公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

Volume 20, Number 3, October 2021

更新日時:2023年2月20日

EDITORIALS

■P. FONAGY, P. LUYTEN. Socioeconomic and sociocultural factors affecting. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 315–316.

Socioeconomic and sociocultural factors affecting access to psychotherapies: the way forward
心理療法の利用に影響を与える社会経済的・社会文化的要因:今後の課題

<要旨>
世界の大部分の人々にとって、心理療法が利用できないことは、メンタルヘルスケアの将来に対する大きな課題となっている。筆者はその原因として社会経済的な格差から生じる構造の障壁と社会文化的多様性を反映していないことから生じる志向性の障壁をあげ、専門家がマイノリティグループの問題に関心を持つ必要性があると述べている。

〔翻訳:北岡 淳子〕

 

■J.K. SWIFT, R.H. MULLINS, E.A. PENIX ET AL. The importance of listening to patient preferences when making mental health care decisions. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 316–317.

The importance of listening to patient preferences when making mental health care decisions
精神医療を決定する際に、患者の希望を聞くことの重要性

<要旨>
精神医療における治療方法を決定する際に患者の希望を取り入れることは、患者の権利・尊厳を尊重するという倫理的な面、治療開始や転機の改善につながるという治療アウトカムの面の双方において重要である。時には、患者の希望に沿うことができないこともあるが、その場合でも患者の希望の背景を理解し、他の手段で代替できないか検討したり、患者が意思決定のプロセスに参加していると感じられるように、予約頻度等の様々な方面で選択肢を提供するように努めるべきである。

〔翻訳:北岡 淳子〕

 

SPECIAL ARTICLES

■J. TOROUS, S. BUCCI, I.H. BELL ET AL. The growing field of digital psychiatry: current evidence and the future of apps, social media, chatbots, and virtual reality. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 318–335.

The growing field of digital psychiatry: current evidence and the future of apps, social media, chatbots, and virtual reality
成長するデジタル精神医学分野:アプリ、ソーシャルメディア、チャットボット、仮想現実の最新のエビデンスと展望

<抄録>
COVID-19のパンデミックにより遠隔医療の利用が大きく進む中、スマートフォンアプリ、バーチャルリアリティ、チャットボット、ソーシャルメディアなどのモバイルメンタルヘルス技術が注目されている。
これらのデジタルヘルス技術は、従来の治療を補える身近で拡張性がある介入を提供する可能性がある。
本論文では、デジタル精神医学の分野全般について、3つの分野を網羅した最新情報を提供する。
最初に、スマートフォン、ソーシャルメディア、人工知能、バーチャルリアリティが、「デジタル・フェノタイピング」と遠隔介入の新たな機会を提供することを詳述し、最近の技術的進歩がメンタルヘルスの研究とケアにどのような関連性を持つかを概説している。
次に、様々なメンタルヘルスの状況におけるこれらの新しい技術的アプローチの利用に関するエビデンスについてレビューしている。それらは、心理的健康におけるセルフケアや早期介入に対しての効果、さらに、大うつ病、不安障害、双極性障害、精神病、摂食障害、物質使用障害などの長期にわたる精神疾患の臨床的なケアだけでなく児童・思春期のメンタルヘルスケアにおけるより新しい研究に関するものである。
第三に、実地への導入に際し最も喫緊の課題と機会について論じる。(保健医療サービスにおける研究実施に関する統合的行動促進(i-PARIHS))の枠組みを用いて、イノベーションそのもの、これらのイノベーションの受け手、イノベーションを取り巻く状況すべてがメンタルヘルスケアシステムでの採用と利用を促進するためにどのように考慮されなければならないかを論じている。
スマートフォン、人工知能、ソーシャルメディア、バーチャルリアリティといった新しい技術は、すでにメンタルヘルスケアを思いがけない刺激的な方法で変化させており、それぞれが初期段階ではあるが有望なエビデンスベースを伴っていると結論付けている。
実地の強化に向けた一層の努力が必要であることを指摘し、デジタルヘルス技術が将来的にメンタルヘルスの研究と治療を真に改善するために取り組むべき患者、治療者、政策レベルでの重要な問題について詳述している。
 

<要旨>
デジタルヘルス技術が、メンタルヘルスケアにおいて従来の治療を補いうる身近で拡張性がある介入を提供する可能性があると述べ、最近の技術的進歩がメンタルヘルスケアにどのような関連性を持つかを概説している。また、各々の精神疾患、児童思春期のメンタルヘルスケアにおけるデジタルヘルス技術の利用に関するエビデンスについて詳述し、デジタルヘルス技術がメンタルヘルスケアを変化させる上で有望なエビデンスを有すると結論付けている。そして、実用を進めていくに際して懸念されている患者と治療者の課題や倫理的な問題について詳述している。

〔翻訳:俊野 尚彦〕

 

D.J. STEIN, M.G. CRASKE, B.O. ROTHBAUM ET AL. The clinical characterization of the adult patient with an anxiety or related disorder aimed at personalization of management. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 336–356.

