公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

Volume 19, Number 2, June 2020

更新日時:2020年10月20日

Editorials

■T. ADHANOM GHEBREYESUS. Addressing mental health needs: an integral part of COVID-19 response. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 129-130.

Addressing mental health needs: an integral part of COVID-19 response
メンタルヘルスへの取り組み:COVID-19対応に不可欠な要素

<要旨>
COVID-19パンデミックは身体的な健康への脅威に留まらず、精神的な健康にも影響を与える。WHOは大衆に向けた声明文を作成し、COVID-19対応の取り組みにメンタルヘルスと心理社会的支援を統合することを推進している。WHOが示した戦略は、COVID-19から回復した国々におけるメンタルヘルスケアの強化に向けた取り組みの指針となる。

〔翻訳:高松 直岐〕

 

■J. UNÜTZER, R.J. KIMMEL, M. SNOWDEN. Psychiatry in the age of COVID-19. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 130-131.

Psychiatry in the age of COVID-19
COVID-19時代の精神医学

<要旨>
COVID-19パンデミックにより、国民、患者、医療従事者に急性のストレスや不安を高い割合で発生していることが示唆され、既存の精神疾患や物質使用障害を持つ患者のストレスが増加している。初期の衝撃と恐怖を乗り越えた今、この危機に重度のストレスとトラウマを抱えている患者のケアに加えて、最前線で働く医療従事者へのサポートの提供も精神科医として可能であると、著者らの経験が展開されている。

〔翻訳:高松 直岐〕

Special Articles

■R. FELDMAN. What is resilience: an affiliative neuroscience approach. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 132-150.

What is resilience: an affiliative neuroscience approach
レジリエンスとは何か:親和的神経科学的アプローチ

<抄録>
レジリエンスは、臨床研究と診療において重要なテーマであるが、未だその明確な定義は成立していない。レジリエンスを定義においては、進歩的かつ人間特有の特徴を統合すること、生理学的恐怖反応に焦点を当てた表現を控えること、発達面のアプローチを組み込むこと、そして否定形の表現を避けること(例:外傷体験への症状の欠如等)が重要である。母親の胎内や生後の養育の過程で脳が成熟していく哺乳類の生育初期段階において、社会生態系への脳の順応や、困難への適応を行うシステムやプロセスが、レジリエンスを構築していくということを我々は主張したい。このシステムやプロセスには、オキシトシン系、親和的な脳、生物行動的同調性が関与しており、これら全てが系統発生や個体発生を経た大きな順応性から特徴づけられる。レジリエンスの3つの核となる特徴は、柔軟性、社会性、意味性である。多様性と忍耐と適応から成り立つ社会性のメカニズムは、動物の進化の文脈から説明される。人間の生物行動学的同調性は、生後の母親への従順行動から成人同士での共感的かつ他者視点的かつ親密的な関係性に成熟し、母子関係から他者との協調的関係に至るまで、一生をかけて広がり、レジリエンスの発達の基礎的な軌跡を作る。母子関係(未熟児、母性うつ病、幼少時のストレス/外傷体験)や生後~思春期/青年期の顕著な混乱について明らかにしている3つのハイリスクコホート研究の知見は、親和の神経生理学の構成要素がどのようにレジリエンスをもたらし、個人の社会的な脳を形成していくかを示している。

<要旨>
レジリエンスは臨床・研究の両面において重要な概念であるが、未だに生物行動学的な包括的定義が構築されていない。母子関係や胎児~幼少時期のストレスイベントが児童の脳や行動、健康状態に長期的な影響をもたらすという、3つのコホート研究から得られたエビデンスを根拠とし、筆者らは親和的神経科学的アプローチによる新たなレジリエンスのモデルを生み出した。そのモデルはオキシトシン系、親和的な脳、生物行動的同調の3つを主要な構成要素とし、柔軟性、社会性、意味性の3つを主な特徴としている。

〔翻訳:今川 弘〕

 

■R. KOTOV, K.G. JONAS, W.T. CARPENTER ET AL. Validity and utility of Hierarchical Taxonomy of Psychopathology (HiTOP): I. Psychosis superspectrum. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 151-172.

Validity and utility of Hierarchical Taxonomy of Psychopathology (HiTOP): I. Psychosis superspectrum
精神病理の階層学的分類学(HiTOP)の妥当性と有用性:精神病理の超スペクトラム

<抄録>
精神病理の階層学的分類学(HiTOP)は、従来の精神障害の診断基準の欠点に科学的に取り組んでいる。診断基準の欠点とは、精神病理と正常とを区別する境界の恣意性・複数の障害の合併頻度が高いこと・疾患の異質性・診断の不確実性などである。本稿では、HiTOPの思考障害・離隔スペクトラムの妥当性と有用性に関するエビデンスを統合している。こうしたスペクトラムは、現在、統合失調症やその他の精神性障害、統合失調症型・パラノイド・シゾイドパーソナリティ障害にみられる症状や不適応的な特性によって構成されている。思考障害には、正常な現実検討能力から不適応的な精神病的傾向、幻覚・妄想が含まれる。離隔には、内向性から社会不適応、情動鈍麻、意欲減退が含まれる。新たなエビデンスにより、思考障害と離隔スペクトラムは、各々共通の遺伝因子・環境リスク因子・幼少期の先行症状・認知障害・神経変性・バイオマーカーや治療反応性を示すことの妥当性が支持されている。こうした特徴の中には、1つのスペクトラムに特異的なものもあれば、いくつものスペクトラム間で共有されているものもあることから、包括的な精神病理の超スペクトラムの存在が示唆されている。こうしたモデルを広げるためには、躁病と解離は思考障害に分類されるか否か、スペクトラムやその類型への発展を引き起こす過程について明らかにするなど、さらなる研究が必要である。従来の診断基準と比較すると、思考障害・離隔スペクトラムに関しては、有用性が改善した。すなわち、信頼性が上がり、説明力・予測力が強くなり、臨床家に受け入れられやすくなった。臨床現場で本診断基準を使用するための妥当な方法もある。HiTOPによって、精神病関連の病理の特徴付けについて情報量が増え、信頼性と妥当性が高まることにより、診断を研究や臨床治療にとってより有用なものにすることが可能となる。


