Nonsocial and social cognitive function in psychosis: interrelationships, specificity and innovative approaches
精神病の非社会的および社会的認知機能:相互関係、特異性および革新的アプローチ
<要旨>
同号のGreenらによる統合失調症の非社会的および社会的認知機能に関する総説で提起された重要な問題点として、本稿では、以下の3点について言及している。①統合失調症における非社会的認知機能と社会的認知機能との相互の関連について、②統合失調症以外の広義の精神疾患における認知機能障害について、③統合失調症における非社会的認知機能と社会的認知機能をどのように改善させるのが最も良いか。これらの帰結として、筆者は小児期や思春期の段階で、精神疾患にリスクのある認知領域を強化することでの予防や治療の可能性に言及している。
〔翻訳:入來 晃久〕
The “online brain”: how the Internet may be changing our cognition
「オンライン脳」:どのようにインターネットが我々の認知を変化させ得るか。
<抄録>
現代社会における多方面へのインターネットの影響は明らかである。しかしながら、我々の脳構造や脳機能に及ぼし得る影響が依然として研究の中心的テーマである。ここで我々は、インターネットが我々の認知をどのように変化させ得るのか、いくつかの鍵となる仮説を検証するために心理学的、精神医学的、神経画像での最近の発見を引用する。特に、オンラインの世界のどのような独特の特性が次の諸点に影響しているかについて探索する。a)注意力、常にオンラインの情報の流れが進展するため、集中力の持続が犠牲になり、情報源となる多数のメディアに注意が分散させられる。b)記憶過程、巨大でどこにでも存在するオンラインの情報源により、知識を引き出し、記憶し、さらに知識の何に価値を置くかに関する我々のやり方を変化させ始めている。c)オンラインの社会環境で現実世界の社会形成過程を想起させる能力としての社会的認知は、インターネットと、自己概念や自尊心を含めた社会的生活の相互作用を引き起こす。結局のところ、今までのエビデンスから言えることは、インターネットはこれらの分野の認知において、急性および持続する変化の両方を生み出し、これは脳の変化にも反映されているかもしれない。しかしながら、将来の研究に向けて優先するべきことは、若者の認知発達における過剰なオンラインメディア使用の影響と、老年者が使用する場合の認知の結果や脳への影響が若者とどのように違うかを決定することである。この前例のない新しい社会のファセットが、生涯我々の認知と脳にどのように影響するかを研究するために、インターネット研究がより幅広い研究分野にどのように組み込まれうるかという提唱を我々の結論とする。
<要旨>
これまでの研究で、心理学、精神医学、神経画像研究分野においてインターネットが我々の認知機能を変化させていることが示されている。多数の物事に注意を向けるようになり、記憶の過程が変化し、オンラインと現実世界での社会的認知の区別が難しくなることが指摘されている。子供の過剰なインターネット使用が脳の成熟を阻害する一方で、老化に伴う認知機能低下を防ぐ働きをする可能性がある。インターネットの有害事象を防ぎ有効活用するために、年齢による影響の違いを含め、より幅広い研究が必要である。
〔翻訳:森本 佳奈〕
Mental illness and well‐being: an affect regulation perspective
精神疾患と精神的健康:情動コントロールの観点から
<抄録>
メンタルヘルスは感情、ストレス反応性、衝動性、気分といった情動の状態に非常に左右される。これらの状態は我々がどのように考え、感じそして振る舞うかを形成する。情動は、たいていは適応的な機能を果たすが、不適応な情動制御や不適応な情動生成過程によってメンタルヘルスに有害な作用をきたすこともある。そこで、精神疾患や健康における情動生成や制御の役割を考察するための統合的な枠組みを我々は提示する。我々のモデルは情動生成を、状況への参加、評価、応答の反復サイクルとみなす。このモデルは情動制御を、情動生成の改変を目的とした反復的な一連の決定とみなす。情動制御の決定は、強いて言えばその情動について何が変更されるべきか識別したり、情動生成サイクルのどこで介入するかを選択したり、その介入をどのように実行するか選択したり、維持、変更または停止するかどうかの決定の制御の試みをモニターしたりすることを含む。これら決定に対しての困難は、おもにバイアスがかかったインプットによって生じ、臨床的症状、症候群、障害といった精神疾患の徴候を生み出す。このモデルは臨床的評価や治療に対し多くの意義をもつ。特に、このモデルは様々な情動の状態を特徴付けるための共通の一連の概念提示し、情動の生成と、情動の制御の間の相互作用を強調し、情動の制御過程の構成過程の評価と治療対象を識別し、精神的健康の促進、回復と同様、精神疾患の予防と治療にも適用できる。
