドは、同じ年に出版されたネオクレペリン派の代表的理論家であるグゼによるものと、スピッツァーとエンディコットによる精神障害の定義という、等しく重要な二つの出版物の文脈に位置づけられる。
スピッツァーと標準的なネオクレペリン主義との間の乖離が強調され、一般に認識されているよりもはるかに重要であることが論じられる。また、クラーマンのクレドの分析は、現在の精神医学における疾病分類学的な混乱をいかにして満足に解決するかに影響を与えると主張されている。
ネオクレペリン派は、記述的な症候学的診断基準の作成、精神分析的な精神医学の支配の打破、精神医学の科学化といった問題に加えて、精神障害の本質という概念的問題、反精神医学的批判に対する精神医学の医学的正当性の防衛に深く関わっていた。
これらの問題を無視することはできず、現在、提案されているネオクレペリン派のシステムをディメンショナルな尺度に置き換えるという通俗的な案は、これらの問題への適切な対処に至らないだろう。

<要旨>
ネオクレペリン主義的なカテゴリー分類は精神医学における病因の理解や治療の進歩において期待された結果が得られていないという認識からその妥当性が問われるようになった。著者はクラーマンのクレドを元に精神医学的診断の妥当性と信頼性に対する論争の歴史、伝統的精神医学、DSM-ICDに対する批判および功績について論じたうえで、精神科診断学の新たな動きについて述べている。
 

〔翻訳:俊野 尚彦〕
 

■D. WATSON, H.F. LEVIN-ASPENSON, M.A. WASZCZUK ET AL. Validity and utility of Hierarchical Taxonomy of Psychopathology (HiTOP): III. Emotional dysfunction superspectrum. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 26–54.

Validity and utility of Hierarchical Taxonomy of Psychopathology (HiTOP): III. Emotional dysfunction superspectrum
精神病理の階層的分類学(HiTOP)の妥当性と有用性:Ⅲ.情動障害超スペクトラム

<抄録>
精神病理の階層学的分類学(HiTOP)は、従来の精神疾患診断の課題に取り組むための定量的な疾患分類法である。課題の例として、疾患と正常の境界が恣意的である、疾患の併存が頻繁に見られる、疾患内の異質性が目立つ、診断の再現性が低かったり臨床医によって信頼性が異なったりする、などがある。本稿では、HiTOPの内面化スペクトラムと身体表現スペクトラムの妥当性と有用性について検討し、合わせて情動障害超スペクトラムを裏付ける根拠を提示している。これらのスペクトラムを構成しているのは、うつ病・不安障害・トラウマ関連障害・摂食障害・双極性障害・身体症状症に加え、性機能障害やパーソナリティ障害の一部など、現在複数の診断分類に分けられているものの同種の症状や不適応特性の次元を示すものである。情動障害超スペクトラムに該当する次元は、情動不安や神経症における個人差と広く結びついている。また超スペクトルに該当する次元は、遺伝的背景、環境リスク因子、認知・情動障害、神経伝達物質およびバイオマーカー、幼少期の気質的前兆、および治療反応を共有していることが、多くのエビデンスによって立証されている。妥当性を検証するこれらの構造は超スペクトラムの定量的構造を反映しており、ある相関は内面化または身体表現スペクトラムの状態に特異的であり、またある相関は両者に共通であることから、この領域の階層的構造が強調されることになった。従来の診断と比較して、内面化スペクトラムと身体表現スペクトラムは、信頼性が高い、説明力と予測力が大きい、臨床応用性が高いなど、実用性が大幅に向上していることが示された。現在、HiTOPシステムを実際に導入するための有効な手段が用意されており、研究および臨床の両面で診断分類をより有用なものにすることが可能である。

<要旨>
本稿では、精神病理の階層学的分類学(HiTOP)に含まれる6つのカテゴリーの中の内面化・身体症スペクトラムから構成される情動障害超スペクトラムに着目し、その構成や妥当性・有用性を科学的・臨床的な側面からエビデンスに基づいて検証し、詳細に解説している。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

PERSPECTIVES

■D. SILOVE, P. VENTEVOGEL. Living through interminable adversity: the mental health of the Afghan people. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 55–56.

Living through interminable adversity: the mental health of the Afghan people
果てしない逆境を生き抜く:アフガニスタンの人々のメンタルヘルス

<要旨>
アフガニスタンにおいてタリバン政権の誕生は、長い逆境の歴史がさらに続くことを示唆する。近い将来で50万人がさらに亡命者となる可能性を国連UNHCRが報告している。受け入れ先の国々には、亡命者のメンタルヘルスケアの積極的な対応が求められる。アフガニスタン人のトラウマ反応を起こす割合は一般的なデータより高く、社会治安の崩壊も影響している。アフガニスタンでは、女性やマイノリティが虐げられてきた歴史があったが、前政権で「保健サービスの基本保障」と「病院サービスの必須保障」にメンタルヘルスが含まれたことは画期的なことである。今後は、タリバン政権がこの勢いを止めてしまいうる。国際社会は、亡命者を速やかに受け入れることが望ましい。逆境体験を乗り越えてきたアフガニスタン人の精神は、メンタルヘルス業界の希望となりうる。

〔翻訳:武藤 健太郎〕
 

■D. ROE, M. SLADE, N. JONES. The utility of patient-reported outcome measures in mental health. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 56–57.