The clinical characterization of the adult patient with an anxiety or related disorder aimed at personalization of management
治療的介入の個別化を目的とした不安症および関連症群を持つ成人患者の臨床的特徴づけ

<抄録>
“不安神経症”の臨床概念は広範で不十分な定義であったため、DSM-IIIで特定の不安症群を定義したことは重要な進歩であった。
しかし、不安症および関連症群は頻繁に併存するだけでなく、それぞれの疾患が極めて異なった特徴を有している。したがって、診断マニュアルは治療的介入の計画を策定するための最初のステップに過ぎず、不安状態の治療のための追加の意思決定支援ツールの開発が必要である。 
この論文は、成人の不安症および関連症群の治療的介入の個別化に関連する体系的に重要な領域について記述することを目的としている。
各領域について、有効なリサーチエビデンスを要約し、日常的な臨床診療での使用への適合性に特に注意を払いつつ関連する評価手段をレビューする。
臨床医が不安状態の患者に対し行う個別的な治療的介入を、有効なエビデンスによって強調し、満たされていないニーズを明らかにする。
エビデンスは不安症および関連症群を選択的セロトニン再取り込み阻害薬、認知行動療法またはそれらの組み合わせの治療を単に推奨することから、臨床家が利用できるマネジメント方法の選択肢が広がり、不安症および関連症群の治療はすでに多くの重要な点で個別に対応することが可能であることを強調し、より複雑なアプローチに移行できつつあることを示唆している。

<要旨>
本稿では、成人の不安症および関連症群の治療的介入の個別化に関連する重要な領域について、これまでの研究から得られたエビデンスを要約しつつ、日常的な臨床診療を想定したレビューを行なっている。単に薬物療法や認知行動療法を推奨するだけでなく、臨床診療における治療的介入の選択肢が広がり治療の個別化が行えることが強調されており、より複雑なアプローチに移行可能であることが示唆されている。

〔翻訳:下島 里音〕

PERSPECTIVES

■B.W.J.H. PENNINX. Psychiatric symptoms and cognitive impairment in “Long COVID”: the relevance of immunopsychiatry. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 357–358.

Psychiatric symptoms and cognitive impairment in “Long COVID”: the relevance of immunopsychiatry
“Long COVID "における精神症状と認知機能障害:免疫精神医学の関連性

<要旨>
コロナ罹患後遺症”Long COVID”には、うつ、不安、倦怠感などの精神症状及び認知機能障害が含まれており、それらの症状には免疫系の関与が示唆されている。筆者らは、COVID-19罹患後の精神、行動及び認知機能への影響をいかにして観察、予防、治療すべきかを検討することが重要であると述べつつ、 SARS-CoV-2を標的としたワクチン、抗ウイルス治療及び免疫系を標的とした治療の進歩がもたらす効果について言及している。

〔翻訳:武藤 健太郎〕
 

 

J.R. GEDDES. Learning from the global response to COVID‐19 to accelerate innovation in mental health trials. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 358–359.

Learning from the global response to COVID‐19 to accelerate innovation in mental health trials
COVID-19の世界的な対応から学び、メンタルヘルスの臨床試験におけるイノベーションを加速する

<要旨>
COVID-19の世界的流行への対応では、研究者と資金提供者が目的を共有して協力し、その努力に優先順位をつけて調整した結果、並外れた早さで成功した研究が観察されている。また入手可能で認可された医薬品を比較する、高度に簡素化された無作為化試験プラットフォームを実臨床に組み込むことの威力を示す優れた例にもなっている。私たちはこれを捉え、発展途上にある国際的な共同努力を土台に、精神疾患という世界的な大問題に応用する必要がある。

〔翻訳:宮野 史也〕
 

 

P.H. LYSAKER, I. HASSON-OHAYON. Metacognition in psychosis: a renewed path to understanding of core disturbances and recovery‐oriented treatment. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 359–361.

Metacognition in psychosis: a renewed path to understanding of core disturbances and recovery‐oriented treatment
精神病におけるメタ認知:中核障害の理解と回復志向型治療への新たな道筋

<要旨>
メタ認知とは、自身の思考や行動を認識し観察し変容する能力のことである。精神病では、メタ認知が障害される。メタ認知能力を測定するツールとして、Metacognitive Assessment Scale Abbreviated(MAS-A)がある。精神病の重症度とメタ認知の障害は相関する。また、メタ認知の障害の重度が、罹患期間における心理社会的機能の低下と関連する。メタ認知が精神病の解明と治療の切り口となると筆者らは述べる。メタ認知的反射および洞察療法(MERIT)がこの概念から開発された。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

 

R. MULDER. The evolving nosology of personality disorder and its clinical utility. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 361–362.

The evolving nosology of personality disorder and its clinical utility
改訂されていくパーソナリティ障害の疾病分類学とその臨床的有用性

<要旨>
従来のパーソナリティ障害の分類は科学的根拠に基づいていない等の問題意識から、アメリカ精神医学会のDSM-5やWHOのICD-11では分類の改訂が試みられ、症状の重症度の評価を行う、よりディメンショナルな観点が組み込まれた分類となった。新たな疾患分類の臨床的妥当性・信頼性は示されつつあるものの、依然として従来の診断分類が臨床現場で使用されやすいという課題や新たな分類を用いた臨床研究を促進していく必要性について述べている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕


FORUM – "THIRD-WAVE" COGNITIVE BEHAVIORAL THERAPIES AS A STEP TOWARD PRECISION MENTAL HEALTH CARE

■S.C. HAYES, S.G. HOFMANN. “Third‐wave” cognitive and behavioral therapies and the emergence of a process‐based approach to intervention in psychiatry. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 363–375.