<要旨>
HiTOPは、思考障害・離隔という2つの超スペクトラムを枠組みにもつ階層的・次元的な精神病理分類であり、DSM5を始めとする従来の精神障害の診断基準の欠点を克服することを目指している。本稿では、科学的エビデンスに基づき、9つの基準からHiTOPの妥当性を、また信頼性・説明力・診断的価値・臨床的有用性の観点からHiTOPの有用性を検証し、HiTOPの課題と今後の可能性についても言及している。

〔翻訳:川竹 絢子〕

Perspectives

■L.B. DIXON, S.R. PATEL. The application of implementation science to community mental health. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 173-174.

The application of implementation science to community mental health
地域精神保健への実装科学の適応

<要旨>
実装科学とは、集団の健康を改善することを目的とし、エビデンスのある介入を実際に普及していくための方法や戦略を研究する分野である。本稿では実装科学が地域精神保健で果たす重要な役割について、IPOs (Intermediary and Purveyor Organizations:介入・提供機関)が取り組んでいる実例を交えて詳細に説明している。

〔翻訳:今川 弘〕

 

■S. KUTCHER, Y. WEI. School mental health: a necessary component of youth mental health policy and plans. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 174-175.

School mental health: a necessary component of youth mental health policy and plans
学校精神保健:若者の精神保健の方策と計画における必要項目

<要旨>
精神疾患の知識の普及、早期介入、早期治療のためには、学校における教師と生徒の双方への精神保健教育が重要である。本稿では精神保健教育における”the Mental Health & High School Curriculum Guide”、”Transitions”、学校保健センターという重要な3つの構成要素について、それぞれの利点と欠点を挙げて説明している。

〔翻訳:今川 弘〕

 

■C.S. DUARTE, C. MONK, M.M. WEISSMAN ET AL. Intergenerational psychiatry: a new look at a powerful perspective. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 175-176.

Intergenerational psychiatry: a new look at a powerful perspective
世代間における精神医学:強力な展望への新たな視点

<要旨>
世代間における精神医学は、ハイリスク家系の研究、世代間トラウマ、胎児プログラミング仮説に焦点を当てており、新たなテクノロジー(胎児/周産期の評価と画像化、分子精神医学、データサイエンスの進歩)により研究が進められている。同研究の促進により個人や目下の環境から家族やライフコース全体へ視点が変わることで、精神疾患が再定義されたり治療や予防の機会や選択肢が広がる可能性がある、と筆者は述べている。

〔翻訳:下島 里音〕

 

■M.F. GREEN, J. LEE, J.K. WYNN. Experimental approaches to social disconnection in the general community: can we learn from schizophrenia research?. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 177-178.

Experimental approaches to social disconnection in the general community:can we learn from schizophrenia research?
一般社会での社会的隔離に対する実験的アプローチ:統合失調症の研究から学べること

<要旨>
現代社会で多くみられる社会的隔離は早期死亡に繋がる。本稿では、客観的状況である「社会的隔離」は、主観的な「孤独感」とは異なると定義した上で、統合失調症における社会的隔離の研究を通して、一般社会における社会的隔離の原因を実験的に評価している。その結果、社会的無関心が重要な要素であることが明らかとなった。統合失調症に関する研究は、より広い集団における社会的隔離の実験的研究に取り組むための原則的な方法を提供する。

〔翻訳:古江 ナオミ〕

Forum –Assessing the Public Health Effects of the Legalization of Recreational Cannabis Use

■W. HALL, M. LYNSKEY. Assessing the public health impacts of legalizing recreational cannabis use: the US experience. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 179-186.

Assessing the public health impacts of legalizing recreational cannabis use: the US experience
レクリエーション大麻使用の合法化による公衆衛生への影響の評価:アメリカの経験

<抄録>
成人に対するレクリエーション大麻の販売は、2012年以来、米国の9州で合法化されており、2013年にはウルグアイ、2018年にはカナダで全国的に合法化された。我々は、成人と青年の間の大麻使用や大麻に関連する障害に合法化が与える影響、また成人のレクリエーション使用の合法化による、大麻の価格、入手可能性、効力や使用に対する影響、また、合法化による悪影響を増減するであろう行政政策への影響に対して、アメリカの研究をレビューする。米国でのレクリエーション大麻使用の合法化により、大麻の価格は大幅に引き下げられ、効力が高められ、成人の使用者はより大麻を手に入れやすくなった。成人間での大麻使用頻度は増加したようだが、若者の間ではそれほどではない。また、いくつかの大麻関連の害による救急科の搬送や入院が増加している。現在までの比較的緩やかな大麻使用に対する影響は、おそらく大麻の小売店の数や場所の制限、連邦政府による大麻禁止の継続の下での商業化の制約が反映されている。合法化に対する今後の評価においては、大麻の販売量、価格やテトラヒドロカンナビノールの含有量、家庭や高校での調査を利用した青年と成人の間で大麻使用の使用率と頻度、大麻使用障害のある運転手を含む交通事故の死亡者や負傷者数、大麻に関連した救急科への搬送、大麻使用障害の治療に対する需要、そして、精神保健サービス、学校、刑事司法制度における、影響を受けやすい若者間での定期的な大麻の使用率について、確認する必要がある。大麻使用の合法化と規制を提案する政府は、これらの政策変更が公衆衛生に与える影響を監視するための研究に資金を提供し、また、公衆衛生への悪影響を最小限に抑える大麻使用の規制方法を開発するために、研究の成果を活用する必要がある。