The utility of patient‐reported outcome measures in mental health
メンタルヘルスにおける患者報告式アウトカム指標の有用性

<要旨>
患者報告アウトカム指標(PROMs)は、サービス利用者の生活体験をより直接的に評価し、健康状態や目標達成、生活の質、社会的包摂などの重要な主観的構成要素に関する彼らの視点を捉えるものである。患者報告経験指標(PREMs)は、コミュニケーション、応答性、リカバリー志向など、医療サービス利用の経験を評価するものである。筆者は、共同開発されたユーザー選択型のPROMsとPREMsの体系的な実施について論じ、実施上の課題を明らかにし、今後の優先課題として4つの課題を提案した。

〔翻訳:河岸 嶺将〕


■ K. NEFF, C. GERMER. The role of self-compassion in psychotherapy. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 58–59.

The role of self‐compassion in psychotherapy
心理療法におけるセルフ・コンパッションの役割

<要旨>
セルフ・コンパッションには、「優しさ」「人類共通」「マインドフルネス」という要素がある。セルフ・コンパッションはセラピストの影響力と共感力を増やし、また燃えつきを防止する。クライエントにとっては、生活にセルフ・コンパッションを取り入れる機会も増える。しかし途中に「バックドラフト」というネガティブなプロセスを含むことがあることは留意が必要である。セルフ・コンパッションは、心理療法における苦痛を和らげ、クライエントとセラピスト双方の人生をより良いものに変えていくために非常に有効なツールである。

〔翻訳:武藤 健太郎〕
 

■J.C. MARKOWITZ. In support of supportive psychotherapy. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 59–60.

In support of supportive psychotherapy
支持的精神療法における支持とは

<要旨>
支持的精神療法はあまり積極的でない精神療法として、有力な治療法の比較対照群とされることも多い。一方で筆者らが30年前に開発したマニュアル化した感情焦点型の簡易支持的精神療法(BSP)は、いくつかの試験で有力な治療法と同等の効果を示している。BSPは感情とその許容に焦点を当てている。治療者は積極的な傾聴者となり、患者が感情を認識し、名前を付け、許容し、受け入れ、表現する方向へ導く。不快な感情も強力だが危険ではないと理解した上で、感情を調節することは臨床上有用である。こうした支持的アプローチは他の治療法への理解を促進するため、今こそBSPは見直されるべきであると主張している。

〔翻訳:入來 晃久〕

FORUM – BUILDING NEW SYSTEMS OF YOUTH MENTAL HEALTH CARE: A GLOBAL FRAMEWORK


■P.D. MCGORRY, C. MEI, A. CHANEN ET AL. Designing and scaling up integrated youth mental health care. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 61–76.

Designing and scaling up integrated youth mental health care
青少年メンタルヘルスの統合的ケアの設計と規模拡大

<抄録>
精神疾患は、世界中の若者の健康、生存、将来の可能性に対する主な脅威となっている。これは、脆弱性とケアの必要性の高まりであり、COVID-19の大流行によってその傾向が強まったことが示されている。これは世界的な公衆衛生の危機を意味し、予防のための可能なターゲットに対する深く洗練された理解だけでなく、発達段階に適した臨床ケアの提供に対する緊急の改革と投資が必要である。青少年と若年成人は、メンタルヘルスケアを最も必要とし、メンタルヘルスケアから恩恵を受ける可能性が高いにもかかわらず、時宜に適い質の高いメンタルヘルスケアへのアクセスが最も悪い。この世界的な危機にどのように対処するか?今世紀に入ってから、共同で設計された様々な青少年のメンタルヘルスの戦略と革新的な技術が登場してきている。これらは、デジタルプラットフォームから、プライマリーケアの新しいモデル、潜在的に深刻な精神疾患のための新しいサービスに至るまで、資源の利用可能性、労働力、文化的要因、医療費助成のパターンに応じて、地域的に適応させる必要がある。この進歩の支柱となるのが、青少年のための広範で統合的なプライマリーケアサービスの登場である。これらは、遅ればせながら世界的な制度改革の青写真であり、橋頭堡となるものである。リソースは状況によって異なるが、若者のメンタルヘルスのニーズはほぼ普遍的であり、一連の基本原則と設計の特徴を支えるものである。これには、アクセスしやすい「ソフトエントリー」の青少年のデジタルサポートによるプライマリーケアプラットフォームの確立において、青少年がサービスの設計、運営、管理、評価において重要かつ不可欠なパートナーであること、が含まれる。青少年統合メンタルヘルスの実施においてこれまでに達成された世界的な進展は、これらのサービスが、真に実質的なメンタルヘルスのニーズを持つ若者によって利用されていること、彼らがその恩恵を受けていること、そしてこれらの若者もその家族も、彼らが受けるサービスに高い満足度を示していることを浮き彫りにした。しかし、私たちはまだベースキャンプにいるに過ぎず、こうしたプライマリーケアのプラットフォームを世界中で拡大し、予防やデジタルプラットフォーム、そして重要なこととして、この移行期の年齢層(約12歳から25歳まで)に合わせた複雑で持続的な状態に対するより専門的なケアで補完する必要がある。世界的に若者の精神疾患が増加していることから、このテーマをグローバルヘルスにおける最優先事項に引き上げることが求められている。