<要旨>
精神疾患や幸精神的健康観点において、情動が生み出され、制御する役割を考えるにあたって著者らは統合的な枠組みを提示する。このモデルは様々な情動の状態を特徴付けるための共通の一連の概念を提示し、情動の生成と、情動の制御の間の相互作用を強調し、情動制御の構成過程の評価と治療対象を識別し、精神的健康の促進、回復と同様、精神疾患の予防と治療にも適用できる。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
Creating headspace for integrated youth mental health care
若者の総合精神的ケアのための拠点施設の創設
<要旨>
精神状態が悪化している時でも、若者は精神的ケアには最も結びつきにくいのが現状である。若者や家族がアクセスしやすいシステムが世界中で構築されつつあり、オーストラリアでは新しく10箇所に地域に基づいた拠点施設を作り、対面やオンラインでの早期精神的サポートを若者に行った結果、60%以上が症状や機能面での大幅な改善に繋がった。児童思春期精神医学はまだ小さく過渡期であるが、今後は精神的ケアの発展にも重要な役割を果たすだろう。
〔翻訳:森本 佳奈〕
Recovery colleges as a mental health innovation
精神保健の革新としてのリカバリーカレッジ
<要旨>
リカバリーカレッジは精神保健をよりリカバリー志向にするための国際的な取り組みである。精神疾患を持つ人たちはそこで社会的な疎外について発信し、セルフケアの技術を身につけて疾患と生活をコントロールする術を学ぶ。またリカバリーカレッジは、当事者スタッフと専門職スタッフのパートナーシップが基盤となっており、従来の薬物的・心理学的介入とは違ったものを提供できる。
〔翻訳:増田 将人〕
Mental Health First Aid training: lessons learned from the global spread of a community education program
メンタルヘルスファーストエイドトレーニング:世界的に普及した地域教育プログラムから得た教訓
<要旨>
メンタルヘルスファーストエイド(MHFA)は2000年にオーストラリアで始まった、エビデンスのある健康教育介入トレーニングプログラムである。メンタルヘルスの問題が起きている人、あるいはメンタルヘルスの危機的状況を経験している人に提供される支援で、適切な専門的支援を受けるまで、あるいは危機的状況が解決するまで提供される。2018年までにオーストラリアで70万人以上、世界で25か国270万人以上への普及に成功している。本稿ではMHFAが世界的に普及した6つの要因を概説している。
〔翻訳:入來 晃久〕
Nidotherapy: a cost‐effective systematic environmental intervention
Nidotherapy:コストパフォーマンスに優れた系統的環境介入
<要旨>
Nidotherapyは、個人と周囲の状況の関係をより疾患治療に適したものに改善するための系統的な環境介入である。しかし、その実践においては自尊心の低い患者といかに良好な関係を構築するか、妨害要因を想定した上でいかに計画・実行上を柔軟なものにするか等の課題がある。本稿ではNidotherapyが実臨床においてどう実践されているかを説明し、メンタルヘルスの全領域において活用できるものであると結論付けている。
〔翻訳:今川 弘〕
Nonsocial and social cognition in schizophrenia: current evidence and future directions
統合失調症の非社会的および社会的認知機能:現在のエビデンスと今後の方向性
<抄録>
統合失調症の認知機能障害は、幅広く非社会的および社会的な認知領域を含んでいる。それは統合失調症の中核的な特徴であり、治療と予後に大きな影響を与える。統合失調症における認知機能障害の原因、結果、および介入についての我々の理解は、近年大幅に増加してきた。本稿では、以下のようなトピックについて概説する。
a)統合失調症の非社会的認知、社会的認知、知覚障害の種類について。
b)統合失調症における認知機能障害が、他の疾患での認知機能障害とどの程度類似しているか、または異なるか。