<要旨>
成人へのレクリエーション大麻の販売は、近年様々な国や州で合法化されつつあり、本稿では、アメリカにおけるレクリエーション大麻合法化による公衆衛生への影響に対して論じている。
合法化により、大麻の価格低下、効力の増加、成人の入手可能性は高まっており、成人の使用頻度は増しているが、青年ではそれほどの増加はみられていない。
今後、合法化における公衆衛生への影響に関してさらなる研究が必要であり、悪影響を最小限に抑える方法が望まれる。

〔翻訳:北岡 淳子〕

Commentaries

■B. FISCHER, C. BULLEN, H. ELDER ET AL. Considering the health and social welfare impacts of non-medical cannabis legalization. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 187-188.

Considering the Health and Social Welfare Impacts of Non-Medical Cannabis Legalization
非医療大麻合法化の保健福祉と社会福祉への影響を考慮する

<要旨>
大麻合法化の影響に関する現在のエビデンスは限られており、合法化が公衆衛生の総合的な成功か失敗かを結論付けることはまだ不可能である。
大麻の合法化は、公衆衛生と福祉のための潜在的に有用な概念として考慮され続けるべきであり、合法化された大麻製品の供給、流通、効果に対する慎重で節度あるアプローチを検討するべきである。
同様に、政策の結果と実施後の運営の両方を、特に予想されていなかったもの有害なものについて注意深く監視すること、経験的知識と利用可能な手段を用いて、その結果について調整や修正を行うことが重要である。

〔翻訳:北岡 淳子〕

 

■M. DI FORTI. To legalize or not to legalize cannabis, that is the question! World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 188-189.

To legalize or not to legalize cannabis, that is the question!
大麻を合法化するべきか否か,それが問題だ!

<要旨>
英国在住である筆者はシェイクスピアの有名な一文になぞらえて、大麻の合法化について、HallとLynskeyらの報告を中心に、アメリカの統計報告、THCが安価で手に入るようになった都市における報告など様々な報告から、青年期での大麻の使用について懸念を述べている。筆者は大麻が商業化される流れは止められないだろうとし、大麻が脳の発達や、学業成績、依存性について若者が理解し、大麻の使用について若者が適切に選択できるように公的な教育を受けられるように活動していくべきだとしている。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

 

■E. HOCH, V. LORENZETTI. Mapping and mitigating the health risks of legalizing recreational cannabis use: a call for synergy between research and policy. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 189-191.

Mapping and mitigating the health risks of legalizing recreational cannabis use: a call for synergy between research and policy
娯楽目的の大麻使用の合法化に対する健康へのリスクの把握と影響の緩和――研究と政策の協働の必要性

<要旨>
HallとLynskeyの報告を受けて、地域差、市場の流動性、急性中毒となった際にどのようになるか研究がなされきれていないことを挙げ、娯楽目的の大麻合法化による健康へのリスクは全容が把握しきれていないと筆者は主張している。筆者は娯楽目的の大麻使用が合法化されたことに対するリスクを十分に評価するために、研究者、政府など関わる者が協働し、サーベイランスを向上させる必要があると述べている。

〔翻訳:河岸 嶺将〕

 

■K. HUMPHREYS, C.L. SHOVER. Recreational cannabis legalization presents an opportunity to reduce the harms of the US medical cannabis industry. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 191-192.

Recreational cannabis legalization presents an opportunity to reduce the harms of the US medical cannabis industry
嗜好用大麻合法化によって、米国の医療用大麻産業がもたらす害悪を軽減する機会が提供される

<要旨>
まず、これまで医療用大麻と称されつつも実際は商業化・嗜好化され規制がとれていなかった大麻産業の問題点が指摘されている。嗜好用大麻の合法化が、医療用大麻を規制下に置き、治療として真に必要とする患者に対して使用が出来るようにしたこと、その詳細な理由について述べている。

〔翻訳:川竹 絢子〕

 

■J. REHM, J. MANTHEY. Cannabis and public health: a global experiment without control. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 192-194.

Cannabis and public health: a global experiment without control
大麻と公衆衛生:統制の取れていないグローバルな実験

<要旨>
娯楽用大麻の使用を合法化することの効果に関する新しい知見が、近年多く発表されている。Hall and Lynskeyのレビューは重要ではあるが、このレビュー・それに関連するレビューは、これまでに収集された証拠の予備的な要約を提供しているに過ぎない。この状況において、確固とした結論に到達することは難しく、公衆衛生に残されているのは、これらの結果を文書化することだけであるように思われる。

〔翻訳:福島 弘之〕

 

■B. KILMER, E. KILMER NEEL. Being thoughtful about cannabis legalization and social equity. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 194-195.

Being thoughtful about cannabis legalization and social equity
大麻合法化と社会的公平性について慮る

<要旨>
大麻合法化が社会的公平性を推進し、有色人種のコミュニティを助けるために利用できるかが、合法化の議論において注目されている。合法化により大麻の価格が大幅に下落すると、政府や企業の収益に影響し、社会的公平性を推進するための取り組みにも影響を与える可能性がある。政府は市場の代わりに価格を設定し、大きな価格下落を防ぎ、収益を維持することができる。社会的および経済的に成功する可能性が最も高いアプローチの実行のため、合法化の経済面に関するエビデンスを利用することが推奨される。

〔翻訳:北岡 淳子〕

 

■R. QUEIROLO. The effects of recreational cannabis legalization might depend upon the policy model. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 195-196.

