公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

過去のRANZCP派遣者一覧

更新日時:2023年6月22日

過去にRANZCPにJSPNの代表として派遣された先生方の、発表演題や感想を以下に掲載します。
ご応募の際、ぜひご参考になさってください。
(※ ご所属はRANZCP派遣当時の所属施設名を掲載しております)

2023年派遣者

■氏名: 桂川 修一

■所属: 東邦大学医療センター佐倉病院メンタルヘルスクリニック

■発表日: 2023年5月31日

■発表演題名:
Current status and challenges of accepting foreign workers and refugees in Japan

■感想:
2023年5月28日から31日までRANZCP 2023 Congressに関西医科大学医学部精神神経医学講座 青木宣篤先生、東邦大学医学部精神神経医学講座 福井英理子先生とともに参加しました。今回の総会はNew horizons connected futuresをテーマに多文化間精神医学に関する内容が多く取り上げられていました。私たちはTranscultural mental healthと題したVinay Lakra 教授の企画によるPresidential symposiumで、西オーストラリア州の精神科医でいらっしゃるMohan Isaac先生、Ahmed Munib先生とともに発表しました。シンポジウムの詳細は青木先生、福井先生のご報告をお読みください。
29日(月)オープニング・プレナリーセッションの前にFirst timers & greet and networkingという初めての参加者を対象とした交流会があり、そこでオーストラリアとニュージーランドおよびアジアの若手の精神科医と情報交換をしました。また、Australian psychiatryと題したシンポジウムでは学会誌への投稿論文の指導や論文のポッドキャスト化、さらに医学生を対象とした精神医学のカリキュラム開発といった新たな教育システムにかかわる発表を聞き、日本の医学教育にとってもたいへん参考になる内容でした。
今回は約1,800名の参加があったと理事長のLakra 教授から伺いましたが、5月31日に新たに理事長に就任されたElizabeth Moore先生から会期中細やかなお心遣いをいただき、おふたりの先生ならびに今回の派遣をご推薦くださった精神神経学会国際委員会の先生がたに心から感謝申し上げます。


■氏名: 青木 宣篤

■所属: 関西医科大学医学部精神神経科学講座/University of New South Wales/Black Dog Institute

■発表日: 2023年5月31日

■発表演題名:How Japanese psychiatrists can work to bridge cultural gap: real-life experience

■感想: 
この度、Perthで開催されたRANZCP 2023 CongressのJSPN/RANZCPジョイントシンポジウムで発表する機会をいただき誠にありがとうございます。
今大会のテーマは“New horizons connected the futures”であり、異なる多くの人種と文化が共存共栄するオーストラリアの特色が色濃く反映したプログラム構成でした。大会長であるVinay Lalra会長をオーガナイザーとし、Transcultural mental healthのシンポジウムで発表をさせていただきました。私は主に、オーストラリアと日本における人口統計的差異や医療システム、日本の精神科医療に関する概観について説明し、精神科医が置かれている環境について参加者と共有しました。なかでも、日本の精神科病床数と平均在院日数については会場からも驚きの声が漏れ出ており、システムとしてGPが存在せずほぼダイレクトに専門医療機関を受診できる日本は、外来・入院共に対応すべき患者数に根本的に差があることにも大変興味を持っていただきました。
その他、オーストラリアでは世界に先駆けてpsychedelic and psychotherapyがこの7月より開始となるため、psilocybineとMDMAの取扱についてのセッションは多くの聴衆を集め、発表者をはじめ当事者間ですら混乱をとても払拭できた状況での船出とはならないといった印象を受けました。
私自身が2022年4月よりシドニーにあるUniversity of New South Walesへ留学中であり、文化間ギャップに苛まされている中でも、Colleen Loo教授をはじめとしたチームメンバー達は他文化に対する敬意の念を常に忘れることなく、その大らかさをもって無理なく適応を促してくれていたという経験を通じ、Transcultural Psychiatryの視点を強く意識するようになった経緯があり、今回のRANZCP 2023 Congressに応募させていただきました。その点を汲んでくださり、派遣の機会をいただけましたこと、髙橋先生をはじめとする国際委員会の先生方、および一緒に発表を行った福井先生、桂川先生に厚く御礼申し上げます。


■氏名: 福井 英理子

■所属: 東邦大学医学部精神神経医学講座/港北病院

■発表日: 2023年5月31日

■発表演題名:Transcultural Mental Health Among Return Migrants in Japan: Focusing on Their Ethnic Identity

■感想:
2023年5月28日から6月1日まで、The Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists年次総会に日本精神神経学会代表派遣者として参加させていただきました。
開催地のパースは西海岸に位置するオーストラリア第4の都市で、地中海性気候に属し、年間を通して穏やかな気候と人々のあたたかさで知られています。
到着した28日夜には西オーストラリア州立美術館にてウェルカムレセプションに参加し、PresidentであるVinay Lakra先生、Elizabeth Moore先生をはじめご参加の先生方と交流を持ちました。世界中の先生が一堂に会し歓談する機会を体験することができ、圧倒されるとともに大変刺激を受けました。
翌日からはPlenary SessionやSymposiumを聴講しました。国民の25%以上が海外で出生し、63の言語が使用され、45%の医療スタッフが海外で資格を取得しているというmulticulturalの根付いたオーストラリアならではの多彩な発表が展開され、カナダやイギリスから招待された先生の基調講演では、各国における移民や先住民族の現状、異文化適応、メンタルヘルスに関する取り組みを学ぶことができました。
31日にはJoint JSPN/RANZCP symposium: transcultural mental health - lessons from Australia, New Zealand and Japanにて、若年日系ブラジル人のメンタルヘルスと民族アイデンティティの関連、そしてオーストラリアのheadspaceに発想を得た我々の取り組みを発表しました。桂川先生がご発表された在留外国人の推移やメンタルヘルスの課題、そして青木先生がご発表された日本の精神科医療の現状や特徴、オーストラリアとの比較についても大変示唆に富む内容で、本会のテーマである”NEW HORIZONS CONNECTED FUTURE” の通り、外国人の受入れがすすむ日本において今後の精神医学の発展を支えるシンポジウムであると感じました。演者の先生からお褒めの言葉をいただくことができたのも、一生忘れられない思い出です。
同日の州立博物館でのGala dinnerにも参加させていただき、学会期間を通してRANZCPの先生方や現地パースの方々のあたたかさに触れ、とても有意義な時間を過ごすことができました。このような貴重な機会をいただき、RANZCPの先生方をはじめ日本精神神経学会の先生方、東邦大学・港北病院の先生方、そして桂川先生、青木先生に心より御礼申し上げます。