<要旨>
著者らは世界中の青少年と若年成人は、メンタルヘルスケアを最も必要とし、メンタルヘルスケアから恩恵を受ける可能性が高いにもかかわらず、時宜に適い質の高いメンタルヘルスケアへのアクセスが最も悪いとし、これらを対処するために今世紀に入ってから、共同で設計された様々な青少年のメンタルヘルスの戦略と革新的な技術が登場してきているとしている。これらは地域的な事情に沿って運用されており一定の成果を得ているが、まだまだ途上であり、ますますの世界規模における拡大の必要性を訴えている。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

Commentaries

■M.R. BROOME. The challenges of youth mental health: showing the hero out of the panopticon. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 77–78.

The challenges of youth mental health: showing the hero out of the panopticon
青少年メンタルヘルスの課題:パノプティコン(全展望監視システム)から英雄を出すこと

<要旨>
青少年メンタルヘルスの複雑さとダイナミズムに対しては、柔軟に精神科治療を開始・中断・再開できることと十分な臨床的スキルが重要である。また安全に失敗する機会が少ない若者に対して、政治や社会に意味や目的を持たせる、不公平を最小限に抑え完全に民主的で平等な生産や支援を行うといった予防的な戦略も重要である。

〔翻訳:宮野 史也〕
 

■A. MALLA, P. BOKSA, R. JOOBER. Meeting the challenges of the new frontier of youth mental health care. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 78–79.

Meeting the challenges of the new frontier of youth mental health care
青少年メンタルヘルスの新たなフロンティアへの挑戦

<要旨>
複数の管区で青少年精神保健システムを立ち上げるにあたり、既存のサービスとの接続、サービスの転換を12~25歳以前とそれ以降の年齢期間に拡大すること、物質使用障害と発達障害の既往がある人に等しく重みのあるサービスを提供することなど、いくつかの重要課題に対処する必要がある。さらに青少年のあらゆる形の苦痛に対応するためには、世界の多くの地域で独自の解決策を見出す必要もある。
 

〔翻訳:宮野 史也〕
 

■I.B. HICKIE. Implementing 21st century “end-to-end” and technology-enhanced care for young people. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 79–81.

Implementing 21st century “end‐to‐end” and technology‐enhanced care for young people
21世紀型の「エンドツーエンド」、テクノロジーを駆使した若者向けケアの実践

<要旨>
若者のメンタルヘルスリスクの増加に対して、医療の窓口を広くするという政府の目標は、達成されていると言えるかもしれない。しかし、それは既存の構造に新しい独立したサービスの「ブロック」を追加することであり本質的な解決とならない。実際には、個別性の高い診断や治療を、発症リスクが高くなったタイミングで、居住地域に関わらず、提供できる体制が必要である。予防から継続的な専門医療に至るまでの医療の「サプライチェーン」を導入することが求められる。そのためにテクノロジーを活用した相互性のある情報システムを構築する必要があるが、現段階ではまだまだテクノロジーの可能性と限界は未知である。

〔翻訳:武藤 健太郎〕
 

■C. HOLLIS. Youth mental health: risks and opportunities in the digital world. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 81–82.

Youth mental health: risks and opportunities in the digital world
若者のメンタルヘルス:デジタル社会におけるリスクと機会

<要旨>
McGorryらの青少年のメンタルヘルスケアの再設計についての論文を受け、筆者はこの課題は新たなデジタル技術によって起こり、世界的な若者のメンタルヘルスの危機と、従来のメンタルヘルスのモデルがこの需要に対応できていないことに起因していると表している。これらに対応するためにMcGorryらが提示したよう若者のメンタルヘルスサービスを紹介しつつも、それらに対する限界や開発が不十分な点を示している。

〔翻訳:河岸 嶺将〕
 

■T. VAN AMELSVOORT, S. LEIJDESDORFF. Peer involvement and accessibility as key ingredients for 21st century youth mental health care services. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 82–83.

Peer involvement and accessibility as key ingredients for 21st century youth mental health care services
21世紀の青少年精神保健医療サービスのための重要な要素としてのピアの関与とアクセシビリティ

<要旨>
McGorryらは、青少年のメンタルヘルスケアサービスへの早急な投資の必要性を述べている。COVID-19の影響によりその緊急性は増している。青少年のメンタルヘルスを改善するには彼らにとってサービスへのアクセシビリティを改善することが最重要課題である。ピアサポートや青年ボランティアが要となりうる。それらを、青少年がメンタルヘルスサービスに繋がる広い入口として強化し、そこから地域のサービスに繋がれるようなシステムに作り替えられるよう青少年を巻き込んだ改革が望まれると筆者らは論じている。

〔翻訳:武藤 健太郎〕
 

■A. DANESE. Bridging between youth psychiatry and child and adolescent psychiatry. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 85–86.

