公益社団法人 日本精神神経学会

English

見解・提言/声明/資料|Advocacy

精神疾患が医療法における医療計画の重要疾病として記載されるにあたっての日本精神神経学会理事会見

更新日時:2015年2月24日

平成23年9月28日
社団法人日本精神神経学会理事会

 2011年7月の社会保障審議会医療部会において、現在、医療法に基づく医療計画に地域医療連携等の対策を記載することとなっている4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)に精神疾患を加えて5疾病とする提案が厚生労働省によって示された。医療計画に記載すべき疾病に精神疾患を加えるかどうか、その具体的な検討は、今後「医療計画の見直し等に関する検討会」の審議に委ねられるが、5疾病に対する記載が義務づけられることはほぼ確実視されている。医療計画に記載すべき疾病の考え方として、①患者数が多く、かつ、死亡率が高いなど緊急性が高い、②医療機関の機能に応じた対応が必要、③特に病院と病院、病院と診療所、さらに在宅へという連携に重点を置くものといった点があり、このことはとりもなおさず、認知症やうつ病の増加・さらには自殺や社会的入院の問題も含む精神疾患への対応が、喫緊の課題として広く認識されたことに他ならない。さらに、我が国に関して算出された障害調整生命年(disability adjusted life years, DALY)註によると、疾患区分の中で、精神神経疾患はトップであり、疾患別でワースト20のうち5つが精神疾患となっており、DALYによれば、精神疾患が重点疾患であることは明白である。

 今後、5疾病とされれば、都道府県が策定する医療計画に精神疾患に対する記載が義務づけられる。そして、この作業を今後の精神科医療の改善に向けたものにし、保健・医療・福祉等にかかわる様々な機関、団体、職能間の合意のもとで計画内容が確認され、目標が共有され、実効性のあるものとするために、以下の3点が重要である。

 第1に、精神科医療従事者、関連保健福祉サービス等の関係者、住民・患者などが共同で精神疾患の医療計画策定に向けて協議する場を設定する必要がある。
第2に、計画作成には、現状の把握・分析が不可欠であり、関係者が行政機関とともに地域全体の精神科医療の現状を調査し、把握・分析するとともに、その情報を公開することが重要である。
第3に、計画に定めるさまざまな医療機能の達成状況を検証するために、数値目標を設定することが必要である。その数値目標に関するデータは継続的に把握・分析され、目標達成状況の検証が可能なものでなければならない。

医療計画の見直しにより、精神疾患が詳細な医療計画策定の対象になろうとしている状況のもと、精神科医療の関係者はこれを好機と受け止め、国民の理解をより喚起し、医療および関連保健福祉サービスの改革に活かしていかなければならない。
さらに、障害者制度改革が並行して進められている今日、精神障害者の権利保障など広い視点から精神科医療のあり方が検討され、精神疾患の医療計画に取り組むことが、医療の質そのものを高めるためにも重要であろう。
なお、日本精神神経学会は、学術団体として、これらの動きに対し積極的に意見を述べていくと共に、精神科医療・保健・福祉の改善への具体的な提言を行っていく予定である。

註)重点疾患の選択においては、より客観化した指標、例えば、世界保健機関WHO や世界銀行が作成した障害調整生命年(disability adjusted life years, DALY)などが用いられている。DALYは疾患がおよぼす影響には、「命を失うこと」と、「生活に障害を受けること」の二つがあり、この両者を合計している。
WHO World Health Report 2004,published February 2009
(http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/estimates_country/en/index.html)

このページの先頭へ