 

2022年派遣者

■氏名: 岸本 年史

■所属: 秋津鴻池病院、鈴鹿医療科学大学

■発表日: 2022年5月17日

■発表演題名:
Current Status and Issues of Advance Care Planning (ACP) in Psychiatric Practice in Japan

■感想:
“healthy aging”をテーマとしたJoint JSPN/RANZCP symposium(座長は学会会長 Vinay Lakra先生)で「精神科診療におけるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の現状と課題」について、日本におけるACPの歴史的背景と現状と課題、人生の最終段階における医療・ケアと意思決定のプロセスを発表いたしました。
JSPNからは私と慈恵医大 曽根大地先生が発表いたしました。RANZCPからは、 P. Sachedev教授とH. Brodaty教授(ともにニューサウスウェールズ大学)が発表しました。 Sachedev教授は認知症の危険因子について、 Brodaty教授は認知症の診断、治療とケアについて話しました。多数の聴講者がいましたが、印象としては認知症についてこれからの若い国だと思いました。現地滞在は3日だけで、おまけに日本に入国のためのPCR検査や診断書をもらうことで半日ずつ費やし、学会の出席は十分できなかったのが実情ですが、ガラディナーなどのプログラムにも感染に注意を払いながら出席し、両学会の人的交流の役割も果たせたと思っております。
開催都市のSydneyには何度か来ておりますが、入国にあたってのデジタル査証やオーストラリア入国デジタル申告書などオンラインでの申請であり、学会も発表者だけでなく質問者もタブレットを用いるなどデジタル化が進んでおり、我が国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れも痛感いたしました。週末には国政選挙も予定されており、われわれの学会や国のあり方についても考えさせられることの多い参加でした。


■氏名: 曾根 大地

■所属: 東京慈恵会医科大学精神医学講座/UCL Queen Square Institute of Neurology

■発表日: 2022年5月17日

■発表演題名:
[シンポジウム] How can we achieve healthy aging? Lessons from neuroimaging-based “brain age” studies
[一般演題] Data-driven disease progression patterns of brain morphology in schizophrenia: A machine-learning approach

■感想: 
シドニーで行われたRANZCP 2022 Congressにて、JSPN/RANZCP合同シンポジウムで発表する貴重な機会をいただきました。長い長いコロナ禍を経て、私も留学先のロンドンから帰国後1年以上も日本国内に居り、ようやくの国際学会への現地参加となりました。実に2019年末の北米てんかん学会以来、2年半ぶりのことです。
大会テーマは“Stronger Bridges, Safer Harbours”という実にシドニーを意識したもので、大変盛況でした。会場は美しいDarling Harbourに面し、素晴らしい天候にも恵まれました。オペラハウス内からSydney Harbour Bridgeを望むレセプション、Ivy BallroomでのGalaディナーなど、社交イベントも徐々にコロナ前に戻っていくものと感じられました。
シンポジウムは“Healthy ageing”がテーマで、超高齢化社会を迎える日本にとって大変重要な課題であったと思います。私は脳画像に基づく脳年齢予測システム、特に地域高齢者コホートでの解析結果等についてお話しさせて頂きました。New South Wales大学からはHenry Brodaty教授とPerminder Sachdev教授が講演され、極めて高いレベルの研究業績に基づいた、大変充実した内容でした。JSPNシニアの派遣者である岸本年史先生は、高齢者における意思決定の問題点について、特に慢性期の精神疾患を抱えた方のことを交えてお話しされました。岸本先生は大変気さくな方で、今回ご一緒させて頂いて本当にありがたかったです。また、大会後にPerminder Sachdev教授から直接メールを頂き、脳年齢研究について今後の発展への示唆と助言をもらい、今後協力して研究できる関係が築けるかもしれません。また今回、折角なので一般演題でポスターも出してみたのですが、発表時間中ほぼずっと色々な参加者の先生方と話し込んでいる状態で、大変充実した時間を過ごせたと共に、オンラインが大変便利ではある一方、現地参加での学会がいかに重要なものかを実感しました。
最後になりますが、このような貴重な機会を頂いた、日本精神神経学会、特に髙橋英彦先生を始めとした国際委員会の先生方、スタッフの方々、Vinay Lakra理事長を始めとしたRANZCPの方々、快く送り出して頂いた、繁田雅弘先生を始めとした東京慈恵会医科大学精神医学講座の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

2021年派遣者

■氏名: 黒川 駿哉

■所属: 慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室

■発表日: 2021年5月18日

■発表演題名:Rethinking the history and the future of patients' rights in Japan

■感想: 
このたび、RANZCP2021Hobart大会(COVID-19の影響でハイブリッド開催)で、JSPN/RANZCP合同シンポジウム”Patients’ rights”で発表(収録)をする貴重な機会をいただきました。