The effects of recreational cannabis legalization might depend upon the policy model
大麻の娯楽目的での使用の合法化の効果は、政策モデルに依存するだろう

<要旨>
娯楽用大麻の合法化の影響は、政策モデルに依存する可能性がある。
様々な国が大麻合法化を進めているが、国により取り締まり方やその影響も様々である。合法化の様々なモデルの効果を比較し、すべての経験が同じ結果をもたらすと仮定しないことが重要である。
中でもHall and Lynskeyらは大麻合法化が公衆衛生にもたらす影響が重要だと主張している。著者はそれに加えて、各々の国が達成しようとしたすべての結果に対する、さまざまな合法化政策の影響を評価することが重要だと指摘している。

〔翻訳:福島 弘之〕

 

■J.C. VAN OURS. Legalizing recreational cannabis use: a promising journey into the unknown. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 196-197.

Legalizing recreational cannabis use: a promising journey into the unknown
娯楽用大麻の合法化:未知の世界への有望な旅路

<要旨>
研究・政策の観点から見て、娯楽用大麻の合法化には、合法化が大麻の使用にどう影響するか・大麻が健康にどのように影響するか、の2つの主な論点がある。これまでは、大麻が違法だったため、医療効果が明らかにされることはなかった。大麻合法化は、大麻使用・公衆衛生について入り組んだ結果を生むであろうが、一方合法化は、大麻がメンタルヘルスにどう有益かを、理解する機会を提供することにもなるであろう。著者は、この大麻合法化の試みの成功を期待している。

〔翻訳:福島 弘之〕

 

■M. HICKMAN, L.A. HINES, S.H. GAGE. Assessing the public health effects of cannabis use: can legalization improve the evidence base? World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 197-198.

Assessing the public health effects of cannabis use: can legalization improve the evidence base?
大麻使用が公衆衛生に与える影響の評価:合法化によってエビデンスに基づいた改善ができるだろうか?

<要旨>
本稿では、娯楽目的での大麻使用の合法化に伴い、大麻使用と健康や社会への害との関連性、及びこれらの害を防ぐための大麻消費を規制する代替の方法が与える影響について、エビデンスが必要であることが述べられている。大麻使用が公衆衛生に与えるリスクに関するエビデンスの強さに関する研究や公開討論を通じて、研究コミュニティは、これらの法改正が我々に提示した又とない機会を活用し、世界中でエビデンスに基づいた政策変更が行われるように、知見を知らせることができると著者は主張する。

〔翻訳:下島 里音〕

Research Reports

■S. GULOKSUZ, L.-K. PRIES, M. TEN HAVE ET AL. Association of preceding psychosis risk states and non-psychotic mental disorders with incidence of clinical psychosis in the general population: a prospective study in the NEMESIS-2 cohort. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 199-205.

Association of preceding psychosis risk states and non-psychotic mental disorders with incidence of clinical psychosis in the general population: a prospective study in the NEMESI2-2 cohort
一般人口における精神病性障害(サイコーシス)の発症率と先行するサイコーシスのリスク状態および非精神病疾患との関連:NEMESIS-2コホートにおける前向き研究

<抄録>
サイコーシスに対する「臨床的高リスク」(CHR)の概念の妥当性と臨床的有用性については、これまでのところ、臨床現場でリスクが高い集団でのみ検討されてきた。この人口ベースの前向き研究では初めてサイコーシスの発症率を評価し、先行するサイコーシスのリスク状態と非精神病疾患(気分障害、不安障害、アルコール使用障害、薬物使用障害)のDSM-IV診断について、その発症率の人口寄与割合(PAF)を推定することを目的とした。全ての解析において年齢、性別、学歴で補正が行われた。サイコーシスの発症率は10万人年あたり63.0であった。相互に調整されたCox比例ハザードモデルで、先行するいくつかの診断がサイコーシス発症リスクの増加と関連していることが示された:気分障害(ハザード比、HR=10.67、95%CI:3.12-36.49)、サイコーシスの高リスク状態(HR=7.86、95%CI:2.76-22.42)および薬物使用障害(HR=5.33、95%CI:1.61-17.64)。人口におけるサイコーシス発症率のうち、85.5%(95%CI:64.6~94.1)が先行する精神病理に起因しており、気分障害(PAF=66.2、95%CI:33.4~82.9)、サイコーシスの高リスク状態(PAF=36.9、95%CI:11.3~55.1)、薬物使用障害(PAF=18.7、95%CI:-0.9~34.6)が最も重要な要因であった。サイコーシスの高リスク状態は、他の精神病理の補正を行った後でもサイコーシスを発症する転帰の相対リスクが高かったが、人口におけるサイコーシスの高リスク状態の有病率が低いことを考慮するとPAFは比較的低かった。これらの知見は、標的集団におけるCHR早期介入の「予防パラドックス」に関する経験的エビデンスを提供している。精神病疾患の予防における人口ベースの改善を達成するためには、現在のサイコーシスに焦点を当てたアプローチよりも、より広範な精神病理に焦点を当てた包括的な予防戦略が有効である可能性がある。

<要旨>
精神病性障害(サイコーシス)に対する高リスク状態(CHR)の概念は、これまで臨床現場でリスクが高い集団でのみ検討されてきた。この前向き研究では、初めて人口ベースでサイコーシスの発症率が検証され、その人口寄与割合(PAF)が推定された。結果、CHRのみならず、気分障害や薬物使用障害等、より広範な病態に焦点を当てた包括的な予防戦略が有効であることが論じられている。

〔翻訳:高松 直岐〕

 

■E. PETTERSSON, H. LARSSON, B.M. D’ONOFRIO ET AL. The general factor of psychopathology: a comparison with the general factor of intelligence with respect to magnitude and predictive validity. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 206-213.