c)統合失調症の前駆期および生涯にわたる認知機能障害について。
d)非社会的および社会的認知の神経基盤のニューロイメージング。
e)非社会的および社会的認知機能と機能的アウトカムとの関係。
この論文では、新規の精神薬理学、認知リハビリテーション、社会的認知トレーニング、および代替的アプローチを通じて統合失調症の認知機能障害を改善するために向けられてきた重要な取り組みについても概説している。最後のセクションでは、動機と認知の接点、小児期逆境体験の影響、メタ認知、神経炎症の役割、計算モデル化、遠隔デジタル技術の適用、脳ネットワーク機構を評価するための新しい方法など、新たに出現していて、将来の洞察につながる可能性のある分野について考察する。認知機能障害の研究は、統合失調症の広範な特徴にアプローチし、調べ、理解する方法を提供してきた。そして究極的には、複雑な障害である統合失調症をどのように定義し、診断するかに影響を与える可能性がある。
<要旨>
本稿は、統合失調症の中心的な特徴であり、治療と予後に大きな影響を与えるとされる非社会的認知、社会的認知についての総説である。非社会的・社会的認知の種類、他疾患との類似点と相違点、前駆期および生涯にわたる認知機能障害、神経基盤のニューロイメージング、機能的アウトカムとの関係について概説している。また、これまでに行われてきた認知機能障害を改善するための取り組みや、今後の方向性についても論じている。
〔翻訳:入來 晃久〕
Cognitive impairment and psychosis in schizophrenia: independent or linked conditions?
統合失調症における認知機能障害と精神病:独立かそれとも関連した状態か?
<要旨>
認知機能障害と精神病はしばしば併発するが、その関係については不明な点が多い。著者らは両病態の関係について4つの可能性を提示している。それは、相互に共通した遺伝素因・環境因を有する可能性、相互に共通した第3の因子を有する可能性、認知機能障害が統合失調症とは無関係に脳の脆弱性により起因する非特異的な現象の可能性、相互が偶発的に併発している可能性である。
〔翻訳:高松 直岐〕
The meaning of group differences in cognitive test performance
認知検査の成績における集団間の差の意義
<要旨>
記憶、注意、実行機能、社会認知の検査において、統合失調症と診断された人は対照群より正答が少なく反応が遅いが、これには検査時の環境などが総合的に影響していると考えられる。個人の最良な状態を知り、強み、肯定的な特性、信念を正確かつ動的に評価することが非常に重要である。
〔翻訳:大柳 有加〕
Cognition in schizophrenia: a marker of underlying neurodevelopmental problems?
統合失調症患者の認知機能:これは統合失調症の根底にある神経発達上の問題を示すマーカーなのか?
<要旨>
筆者は、同号のGreenによる統合失調症の認知機能についてのレビューの価値を支持しつつ、下記のような議論を追加して統合失調症患者の認知機能低下は疾患の原因や結果でなく、バイオマーカーであるという論を展開する。統合失調症の脆弱性因子と全般的な認知機能の関連遺伝子に共通点があることや、シナプス刈り込みに関連する補体C4遺伝子の異常が統合失調症のリスクとの関連、IQの低下の発達上の順序、統合失調症を神経変性疾患としてみることの難しさなどを挙げ、思春期の高リスク群においてさらなる認知機能低下を起こさないことが肝要だと述べている。
〔翻訳:安藝 森央〕
Cognition and disability in schizophrenia: cognition‐related skills deficits and decision‐making challenges add to morbidity
統合失調症における認知と能力障害:認知に関連したスキルの不足と、意思決定の課題の疾病への付加
<要旨>
筆者らは、身体的健康と統合失調症における認知機能障害の関係について概説している。統合失調症患者の20年間の体重増加と日常機能への影響の分析結果から、統合失調症の認知機能障害は能力障害と直接相関するだけでなく、認知機能の悪化によって適切な食事や運動を行うことができないことも病状を悪化させていると結論付け、適切な認知強化療法が効果をあげる可能性について論じている。
〔翻訳:入來 晃久〕
Why are there no approved treatments for cognitive impairment in schizophrenia?
統合失調症の認知機能障害に対して承認された治療がないのはなぜか?