最初にGill 教授からオーストラリアで強制的治療が増加している現状の分析と対策について、次いでJSPN代表で矢野先生から日本の精神医療の歴史について、Brayley先生から患者の意思決定補助のフレームワークについてお話しいただきました。私は日本の精神医療の社会的スティグマ、看護師配置の精神科特例があることの影響、拘束に頼らざるを得ない現状に触れました。そして、今後は社会に対する疾病教育を進め、また拘束がないことが患者の予後にもよいというエビデンスを日本からも出していくことが必要であるという意見を述べました。

他にも学会では幅広いテーマの議論が用意されており、特に児童領域での経済的コストについての考察や、大規模コホートによるADHDの学習へ影響などについて興味深く拝聴しました。現地のホームドクター制を採用した医療制度上、費用対効果や疫学研究を大切にしていることを強く感じました。

今回のテーマは現地の先生方にとってもデリケートな話題であっただけに、現地の先生方からの直接の反応やフィードバックがないことの物足りなさが残ったというのが正直なところです。しかしながら、今回現地の先生方に向けてという意識で準備をすることが、海外と比較しながら日本の医療制度を見直す大変貴重な機会になりました。またCOVID-19が落ち着いたときには現地参加で議論できることを祈っております。


■氏名: 矢野 幹一良

■所属: 医療法人イプシロン/東京大学医学部附属病院 精神神経科

■発表日: 2021年5月18日

■発表演題名: The History of the Rights of Psychiatric Patients and the Mental Health Legislation in Japan

■感想:
2021年5月16日~20日にオーストラリアのタスマニア州の州都ホバートで開催されたRANZCP 2021 CONGRESSにおいて行われた、Joint JSPN/RANZCP symposium: Patients’ rights(日本精神神経学会/王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会合同シンポジウム「患者の権利」)において、第二次世界大戦前から現在に至るまでの日本の精神医療と患者の人権、およびそれらに関する法制度の歴史と問題点と思われるところについて報告した。

今回の合同シンポジウムは、本来は、昨年の2020年の5月に同地で開催される予定であったRAZCPの2020年総会において実施される予定であったが、同総会が新型コロナウイルスのパンデミックの影響で中止となり、この度、2021年総会が現地・オンライン同時開催で開催される運びになったことから、RANZCP のJohn Allan会長のご厚意によりpresidentialシンポジウムとして復活し、オンラインで実施された。

豪日合同シンポジウムで、日本の精神科医として日本の患者の人権について報告する際に期待されていることは何かと考えたとき、ニュージーランドのウェリントン大学教授Martha Savage氏のご子息が、2017年、日本の精神科病院において10日間の身体拘束後に27歳の若さで亡くなられ、それ以降、教授が日本の精神科病院における身体拘束の削減と廃止を求める運動をされているという事実が想起された。Martha Savage教授は、今回の総会の直前の3月にオンラインで開催された、WPA(World Psychiatric Association)の第20回国際総会に、WPAのタスクフォース・メンバーとして、日本の精神科における強制の問題について問題提起をされていた。

日本の精神科病院数、病床数は第二次世界大戦後、増加の一途をたどり、1990年代から横ばいに推移しているが、まだ明らかに減少しているとは言えない。また、患者の平均入院日数については減少に転ずるも、265.8日(2018年)といまだに長期である。隔離拘束数については2017年まで増加し続けている。その背景には、日本の精神障害者に対する収容主義の歴史と20世紀末からの社会復帰への転換という動向がありつつも、いまだに残存する「精神科特例」の問題、日本の精神科における強制についての慣習、精神保健福祉法が人権保護規定として十分か否かといった問題が存在すると考えられ、日本の精神医療は世界に注視されており、当事者として真摯に答えるべきときであるように感じた。

 

2019年派遣者

■氏名: 岸本 年史

■所属: 奈良県立医科大学 精神医学講座

■発表日: 2019年5月13日

■発表演題名: Lifelong Education towards the Bright Future of the Japanese Society of Psychiatry and Neurology (JSPN)

■感想:
RANZCPは豪州ケアンズで開かれ、5月13日にJSPNとのシンポジウム(Joint RANZCP/JSPN Symposium)が催された。テーマはContinuing Professional Development (CPD)であり、いわゆる専門医を取ってからの卒後教育についてである。JSPNからのシンポジストは、公募から選出された二人の群馬県前橋市 中沢会上尾病院 高鶴裕介先生、奈良県立医科大学 山口泰成先生とシニアで私が勤めた。

RANZCPからは会長のKym Jenkins先生がシンポジウムの趣旨を話し、Education Committee委員長のMargaret Aimer先生がCPDの実際について話した。専門医の更新には、年に50時間を取る必要があり、その内訳はSection 1 – a Professional Development Plan (PDP) (standard 5 hours)、Section 2 - at least 10 hours of formal peer review、Section 3 - at least 5 hours of practice improvement、Section 4 -  at least 25 hours of self-guided learning、Section 5 - an additional 5 hours from any of sections 2,3 or 4.であり、それについてのPeer Review Groupがあり、セカンドオピニオンを求めるシステムとなっている。Section3のpractice improvementについては、PDSA(Plan-Do-Study-Act)サイクルを採用し、Researchの項目もある。 Continuing Professional Development委員長のWayne de Beer先生がRANZCPの会員のCPDのデータ管理について現状と今後のデータ管理の改善についての方向性について話した。非常にシステム化されたもので、今後の日本の専門医の更新についても取り入れるべき方向であろうと思われる。