Bridging between youth psychiatry and child and adolescent psychiatry
青年期精神医学と児童青年期精神医学との連結

<要旨>
青年期精神医学(Youth psychiatry)と児童青年期精神医学(Child and adolescent psychiatry)は異なる伝統から生まれた学問であるが、対象年齢層の拡大、診断横断的精神病理モデルの普及、児童青年精神保健サービス (Child and adolescent mental health services : CAMHS)と並行しながらサービスへのアクセスを改善して早期介入を可能にする「ソフトエントリー」アプローチを推進するなど、お互いの知を結集していくことで、若年者へのより良いメンタルヘルスケアを提供できるだろう。

〔翻訳:中野 心介〕

RESEARCH REPORTS

■C. ACARTURK, E. UYGUN, Z. ILKKURSUN ET AL. Effectiveness of a WHO self-help psychological intervention for preventing mental disorders among Syrian refugees in Turkey: a randomized controlled trial. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 88–95.

Effectiveness of a WHO self‐help psychological intervention for preventing mental disorders among Syrian refugees in Turkey: a randomized controlled trial
トルコのシリア人難民の精神障害予防における、WHOが開発した自助的な心理社会的介入の有効性:ランダム化比較試験

<抄録>難民は精神障害を発症するリスクが高い。このグループにおいて、心理社会的介入が精神障害の発症を予防できるというランダム化比較試験(RCT)のエビデンスはない。我々は、トルコで心理的苦痛を経験しているシリア人難民の精神障害の発症を予防するために、世界保健機関が開発した「Self-Help Plus」と呼ばれる自助的な心理社会的介入の有効性を評価した。トルコの2つの地域で、二重盲検RCTが実施された。対象者は、心理的苦痛(General Health Questionnaire ≥3)を経験しているが、精神障害の診断を受けていない成人のシリア人難民である。参加者は、Self-Help Plus群(Self-Help Plusと日常的に提供される社会的資源やケア(ECAU)の組み合わせ)またはECAUのみの群に1対1の割合で無作為に割り当てられた。Self-Help Plusでは、2名のファシリテーターによる、5回のセッションがグループ形式で実施された。主要なアウトカム指標は、6ヵ月後のフォローアップ時のMini International Neuropsychiatric Interviewによって評価される精神障害の有無であった。副次的アウトカム指標は、介入後の精神障害の有無、および介入後と6か月後のフォローアップ時における心理的苦痛、心的外傷後ストレス障害とうつ病の症状、個人的に確認された心理的アウトカム、機能障害、主観的幸福、QOLであった。2018年10月1日から2019年11月30日の間に、1,186人の難民が対象として評価された。540人は除外となり、642人が登録され、Self-Help Plus(N=322)またはECAU(N=320)のいずれかに無作為に割り付けられた。Self-Help Plus参加者は、ECAU群と比較して、6ヶ月後のフォローアップ時に何らかの精神障害を持つ可能性が有意に低かった(21.69% vs. 40.73%; Cramer's V = 0.205, p<0.001, リスク比: 0.533, 95% CI: 0.408-0.696)。副次的アウトカムの分析では、Self-Help Plusは介入直後には効果がなかったが、6ヶ月後のフォローアップでは、うつ病の症状、個人的に確認された心理的アウトカム、QOLの面で有益な効果と関連していることが示唆された。これは、心理的苦痛を経験しているが精神障害を持たない難民を対象に実施された、予防を目的とした史上初のRCTである。Self-Help Plusは、精神障害の発症を予防するための効果的な戦略であることが明らかになった。これらの知見に基づき、この低強度の自助的な心理社会的介入は、継続的な逆境にさらされる難民集団の精神障害を予防するための公衆衛生戦略としてスケールアップすることが可能である。
 

<要旨>
WHOが開発した自助的な心理社会的介入である「Self-Help Plus」が、精神障害の発症を予防するかを目的とした史上初のRCTがトルコの心理的苦痛を受けたシリア人難民に対して実施された。その結果、Self-Help Plus介入群では6ヶ月後のフォローアップ時に精神障害の発症が低く、また、うつ病の症状、個人的に確認された心理的アウトカム、QOLの面でも有益な効果をもたらしていた。この結果から筆者は、継続的な逆境にさらされる難民集団の精神障害を予防するための公衆衛生戦略として、この介入をスケールアップすることが可能であると述べている。

〔翻訳:北岡 淳子〕
 

■H. KILLASPY, C. HARVEY, C. BRASIER ET AL. Community-based social interventions for people with severe mental illness: a systematic review and narrative synthesis of recent evidence. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 96–123.

