公益社団法人 日本精神神経学会

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お知らせ

性同一性障害(GID)手術療法に関する共同要望書

要望書
件名:性同一性障害に対する手術療法の保険適応に関する要望

厚生労働大臣
小宮山 洋子 殿

平成23年11月14日
日本精神神経学会
日本形成外科学会
日本産科婦人科学会
日本泌尿器科学会

要望項目

  1. 女性として生活したいと希望するMTF性転換症 (Male to Female Transsexuals:精神は女性、身体は男性)症例に対する、「除睾術」、「陰茎切断」、「造腟術」などの手術を、健康保険の適応とすること。
  2. 男性として生活したいと希望するFTM性転換症 (Female to Male Transsexuals:精神は男性、身体は女性)症例に対する「両側乳腺切除術」、「単純子宮全摘術および両側附属器切除術」、陰茎再建の前提となる「尿道延長術および腟閉鎖術」、「陰茎再建術」などの手術を、健康保険の適応とすること。

要望の理由

 本邦における性同一性障害に対する公的な手術が開始され10年以上が経過し、私ども学会員は、多くの方の生活の質の向上に貢献してきたと自負しております。
 性同一性障害のうち、とりわけ自分自身の身体に強い違和感を持ち、身体的治療を望む患者は「性転換症 transsexual」と呼称され、我が国の医療統計の基本であり国際診断基準である ICD-10ではその定義の一部に「自分の解剖学上の性について不快感や不適当であるという意識、およびホルモン療法や外科的治療を受けて、自分の身体を自分の好む性と可能な限り一致させようとする願望を伴っている」とあります。性転換症の治療に当たって、国際的に標準的な方策は、望む性別の性ホルモンの使用と前述の手術の実施により、身体上の不快感を軽減し、望む性別での社会適応を容易にすることです。国際的にはこれらの治療効果についてコンセンサスは得られております。治療の実施に当たっては、性転換症の診断と治療適応の判定を慎重に行う必要があり、我が国では公的手術の再開以来日本精神神経学会の策定したガイドラインに沿って、メンタルヘルス専門家の十分な配慮のもとで実施されています。同ガイドラインに沿って行われた我が国での手術により、手術そのものを後悔する事例はほとんど無い一方で、自殺まで考えたほどの悩みから立ち直り、望む性で就学、就労し社会復帰を果たすなどめざましい効果のあった事例は数多くあり、性転換症に対する手術療法の有効性は我が国においても確立していると言えます。
 性転換症の治療を目的とした手術には、一般的にMTF性転換症に対して行われる、除睾術、陰茎切断、造腟術、FTM性転換症に対して行われる両側乳腺切除術、単純子宮全摘術および両側附属器切除術、陰茎再建の前提となる尿道延長術および腟閉鎖術、陰茎再建術があります。除睾術は、前立腺癌などの際に男性ホルモン抑制目的で古くから実施され、また陰茎切断は陰茎癌などに、造腟術は先天性腟形成不全の方などに行われ、全て健康保険が適応されています。一方、片側の乳腺切除術は乳癌に、単純子宮全摘術および両側附属器切除術は子宮筋腫や卵巣嚢腫などに、陰茎再建術は陰茎癌あるいは事故による陰茎損傷などに対して行われており、やはり健康保険が適応されています。これらの手術は、一般の医療現場で広く行われており、普及度、技術の習熟度の点では疑問の余地はありません。身体的女性に対する陰茎再建の前提として必要な尿道の延長、巨大な乳房の切除に関しては、独自の手術を必要としますが、その方法論については海外および我が国に於いて十分な技術の集積が成されており、すでに形成外科学会から外科系学会社会保険委員会連合(外保連)にこれらの手術の K 番号付きの保険点数を申請している状況です。初の公的手術前後からマスメディアなどを通して性同一性障害に関する知識が普及し、平成15年には性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律(平成15年7月16日法律第111号)、いわゆる特例法が成立し、平成22年末までに2,238名の戸籍の性別変更が認められています。この法に基づき戸籍の性別を変更するための身体的要件として、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」が明記されておりますが、この条件を満たすためには、要望書に挙げた手術が必要となります。したがって、手術の倫理的、社会的妥当性にも、問題は無いものと思われます。
 性別は社会生活を行う上で基盤となるアイデンティティであり、生活実態と戸籍の性別が異なる状態は当事者に計り知れない不利益をもたらします。例えば、自己の人格上の性を女性と認識している人が、男性のパートナーと夫婦同然の生活をしていたとしても、婚姻できないばかりか内縁関係も法的に認められません。この他にも公衆トイレ、公衆浴場の使用など様々な場面で、不便や不利益がつきまといます。このような不利益を解消することを目的に策定された法律の要件を満たす手術は、単に美容上の目的を持って行われる手術ではないことは明らかです。

 以上のように、これらの手術は性転換症という疾病の治療を目的とし、有効性、安全性のみならず技術の普及、習熟の面でも問題はありません。倫理的、社会的妥当性も担保されており、健康保険の適応としていただくことを要望します。現在、これらの手術は自費診療で行われており、経済的負担が非常に大きいことから、手術を断念して低い社会適応状態のまま生活する当事者が後を絶ちません。是非このような状況をご考慮いただき、これら手術の性同一性障害への適応拡大をしていただきますよう御願い申し上げます。

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