日本からは、高鶴先生がやってきている指定医および専門医を取得するための業務、老年内科の業務、およびやってきた電気生理を中心とする基礎研究について話をし、山口先生も、専門医を取るステップと自分行っている脳腸相関の研究についての話をした。

私は、日本の精神医療の現状と専門医制度の現状について報告した。

明らかにRANZCPの方がシステム化されており、日本の方が個別の教育になっていると思われた。これには豪州、ニュージーランドではGPのシステムがあり、精神科医は専門医としてのシステムの中で活動していることも一つの要因であろうが、日本のシステムを作るうえで参考にする必要があろう。医局講座制で培われてきた人間教育を新たなシステムの中で、医師としての成長をどう支えるかは課題であると思われた。

ケアンズというリゾート地で行われ、美しい都市であった。RANZCPはソーシャルプログラムも豊富で、ガラディナーやクルージングもあったが、例年あるゴルフが中止になったのは残念だった。


■氏名: 髙鶴 裕介

■所属: 中沢会上毛病院

■発表日: 2019年5月13日

■発表演題名: Training for “hybrid” psychiatrist ~change the career from basic science to bed-side job~

■感想:
この度、RANZCP 2019 Congressへ派遣していただき、JSPN/RANZCPジョイントシンポジウムで発表をさせていただきました。私は研修義務化前最後の世代で、卒後14年神経生理を中心とした基礎研究に従事しておりましたが、2年前より臨床主体の勤務になりました。現在の主たる業務は老年医学ですが、診療の幅を広げるため、精神科病棟での研鑽も併せて行っております。今回のシンポジウムは日本でいうところの専門医およびシニア教育の制度についてのものでした。私のような経歴でも、ある程度は専門再教育を受けることができる日本の制度の良さを感じつつも、RANZCPが行っている系統だった指導(計50時間以上のカリキュラムがあります)およびオンライン管理の制度は学ぶべきことも多いと感じました。その他のシンポジウムにおいて、日本と共通の話題(高齢者における免許制度、医師の過剰労働問題。後者は若手医師の週労50時間を推奨していましたが、フロワーでのdiscussionで、そのしわ寄せがシニアに来ていることに対する解がないとも言っていました)や実験的医療(プローブを使った深部刺激治療の効果など)について感銘を受けつつも、やはり日本の特殊性(国民性の特徴、超高齢社会であること)を考慮しなくてはならないとも感じました。今後自分に何ができるのか、再考・熟考する機会をいただきました。末筆になりましたが、今回の派遣のチャンスをいただきました岸本先生をはじめとする選考委員の先生方、および一緒に発表を行った山口先生に厚く御礼申し上げます。


■氏名: 山口 泰成

■所属: 奈良県立医科大学 精神医学講座

■発表日: 2019年5月13日

■発表演題名: Way to get a specialist

■感想:
2019年5月12日から16日に、オーストラリアのケアンズで開催された、王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会(RANCP)の年次総会に参加させていただきました。Innovations in psychiatric continuing professional developmentというテーマのシンポジウムで、私は日本における精神科専門医取得までの過程について話しました。初めての国際学会の口頭発表でしたが、会場は温かい雰囲気で、熱心に聞いてくださったので、何とかやりとげることができました。

新生児期における環境に対する恐怖から愛着が形成され、高齢期における愛まで同じ脳内ネットワークで解釈できるという基礎医学的な講演から、様々な人種で精神保健における問題点が異なるため、それぞれの対策法を考えるといった、異なる人種や文化が共存共栄するオーストラリアならではの講演など、多種多様なプログラムがあり大変興味深く、勉強になりました。うつ病や摂食障害などそれぞれの精神疾患に対する基礎的な講演も多く、学会を挙げて画一的な生涯教育を行うことで、医療レベルを向上させようとしている姿勢を感じました。New Fellowsおよびsubspecialistの認定式では、ひとりずつ順に登壇し学会長から認定書を授与されており、学会の一体感と学会員それぞれが大切にされていることに感銘を受けました。また家族や友人が総出で祝福しており、学会から認定を受けることが社会的にとても重要視されていることを知りました。

日本では少ない心身の健康維持・増進プログラムが組まれており、せっかくなので早朝からのセーリングに参加しました。おかげで心身ともにかなりリフレッシュでき、学会講演に集中することができました。学会最終日にはゴルフコンペも予定されていたのですが、急遽中止になってしまったため、岸本先生と2人でオーストラリアの広大なフェアウエーを堪能しました。二人でまわったため、前の組にすぐ追いついてしまうのですが、みな笑顔で先を譲ってくれるなど、現地で出会った人は非常におおらかで親切な人ばかりでした。

5日間を通して、他国の優れた点をどのように日本文化に合う形で取り入れていくべきかを考えるよい機会となりました。このような貴重な機会を与えていただき、誠に有り難うございました。

 

2018年派遣者

■氏名:大森 哲郎

■所属:徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野

■発表日:2018年5月16日

■発表演題名:Partnership with patients and their family in an psychiatric meeting; taking an example in the 13th Annual Meeting of the Japanese Society of Schizophrenia Research in Tokushima

■感想:
ニュージーランドのオークランドで開催されたThe Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists (RANZCP)に出席し、学会長のKym Jenkins先生の企画されたPartnering with consumers and carers と題する日本精神神経学会(JSPN)との合同シンポジウムで発表してきました。