Community‐based social interventions for people with severe mental illness: a systematic review and narrative synthesis of recent evidence
重度精神疾患患者(SMI)に対する地域ベースの社会的介入:近年研究の系統的レビューとナラティブシンセシス

<抄録>
重度精神疾患(SMI)を抱える人々は、社会的に最も弱者となっている集団の一つである。彼らの社会的・経済的参加を改善することを目的とした介入は、臨床医や政策立案者にとって、そしてSMIを抱える人々自身にとっても極めて重要である。我々は2016年以降に発表されたSMI患者への社会的介入に関する文献の系統的レビューを行い、ナラティブシンセシスを通じて得られた知見を集約した。この分野では、心強いほど多くの研究が見つかり、72の論文が我々の選択基準を満たした。半数以上が支援サービスのレベル(居住施設、教育、もしくは就労の支援)に応じた介入の有効性について研究したもので、残りは個々人を直接に対象としたもの(地域参加、家族介入、ピア主導/ピアサポート介入、ソーシャルスキルトレーニング=SST)であった。我々は居住施設支援における「ハウジングファースト(HF)モデル」、就労支援における「個別職業紹介とサポート(IPS)モデル」、そして家族への心理教育の効果について良好なエビデンスを確認したが、住居、就労、家族関連に関する、個人の多様なニーズ満たすためにより様々なモデルが必要であることを但し書きしていた。また、我々の知見は、背景因子の重要性と、他所から介入方法を「輸入」する際に現場に適合させるよう工夫する必要性を強調するものでもあった。認知機能障害に対処し社会的介入の効果を高めようとする補強的な戦略(特に援助付き雇用とソーシャルスキルトレーニング)は、認知機能を改善するものの「実生活」でのスキルに転換できるほどには至らないことが分かった。また、ピア主導/ピアサポート介入、リカバリーカレッジ、地域参加を支援するその他の介入に関する新たなエビデンスを確認した。社会的介入はかなりの利益をもたらしうるが、間違いなく精神保健の分野で最も難しいものであり、うまく実施するためには、様々なレベルの関係者たちのコミットメントと資源の投入を必要とする、と我々は結論づけた。

<要旨>
重度精神疾患(SMI)患者への社会的介入効果について系統的レビューとナラティブシンセシスを行った。ハウジングファーストモデル、個別職業紹介とサポート(IPS)モデル、家族心理教育の効果について良好なエビデンスを確認したが、支援付き雇用やソーシャルスキルトレーニング(SST)など認知機能を改善するための取り組みが実生活のスキル向上に結び付いてないことも分かった。社会的介入は患者に多大な利益をもたらしうるが、精神保健において最も難しい分野であり、その進展には個々のニーズに合った様々なモデルの開発や関係者の多くのコミットメントと資源の投入が必要だろう。

〔翻訳:中野 心介〕
 

■L. WANG, Q. WANG, P.B. DAVIS ET AL. Increased risk for COVID-19 breakthrough infection in fully vaccinated patients with substance use disorders in the United States between December 2020 and August 2021. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 124–132.

Increased risk for COVID‐19 breakthrough infection in fully vaccinated patients with substance use disorders in the United States between December 2020 and August 2021
2020年12月から2021年8月にかけての米国の物質使用障害のあるワクチン接種者におけるCOVID-19感染リスクの増加

<抄録>
物質使用障害(SUD)患者は、COVID-19の感染リスクおよび感染による有害事象のリスクが高い。ワクチンはCOVID-19に対して高い有効性を示すが、SUD患者においてはワクチンによる獲得免疫の低下と新しいSARS-CoV-2亜種の出現に加え、免疫状態の低下と曝露の可能性により、その有効性が損なわれている可能性がある。人口ベースのコホート研究において,ワクチンを完全接種して14日間以上経過した SUD 患者における COVID-19 のブレークスルー感染のリスク、時間的傾向、転帰、格差を評価した。本研究では、2020年12月から2021年8月の間に完全接種を受け、接種前にCOVID-19感染症に罹患していない579,372人(SUDの診断を受けた30,183人とそれ以外の549,189人)を対象とした。TriNetX Analyticsネットワークプラットフォームを使用して、米国内の63の医療機関から非識別化電子医療記録を参照した。SUD患者において、ブレークスルー感染のリスクは、タバコ使用障害で6.8%、大麻使用障害で7.8%であり、いずれもSUD以外の集団の3.6%と比較して有意に高かった(p<0.001)。タバコ使用障害を除くすべてのSUDサブタイプで、人口統計(年齢,性別,民族)およびワクチンの種類を制御してもブレークスルー感染のリスクは有意に高く、コカインおよび大麻使用障害で最も高かった(ハザード比,HR=2.06,95%CI:コカイン:1.30-3.25,HR=1.92,95%CI:大麻:1.39-2.66)。生涯の併存疾患および社会経済的な健康決定要因についてSUD患者と非SUD患者をマッチさせたところ、ブレークスルー感染のリスクは、リスクが高いままである大麻使用障害患者を除いて、これらの集団間で差がなくなった(HR=1.55、95%CI:1.22-1.99)。ブレークスルー感染のリスクは、モデルナワクチンよりもファイザーワクチンを接種したSUD患者で高かった(HR=1.49、95%CI:1.31-1.69)。ワクチンを接種したSUD集団において、入院のリスクは、ブレークスルー感染を伴った群で22.5%、ブレークスルー感染を伴わなかった群で1.6%(リスク比、RR=14.4、95%CI:10.19-20.42)、死亡リスクはそれぞれ1.7%と0.5%(RR=3.5、95%CI:1.74-7.05)であった。ワクチン接種を受けたSUD患者において、ブレークスルー感染に関する年齢、性別、人種の有意差は観察されなかった。これらのデータは,ワクチンを完全接種した患者はブレークスルー型のCOVID-19感染のリスクが高いことを示唆しており、これは非SUD患者と比較して、併存疾患や不利な社会経済的決定要因の頻度が高いことが主因であった。また、SUD 患者の併存疾患の多さは、ブレークスルー感染後の入院率および死亡率の高さに寄与している可能性が高い。
 