<要旨>
統合失調症の認知機能障害に対する薬物療法・行動療法で承認されているものは世界的にも存在しない。その理由として、他の研究領域と比較して治療開発のための投資額が少ないことや、これまで研究成果が上げられなかった背景に、方法論的な問題点、対象患者の年齢層の問題点等があることを著者は指摘している。
〔翻訳:高松 直岐〕
Innovative methods for improving cognition, motivation and wellbeing in schizophrenia
統合失調症における認知、意欲、生活満足度を改善するための革新的手法
<要旨>
統合失調症における認知機能・意欲の障害は患者の生活の質や満足度に直結する症状であり、これらに対して、発症早期より効果的なアプローチを行うことが、予後を改善するために重要である。本稿では効果的なアプローチとして、モダフィニルによる薬物療法と、筆者の研究グループが開発した認知訓練とゲーム技術を組み合わせた「Wizard memory game」の有効性について紹介している。
〔翻訳:今川 弘〕
The need to develop personalized interventions to improve cognition in schizophrenia
統合失調症において認知機能を向上させるための個別的な介入を発展させる必要性
<要旨>
統合失調症患者における有酸素運動の認知機能への影響と海馬の体積変化について述べ、polygenic riskが高い群では有酸素運動量の増加が神経可塑性の過程に悪影響を与えると推測している。有酸素運動が有効な患者群において、認知機能向上に貢献する個々の遺伝子、環境要因を評価することが、統合失調症の認知機能を向上させる個別介入の発展に寄与するだろう。
〔翻訳:大柳 有加〕
Cognitive impairment as a diagnostic criterion and treatment target in schizophrenia
統合失調症の診断基準と治療対象としての認知機能障害
<要旨>
認知機能障害は統合失調症で広く見られる症状であり、将来的には診断基準の項目に含まれるかもしれない。しかし、より詳細な理解が得られるまでは、統合失調症の認知機能障害はいくつかの異なる精神疾患が偶然に重なった状態を示している可能性を無視するべきではない。また、診断基準だけでなく薬物療法、非薬物療法に対す意味合いも慎重に検討すべきである。
〔翻訳:増田 将人〕
Examining the independent and joint effects of molecular genetic liability and environmental exposures in schizophrenia: results from the EUGEI study
統合失調症における分子遺伝学的脆弱性と環境暴露の独立効果と連合効果:EUGEI studyの結果より
<抄録>
統合失調症は小さな効果のある複数の共通遺伝子変異や度重なる環境暴露などの背景危険因子と関連する遺伝性複合表現型である。代理遺伝子的脆弱性測定を用いた若年双生児や家族研究において、遺伝と環境の相互作用が統合失調スペクトラム障害の病因であることが示唆されたが、分子的根拠は乏しい。
本稿において、我々は1699人の統合失調スペクトラム障害と診断された患者群と1542人の生涯で一度も統合失調症と診断をされたことがない対照群を対象とした統合失調症の多遺伝子リスクスコア(polygenic risk score for schizophrenia = PRS-SCZ)と環境暴露の双方の関連性を分析することにより、統合失調症の遺伝と環境の相互作用に関するより詳細なエビデンスを提供する。
生涯における習慣的な大麻使用や若年期の逆境体験(性的虐待、情緒的虐待、情緒的ネグレクト、いじめ)の存在が、統合失調症の分子遺伝学的発症危険状態(対照分布のPRS-SCZにおける75%を超える状態)との間で相加的相互作用が認められるが、聴力障害、冬季での出生、小児期の身体的虐待もしくは身体的ネグレクトとの間では認められないというエビデンスが発見された。従来のPRS-SCZの75%以上というカットポイントから、代用のカットポイント(50%と25%)に置き換えたものによる感度分析により、相加的交互作用の存在が裏付けられた。この結果は統合失調症の疾病原因論に、ある環境暴露に対して個人がより過敏に影響を受けるという遺伝基盤が関係することを示唆している。
<要旨>
現在、GWAS(ゲノムワイド関連解析)によるSNPsの解析の結果、統合失調症の疾患遺伝率は、双子研究から予想されるよりもはるかに小さかったことがわかった。このギャップは、環境要因と遺伝学的基盤の相互作用によるものと思われたが、これを立証した候補遺伝子アプローチによる報告は今までなかった。本研究ではPRS-SCZと環境暴露の関連性を分析することにより、統合失調症の分子遺伝学的発症危険状態において、小児期の逆境体験や大麻使用等の環境要因が加わることにより、相乗的に発症率を高まることを明らかにした。
〔翻訳:今川 弘〕
The symptom‐specific efficacy of antidepressant medication vs. cognitive behavioral therapy in the treatment of depression: results from an individual patient data meta‐analysis