“Third‐wave” cognitive and behavioral therapies and the emergence of a process‐based approach to intervention in psychiatry
「第三の波」認知行動療法と精神医学における介入へのプロセスに基づいたアプローチの出現

<抄録>
数十年にわたり、認知行動療法(CBTs)は、潜在的な疾患の表れであると想定される特定の精神症候群に対して、無作為比較試験で検証されてきた。これらのプロトコルは心理的対照群、プラセボ治療、さらには積極的な薬物療法と比較してより効果的だったが、変化のプロセスに焦点を当てなかったために、さらなる効果の向上と普及が阻害されてきた。精神障害を明確で個別のカテゴリーに分類できるという考え方が崩れたこと、新しい「第三世代」CBTsにおいて変化の過程をより重視するようになったことの両方により、この図式が、現在では改善されつつあるように思われる。
ここでは、歴史的な進歩の背景を振り返り、これらの新しい方法とモデルの影響を、症候群を治療するためのプロトコルとしてではなく、拡大された変化のプロセスを対象とする手法として評価する。「第三世代」療法の重要な特徴として以下の5点が強調されている。
文脈と機能に焦点を当てること、新しいモデルや方法はCBTの他の要素を基礎とすべきであるという見解、徴候や症状へのアプローチに対して幅広く柔軟なレパートリーに焦点を当てること、プロセスをクライエントだけでなく臨床家に適用すること、歴史的に人間性、実存主義、分析、システム指向のアプローチに特徴的だったより複雑な問題へ拡張することである。
これらの新しい方法は、プロセスに基づいた機能分析に対する個人に焦点を当てたアプローチ(idiographic approach)という文脈で考えることができる。変化の心理学的プロセスは、認知、感情、注意、自己、動機、顕在的行動の6つの次元に整理することができる。いくつかの重要な変化のプロセスは、これらの次元のうちの2つ以上を組み合わせている。ある個人の適切なプロセスをターゲットとして介入戦略を調整することは、精神医学の大きな進歩であり、精密な精神医療への重要な一歩となるであろう。

<要旨>
精神障害を明確で個別のカテゴリーに分類できるという考え方が崩れたこと、新しい「第三の波」CBTsにおいて変化の過程をより重視するようになったことをきっかけとして精神医学は大きな転換点を迎えている。エビデンスに基づく介入プロトコルで動く潜在的な疾患を対象とするのではなく、検証可能な理論に基づく中核的な変化のプロセスを対象とした、個人に焦点を当てたエビデンスに基づくケアモデルへ移行する準備が整ってきており、変化のプロセスを特定していくアプローチを精神医学における明確な中核に据えるべきである、と著者らは主張している。

〔翻訳:清水 俊宏〕
 

Commentaries

■R.M. RYAN. A question of continuity: a self‐determination theory perspective on “third‐wave” behavioral theories and practices. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 376–377.

A question of continuity: a self‐determination theory perspective on “third‐wave” behavioral theories and practices
継続性の問題:「第三世代」の行動理論と実践に対する自己決定理論の視点

<要旨>
Hayes and Hofmannによる行動療法の歴史で、行動療法における「第三世代」は、患者の変化(プロセス)を重視し、変化し続ける環境に対応し続けるための内的資源や能力の構築とアクセスを手助けすると述べられている。筆者らは、そのことに強く共感する。一方で、「第三世代」の根 底にある自己承認や自律的動機の尊重は、既存の行動療法の延長でなく、むしろ対立していると筆者らは批判する。本当のプロセス指向の視点を目指す「第三世代」は、方法や知見や実践を共有し、より収斂した臨床科学を追求する新たな機会となると論じている。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

 

■S.D. HOLLON. Variation, selection and retention: the evolution of process of change. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 377–378.

Variation, selection and retention: the evolution of process of change
変化、選択、保持:変化のプロセスの進化

<要旨>
HayesとHofmannは、「第三の波」と呼ばれる認知行動療法(CBT)の価値を主張し、変化のプロセスの範囲を拡大することに改めて焦点を当てるよう呼びかけている。 万人に効くものはなく、ある治療法に反応する人がいても、別の治療法には反応しないということが早くから指摘されており、彼らは診断カテゴリー別に治療パッケージを適用することを批判している。重要なのは、患者との自由な対話から考えられるメカニズムを特定し、それをもとに介入戦略を開発し、まずアナログ試験で、次に臨床試験でテストするというアプローチである。既成概念にとらわれない発想(変異の導入)をしたことが称賛されるべきであり、生み出したものが競争相手を凌駕することができれば、「第三の波」のプロセスは繁栄し、保持されることだろう。

〔翻訳:宮野 史也〕

 

J.R. WEISZ, O.M. FITZPATRICK, K. VENTURO-CONERLY ET AL. Process‐based and principle‐guided approaches in youth psychotherapy. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 378–380.

Process‐based and principle‐guided approaches in youth psychotherapy
若者の心理療法における、プロセスベースと原理に基づいたアプローチ

<要旨>
若年者の心理療法介入研究では、これまで各々の疾患における画一的な治療法の効果について焦点が当てられていた。しかし今後は、Hayes・Hofmannが示唆したように、各被検者のプロセスに基づいた個別性の高い治療選択と長年の研究の蓄積でもたらされた心理療法の原則に基づく治療介入をバランス良く融合してゆく取り組みが求められる。

〔翻訳:中野 心介〕

 

P.M.G. EMMELKAMP. Do we really need a process‐based approach to psychotherapy? World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 381–382.