The general factor of psychopathology: a comparison with the general factor of intelligence with respect to magnitude and predictive validity
一般的精神病理因子: 説明力の大きさと予測妥当性に関する、一般的知的能力尺度との比較

<抄録>
近年、幅広い精神疾患の併存を単一の指標に集約するための一般的精神病理因子“p”への関心が高まっている。本研究では、このモデルの妥当性検証に統計技術を用いるのではなく、(それぞれの指標で説明される分散が示す)説明力の大きさと予測妥当性について、“p”因子と一般的知的能力尺度“g”を比較した。説明力の大きさを比較するために、“g”について、我々は15個のウェクスラー成人知能検査の下位検査を解析した(N=1,200)。“p”について、私たちはスウェーデンの成人の14つの精神疾患の診断基準(N=909,699)とスウェーデンの思春期の少年少女を対象とした8つの自己および親評価の精神病理尺度(母集団=2,069)と、スウェーデンの児童を対象とした16個の親評価の精神病理尺度(母集団=14,589)を解析した。予測妥当性を比較するために、我々は “g”と“p”の両方の尺度を用いて、(8つの精神医学の診断に基づいて)スウェーデンの男性徴集兵を分析した(N=414,595, 平均年齢:18.3歳)。我々は、次に、記録から検索された3つの知的能力と関連した結果(年収、最終学歴、入学試験の点数)や16個の有害な結果(例:自殺、向精神薬の処方、犯罪)との固有の関連を調べた(追跡時の平均年齢:29.2歳)。結果として、“g”や“p”の説明力の大きさは非常に似通っていることが示された。“p”を制御することで、“g”は後の教育年数(標準β, β値=0.38、標準誤差=0.01)や大学入試の得点(β値=0.48, 標準誤差=0.01)を有意に予測した。“g”を制御することで、“p”は全ての有害な結果をはっきりと予測した(平均β値=0.32; 範囲: 0.15-0.47)。これらの結果から、知的能力の下位検査が全般的な知能指数に集約されるのと同様に、精神病理的尺度は単一の尺度に集約されうるという考えが立証された。この“p”値によって、特定の診断を補ない、治療方針を立て予後を予測することができるかもしれない。

<要旨>
Petterssonらの研究により、知的能力の下位検査が全般的な知能尺度“g”に集約されるのと同様に、一般的精神病理因子“p”は単一の尺度に集約されうるという考えが立証された。この“p”値によって、特定の診断を補ない、治療方針を立て予後を予測することができるかもしれない。

〔翻訳:熊谷 航一郎〕

■M. SOLMI, M. FORNARO, E.G. OSTINELLI ET AL. Safety of 80 antidepressants, antipsychotics, anti-attention-deficit/hyperactivity medications and mood stabilizers in children and adolescents with psychiatric disorders: a large scale systematic meta-review of 78 adverse effects. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 214-232.

Safety of 80 antidepressants, antipsychotics, anti-attention-deficit/hyperactivity medications and mood stabilizers in children and adolescents with psychiatric disorders: a large scale systematic meta-review of 78 adverse effects
精神障害を有する児童・思春期患者に対する80の抗うつ薬、抗精神病薬、抗注意欠陥多動性障害薬、気分安定薬の安全性:78の有害事象に関する大規模なシステマティック・メタレビュー

<抄録>
精神障害は児童・思春期に発病することが多い。この年齢集団の精神障害を治療する上で向精神薬は様々な効果があるが、適用外使用されることもまれではない。しかし、人生において発達上影響を受けやすいこの時期に、これらの薬物の有害事象には特別な注意を要する。このメタレビューでは、精神障害のある児童・思春期患者を対象とした80の向精神薬-抗うつ薬、抗精神病薬、抗注意欠陥多動性障害(ADHD)薬、および気分安定薬を含む-に関する、前もって選択された19分野、78項目の有害事象を報告しているネットワークメタアナリシス、ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシス、個別のRCT、およびコホート研究を系統的に検索した。これには337,686人の児童・思春期患者が含まれている9本のネットワークメタアナリシス、39本のメタアナリシス、90本の個別のRCT、8本のコホート研究のデータが含まれている。78の副作用のうち20%以上のデータが入手可能であったのは、6種類の抗うつ薬(セルトラリン、エスシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、ビラゾドン)、8種類の抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ルラシドン、パリペリドン、ジプラシドン、オランザピン、アセナピン)、3種類の抗ADHD薬(メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン)、2種類の気分安定薬(バルプロ酸、リチウム)であった。78の副作用の中で20%以上のデータがあるこれらの向精神薬のうち、より安全なプロフィールが明らかになったのは、抗うつ薬ではエスシタロプラムとフルオキセチンで、抗精神病薬ではルラシドンで、抗ADHD薬ではメチルフェニデートで、気分安定薬ではリチウムであった。今回得られた文献では、ベンラファキシン、オランザピン、アトモキセチン、グアンファシンおよびバルプロ酸の安全性について、最も多くの懸念が示された。嘔気/嘔吐と有害事象による内服中断は抗うつ薬、過鎮静・錐体外路の副作用および体重増加は抗精神病薬、食思不振と不眠は抗ADHD薬、過鎮静と体重増加は気分安定薬と、それぞれ最も高い頻度で関連していた。この包括的で最新の定量的なシステマティック・メタレビューの結果は、精神障害を有する児童・思春期患者への抗うつ薬、抗精神病薬、抗ADHD薬、および気分安定薬の安全性に関する、トップレベルのエビデンスをもつものであり、臨床実践や研究、治療ガイドラインに影響をあたえうる。

<要旨>
児童・思春期の精神障害に対する向精神薬の有害事象は懸念される事項である。このシステマティックメタレビューは、精神障害を有する児童・思春期患者への抗うつ薬、抗精神病薬、抗ADHD薬、および気分安定薬の安全性に関する包括的で強固なエビデンスを提供する。

〔翻訳:増田 将人〕

 

Reappraisal

■J.L. SHAH, J. SCOTT, P.D. MCGORRY ET AL. Transdiagnostic clinical staging in youth mental health: a first international consensus statement. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 233-242.