うつ病治療における抗うつ薬と認知行動療法の症状特異的な効果:個別患者データにおけるメタアナリシスの結果から
<抄録>
最近示された患者データのメタアナリシスによると、DSMで定義されたうつ病患者の全体的な抑うつの重症度を改善させる点で、抗うつ薬は認知行動療法よりもやや効果的であった。われわれはアップデートされた17のランダム化臨床試験を用いて、17項目のハミルトンうつ病評価尺度で評価されたそれぞれのうつ病症状に焦点を当て、薬物療法とCBTの効果をより詳細に比較した。5つの症状(「抑うつ気分」、「罪責感」、「自殺念慮」、「不安の精神症状」、および「全身の身体症状」)においては、CBTよりも薬物治療に大きな改善が見られたが(効果量は0.13から0.16)、そのほかの12の症状では有意な差は見られなかった。加えて、ネットワーク推定法は、「抑うつ気分」を除いてすべての効果は直接的で、その他の直接的あるいは間接的な治療効果では説明できないことを明らかにした。探索的データ解析により、症状特異的な効果の情報は、治療選択の上で適した患者群の同定に有用である可能性が示された。つまり、治療前の症状別の有効性を検討することにより、CBTよりも薬物療法が有効か(効果量0.30)、それとも両者の効果が同程度なのかという判別の助けになる可能性がある。まとめると、症状に基づいたアプローチにより、薬物療法のCBTを上回る効果についてより詳細な評価につながり、“precision psychiatry”における可能性を示している。
<要旨>
患者データを用いたメタアナリシスの結果を検証し、ハミルトンうつ病評価尺度のうち、特定の5つの項目では薬物療法がCBTよりも効果があることが示された。症状特異的な有効性を検討することにより、患者に適した治療選択に有用である可能性が示された。
〔翻訳:増田 将人〕
Transdiagnostic psychiatry: a systematic review
診断横断的精神医学についての論文のシステマティックレビュー
<抄録>
現在使われている精神科疾患分類、つまりICDやDSMの分類学的診断に基づいた分類が有用かどうかについて未だ疑問が残っている。そこで、「診断横断的」アプローチが将来性のある選択肢としてあげられている。これは、現存する分類学的診断を横断的に分解し、精神疾患を分類し治療する方法をさらに改善すると期待されている。
このシステマティックレビューは、自己定義的である診断横断的研究がそのような高い期待に敵うものかを探求するものである。プロトコルに沿って複数ステップに分けてWeb of Scienceに上がっている研究が検索され、2018年5月5日までにタイトルに”transdiagnostic”という単語が使われた全ての文献が同定された。中核的な特徴を述べている変数が経験的に抽出され、計量書誌学的(訳者注:文献や記事に対する構成要素を計量的に研究する)、あるいは概念的解析を補完的に行った。
111の研究が含められた。ほとんどの研究が調査的介入を行っており、認識的、心理的調査や神経科学的考察がその後に続いた。各研究には15人ー91199人(中央値148人)の患者が参加し、平均年齢は10歳から60歳以上(中央値33歳)に分散していた。基準となる診断基準(DSM及びICDの診断)、結果の計測、診断横断的なアプローチの定義に関連する点で、方法論的に一貫性が欠けている。研究の質は全般的に低く、いくつかの知見が再現されているのみであった。研究の多くは、異なった診断の間に見られる診断横断的な特徴について検証するもので、既存の診断を越えた新しい分類システムを試した研究はほんの少しだけだった。約5分の1の研究は診断横断的ですらなかった。というのは、対象とされる症状が複数疾患横断的ではなく単一疾患のみについてであったり、診断についての情報が欠けていたからである。
計量書誌学的解析から、疾患横断的研究は多くの場合、不安症圏や抑うつ症圏に限られていることがわかった。概念的解析からは、疾患横断的研究は真の診断基準改革よりは「再発見」という内容に基づいており、概念バイアスに影響されていることがわかった。現時点で、疾患横断的アプローチは分類や臨床的ケアに影響を与えるような信頼に足るパラダイムシフトを起こしてはいない。臨床上有益な真に診断「横断(TRANSD)」的な推奨事項が、この領域の将来の研究を導くために提案されている。
<要旨>
精神科診断のゴールドスタンダードといえるICDやDSMにも疑問が残る中で、「診断横断的アプローチ」が精神疾患の分類治療を改善するのではないかと期待が寄せられている。本稿は診断横断的アプローチを行っている論文について系統的レビューを行い、計量書誌学的、概念的解析を行い、質が整っているとはいえないことを指摘している。筆者はこのような中で、診断横断的研究を推し進めるために、TRANSDの頭文字を持つ6つのポイントを提唱している。
〔翻訳:安藝 森央〕
Long‐term effectiveness of oral second‐generation antipsychotics in patients with schizophrenia and related disorders: a systematic review and meta‐analysis of direct head‐to‐head comparisons