Do we really need a process‐based approach to psychotherapy?
心理療法にプロセス重視のアプローチは本当に必要なのか?

<要旨>
HayesとHofmannは、第三世代の認知行動療法(CBTs)においてプロセス重視の視点の重要性について論じた。筆者らは、個別化アプローチの利点には賛同しつつ、マニュアル化されたエビデンスに基づく治療と比較し優れた効果を示す確固たるエビデンスが未だに存在していない点、個別化アプローチの治療効果は治療者の創造性に左右され、マニュアル化された治療よりも学習と実践がはるかに難しい点について言及している。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

 

L.M. McCRACKEN. Cognitive behavioral therapy, process‐based approaches, and evolution in the context of physical health. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 383–385.

Cognitive behavioral therapy, process‐based approaches, and evolution in the context of physical health
認知行動療法とプロセス重視のアプローチと身体的健康との関連における進歩

<要旨>
認知行動療法の、個人特化、プロセス重視の発展は、精神的健康に変革をもたらし、さらに身体的健康に適用できる。プロセス重視の「第三世代」CBTの実施が、身体の健康の分野において急速に流行している。シングルケースアプローチ研究が増加しており,因子分析,個人データのネットワーク分析などを活用してさらに詳しく変化を分析できるだろう。個々の人々の心と身体の健康のための特定のニーズに合わせてデザインされたプロセス重視のセラピーが現実のものとなりつつある。

〔翻訳:武藤 健太郎〕

 

J. CIARROCHI. The coming revolution in intervention science: from standardized protocols to personalized processes. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 385–386.

The coming revolution in intervention science: from standardized protocols to personalized processes
介入科学における来るべき革命:標準化されたプロトコルから個別化されたプロセスへ

<要旨>
HayesとHofmannは、介入研究で主流である「疾病のためのプロトコル」というアプローチは治療における文脈的要因を軽視していると指摘し、個人的な変化のプロセスに焦点を当てる、という新しい道を提案している。彼らの統一された枠組みを用いると、どのような治療的アプローチであっても、認知、感情、注意、自己、動機、そして表出行動に焦点を当てた共通のプロセス言語を共有できるという。この枠組みにより、臨床家は、どのプロセスが有効で、どのプロセスが有害かを特定しできるため、効果的なプロセスに重点を置きやすくなり、特定の人、特定の状況に合わせた介入方法を示すことができると期待される。著者は、新しいプロセスパラダイムに移行することは簡単ではないが、個別化された介入策を生み出すことにつながりうる、潜在的な価値のあるものとなると期待している。

〔翻訳:清水 俊宏〕
 

RESEARCH REPORTS

■T.A. FURUKAWA, K. SHINOHARA, E. SAHKER ET AL. Initial treatment choices to achieve sustained response in major depression: a systematic review and network meta‐analysis. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 387–396.

Initial treatment choices to achieve sustained response in major depression: a systematic review and network meta‐analysis
うつ病に持続的治療効果をもたらす初期選択:系統的レビューとネットワークメタ解析

<抄録>
うつ病はしばしば再発を繰り返す疾患である。したがって、患者を回復させるだけでなく、その回復を最大限維持できうる方法で治療を開始することが重要である。我々は、成人うつ病治療の急性期介入時に無作為化され維持期まで追跡観察された無作為対照試験(RCT)のネットワークメタ解析を行い、心理療法(PSY)、プロトコル化された抗うつ薬物療法(PHA)、それらの併用療法(COM)、一次または二次医療における標準治療(STD)、または錠剤プラセボといった治療介入の初期の反応と維持期の反応の関連性について調査した。研究デザイン上では、急性期治療を維持期にそのまま継続する研究、他の治療に切り替える研究、その後の治療を任意に行う設定とした研究をメタ解析に含めた。81件のRCTが対象文献となり、研究対象者は13,722名となった。「持続的奏効」とは、急性期治療に反応し、その後維持期までうつ病の再発がないことと定義した(観察期間:平均42.2±16.2週間、最短24~最長104週間)。各文献から12 ヵ月に最も近い時点で報告されたデータを抽出した。COMは維持期まで継続した場合でも(OR=2.52、95% CI:1.66-3.85)、急性期治療の後に任意の治療が行われた場合でも(OR=1.80、95% CI:1.21-2.67)、PHAと比較してより持続的奏功が示される結果となった。COMはSTD と比較しても同様に持続的奏功が認められた(COMを維持期まで継続した場合 OR=2.90, 95% CI:1.68-5.01; COM に続いて任意治療を行った場合 OR=1.97, 95% CI:1.51-2.58)。また、PSYもPHAと比較して、維持期まで継続した場合でも(OR=1.53、95%CI: 1.00-2.35)、急性期以降任意治療が行われた場合でも(OR=1.66、95%CI: 1.13-2.44)患者の状態をより良い状態で維持できることが示された。また、PSYとSTDを比較した場合も同様であった(PSYを維持期に継続した場合:OR=1.76、95%CI:0.97-3.21、PSYに続いて任意治療を行った場合:OR=1.83、95%CI:1.20-2.78)。STD療法の持続的奏効率を平均すると29%であることから、PSY・COM の PHAやSTD に対する優位性は12~16ポイントのリスク差に相当する。PSYやCOMは PHAよりも持続的な効果があると結論づけられた。うつ病の初期治療の選択に関する臨床ガイドラインは、この結果に基づいて更新する必要があると考えられる。

