公益社団法人 日本精神神経学会

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学会活動|Activities

過去のAPA派遣者一覧

更新日時:2023年6月7日

過去にAPAにJSPNの代表として派遣された先生方の、報告書や感想を以下に掲載します。
ご応募の際、ぜひご参考になさってください。
(※ ご所属は派遣当時の所属施設名を掲載しております。)

2023年派遣者

■氏名:前田 正治

■所属:福島県立医科大学医学部 災害こころの医学講座

■発表日:2023年5月22日

■発表演題名:
Multi-dimensional psychosocial impacts after the 2011 Fukushima nuclear disaster: Mental health problems and challenges to mitigate them in Fukushima

■感想:
今回、秋山剛先生がオーガナイザーを務めたAPA-JSPN ジョイントシンポジウムで、上記タイトルで発表する機会をいただいた。今回のシンポジウム・テーマは災害精神医学に関することで、発表者は次期APA会長のLevounis先生と高松先生、そして私で、神庭先生が座長を務められた。高松先生が日本の災害での支援について大変わかりやすくレビューされたので、私の発表では福島の原発災害のメンタルヘルス影響とその後のケアに焦点を絞って報告した。原発災害は自然災害と大きく異なり、大量の、かつ長期・離散型の避難生活を余儀なくされることが大きな特徴で、そうした避難生活は非常に強いストレスとなって被災者の心身の健康を蝕むこと、したがって腰を据えた支援が必要となるが、しばしば支援者もまた疲弊しケアの対象となること等を報告した。また昨今のウクライナ情勢を鑑みて、もしウクライナで核災害が引き起こされれば、それが核兵器のaccidental useや小規模な原発事故であっても、その心身への影響は甚大であること、たとえ戦争が終結しても避難者が故郷に長期間帰れないといった事態が引き起こされることへの懸念を伝えた。これは、福島からのもっとも重要なメッセージという気持ちであった。

シンポジウムが終わった後に、一人の日系米国人の方が、うっすらと涙を浮かべながら感想を述べられたのはとても印象的で、国内外を問わずなかなか伝わりにくい福島の実相について少し伝えることができたのではないかと考えている。こうした貴重な場を与えていただいた秋山先生や神庭先生をはじめ学会関係者の皆様に謝意を表したい。
 


■氏名: 高松 直岐

■所属: 国立精神・神経医療研究センター

■発表日: 2023年5月22日

■発表演題名:
Mental Health in Times of Crisis: COVID-19 and Disaster Psychiatry

■感想:

このたびは、日本精神神経学会(JSPN)の国際学会への代表派遣者公募を通じて、アメリカ精神医学会(APA)の年次総会に参加し、シンポジウムで発表の機会をいただきました。公募のテーマは「災害精神医療」であり、自分には馴染みのない分野でした。正直に言うと、このテーマの範囲や重要性について調べるところから始めました。それゆえ、とても良い学習の機会となり、考えを巡らせながら、テーマの概要から始め、日本の災害精神医療の歴史を振り返りながら、自分の研究領域であるコロナにも関連付けた発表となりました。当日は質疑応答だけでなく、個別に話を聞きたいという方々からもお声があり、非常に充実した経験となりました。

このシンポジウムは日本(JSPN)とアメリカ(APA)をつなぐ位置づけにありますので、その後の打ち合わせでは、APAのCEO兼医療ディレクターであるSaul Levin氏、次期presidentのPetros Levounis氏、JSPNのFellowship Awardを受賞されたRaman Marwaha氏と共に、日本からは神庭重信先生、秋山剛先生、中尾智博先生が参加されました。また、今回のシンポジウムでは、もう一人の日本代表であり、活発なディスカッションを引っ張っていただいた前田正治先生と、応援に駆けつけてくださった久我弘典先生も参加され、日常ではめったに経験できない会議となりました。シンポジウムの後は和やかな雰囲気で日常感を楽しみつつ、これまでのAPA-JSPNの連携の理解や、秋山先生のJSPN国際委員としての取り組み方を身近で学ぶことができました。

総じて、自分が5年や10年先において、どのように日本の精神医療の発展と向上に関与し、それを世界と結びつけていくかについてのヒントを得られたと感じました。この機会を通じて、精神神経学会、特に国際委員会の先生方に、心から感謝の意を伝えたいと思います。