Transdiagnostic clinical staging in youth mental health: a first international consensus statement
若者のメンタルヘルスにおける、診断横断的病期モデル:世界初の国際合意声明

<抄録>
精神医学における現在の疾患分類と治療の枠組みが、特に若者や早期介入事業への利用に不適切であることが認識され、診断横断的病期モデルが注目を集めている。これらのモデルは病気の連続性のどこに個人が位置するか認識し、治療選択を向上させ、疾患の連続、不連続のパターンや病因をよりよく理解することを目的としている。これらの要因の全ては特に、好発年代すなわち思春期や青年期の発達期間(例.12-25歳)に経験される援助要請とメンタルヘルスの必要性に関連している。現在まで、診断横断的モデルの進行期は、臨床的な評価と潜在的な介入が必要にも関わらず、一般的に「域値下」と「域値レベル」の疾患を区別する従来の一連の症状によって定義されていた。病期モデルは、病気の単なる進行を超えて、精神的・身体的併存症や複雑性の出現、あるいは関連する生物学的構成要素の顕著な変化などの、病気の広がりに関する新たな次元を捉える必要がある。この新しい分野でさらなる合意を発展させるために、我々は若者のメンタルヘルスにおける診断横断的病期モデルを支える原則と前提、これらのモデルがどのように運用可能か、新しいサービスシステムの研究と開発のための議論の意味を明確にする。その上で、知識の隔たり、複数のステークホルダーからの情報の必要性、科学と実行性の両方を前進させる共同国際プロセスを含め、今後十年間の議題を提案する。

<要旨>
本稿では、精神疾患が好発する若者のメンタルヘルスや、早期介入に対する診断横断的病期モデルの有用性について述べ、精神的・身体的併存症や複雑性の出現、あるいは関連する生物学的構成要素の顕著な変化を含め、病気の広がりに関する新たな次元を柔軟に捉える必要があることを論じている。診断横断的病期モデルを支える原則と前提、運用方法、新しいサービスシステムの研究と開発のための議論の意味を明確にし、今後の議題を提案している。

〔翻訳:森本 佳奈〕

Insights

■G.O. GABBARD. The role of countertransference in contemporary psychiatric treatment. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 243-244.

The role of countertransference in contemporary psychiatric treatment
現在の精神科治療における逆転移の役割

<要旨>
逆転移はかつて患者に対する治療者の転移と考えられていたが、いまや患者の無意識的な世界を理解する上で重要なツールと見なされ、精神力動的な技法の中心的なものとなっている。患者が自らの内的世界を治療者に投影し、それに対して治療者が同一化する(投影同一化)ことで生じる治療者自身の感情に注目し、それによる治療者の行動化(エナクトメント)に気づくことが、治療的に価値あるものとなる。

〔翻訳:増田 将人〕

 

■C.E. WATKINS JR. Psychotherapy supervision: an ever-evolving signature pedagogy. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 244-245.

Psychotherapy supervision: an ever-evolving signature pedagogy
精神療法のスーパービジョン:絶え間なく進化する本質的な教育法

<要旨>
精神療法のスーパービジョンは、付随的で不要な実践ではなく、精神科や他の精神保健の訓練の特徴的な教育法として認識されている。スーパーバイザーは考えること(知識)、実践すること(技術)、品位をもってふるまうこと(態度や価値)といった専門的な仕事を、臨床家の中に培う役割を担う。スーパービジョンは精神療法家が成長する過程で欠かすことのできない教育的なものであり、かつその成長を大いに促進するものである。

〔翻訳:増田 将人〕

 

■D.H. BARLOW, B.A. HARRIS, E.H. EUSTIS ET AL. The unified protocol for transdiagnostic treatment of emotional disorders. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 245-246.

The unified protocol for transdiagnostic treatment of emotional disorders
情緒障害の診断横断的治療に対する統一プロトコル

<要旨>
情緒障害に共通する神経生物学的メカニズムの発見に伴い、些細な症状の違いではなく共通の気質的特徴が注目されるようになった。この観点に基づき「診断横断的」治療を開発した。本稿では、その統一プロトコルの概説や有効性、汎用性について述べている。

〔翻訳:川竹 絢子〕

 

■R.B. JARRETT. Can we help more? World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 246-247.

Can we help more?
もっと助けられるだろうか?

<要旨>
大うつ病性障害とその治療である認知行動療法(CBT)の現状に関して、読者に語りかける文調で問題提起をしている。大うつ病性障害の治療として、半数以上の患者が心理療法の方を好むのにも関わらず、希望しない抗うつ薬を処方されることが多い。CBTは、治療効果を生むメカニズムは十分に分かっていないが、効果が得られることは確かであり、うつ病の再発を防止し、患者、医療提供者、公衆衛生システムが利益を得る心理療法を世界的な視野を持ちながら推進することの重要性を強調している。

〔翻訳:古江 ナオミ〕

 

Letters to the Editor

■Sarah Michael, Neerja Chowdhary, Patrick Rawstorne, Tarun Dua. Developing competencies for the WHO mhGAP Intervention Guide Version 2.0 training package. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 248-249.