RANZCPからの2演者に次いで、JSPNから若手の工藤由佳先生と大石賢吾先生が、ぞれぞれ用意周到の素晴らしい発表をしました。私は最後に登壇し、3月に徳島で主催した統合失調症学会における患者・家族の学会プログラムへの参加について紹介しました。たとえば淡路島のピアサポーターがその活動内容を話してくれたこと、小説家の盛田隆二さんが統合失調症の妹さんの看病について率直に語ってくれたこと、ポスター会場では当事者が喫茶コーナーを開設してくれたこと、市民公開演奏会では統合失調症のピアニストが演奏してくれたことなどです。喫茶コーナーのロールケーキは全国ネット販売もしている絶品ですので、写真を見せながら「I am sorry I could not bring them for you」と言ったら会場が笑いに包まれましたが、たどたどしい英語だったからこそ可笑しかったのかもしれません。

愛媛県愛南町の長野敏宏先生の、患者と住民が仕事を創出し、ともに働くという過疎化を逆手にとった町おこし活動の講演内容も紹介したところ、就労の難しさはいずこも同じようで関心を引きました。

オーストラリアは2400万、ニュージーランドはわずかに470万、人口規模からみればJSPNよりもずっと小さい学会ですが、アジア各国からの招待者や参加者が目に付きました。またKym Jenkins会長はじめ女性の進出も印象的でした。女性参加と国際化では、JSPNは後塵を拝している現状ですが、工藤先生や大石先生の活躍を見ると追いつく日も近いのかもしれません。


■氏名:工藤 由佳

■所属:慶應義塾大学 精神・神経科学教室 / 特定機能法人 群馬会 群馬病院

■発表日: 2018年5月16日

■発表演題名:Overcoming hopelessness
long-term hospitalization of patients with schizophrenia in Japan

■感想:
私が勤める群馬病院では、多くの患者がずっと昔から入院している。今では親も家も失い、退院したいとも言わなくなった。退院を促しても「このままがいいよ」という彼らに対して、「それならば病棟で生き生きと生きられないか」と様々な取り組みをしてきた。しかし病棟での生活は、問題が起こらないことが優先され、一人一人が尊厳を持った人生を送るのには限界があると感じ始めていた頃だった。

今回のシンポジウムのタイトルはPartnering with consumers and carersであった。私は世界からみた日本の長期入院の現状を調べようと思った。すると様々な歴史が明らかになった。なかでも精神科病院で患者が医療従事者から受けてきた不当な扱いにはショックを受けた。しかし、普段の臨床を省みると、いまだに不当な扱いは残っていると感じさせられた。さらに私自身、精神科医としての権限を慎重を期して使っていたか、疾患に関する知識を患者や家族と十分に共有できていたかと問われた時、不十分であったと認めざるを得なかった。

発表当日、日本の長期入院の現状や問題点を、オーストラリア、ニュージーランドの医療従事者と患者、家族の方々が深く頷きながら真剣に聞いてくれた。懇親会でも参加者から意見が続き、日本の精神科医は、多くの患者を入院させてきた事実に責任を持ち、彼らの人生を彼らと共に本気で考えなければならない、と感じた。そして改めて、自分が持つ権限が人の自由を制限することになる重みを感じ、一人一人の患者が自由を獲得できるよう全力を尽くしていこうと思った。

今回の派遣を機に、精神科医としての自分の行動を俯瞰することができたと思う。その中にいると気が付かなかったことを、日本から離れた場所から見直すことで、とても大事なことに気がついた。そのチャンスをいただいたことに非常に感謝している。


■氏名:大石 賢吾

■所属:千葉大学大学院医学研究院 精神医学

■発表日: 2018年5月16日

■発表演題名:Partnering with Consumers and Carers: Consumer and carer involvement in psychiatric decision-making.

■感想:
2018年5月13日(日)~5月17日(木)、ニュージーランドのCity of Sailsオークランドで行われた王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会の年次総会に参加させていただきました。初めてシンポジストとしての参加で少し緊張していましたが、座長のKym Jenkins先生をはじめ”Consumer”の方々も多く参加して頂き、とても和やかな雰囲気で無事に発表を終えることができました。セッションでは、我々が日本で取り組んでいる事例などについて参加者からも活発な質問があり盛会となりました。これも偏に、シンポジストとして同席させて頂いた大森先生と工藤先生の素晴らしいご発表のおかげであったと感謝しております。

また、総会を通しては様々なイベントも催され、他国の精神科医だけでなく多くのケアスタッフの方々と交流を深めることができました。特に最終日には、先住民であるマオリ族の民族舞踊であるハカを拝見するなどニュージーランドの文化にも触れ、Gala DinnerではKym Jenkins先生と一緒にホールでダンスを踊らせて頂くなど大変素敵な経験をさせて頂きました。

多くが多元的である精神医療を学ぶにあたって、異なる人種や文化が共存共栄しているニュージーランドでの経験はとても有意義なものでありました。今後も本学会で学んだことを胸に日々学びを請い、研鑽を積んで参りたいと思います。

最後になりましたが、この場をお借りしまして日本精神神経学会および王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会の関係者のみなさま、ご指導頂きました伊豫雅臣教授をはじめ本学会参加の為にご協力頂いた千葉大学大学院医学研究院精神医学教室の先生方に心から感謝申し上げます。

 

2017年派遣者

■氏名:岸本 年史

■所属:奈良県立医科大学 精神医学

■発表日:2017年5月2日

■発表演題名:
Personality structure change and present status of psychotherapy in Japan

■感想:
5月1日からオーストラリアのアデレードに王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会の年次総会に参加し、Manifestations and Treatments of Anxiety in Japan and Australiaのシンポジウムで、日本の社会構造の変化と不安障害、森田療法を中心とする精神療法について話してきました。質疑では森田療法と認知療法の違いについて、認知療法が静的なのに対し森田療法が動的であると具体的に説明してきました。聴衆も多く、質疑応答も充実しておりました。このようなシンポジウムから共同研究に発展することを願っております。