<要旨>
(単極性)うつ病における様々な治療法の持続的効果についてメタ解析での比較を試みた。急性期において心理療法(PSY)や心理療法と薬物療法の併用(COM)を行うことは、その後維持期まで継続された場合はもちろん、維持期で他の任意の治療が行われた場合でも、薬物療法単体(PHA)や非専門家による標準治療(STD)と比較して持続的に治療効果があることが認められた。うつ病の治療ガイドラインもこの結果に基づき今後更新されてゆく必要がある。

〔翻訳:中野 心介〕

 

■A. ZANGEN, H. MOSHE, D. MARTINEZ ET AL. Repetitive transcranial magnetic stimulation for smoking cessation: a pivotal multicenter double‐blind randomized controlled trial. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 397–404.

Repetitive transcranial magnetic stimulation for smoking cessation: a pivotal multicenter double‐blind randomized controlled trial
禁煙のための反復経頭蓋磁気刺激療法:極めて重要な多施設共同二重盲検ランダム化比較試験

<抄録>
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)は、非侵襲的な脳刺激法として、主にうつ病などの精神疾患の治療に用いられることが増えている。初期の研究ではTMSが依存症の治療に役立つ可能性が示唆されているが、多施設共同無作為化比較試験(RCT)での評価が必要である。我々はタバコ使用障害のDSM-5基準を満たす慢性的な喫煙者262人を対象に、多施設共同二重盲検RCTを実施した。対象者は、過去に少なくとも1回禁煙に失敗し、68%が少なくとも3回の失敗を経験していた。これらの患者は、外側前頭前皮質と島皮質に対して、毎日両側のrTMSもしくは偽のrTMSが3週間施行され、その後、週に1回のrTMSを3週間施行された。各rTMSセッションはキュー渇望が誘発された後に実施され、参加者は合計6週間モニターされた。禁煙中の参加者は、さらに12週間モニターされた。主要評価項目は、ITT集団の18週目までの4週間の継続禁煙率(CQR)とし、日々の喫煙日誌により決定、尿中ニコチン測定により確認された。本研究は、ClinicalTrials.gov (NCT02126124)に登録された。ITT解析(N=243)では、18週目までのCQRは真のrTMSでは19.4%、偽のrTMSでは8.7%であった(X2=5.655, p=0.017)。非脱落者(N=169)では、18週目までのCQRはそれぞれ28.0%、11.7%であった(X2=7.219, p=0.007)。タバコの消費量と渇望の減少は、治療開始2週間という早い段階で偽群よりも治療群で有意に大きくなった。この研究は、関連する脳回路を刺激することによって禁煙を促進する安全な治療プロトコルを確立した。これは依存症治療における脳刺激に関する初の大規模多施設RCTであり、成人の禁煙補助としてrTMSのアメリカ食品医薬品局による初の認可につながった。

<要旨>
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)のタバコ使用障害治療への適応に関して、多施設共同二重盲検RCTが実施された。その結果、タバコの消費量と渇望の減少は、治療開始2週間で偽群よりも治療群で有意に大きくなった。この研究は依存症治療における脳刺激に関する初の大規模多施設RCTであり、この結果は、成人の禁煙補助としてrTMSがアメリカ食品医薬品局に認可されることにつながった。

〔翻訳:北岡 淳子〕

 

■R.A. MCCUTCHEON, K. MERRITT, O.D. HOWES. Dopamine and glutamate in individuals at high risk for psychosis: a meta‐analysis of in vivo imaging findings and their variability compared to controls. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 405–416.

Dopamine and glutamate in individuals at high risk for psychosis: a meta‐analysis of in vivo imaging findings and their variability compared to controls
精神症ハイリスク者におけるドーパミンおよびグルタミン酸作動性機能:生体内イメージングデータのメタアナリシスとその統計的ばらつき

<抄録>
ドーパミンおよびグルタミン作動性機能障害は統合失調症の病態において中心的な役割を示すと考えられている。しかし、統合失調症の臨床的あるいは遺伝的ハイリスクを持つ人において、そうした異常が疾患の発症に先行して見られるかどうかは明らかでない。そこで我々は、精神症の臨床的あるいは遺伝的ハイリスク者のドーパミンおよびグルタミン酸作動性機能を調べる神経画像研究を対象にしたシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。検索対象は、1960年1月1日〜2020年11月26日のEMBASE, PsycINFO and Medlineとした。組み込み基準は、線条体シナプス前ドーパミン作動性機能、線条体ドーパミン受容体結合能、またはグルタミン酸作動性機能の分子イメージングとした。メタアナリシスは、遺伝的ハイリスク群と臨床的ハイリスク群各々に対して行った。我々はハイリスク群と対照群間の標準化差を計算し、計測値のばらつきが2群間で異なるかどうかを調べた。適格基準を満たしたのは、1288人のハイリスク群と1187人の対照群を含む48の研究であった。解析の結果、遺伝的ハイリスク群では視床のグルタミン酸+グルタミン(Glx)濃度が上昇しているというエビデンスが示された(Hedges’ g=0.36, 95% CI: 0.12-0.61, p=0.003)。一方、線条体シナプス前ドーパミン作動性機能、線条体D2/D3受容体結合能、前頭前皮質のグルタミン酸あるいはGlx濃度、海馬のグルタミン酸あるいはGlx濃度、大脳基底核のGlx濃度には、ハイリスク群と対照群間で有意差は見られなかった。統計的ばらつきをメタアナリシス解析した結果、遺伝的ハイリスク群では線条体D2/D3受容体結合能が対照群と比較して低下していた。(対数変動係数, CVR=–0.24, 95% CI: –0.46 to –0.02, p=0.03) 出版年が効果量に及ぼす影響をメタ回帰解析したところ、シナプス前ドーパミン酸作動性機能に関するハイリスク群ー対照群間の差異は年々減少していることが明らかとなった(estimate=–0.06, 95% CI: –0.11 to –0.007, p=0.025)。このように、視床のグルタミン酸濃度の他に、精神症ハイリスク群と対照群間で測定値に有意差が見られた神経化学物質はなかった。またドーパミンあるいはグルタミン酸の測定値のばらつきが、対照群に比較してハイリスク群で大きくなるというエビデンスもなかった。しかし、今回の解析では研究間に有意な異質性が見られているため、臨床的意義がある有意差の存在を完全に否定できたわけではい。