<要旨>
COVID-19ワクチンを完全接種したSUD患者におけるCOVID-19の感染リスクおよび感染による有害事象のリスクを評価したところ、SUD患者におけるCOVID-19感染リスクは全体的に低く、ワクチン接種の有効性と完全接種の必要性が示された。一方で、ワクチン接種を完了したSUD患者は非SUD患者と比較してブレークスルー型のCOVID-19感染のリスクが高く、これは非SUD患者と比較して、併存疾患や不利な社会経済的決定要因の頻度が高いことが主因であると考えられた。またSUD 患者の併存疾患の多さは、ブレークスルー感染後の入院率および死亡率の高さに寄与している可能性が示唆された。SUD患者はワクチン接種後も依然として脆弱であり、引き続き感染予防措置を講じることが重要であることが確認された。

〔翻訳:篠原 陸斗〕
 

■ F. LEICHSENRING, C. STEINERT, S. RABUNG ET AL. The efficacy of psychotherapies and pharmacotherapies for mental disorders in adults: an umbrella review and meta-analytic evaluation of recent meta-analyses. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 133–145.

The efficacy of psychotherapies and pharmacotherapies for mental disorders in adults: an umbrella review and meta‐analytic evaluation of recent meta‐analyses
成人の精神疾患における精神療法及び薬物療法の有効性:近年のメタアナリシスのアンブレラ・レビューとメタアナリシス評価

<抄録>精神疾患は世界的な公衆衛生上の問題である。精神療法や薬物療法は第一選択の治療法として推奨される。しかし、臨床試験の様々な欠点(例えば、出版バイアスやウェイティング・リストデザインなどの弱い対照条件)により、それらの有効性が過大評価されている可能性を示唆する証拠が現れている。
我々は、成人の主要な精神疾患における精神療法及び薬物療法の無作為化比較試験(RCT)に対する近年のメタアナリシスのアンブレラ・レビューを実施した。バイアスリスクや研究の質を正式に評価し、弱い比較対象を除外し、対象症状に対する効果量を主要評価項目としたメタアナリシスを選択した。2014年1月から2021年3月までに報告された、精神療法あるいは薬物療法とプラセボまたは通常治療(TAU)の比較、精神療法と薬物療法の直接比較、精神療法及び薬物療法の併用といずれかの単独治療の比較を行ったメタアナリシスをPubMed、PsycINFO及びCochrane Libraryの個別記録から検索した。
抑うつ障害群、不安障害群、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害、身体表現性障害、摂食障害群、注意欠如/多動性障害、物質使用障害群、不眠症、統合失調症スペクトラム障害群、双極性障害に関する、3,782件のRCTと650,514人の患者を含む102件のメタアナリシスが含まれた。疾患および治療法全体において、大半の対象症状に対する効果量は小さいものであった。疾患ごとの最大規模のメタアナリシスで報告された効果量を用いたランダム効果メタアナリシス評価では、プラセボまたはTAUとの比較において、精神療法で0.34(95%CI:0.26-0.42)、薬物療法で0.36(95%CI:0.32-0.41)の標準化平均差(SMD)が得られた。精神療法と薬物療法の直接比較におけるSMDは0.11(95%CI:-0.05~0.26)であった。いずれかの単剤療法と併用療法の比較におけるSMDは、0.31(95%CI:0.19-0.44)であった。バイアスリスクはしばしば高値であった。半世紀以上に及ぶ研究、数千ものRCT、数百万の投資ファンドを経ても、精神疾患に対する精神療法と薬物療法の効果量は限られており、現在行われている治療研究の天井効果を示唆している。さらなる進歩のためには、研究のパラダイムシフトが必要であると思われる。
 

<要旨>
本稿では、成人の主要な精神疾患における精神療法及び薬物療法の有効性について、各疾患の対象症状に対する効果量を評価した近年のメタアナリシスのアンブレラ・レビューやメタアナリシス評価の報告が行われている。精神疾患に対する精神療法や薬物療法の効果量は小さく、バイアスリスクも高い結果であったことに対し、筆者らは、現在の治療研究の限界を超えるには研究のパラダイムシフトが必要であると主張している。
 

〔翻訳:下島 里音〕

INSIGHTS

■T. KLINGBERG, N. JUDD, B. SAUCE. Assessing the impact of environmental factors on the adolescent brain: the importance of regional analyses and genetic controls. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 146–147.