学会の参加者が1300人と大きな規模ではありませんが、学問的な内容は充実しており、レベルも高く勉強になりました。ソーシャルプログラムが充実しており、特に印象に残ったのはセレモニーであり、日本でいうところの後期研修医の第1、2段階(3年間以上)の一般研修の修了認定式があり、同時に次の段階であるadvanced courseの児童精神科、コンサルテーションリエゾン、アディクション、司法などのサブスペシャリティへの入学式に当たるものです。家族や友人たちの祝福する中で厳かに、かつ賑々しく行われました。ラグビーの盛んな国柄か日本の懇親会にあたるガラ・ディナーはラグビー場の宴会場で行われました。早朝のヨガ、ウォーキングなどもありましたが、ゴルフもあり参加しました。最終日の午後にアンブローゼという方式のチーム競技で、準優勝いたしました。翌日にストローク方式の個人戦でしたが、フライトの関係で参加できなかったのは心残りです。

プログラムや運営だけでなく、女性が学会の理事会で重職を務めるなど、われわれの学会にとっても見習うべきことが多い印象を受けました。


■氏名:大栁 有加

■所属:市立釧路総合病院 精神神経科

■発表日:2017年5月2日

■発表演題名:
The Effect of Internet Use on Patients with Social Anxiety Disorder

■感想:
2017年4月30日、私は暑さが残る晩秋のアデレードに降り立ちました。The Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists(RANZCP) 2017 Congressに参加するためです。
この度、私はManifestations and Treatments of Anxiety in Japan and Australiaと題したシンポジウムで発表する機会を得ました。友好的であたたかな雰囲気の中、座長と他の発表者の先生方のサポートにより、無事発表を終えることができました。本学会では、その他にも様々なイベントにご招待いただきました。President’s Dinnerでは、世界の第一線で活躍されている先生方から、様々な国の精神医療システムについて学ぶことができました。Gala Dinnerでは、オーストラリアで精神科医師として働いている他国出身の方々と知り合い、彼らの活躍ぶりや多民族を受け入れるオーストラリアの寛容な文化に驚かされました。
発表にあたり、日本精神神経学会、RANZCP、市立釧路総合病院をはじめとする北海道大学病院精神科神経科とその関連施設、その他個別にご相談させていただいた先生方には、ご尽力をいただき心から感謝申し上げます。

 

2016年派遣者

■氏名:齊藤 卓弥

■所属:北海道大学大学院医学研究科 北海道大学大学院医学研究科

■発表日:2016年5月9日

■発表演題名:
Child and Adolescent Psychiatry in Japan


■氏名:大串 祐馬

■所属:福岡大学医学部 精神医学教室

■発表日:2016年5月9日

■発表演題名:

 Pharmacotherapy for depression and its transition in Japan

■感想:
国際学会での発表に慣れていない私にとってはかなりの大舞台で、発表の際には質疑に対して十分な応答ができていないと焦りともどかしさを感じていましたが、会場の温かな雰囲気に助けられ、結果的に発表後にも議論が盛り上がるほど、有意義な時間となりました。日本の精神科医療に興味をもっている先生方が非常に多くいることに気づくとともに、学会等を通じて情報を発信していくことの重要性を再認識しました。
学会期間中に数々のセッションに参加しましたが、アジアからの参加者は決して多くはないにもかかわらず、全く疎外感を感じることがありませんでした。学会全体としてアジアと繋がっていこうとする姿勢があるのだと思います。
私が最も印象に残っているのは、4日目の夜に開催されたGala dinnerです。食事をしながらの語らいはもちろん、ミュージシャンの生演奏に合わせて皆でステージに上がって踊るなど、日本の学会でお目にかかることのない体験ができました。その中で、RANZCPの若手医師数人と知り合う機会があり、各々の若手の活動を紹介し合ったり、共通の知人の話題で盛り上がったりしました。日中の学会のセッション内で学ぶ以上に、ネットワークを広げていくこと、それを継続し後輩の世代に繋いでいくことも重要であり、何より楽しいことなのだと日本に帰国した後も噛み締めています。
この度は貴重な機会を与えていただき、誠に有り難うございました。

 

2015年派遣者

■氏名:新福 尚孝

■所属:神戸大学医学部 名誉教授

■発表日:2015年5月5日(15:45~16:25)

■発表演題名:

 Treatment of Schizophrenia in Asia : Realities and Challenges

■感想:

平成27年5月3日-6日に、Brisbane 国際会議場で開催されたオーストラリア・ニュウジーランド精神医学会(The Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists,以下RANZCPと略す)年次総会に日本精神神経学会(Japan Society of Psychiatry and Neurology 以下JSPNと略す) 代表として参加する機会を得たので概要を報告する。

学会のメインテーマは“Measurers and Thinkers: Psychiatry as Science and Art”であり会議の参加者は約1,300名あった。ちなみにRANZCP 学会員数は約5,000 人である。

JSPNから、私のほか、肥田道彦(日本医科大学精神医学教室講師)、福地新(宮城心のケアセンター医師)の両氏が、若手精神科医の代表として参加した。

会議の印象は、多民族的(Multi-racial)、国際的(International)であることである。

閉会式で、学会新会員の認定書(RANZCP Fellows Certificate)授与の式が行われた。驚かされたのは、約100名の新会員の内、アジア系の(インド、香港、スリランカ マレーシア)の出身者が大半を占めた事であった。