統合失調症および関連疾患における第2世代抗精神病薬経口剤の長期有効性:直接比較試験のシステマティックレビューとメタ解析
<抄録>
統合失調症の維持療法においては第2世代抗精神病薬(SGA)が推奨されている。しかし、各SGAの長期有効性の違いは明らかになっていない。我々は統合失調症および関連疾患におけるSGAの有効性を直接比較した6か月以上のランダム化試験について、システマティックレビューとメタ解析を実施した。主要アウトカムは全原因による中止とした。副次アウトカムは精神病理、無効および忍容性に関連した中止、再発、入院、寛解、機能、QOL、有害事象を含む有効性および忍容性とした。プールされたリスク比および標準化平均差の算出にはランダム効果モデルを用いた。59研究(45,787例、持続期間47.4±32.1週[24~186週])からの有効性、忍容性の結果において、SGAの一貫した優位性は認められなかった。全原因による中止では、クロザピン、オランザピン、リスペリドンは他のSGAよりも有意に優れていたが(p<0.05)、クエチアピンは他のSGAよりも劣っていた。精神病理学的側面では、クロザピン、オランザピンは他のSGAよりも優れていたが、クエチアピン、ジプラシドンは他のSGAよりも劣っていた。他の有効性アウトカムに関するデータは少なかった。忍容性に関連した中止では、他のSGAと比較し、リスペリドンは優れていて、クロザピンは劣っていた。体重増加については、オランザピンは、クロザピンを除く他の全てのSGAよりも悪く、リスペリドンはいくつかのSGAよりも有意に悪かった。プロラクチン増加については、リスペリドン、アミスルピリドはいくつかのSGAよりも有意に悪かった。パーキンソン症候群については、オランザピンは、リスペリドンよりも優れていたが、アカシジアについては有意な差が認められなかった。鎮静および傾眠作用については、クロザピンおよびクエチアピンは、他のSGAよりも有意に悪かった。まとめると、さまざまなSGAの長期有効性および忍容性のパターンが明らかとなった。維持療法の治療効果を最適化するため、特定のSGAにおける長期的なリスクとベネフィットのプロファイルは個々の患者に合わせて調整する必要がある。
<要旨>
統合失調症の維持療法においては第2世代抗精神病薬(SGA)が推奨されているが、各SGAの長期有効性の違いは明らかになっていない。本研究は統合失調症および関連疾患におけるSGAの有効性を直接比較した6か月以上のランダム化試験についてシステマティックレビューとメタ解析を実施し、さまざまなSGAの長期有効性および忍容性のパターンを明らかにした。
〔翻訳:高松 直岐〕
The modern unconscious
現代の無意識
<要旨>
心的出来事の研究は非科学的とかつて切り捨てられた時代の行動主義から、科学技術の進歩によりもたらされた認知革命、フロイトによる無意識の研究、認知心理学へと発展を遂げた。現代の無意識の研究はこれらの統合であり、これまでの集合的な知恵を結びつけることでよりヒトの心の理解につながることが述べられている。
〔翻訳:高松 直岐〕
Acceptance and commitment therapy: towards a unified model of behavior change
アクセプタンス&コミットメント・セラピー:行動変容の統一モデルへ向けて
<要旨>
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は35年間にわたり発展してきたが、人間の心理的問題を軽減し、行動による効果を促進する統一的なプロセスベースドモデルの作成という、大いなる目標に向かって長々しい戦略をたどってきた。筆者らは行わなければならないことは依然多いが、ACTそれ自体は実行可能なエビデンスベースドな治療法として形作られ、進化的にそして文脈的な行動科学的原則を土台とする行動変容の統一モデルに基づいていると述べている。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
The need to investigate nocebo effects in more detail
ノセボ効果をより詳細に検証する必要性
<要旨>
臨床研究に診療行為においても、過去何年もプラセボ効果に注目した議論は数多く行われているものの、ノセボ効果についてはそれほど注意を払われてこなかった。コンプライアンスの向上や治療中断の減少につながるので精神科ではノセボ効果の理解が重要である。筆者らは神経生理学的アプローチによって精神疾患に対するノセボ効果の生物学的な情報が分かり、一方で方法論的観点によってもっとよい臨床研究をデザインできるようになるとしている。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
Key lessons learned from the INDIGO global network on mental health related stigma and discrimination
精神保健に関連したスティグマと差別に関するINDIGO global networkから学ぶ重要な教訓
<要旨>