Assessing the impact of environmental factors on the adolescent brain: the importance of regional analyses and genetic controls
思春期の脳に環境要因が与える影響の評価:脳領域解析と遺伝的制御の重要性

<要旨>
思春期の認知機能に関わる脳発達に影響を与える環境要因として社会経済的地位(Socioeconomic status : SES)は重要であり、実際SESは認知機能に関わる局所的な脳領域の機能に影響を与えるという報告が画像研究によってなされている。一方で、SESは脳の皮質表面積に影響をもたらすという報告もなされており、遺伝要因に加えどのような多様な環境要因の組み合わせがSESに関連した神経学的変化をもたらすのか研究していく必要性があることを論じている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕
 

■J. TREASURE, C. HÜBEL, H. HIMMERICH. The evolving epidemiology and differential etiopathogenesis of eating disorders: implications for prevention and treatment. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 147–148.

The evolving epidemiology and differential etiopathogenesis of eating disorders: implications for prevention and treatment
摂食障害の進化する疫学と鑑別的病因論:予防と治療への意味

<要旨>
摂食障害の各診断の遺伝的特徴についての新しい知見が明らかとなってきている。また現代においては、食環境の変化や体重のスティグマ化に伴う青少年の体重管理行動の急増といった環境因子の変化が指摘されている。摂食障害の発症には環境と身体的および心理的要因との複雑な相互作用が関与していることが示唆されている。今後摂食障害に関連する疫学と病因論的要因の理解が進み、摂食障害への予防と治療がより一層進展することが期待される。

〔翻訳:清水 俊宏〕
 

■K. TREYVAUD, S.J. BROWN. Mental health of children and parents after very preterm birth. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 148–149.

Mental health of children and parents after very preterm birth
超早産後の子どもと両親のメンタルヘルス


<要旨>
正期産の場合と比較し、超早産児や極早産児では学齢期までにADHDやASD、不安障害などの精神障害と診断される割合が増加し、両親では抑うつ、不安、心的外傷後ストレス障害と診断される割合が増加することが知られている。   
そのため、超早産を経験したすべての家族に対してスクリーニングや支援プログラムを実施し、必要に応じてモニタリングや介入が継続できるようにすることが望ましい。  

〔翻訳:北岡 淳子〕
 

■M. GALBALLY, N. WOODS, M. SNELLEN. How clinicians can support women in making decisions about psychopharmacological treatments in pregnancy. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 149–151.

How clinicians can support women in making decisions about psychopharmacological treatments in pregnancy
臨床医は妊娠中の女性における精神科薬物治療への意思決定をどのようにサポートするべきか。

<要旨>
多くの医療制度において妊娠中のメンタルヘルスの重要性に関する認識は浸透しつつあるが、精神科薬物治療が必要な場合の意思決定は容易ではない。臨床医は、妊娠中の女性の健康に対するリスクとベネフィットに注目するだけでなく、胎児・乳児への影響と母子関係の進展を理解し、患者本人が最良の選択肢を選ぶ権利を尊重しながら、推奨を明確にする必要がある。今後、確かな情報に基づいた意思決定を支援するためには、精神科薬物治療によるリスクと利益を明確にする更なる研究が必要であると述べている。

〔翻訳:俊野 尚彦〕
 

LETTERS TO THE EDITOR

■Lynn Boschloo, Fredrik Hieronymus, Pim Cuijpers, ICECA Work Group. Clinical response to SSRIs relative to cognitive behavioral therapy in depression: a symptom‐specific approach. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 152–153.

Clinical response to SSRIs relative to cognitive behavioral therapy in depression: a symptom‐specific approach
うつ病における認知行動療法と比較したSSRIの臨床反応:症状別のアプローチ

<要旨>
本稿ではうつ病に対する薬物療法が症状によって反応性が異なることに着目し、抗うつ薬の中でもSSRIに絞って、筆者らが過去にうつ病に対する薬物療法と認知行動療法(CBT)を比較した6つの試験をもとに、ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)上の症状別の反応性を検討した。その結果、抑うつと精神的不安が強く、身体的不安と焦燥が少ない患者は、SSRIの良い適応であることが示唆された。効果量は小さく、臨床実践での妥当性は限定的であり、過度に単純化すべきでないとしながらも、治療の個別化のために症状別のアプローチへ期待を寄せている。

〔翻訳:入來 晃久〕
 

■Lamiece Hassan, Chelsea Sawyer, Niels Peek, Karina Lovell, Andre F. Carvalho, Marco Solmi, George Tilston, Matthew Sperrin, Joseph Firth. COVID‐19 vaccination uptake in people with severe mental illness: a UK‐based cohort study. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 153–154.