<要旨>
統合失調症の病態を説明する有力な仮説の一つにドーパミンおよびグルタミン作動性機能障害があるが、これらの異常が臨床的あるいは遺伝的精神症ハイリスク群における疾患の発症と関係しているかどうかは明らかになっていない。そこで本稿ではシステマティックレビュー並びにメタアナリシス解析によって上記の関係について調べ、その結果、解析手法の限界はあるものの、ハイリスク群と対照群で有意差が見られたのは遺伝的ハイリスク群における視床グルタミン酸濃度のみであったことを報告している。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

 

C. ARANGO, E. DRAGIOTI, M. SOLMI ET AL. Risk and protective factors for mental disorders beyond genetics: an evidence‐based atlas. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 417–436.

Risk and protective factors for mental disorders beyond genetics: an evidence‐based atlas
遺伝子を超えた精神疾患の危険因子と保護因子:エビデンスに基づくアトラス

<抄録>
数十年にわたる研究により、遺伝以外の精神障害の危険因子が多数明らかにされているが、その一貫性や大きさは不明なままである。我々は,創刊から2021年1月1日までの国際データベースを検索し,個別研究のメタ解析を含むシステマティックレビューを包括したアンブレラレビューに対して「メタアンブレラ」という系統的統合を行った。ICD/DSMにおける精神疾患の遺伝的因子以外の危険因子または保護因子に関するアンブレラレビューを対象とし、エビデンスの信頼性について確立した分類(クラスI(信憑性が高い)、クラスII(強く示唆的)、クラスIII(示唆的)、クラスIV(弱い))を適応した。時間的変化(逆因果)を検証するために前向き研究の感度分析を行い、要因の横断診断性を検証するためにTRANSD基準を適用し、メタアナリシスの質を扱うためにA Measurement Tool to Assess Systematic Reviews (AMSTAR) を採用した。14件の適格なアンブレラレビューが検索され、390件のメタアナリシスと、推定される危険因子または保護因子と精神障害との間の1,180件の関連が要約された。142の危険因子/保護因子に関連する176のクラスIからIIIのエビデンスのある関連付けが含まれた。最も確実な危険因子(クラスIまたはII、前向きのデザインによる)は21個であった。認知症では、2型糖尿病(リスク比、RR1.54から2.28)、うつ病(RR1.65から1.99)、社会的接触の頻度が低いこ(RR1.57)などが挙げられた。オピオイド使用障害では、最も強固な危険因子はタバコの喫煙(オッズ比、OR=3.07)であった。非器質性精神病性障害では、最も強固な危険因子は、精神病の臨床的高リスク状態(OR=9.32)、大麻使用(OR=3.90)、幼少期の逆境体験(OR=2.80)であった。抑うつ症候群では、寡婦歴(RR=5.59)、性的機能障害(OR=2.71)、3つ(OR=1.99)または4-5つ(OR=2.06)の代謝因子、幼少期の身体的(OR=1.98)および性的(OR=2.42)虐待、仕事の負担(OR=1.77)、肥満(OR=1.35)および睡眠障害(RR=1.92)であった。自閉症スペクトラム障害では、最も強固な危険因子は、妊娠前/妊娠中の母親の過体重(RR=1.28)であった。注意欠陥・多動性障害(ADHD)では、母親の妊娠前の肥満(OR=1.63)、母親の妊娠中の喫煙(OR=1.60)、母親の妊娠前/妊娠中の太り過ぎ(OR=1.28)であった。アルツハイマー病の強固な保護因子は、高い身体活動(ハザード比、HR=0.62)1つだけ検出された。全体として、32.9%が高い質、48.9%が中程度の質、18.2%が低い質の関連であった。横断診断的なクラスI-IIIの危険因子/保護因子は、ほとんどが神経発達の初期に関与していた。本研究で明らかにしたエビデンスに基づく主要な危険因子と保護因子のアトラスは、臨床的な特徴づけと研究を進め精神障害の早期介入と予防戦略を拡大するためのベンチマークとなるものである。

<要旨>
著者らは遺伝以外の精神障害の危険因子や保護因子について,創刊から2021年1月1日までの国際データベースを検索し,個別研究のメタ解析を含むシステマティックレビューを包括したアンブレラレビューに対して「メタアンブレラ」という系統的統合を行った。142の危険因子/保護因子に関連する176のエビデンスを同定し、各疾患との関連性について詳述している。これは精神障害の早期介入と予防戦略を拡大するためのベンチマークとなりうると主張している。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

 

INSIGHTS

■P.S. APPELBAUM. Malpractice claims in psychiatry: approaches to reducing risk. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 438–439.