INDIGO network の最近10年の活動の中で、スティグマと差別は世界的に見られるが変化し得るもので、その表現は文化によって多様であることがわかった。スティグマに対抗するために、networkから生まれた教訓をいかに利用するかについて現在検討されているところである。
〔翻訳:大柳 有加〕
Addressing the opioid crisis globally
オピオイド危機が世界的に起こっているという警告
<要旨>
筆者は、2015年以降WHOの略式科学ネットワーク(ISN)が声明として出しているオピオイド過量内服問題について説明している。罹患率と致死率の高いオピオイドの過量内服は北アメリカを中心に世界中に広がり、その原因は多岐に及ぶと考えられている。オピオイド危機を制圧するためには、包括的でエビデンスに基づいた質の高い治療が利用できることが必要であり、治療への経済的側面の支援、ナロキソンの使用拡大、社会的阻害やスティグマへの対応、刑執行機関と保健機関の強い連携が必要であると述べ、最後にISNの推奨内容を引用している。
〔翻訳:安藝 森央〕
Neurocognitive disorders in ICD‐11: a new proposal and its outcome
ICD-11の神経認知障害:新しい提案と成果
<要旨>
認知症を精神疾患として分類するか、あるいは神経疾患として分類するかは、長らく議論されてきた。来るICD-11では、第6章の精神疾患では「神経認知障害」、第8章の神経疾患では「主症状として神経認知障害を呈する疾患」が掲載される。その中で、第6章の「血管性認知症」は、第8章の「血管性認知機能障害vascular cognitive impairment; VCI」という新しい概念として置き換えられる動きがあるが、依然として議論・検討の余地がある。
〔翻訳:増田 将人〕
Public stakeholders’ comments on ICD‐11 chapters related to mental and sexual health
ICD-11精神および性の健康に関連する章に対しての精神保健関係者からのパブリックコメント
<要旨>
ICD-11の開発において、WHOは世界中の精神保健関係者からのコメントをオープンにしている。本稿では、寄せられた中から大きな反響のあったカテゴリについて、その主だったコメントを質的解析している。強迫的性行動症ではICD-11への収載における利害関係の議論が白熱した。複雑性PTSDにおいては疾患への認識による治療や研究への期待が寄せられている。身体的苦痛症には概念的問題や用語的問題が寄せられた。性の健康に関連する状態については、精神障害とは別の章を立てるべきだというコメントが多く、性別不合などの診断を削除するべきとコメントが続いた。コメントの多くは患者団体の視点からのフィードバックに近く、WHOはこれらをヒントにしてICD-11の修正を行っている。
〔翻訳:安藝 森央〕
The controversy about cognitive behavioural therapy for schizophrenia
統合失調症に対する認知行動療法についての議論
<要旨>
現在統合失調症に対する認知行動療法(CBT)の効果について論争中である。英国国立医療技術評価機構(NICE:National Institute for Health and Care Excellence)は推奨しているが、コクラン共同計画は2012年から根拠に乏しいと否定している。二つのメタアナリシスで分かった統合失調症陽性症状に対するCBTの効果に関する乖離(特にブラインド試験において)は、実質的に異なるデータセットが調べられていたことを示していると結論づけている。
〔翻訳:河岸 嶺将〕
ICD‐11 PTSD and complex PTSD: structural validation using network analysis
ICD-11におけるPTSDと複雑性PTSD:ネットワーク分析を用いた構造検証
<要旨>
ネットワーク手法により、PTSDと複雑性PTSDの症状の関連性からそれらの精神病理や診断構造の重なりが分かる。そこでICD-11におけるPTSDと複雑性PTSDの診断基準を開発する際に、最初のネットワーク手法として、外傷後例の2群の研究を行ったところ、症状はPTSDと自己組織化の困難(DSO)の二つの大きな集団を形成した。最も関連性が強かったのは、それぞれPTSDとDSOのサブドメインに属する症状だった。外傷を受ける文脈や症状の違いを研究することで、被害者毎の外傷体験の特徴が理解できるだろう。
〔翻訳:森本 佳奈〕
Sluggish cognitive tempo: the need for global inquiry
Sluggish cognitive tempo:世界的な検証の必要性
<要旨>
Sluggish cognitive tempo(SCT)とは、過剰な白昼夢、精神混乱と意識水準の低下、眠気、思考と行動の鈍化を特徴とする一連の症状で、ADHDの不注意症状と強く関連している。この概念に関するより大規模な世界的調査が必要であり、翻訳版SCT評価スケールの妥当性を確立し、SCTの現象学、発展の仕方、機能的影響をより理解し、社会的因子との関連も考慮されるべきであると筆者は述べている。
〔翻訳:大柳 有加〕
WPA Secretariat: keeping pace with changing times!