Developing competencies for the WHO mhGAP Intervention Guide Version 2.0 training package
WHO mhGAP 介入ガイドバージョン 2.0 トレーニングパッケージのためのコンピテンシーの開発

<要旨>
世界保健機関(WHO)が低・中所得国における治療格差の是正を目的とし、精神・神経・物質使用障害(MNS)に対して非専門の医療スタッフが精神的ケアを提供するために開発したメンタルヘルス・ギャップ・アクションプログラム(mhGAP)の介入ガイドバージョン 2.0 (mhGAP-IG V2.0)について述べられている。MNS状態の人に対する尊重の態度、優先的なMNS状態の特定と高齢化に関する知識、心理社会的介入と薬理学的介入を評価して提供するためのスキルなどの12のコア・コンピテンシーが含まれており、その開発方法、教育方法や評価方法についても記載されている。

〔翻訳:森本 佳奈〕

 

■Junfeng Li, Zhiyun Yang, Hui Qiu, Yu Wang, Lingyu Jian, Junjun Ji, Kefeng Li. Anxiety and depression among general population in China at the peak of the COVID-19 epidemic. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 249-250.

Anxiety and depression among general population in China at the peak of the COVID-19 epidemic
COVID-19流行のピーク時における中国の一般人口での不安と抑うつ

<要旨>
中国で全国的なオンライン調査が実施され、標準化された質問紙を用いた5000人超のアンケート調査の結果、不安または抑うつ、ないしはその両方の有病率は20.4%であった。2019年に報告された中国の一般人口におけるこれらの有病率が4%であったことと比較して、COVID-19の流行によりそれが急激に増加していることが明らかになった。中でも、COVID-19関連のニュースの視聴に費やす時間の長さがこれらの問題の発生と有意に関連していた。

〔翻訳:高松 直岐〕

 

■Roger S. McIntyre, Yena Lee. Preventing suicide in the context of the COVID-19 pandemic. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 250-251.

Preventing suicide in the context of the COVID-19 pandemic
COVID-19パンデミックの状況下における自殺予防

<要旨>
COVID-19による失業と関連する経済不安は自殺の危険性を有意に上昇させるだろう。本論文はCOVID-19パンデミックで想定される失業率と自殺者数の増加を予測している。COVID-19後の労働市場は不確定で、社会的隔離もまた自殺傾性を高める。政策による経済支援に加えて、心理的応急処置や個人のレジリエンスの向上、自殺リスクの高い人々への治療的介入など、公的・私的な対策が自殺予防のために重要である。

〔翻訳:増田 将人〕

 

■Sarah Watts, Mark van Ommeren, Pim Cuijpers. Open access of psychological intervention manuals. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 251-252.

Open access of psychological intervention manuals
心理学的介入マニュアルのオープンアクセス

<要旨>
本稿では、心理的介入は専門家だけでなく一般の医療スタッフによる実施にも効果があるため、効果的な介入の普及のために治療マニュアルへアクセスし、治療内容の詳細を知ることの重要性が述べられている。心理的治療のマニュアルは、研究方法論の重要な要素であり、心理的治療のオープンサイエンスの要点であるため、研究を発表する際には使用した心理的治療マニュアルへのオープンアクセスを必須とする制度の設立を推奨している。

〔翻訳:森本 佳奈〕

 

■Akash R. Wasil, John R. Weisz, Robert J. DeRubeis. Three questions to consider before developing a mental health app. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 252-253.

Three questions to consider before developing a mental health app
メンタルヘルスアプリを開発する前に考慮すべき3つの問題

<要旨>
メンタルヘルスの問題を抱えた人の多くが治療を受けられておらず、また、世界中でメンタルヘルスに係る臨床医が不足し治療格差が生じていることから、近年スマートフォンを用いたメンタルヘルスアプリ(MHアプリ)による治療介入が注目されている。著者らは、様々なMHアプリの競合、ユーザーを引き付けておく必要性、Webベースの代替手段の有用性、の3つの問題に言及し、新たにMHアプリに投資するよりも、実在するMHアプリの評価、誰に役立つ介入であるかの決定、実験的にエンゲージメント(ユーザーの特定のアプリへの誘導)を改善させる戦略の試行、などに注力すべきであると述べている。

〔翻訳:下島 里音〕

 

■Steffen Moritz, Stephen M. Silverstein, Mona Dietrichkeit, Jürgen Gallinat. Neurocognitive deficits in schizophrenia are likely to be less severe and less related to the disorder than previously thought. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 254-255.

Neurocognitive deficits in schizophrenia are likely to be less severe and less related to the disorder than previously thought
統合失調症患者の神経認知障害は、以前考えられていたよりも深刻でなく、障害との関連も薄い可能性がある

<要旨>
多くの統合失調症患者の神経認知テストの成績が低いのは、統合失調症自体に因ると過大に評価されており、統合失調症と関連するが統合失調症自体ではない、医学的あるいは心理的な要因の影響が十分に理解されていない、とMoritzらは述べている。統合失調症患者が対照群よりも、肥満や糖尿病、心血管系疾患といった神経認知能力を損なう疾患に多く罹患していることが重要である、と指摘している。

〔翻訳:熊谷 航一郎〕

WPA News

■Helen Herrman. The practice of psychiatry in health care and sustainable development: progress on the WPA Action Plan 2017-2020. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 256-257.

The practice of psychiatry in health care and sustainable development: progress on the WPA Action Plan 2017‐2020
ヘルスケアと持続可能な開発における精神医学の実践:2017年から2020年までのWPA活動計画の進展

<要旨>
WPAは70年前の発足当初から「メンタルヘルスを促進し、適切な専門的および倫理的基準を満たし、公衆衛生の原則を統合し、人権を尊重したメンタルヘルスの治療とケアを利用できる状況に人々が住む世界」を目指している。本稿では、2017年から2020年までの3年間において、メンタルヘルスサービス利用者と介護する家族との結びつきを最も強くするための活動や科学技術とメンタルヘルスの利用を促進する活動が優先して行われてきたことが述べられている。

〔翻訳:下島 里音〕

 

■Roger M.K. Ng. WPA educational initiatives: where are we after three years? World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 257-258.

WPA educational initiatives: where are we after three years?
WPAの教育への新しい取り組み:3年後の私たちはどこにいるのか?