Malpractice claims in psychiatry: approaches to reducing risk
精神医学における医療過誤のクレーム:リスク軽減のためのアプローチ

<要旨>
精神科医は、米国で最も訴えられる可能性の低い専門医の一つであるにもかかわらず、他診療科の医師と同様に、近年、医療過誤の賠償請求が増えている。医療過誤の賠償請求は、医療機関側、患者側ともに負担が大きく、これらを減らすために様々な法的・制度的努力が試みられているが、その効果については不確かである。著者は、最善の予防策は個々の臨床医の手に委ねられているかもしれない、と主張する。思いやりのある医師と患者の関係を維持すること、困難な臨床状況に直面したときに相談すること、治療決定の根拠を患者の診療録に記録し選択されなかった潜在的な管理オプションの説明を含むことを予防策として挙げている。

〔翻訳:清水 俊宏〕

 

■E.D. KLONSKY, T. DIXON-LUINENBURG, A.M. MAY. The critical distinction between suicidal ideation and suicide attempts. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 439–441.

The critical distinction between suicidal ideation and suicide attempts
自殺念慮と自殺企図との重要な違い

<要旨>
自殺は重要な死因の一つであるが、従来の研究では自殺を単一の現象として扱い自殺念慮と自殺企図を別々に説明することはなかった。自殺念慮から自殺企図への進展は、自殺企図を行う能力を獲得したときに生じるという概念が自殺の対人関係理論で初めて導入され、その後、自殺三段階理論で精緻化された。自殺能力の定義や尺度は様々で多くのエビデンスが混在しており、今後さらに自殺念慮がいつ誰にとって自殺企図につながるのかをより明らかにする研究が不可欠であると述べている。

〔翻訳:俊野 尚彦〕

 

■T. EHRING. Thinking too much: rumination and psychopathology. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 441–442.

Thinking too much: rumination and psychopathology
考えすぎること:反芻思考と精神病理

<要旨>
精神的な問題を抱える患者がしばしば訴える、考えすぎること(反芻思考)は、従来着目されてきたうつ病だけでなく、心的外傷後ストレス障害、不安障害、不眠症、摂食障害、身体症状障害、物質使用障害など、幅広い疾患の発症や維持に関与している。反芻思考を包括する概念である反復性のネガティブ思考(NRT)は、思考の内容に焦点を当てた疾患特異的な観点からの研究が主であったが、現在では、特徴的なプロセスに焦点を当てた診断横断的な観点からの研究が最善であるとのコンセンサスが生まれつつあり、それによりこのプロセスが予防と治療の有望なターゲットになりうる、と筆者は述べている。

〔翻訳:山村 啓眞〕

 

LETTERS TO THE EDITOR

■Paolo Fusar‐Poli, Joaquim Radua, Sameer Jauhar. Lack of robust meta‐analytic evidence to favour cognitive behavioural therapy for prevention of psychosis. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 443–444.

Lack of robust meta‐analytic evidence to favour cognitive behavioural therapy for prevention of psychosis
精神病予防のための認知行動療法を支持する強固たるメタ分析的証拠の不足

<要旨>
若年者の精神病の臨床的ハイリスク (Clinical High Risk for Psychosis, CHR-P) 群の発見と予後評価における研究成果は集まってきているが、予防的介入の有効性は依然として不明である。認知行動療法(CBT)は現在推奨されている予防的介入であるが、最新のネットワークメタ解析およびコクランメタ解析では、精神病予防のためのCBTを支持する確固たるメタ解析的証拠はないと結論付けている。現在、実験的治療薬のいくつかの大規模国際研究が、リスクの増加を制御する戦略、革新的な若年者対象のメンタルヘルスサービス、適応型試験デザイン、層別化と精密化の医療アプローチと組み合わせて進められるようになってきている。著者らはこれらの国際的取り組みによって、CHR-P患者の精神病を予防するために必要な効果介入が早期に実現されるよう期待している。

〔翻訳:武藤 健太郎〕


 

■Kenneth W.M. Fulford, Ashok Handa. New resources for understanding patients’ values in the context of shared clinical decision‐making. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 446–447.

New resources for understanding patients’ values in the context of shared clinical decision‐making
臨床で共同意思決定(Shared decision-making)を行う際に患者価値観を理解するための新しいリソース

<要旨>
個別化医療の基本として、臨床医と患者との間で共同意思決定(Shared decision-making:SDM)の重要性が、ますます広く認識されるようになっているが、価値観の側面よりもエビデンスの側面が強調され、なおも臨床医主導の意思決定がされてきた。これらのギャップを埋めるために、文化的価値の理解も含めた価値観に基づく医療からの新しいリソースにより、SDMモデルの価値観の側面を強調することが重要である。文化的価値観と価値観に基づく医療アプローチは、患者のニーズや困難というマイナス面だけでなく、リカバリーのための資産としての患者の保護因子やレジリエンスというプラス面も包含する。筆者は、価値観に基づく実践を発展させるための多くの政策やサービス開発イニシアチブに触れ、最後に、研修の重要性について述べている。

〔翻訳:橋本 望〕

 

■Bruce M. Cohen, Caitlin Ravichandran, Dost Öngür, Peter Q. Harris, Suzann M. Babb. Use of DSM‐5 diagnoses vs. other clinical information by US academic‐affiliated psychiatrists in assessing and treating psychotic disorders. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 447–448.