COVID‐19 vaccination uptake in people with severe mental illness: a UK‐based cohort study
重症精神疾患患者におけるCOVID-19ワクチン接種率:英国のコホート研究

<要旨>
COVID-19のワクチンを公平に分配していくことは倫理的に重要であり、精神疾患ごとのワクチン接種に関する詳細な証拠が求められている。著者らは英国の共有ケア記録であるGreater Manchester Care Record (GMCR)を用いて、重度精神疾患患者の COVID-19のワクチン接種を精神疾患ごとに調べた結果、気分障害患者はCOVID-19のワクチン接種を受ける可能性が有意に高い一方で、精神疾患患者、特に統合失調症または関連する精神病性障害の患者は、COVID-19のワクチン接種を拒否する割合が有意に高かった。重度精神疾患患者にワクチン接種を促すためには、個人の自律性を尊重しつつ、これらの脆弱な集団において、情報に基づいた意思決定を支援し、より的を絞った取り組みが必要である可能性が示された。

〔翻訳:篠原 陸斗〕
 

■Nili Solomonov, Dora Kanellopoulos, Logan Grosenick, Victoria Wilkins, Rachel Goldman, Shira Ritholtz, Avital Falk, Faith M. Gunning. CopeNYP: a brief remote psychological intervention reduces health care workers’ depression and anxiety symptoms during COVID‐19 pandemic. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 155–156.

CopeNYP: a brief remote psychological intervention reduces health care workers’ depression and anxiety symptoms during COVID‐19 pandemic
CopeNYP:簡単な遠隔的な心理学的介入により、COVID-19パンデミック時の医療従事者の抑うつと不安が軽減される

<要旨>
COVID-19のパンデミックが世界中の医療従事者の心理的な健康に大きな影響を及ぼしている中、遠隔的で個別化された心理社会的な介入としてCopeNYPが開発された。CopeNYP はエビデンスに基づく心理療法(例:問題解決療法、行動活性化療法、支持療法)から、医療従事者の特定のニーズと状況に合わせて、スキルに焦点を当てた簡潔な技法を組み込んだ全4セッションの遠隔による組織内介入である。医療従事者の不安や抑うつの症状の軽減に関する CopeNYP の有効性を評価した結果、不安や抑うつの症状の有意な軽減が得られた。利用しやすく、質が高く、簡単な介入により医療従事者の心理的苦痛を軽減できることは、他の医療保健制度にとっても模範となる可能性がある。

〔翻訳:篠原 陸斗〕
 

■Jennifer Hall, Stewart Jordan, Mark van Ommeren, Teresa Au, Rajiah Abu Sway, Joy Crawford, Heba Ghalayani, Syed Usman Hamdani, Nagendra P. Luitel, Aiysha Malik, Chiara Servili, Katherine Sorsdahl, Sarah Watts, Kenneth Carswell. Sustainable Technology for Adolescents and youth to Reduce Stress (STARS): a WHO transdiagnostic chatbot for distressed youth. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 156–157.

Sustainable Technology for Adolescents and youth to Reduce Stress (STARS): a WHO transdiagnostic chatbot for distressed youth
ストレスを軽減するための思春期・若者を対象にした持続的可能なテクノロジー(STARS):精神的ストレスを抱える若者に向けたWHOの診断横断的なチャットボット

<要旨>
WHOが思春期の精神疾患に対し、デジタルテクノロジーを組み合わせながらエビデンスに基づいた心理的介入の開発に取り組んでいる。ヒューマンセンタードデザインの手法を用いながら、認知行動療法を応用したチャットボット「STARS」を開発するプロセスやそのコンテンツ、さらに途上国を中心に臨床応用を目指そうとする展望が簡潔にまとめられている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕
 

■Yu‐Tao Xiang, Qinge Zhang. Mental health services on the roof of the world. World Psychiatry. 2022 Feb; 21(1): 157–158.

Mental health services on the roof of the world
「世界の屋根」におけるメンタルヘルスサービス事情

<要旨>
「世界の屋根」と称される青海チベット高原地域におけるメンタルヘルスサービスは極めて乏しい。中国政府が精神科病院を設立するなどメンタルヘルスケアの提供に努力しているものの、未だ限定的なものであり、なお一層の向上が必要であるとしている。

〔翻訳:中野 心介〕

翻訳協力者一覧

【監訳】
秋山 剛           NTT東日本関東病院
【翻訳】
認定NPO法人   日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/
入來 晃久              大阪精神医療センター
河岸 嶺将      千葉県精神科医療センター
九野(川竹)絢子     マウントサイナイ医科大学 
北岡 淳子        瀬野川病院
篠原 陸斗              北海道大学病院精神科神経科
清水 俊宏        埼玉県立精神医療センター
下島 里音            鹿児島県立姶良病院
俊野 尚彦      高岡病院/十条産業保健事務所
中野 心介              大村共立病院
宮野 史也              北海道立向陽ヶ丘病院
武藤 健太郎     東京医科大学病院メンタルヘルス科
 

このページの先頭へ