WPA Secretariat:時代の変化に遅れない!
<要旨>
本稿ではWPA Secretariat の活動と変遷について詳細に述べられている。
〔翻訳:大柳 有加〕
HIV/AIDS psychiatry – a paradigm for HIV prevention and integrated compassionate care
HIV/AIDS 精神医学 -HIV予防と思いやりのあるケアに関する認識
<要旨>
コンサルテーションリエゾン精神医学の枠組みの中で始まり、その予防、ケア、治療に重点を置いてきたHIV/AIDS精神医学は、コンサルテーションリエゾン精神医学全体の範囲を予防、公衆衛生を含むまでに拡大させた。
〔翻訳:大柳 有加〕
Current goals of neuroimaging for mental disorders: a report by the WPA Section on Neuroimaging in Psychiatry
精神障害に対する神経画像の現在の目標:WPA(世界精神医学会)における精神医学分野での神経画像部門からの報告
<要旨>
現在までの精神医学分野における神経画像研究では、診断分類に対するバイオマーカーになり得るような成果は出ていない。しかし疾患や治療反応性の早期特定の発展等の臨床場面への応用が期待されており、例えば精神病における診断・予後予測の正確性を高めるための定量的指標や、遺伝と神経画像の関連性の解明等が注目されている。
〔翻訳:今川 弘〕
Implementation of the Action Plan of the WPA Secretary for Publications
出版物に関するWPA secretaryのAction Plan の実施
<要旨>
2017年-2020年のWPA Action Planの原則と、WPA secretaryの出版物に関する特定のAction Planについて述べられている。二つの軸のうちの一つは、精神医学と精神保健において、根拠と価値に基づいた知識と、優れた実践を普及させることである。もう一つの軸は、WPAの出版を促進することであり、既にロゴに関する規則を作成しており、現在出版物に関するいくつかのプロジェクトが進行中である。
〔翻訳:大柳 有加〕
Undergraduate psychiatric education: a snapshot of medical students across the world
卒前精神科教育:世界の医学生の現状
<要旨>
この論文は国際医学生連盟(IFMSA)と世界精神医学会(WPA)の連携による、前例のあまり無い世界の卒前精神科教育の調査である。その結果教育期間に地域差があり、アジアや環太平洋地域は短い傾向にあった。全世界的に実践教育よりも理論を重視し、多項選択式問題や総括的評価が好まれていた。今回の研究が卒前精神科教育について考えるきっかけとなり多くの医学生が精神科を選択することが期待される。
〔翻訳:森本 佳奈〕
【監訳】
秋山 剛 NTT東日本関東病院
【翻訳】
認定NPO法人 日本若手精神科医の会(JYPO)会員 http://jypo.or.jp/
高松 直岐 多摩あおば病院
森本 佳奈 京都市児童福祉センター
入來 晃久 大阪精神医療センター
河岸 嶺将 千葉県精神科医療センター
今川 弘 東邦大学医療センター大森病院 精神神経医学講座
安藝 森央 公立豊岡病院
大柳 有加 北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室
増田 将人 福岡大学医学部精神医学教室