Use of DSM‐5 diagnoses vs. other clinical information by US academic‐affiliated psychiatrists in assessing and treating psychotic disorders
DSM-5診断の使用 vs それ以外の臨床情報、米国学会所属の精神科医による精神病性障害の評価と治療に基づく

<要旨>
さらなる修正が必要とされているDSMの現在の実用性と完成度を明らかにするため、筆者はアメリカの学術センターに所属する精神科医に、精神病性障害の評価と治療で他の臨床情報との関連でDSMの診断をどう利用しているかをオンラインで調査を行った。566人のうち129人から回答があり、精神病性障害患者では、DSM-5の診断は他の個々の疾患の特徴を同定することより重要でなく、DSMの分類は管理と請求、また他の臨床医とのコミュニケーションのために最も有用であることが示唆された。臨床医が最も重要だとする要因を診断システムに組み込むことで、治療法の選択と予後の予測の精度が向上する可能性がある、と筆者は述べている。

〔翻訳:山村 啓眞〕

 

■Nathalie Auger, Brian J. Potter, Ugochinyere Vivian Ukah, Nancy Low, Mimi Israël, Howard Steiger, Jessica Healy‐Profitós, Gilles Paradis. Anorexia nervosa and the long‐term risk of mortality in women. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 448–449.

Anorexia nervosa and the long‐term risk of mortality in women
女性における神経性無食欲症と長期的死亡リスク

<要旨>
本稿では、女性における神経性無食欲症と長期的死亡リスクを、カナダ・ケベック州の病院における29年間のコホートデータの解析によって調べた。解析の結果、神経性無食欲症に伴う入院歴は初期の20年間の死亡リスクを有意に上昇させることや、糖尿病・肺炎・自殺による死亡と強く相関していることが明らかとなり、今後のより対象を拡大した研究や早期治療介入の必要性について述べている。

〔翻訳:九野(川竹) 絢子〕

 

■Sarah Watts, Jen Hall, Gloria A. Pedersen, Katherine Ottman, Kenneth Carswell, Edith van‘t Hof, Brandon A. Kohrt, Alison Schafer. The WHO EQUIP Foundational Helping Skills Trainer's Curriculum. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 449–450.

The WHO EQUIP Foundational Helping Skills Trainer's Curriculum
WHOのEQUIP基礎的援助スキルに関するトレーナー向けカリキュラム

<要旨>
基礎的な援助スキルは、来たる世界保健機関のユニバーサル・ヘルス・カバレッジのためのグローバル・コンピテンシー・フレームワーク(WHO's Global Competency Framework for Universal Health Coverage(UHC))において、すべての医療従事者に求められる中核能力として特定されている。しかしながら、多くの保健医療研修プログラムにおいて、これらのスキルやその評価に対する関心は限定的である。WHOは、UHCのアジェンダの中で、心理社会的支援と心理トレーニングの提供における質を強化することを目的としたEQUIP(Ensuring Quality in Psychological Support)プロジェクトを開発した。EQUIP基礎的援助スキルに関するトレーナー向けカリキュラムは、意図的に約20時間の短いコースとなっており、増え続ける医療従事者や非専門的援助提供者が基礎的な援助スキルを確実に身につけることを目的としている。

〔翻訳:橋本 望〕


WPA NEWS

■Luigi Grassi, Michelle Riba. Psychiatric care in oncology and palliative medicine: new challenges and future perspectives. World Psychiatry. 2021 Oct; 20(3): 452–453.

Psychiatric care in oncology and palliative medicine: new challenges and future perspectives
腫瘍学と緩和医療における精神医療:新たな挑戦と将来の展望

<要旨>
本稿では、世界各国において腫瘍学と緩和ケアにおける精神医学を育むために設立された、精神腫瘍学に関する世界精神医学会の部会について述べられている。世界保健機関の報告によると、今後がんの罹患率は増加し、死亡率と生存期間ともに上昇すると予測されている。「気持ちのつらさ」はがん患者におけるバイタルサインの1つとして重視されるべきであり、精神腫瘍学の発展からエビデンスに基づく治療の開発、実施、普及が行われてきた。しかし医療経済的な制約から、世界的な治療の均てん化が行われていない。本部会ではこの領域における研修や臨床的なケア、研究の質を世界的に向上させるべく活動していくと強調されている。

〔翻訳:五十嵐 江美〕

 

翻訳協力者一覧

【監訳】
秋山 剛           NTT東日本関東病院

【翻訳】
認定NPO法人     日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/
五十嵐 江美       東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野  
河岸 嶺将              千葉県精神科医療センター
九野(川竹)絢子     マウントサイナイ医科大学 
北岡 淳子        瀬野川病院
清水 俊宏        埼玉県立精神医療センター
下島 里音            鹿児島県立姶良病院
俊野 尚彦          天神橋クリニック/十条産業保健事務所
中野 心介        大村共立病院
橋本 望(OB会員) 岡山県精神科医療センター
宮野 史也              北海道立向陽ヶ丘病院
武藤 健太郎           東京医科大学病院メンタルヘルス科
山村 啓眞              京都大学医学部附属病院

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