<要旨>
直近の3年間、WPAはすべての人・場所への、すべての方法での教育を活性化するよう活動してきた。訓練された精神科医が不足している多くの地域において、WPAはプライマリケア医・医学生への教育を戦略的に行ってきた。国際的で標準的な最低限の訓練のメニューを作るため、卒後の精神科カリキュラムでの鍵となる推奨事項をWPAは発表している。そしてWPAは、医療サービスが十分に提供されていない地域で働く専門家への、トレーニングのためのプログラムを作成する国際的なタスクフォースも設定している。

〔翻訳:福島 弘之〕

 

■Dominic Hodgkin, Massimo Moscarelli, Agnes Rupp, Samuel H. Zuvekas. Mental health economics: bridging research, practice and policy. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 258-259.

Mental health economics: bridging research, practice and policy
メンタルヘルス経済学:研究、診療、政策をつなぐ

<要旨>
本稿では、世界各国における精神疾患や依存症のためのサービスの提供、組織、利用における経済的要因を調査する、メンタルヘルス経済学に関するWPAのセクションについて述べられている。学術的な研究を行ったり、精神保健サービスに関わる人々の間のコミュニケーションを円滑にすることが目的であり、具体的には精神障害の環境的負担、治療アプローチの費用対効果、精神保健への資金提供が他疾患と比べて不平等であること、精神科治療における意思決定へ影響を与える金銭的動機、政策などを含む個人の精神的健康の決定要因等について調査を行なっていることが報告されている。

〔翻訳:森本 佳奈〕

 

■Marco O. Bertelli, Luis Salvador-Carulla, Kerim M. Munir, Maria Luisa Scattoni, Muhammad Waqar Azeem, Afzal Javed. Intellectual developmental disorder and autism spectrum disorder in the WPA next triennium mainstream. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 260.

Intellectual developmental disorder and autism spectrum disorder in the WPA next triennium mainstream
知的発達障害と自閉スペクトラム症についてのWPAの今後3年間の主潮

<要旨>
WPAアクションプラン2021-2024は、知的発達障害や自閉スペクトラム症を有する人々の精神保健の需要に応じ、精神科医と他の医療従事者が協同するための戦略を開発し、医学生や若手の精神科医、医療従事者の能力の養成における協力関係を促進することを目指している。その包括的な目標は、障害者の権利に関する国連の条約に従って、知的発達障害と自閉スペクトラム症を有する人々の援助を世界中で強固にし、彼らが精神保健管理を享受する権利を保証することである。

〔翻訳:熊谷 航一郎〕

 

■Donatella Marazziti, Stephen M. Stahl. The relevance of COVID-19 pandemic to psychiatry. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 261.

The relevance of COVID ‐19 pandemic to psychiatry
COVID-19パンデミックと精神医学との関係

<要旨>
COVID-19大流行後の社会において精神科医に求められる役割について述べられている。例としては前線で従事する医療スタッフへの精神的支援や、パンデミックに対する急性反応だけでなく長期的影響へのケアが挙げられ、特に精神障害者等の社会的弱者への影響に留意すべきであることが強調されている。

〔翻訳:今川 弘〕

 

■Driss Moussaoui. Pierre Pichot’s 100th birthday. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 262.

Pierre Pichot's 100th birthday
ピエール・ピショーの100歳の誕生日

<要旨>
世界精神医学界(WPA)の5番目の理事長を務めたピエール・ピショーが、最近100歳の誕生日を迎えたことを祝して、彼の経歴と業績を紹介している。数々の出版、簡易精神症状評価尺度や行動療法のフランス語での導入を成し遂げ、1977年にWPAの理事長になった際には、冷戦という非常に深刻な危機に善処した。WPAの理事長職を退任後は、ヨーロッパ精神医学会の設立に尽力し、数ヶ国語に通じている強みを活かして、精神医学をより国際的なものにした。これらの動きは、精神医学の未来とWPAの役割についての彼の強いビジョンからもたらされたものであり、彼はフランス語を話し、ヨーロッパおよび世界の精神医学を尊重する真の教師である。

〔翻訳:古江 ナオミ〕

 

■Francesco Perris. ICD-11 sessions at the 19th World Congress of Psychiatry. World Psychiatry. 2020 Jun; 19(2): 263.

ICD-11 sessions at the 19th World Congress of Psychiatry
第19回世界精神医学会におけるICD-11セッション

<要旨>
第19回世界精神医学会はポルトガルのリスボンで2019年8月21日から24日にかけて開催され、本会議、教育コース、および様々な個人の発表において、疾病及び関連保健問題の国際統計分類第11版(ICD-11)の精神、行動、および神経発達障害の章のためにWHOの精神保健と薬物乱用の部門によって開発された臨床記述と診断ガイドラインが取り上げられた。全体として、ICD-11の精神、行動、および神経発達の章の開発や試作の全ての工程においてWHOとWPAが強力に協同することや、診断体系の普及や実施において両者の間でこれから確立されるであろう長期的な協力関係が強調された。

〔翻訳:熊谷 航一郎〕

 

翻訳協力者一覧

【監訳】
秋山 剛    NTT東日本関東病院

【翻訳】
認定NPO法人 日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/
高松 直岐     多摩あおば病院
河岸 嶺将     千葉県精神科医療センター
増田 将人     福岡大学医学部精神医学教室
下島 里音     鹿児島大学病院 神経科精神科
北岡 淳子     大阪精神医療センター
福島 弘之     醍醐病院
熊谷 航一郎    新潟大学医学部精神医学教室
川竹 絢子     京都大学医学部附属病院
森本 佳奈     大阪精神医療センター
今川 弘      東邦大学医療センター大森病院 精神神経医学講座
古江 ナオミ    鹿児島大学病院 神経科精神科
 

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