また、強く印象付けられたことは、RANZCPが、アジア諸国との関係を重視していることである。閉会式の所信表明で、新会長のMalcom Hopwood教授は、RANZCPとアジア精神医学会( Asian Federation of Psychiatric Association , AFPA) をはじめ、アジア各国の精神医学会との協力の重要性を強調した。JSPNとRANZCPの協力は、両国のみならずアジア・オセアニア諸国の精神医学・精神医療の発展に貢献しており、今後とも協力の継続と、深まりが望まれる。


■氏名:福地 成

■所属:公益社団法人宮城県精神保健福祉協会 みやぎ心のケアセンター

■発表日:2015年5月3日

■発表演題名:

[一般演題] Child Psychoeducation after the Great East Japan Earthquake

[シンポジスト] Post-graduate Training in Psychiatry and Recruitment in Japan

■感想:

RANZCPとしてはアジア全体の地域と繋がっていこうとしていることが強く感じられました。オーストラリアは多くの移民を受け入れており、色々な文化的背景を持った人々が暮らす地域であり、こうした中で固有の精神保健が作られたという背景があると感じました。日本をはじめとして多くのアジア地域の専門職が招待参加されており、国際比較のような企画も多く行われていました。『アボリジニーアートと精神保健の関連』など、個別の文化を尊重した精神保健の話題も学会内では取り上げられていました。

東日本大震災後の子ども支援が私の一般演題でした。紙芝居や伝統的な玩具(吹き上げパイプや風車など)を用いて心理教育を行ったものであり、多くの国の専門職に興味を持って頂き、多くのご意見を頂戴することができました。シンポジウムでは、他のアジア諸国の代表者と自国の精神科医養成システムについてディスカッションをしました。進んでいる国もそうではない国も、お互いの発展してきた背景や文化を尊重する姿勢に非常に感銘を受けました。

色々な分野の人に参加してもらう仕組みづくりは、我々も学ぶべき点が多くあると感じました。

 

2014年派遣者

■氏名:神庭 重信

■所属:九州大学大学院医学研究院 精神病態医学

■発表日:2014年5月12日~16日

■発表演題名:

Depression in Current Japanese Society

■感想:

日本精神神経学会とオーストラリア・ニュージランド精神医学会の間には、お互いに役員を招き合うという慣例があります。今年は僕が呼ばれて西オーストリアのパース(経路を間違って選んだため、福岡からおよそ24時間かかりましたが)で開かれた総会(5月12日~16日)に参加し、“現代日本のうつ病と自殺”というタイトルで講演しました。実はこの日のためにあらかじめ二つのジョークを用意しておいたのです。冒頭、「オーストラリアと日本には、共通点が二つあります。一つはどちらの国民も島に住んでいます。(一呼吸おいて)大きさこそ違いますが・・。もう一つの共通点は、どちらの国民も英語に訛りがあります」と言って笑いを取る予定でした。ところが、司会をしてくれた女性の副理事長が、僕の紹介に加えて、「昨年の福岡大会には私が招待されて初めて日本に行き、とても楽しかった」と挨拶されたので、「それは、不思議の国のアリスのような体験でしたね」と答えたところ、会場が大爆笑に包まれたのです。なにがそれほど面白かったのかはピンと来ませんが、準備したジョークがいかにもつまらないものに思われたので、言わないでおきました。

タイトルが興味深かったのか、会場はほぼ満席となり、皆さん熱心に聞いてくれ、下田先生の執着気質や樽味先生のディスチミア親和型の説明には、あちこちでうなずきなく様子が見られました。質問にも5~6人が手を挙げ、「日本は急激に社会文化が変化して、うつ病や自殺の増加につながったのではないか」などと活発な意見交換が行われました。


■氏名:長 徹二

■所属:三重県立こころの医療センター

■発表日:2014年5月12日 / 2014年5月15日

■発表演題名:

The current psychiatric issue in Japan / Alcohol related problem in Japan

■感想:

貴重な機会をいただきありがとうございます。2つの発表の機会をいただきました。

1つ目はアジア太平洋地区のメンタルヘルスに関するシンポジストを務めました。東日本大震災後のメンタルヘルスに関する内容を中心に説明したところ、予想以上にインパクトは強いようでした。このシンポジウムで一番印象に残っていることは「太平洋の島々の多くには精神科医はいない、祈祷師はいてもね」というHelen Hermann先生のコメントで、「これからの若い精神科医にぜひ何とか考えてほしい」と言われ、地域精神医療を見直す良いきっかけをいただきました。

2つ目は日本のアルコール医療について、harm reductionの観点を中心に具体的な症例を通して説明しました。「日本ではうつを合併しても同じ臨床医が関わることができるのはうらやましいが、負担が多いのではないのか?」という質問をいただきました。「治療に共通するところが多いので大変ではないと思う」と返答すると、メルボルンの臨床医は、「こちらではうつとアルコールは別々の専門医療が診療にあたることになるので、その両者の意見が食い違うことが多くて現場では困っている」とのこと。併存症を細分化しすぎる事にも課題があることに気が付くことができました。

RANZCPの関係者に日本から来たことを伝えると、「○○さんにはお世話になったよ!」というフレーズを必ず口にされるので、これまで多くの日本の先輩方が築いてこられたrelationshipに感謝するとともに、私もその役割を担えるように尽力したいと考えています。

 

2013年派遣者

■氏名(所属):秋山 剛

■所属:NTT東日本関東病院

■発表日:2013年5月27日

■発表演題名:

Mental health and psychiatry challenges in Japan and perspective for regional partnerships


■氏名:白坂 知彦

■所属:江別市立病院 精神科/札幌医科大学 神経精神医学講座

■発表日:2013年5月26日~30日

■発表演題名:

PROMISING THERAPY OF INTRAVENOUS NEURAL STEM CELL TRANSPLANTATION

- A STRATEGY FOR FACILITATION OF NEURAL NETWORK AND BEHAVIORAL RECOVERY -

■感想:

2013年5月26〜30日、オーストラリア・シドニーにて開催された「豪州精神医学会年次学術総会: The Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists (RANZCP2012)」に参加したのでここに報告する。

本会は豪州精神医学会(The Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists:RANZCP)の年次総会として開催された。テーマは「ACHIEVEMENTS+ASPIRATIONS」と題し、これまでの同学会の歩みを振り返り、オセアニア地域の精神医療を発展させ世界に発信していこうという意気込みにあふれた大会であった。今回は学会発足50周年という記念すべき大会であり、アジア諸国から演者を招き「the Asia Pacific Mental Health Forum」が開催された。日本をはじめ、中国、インド、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ共和国、タイランド、ベトナム、ミャンマー、バングラディッシュ、パキスタンと14カ国の代表者が一同に会し各国の精神保健の現状と課題が話し合われた。 NTT東日本病院の秋山剛先生が日本を代表して講演し、日本の精神保健の課題、アジア、オセアニア地域の連携の重要性を訴え、大きな反響をよんだ。

筆者は日本精神神経学会の助成をうけ、若手医師の立場から同学会に出席した。若手医師らとの交流のなかで「PROMISING THERAPY OF INTRAVENOUS NEURAL STEM CELL TRANSPLANTATION - A STRATEGY FOR FACILITATION OF NEURAL NETWORK AND BEHAVIORAL RECOVERY -」と題した講演、ポスター討論の時間をいただいた。現地の医師、研究者ばかりでなく、多くのアジア、環太平洋各国から聴衆が参加し、研究手法や今後の臨床応用に向けての課題、各国の現状など多くの意見を交換することができた。海外から多面的で発展的な意見を伺い、日本国内だけではなく世界的な視野で物事を考えることの大切さを痛感した。

日中の白熱した議論のあと、会議以外の時間にも現地の若手の先生方と多くの交流の機会を得た。またGovernor’s receptionではアジア各国の諸先生からも貴重な学びの機会をいただき、とても充実した学会となった。今後も国内外の若手研究者同士がネットワークを強化し、発展していく事を期待する。

 

2012年派遣者

■氏名:森村 安史

■所属:医療法人樹光会大村病院

■発表日:2012年5月21日

■発表演題名:

The Roles of the Psychiatric Hospitals for the Elderly with Dementia in JAPAN

■感想:

会長はじめ現地ホバーと(タスマニア)の先生方には大変お世話になりました。会長招宴などでも多くの先生方とお話しをさせていただくことが出来ました。私の発表そのものは果たしてどの様に受け止められたのか、評価はわかりませんが、日本の介護保険制度についての質問もいくつかいただきました。高齢化先進国の我が国の現状を、これからすぐに同じ状態を迎えるオーストラリア、ニュージーランドの先生方にも知っていただけたのだと思います。認知症を医療としてどう考えるのかについて、日本と海外とでは受け止め方、考え方に差があります。このような取り組み方の違いについても知っていただけたと思います。


■氏名:本屋敷 美奈

■所属:大阪府こころの健康総合センター

■発表日:2012年5月21日

■発表演題名:

RISK MANAGEMENT IN MENTAL HEALTH AT THE TIME OF DISASTER

■感想:

【発表および学会全体について】 

森村先生は”認知症患者に対する入院治療の変遷”というシンポジウムに参加され、日本の現状についてお話しておられました。私の発表の時間とかぶっていた為、Discussionを聞き逃したのですが、日本の死生観から始まるintroduction,オーストラリアと全く異なる現状に非常に注目が集まっておりました。

私は”精神保健の災害時危機管理”にプレゼンテーションさせていただきました。(私は、そちらの勉強はしていないのですが)聞き手の興味は地震や津波よりも福島の原発にある(慢性的かつ前代未聞)ということを感じました。また、オーストラリアの各州の災害時精神保健をリードしている方々をご紹介頂き、実際後にオーストラリアの州単位で作られているマニュアルを大量に送って頂きました。

学会全体ですが、私は主にpublic sectorに関わるセッションを見ていたのですが公的なサービスやガイドラインが綿密にエビデンスにもとづいて出来ている様子に驚きましたが、とても勉強になりました。

【ホバーツについて】

秋山先生のご紹介によりタスマニア大学精神科Ken Kirkby教授(Internet Based CBTがご専門とのこと)と事前に連絡をとらせていただきました。 到着翌日にはKirkby先生と奥様のStecyさんで 森村先生と2人、Bush walkingに連れて行っていただきました。予期せぬ位、多くの野生動物(ワラビー、ウォンバット、野鳥)等に出会い童心にかえって喜んでしまいました。秋山先生、Kirkby教授には感謝申し上げます。

【Welcome reception、welcome dinnerについて】

学会全体のreception及び、招待制のwelcome dinnerはホバートでも最新の美術館MONA(Museum of Old and New Art) で開催されました。現代アートに囲まれながらの立食パーティであるwelcome receptionは素晴らしくお洒落でしたし、その後のwelcome dinnerではとびきりのフレンチと研究から離れた教授達のwittyな会話を楽しみました。

滞在時間は短かったのですが、こうして学術と自然、社交と全てを楽しむことが出来ました。こういった機会を与えてくださった秋山先生、JYPOの皆様本当にありがとうございました。今後も、研究及び英語においても少しでも国際舞台に通用するよう頑張って行こうとの思いを強くしました。

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