2022年派遣者

■氏名:秋山 剛

■所属:NTT東日本関東病院

■発表日:2022年5月25日

■発表演題名:
Consumer and Psychiatric Emergency Services

■感想:
シンポジウムでは、Mary Jo Fitz-Gerald教授により、アメリカにおける精神科救急医療の現状と課題の報告、伊豫雅臣教授により、日本における精神科救急医療の現状と課題の報告が行われた。アメリカでは、教育程度、識字率の低さが、精神科救急医療の提供に影響しているという話があり、印象的であった。私は、精神科救急医療利用者の背景、精神科救急医療の必要性を軽減するための試み、精神科救急医療の質を高めるための試みなどについて報告した。精神科救急医療については、「必要な救急医療が提供できていない」という量的な問題と、「よりよい精神科救急医療を求めたい」という精神科救急医療の質の改善に対する利用者の願いの間に、かなりの距離があるように感じられた。

シンポジウム全体については、アメリカ精神医学会の年次総会であり、プログラムは多様なものであった。プログラムには、学術的なものに加えて、臨床的、実務的なものが、数多くみられた。ニューオーリンズのコンベンション・センターは、会場が大きく、また、端から端までの距離が遠いため、会場の雰囲気としては、統一性にやや欠けるようにも感じられた。

シンポジウムでの発表を充実したものであり、それに加えて、アメリカ精神医学会との実務的な打ち合わせを進めることができたことは、今回派遣いただいたことの成果であったと思われた。


■氏名: 伊豫 雅臣

■所属: 千葉大学大学院医学研究院精神医学

■発表日: 2022年5月25日

■発表演題名:
Psychiatric Emergency Service System and Psychiatric Emergency Units in Japan.

■感想:
2022年のアメリカ精神医学会(APA)はニューオーリンズで開催された。私が依頼されて参加したのは、精神科救急医療に関するAPAと日本精神神経学会(JSPN)の合同シンポジウムであり、演者は私と秋山剛先生、Mary Jo Fitz-Gerald先生であった。
私からは日本の精神科救急システムの現状と精神医療における精神科救急ユニットの役割に加えて、我々が2021年度に実施した「精神科救急病棟を有する病院を対象としたサーベイ」の予備的結果について報告した。Fitz-Gerald 先生は、ドパミン過感受性精神病(DSP)に強い関心を抱かれ、2022年秋にアトランタで開催される、アメリカ精神医学会のアセンブリーでも、同じ内容の発表をしてほしいとの要請を受け、千葉県精神科医療センターの花岡晋平先生に発表していただく予定になっている。

シンポジウムの演題の内容は充実していたものであったが、シンポジウムが最終日の朝1番に、しかも広大な学会会場の一番奥で行われたという日程、会場配置であったため、聴衆が非常に少なかった。APA・JSPNの共同シンポジウムで、これほど聴衆が少なかったことは、過去に例がないと聞いている。
日程の決定について、APAのプログラム委員会に要望を提出することも考慮すべきではないかと考えるし、また、APAに出席する予定のJSPNの会員、あるいはJSPNの国際会員(特にAPAに所属している国際会員)に、シンポジウムへの出席を依頼するなど、数多くの聴衆の出席、幅広い討議を得て、シンポジウムの意義がさらに高まるための対応を行うべきではないかと感じた。

また、帰国後コロナ陽性となったために10日間の自宅療養となり、同僚や患者さん、家族に多大な迷惑をかけてしまったのは、残念な思い出であった。ウィズ/ポストコロナにおける国際学会参加の支援方法についても検討して下さることを期待する。

2021年派遣者

■氏名:河西 千秋

■所属:札幌医科大学医学部神経精神医学講座

■発表日:2021年5月1-3日

■発表演題名:
The strategic research on suicide prevention, ACTION-J, the evidence-based assertive case management intervention for suicide attempters: works and expands in Japan

■感想:
アメリカ精神医学会年次総会における日本精神神経学会との共同シンポジウム(Presidential session)は、本来、2020年4月にフィラデルフィア開催の年次総会で実施されるはずだったが、COVID-19感染拡大により総会が中止となり、オンライン総会となった2021年年次総会で実施されることとなった。当初は、各演者の動画投稿による実施かと思われたが、急遽、「米国と日本の時差を勘案したうえでライブ・セッションを録画撮り」ということとなり、そのお蔭でPresidentであるBruce Schwartz教授と、コーディネーターを務めていただいた秋山剛先生、そして著者とともに演者をされた奈良県立医大・岡村和哉先生と親しく懇談、討議することができ、少なくても演者としては有意義なセッションとなった。

シンポジウム・テーマは「自殺予防」であり、岡村先生と筆者は、精神科医療現場で中心的な課題の一つである自殺未遂者医療について講演をした。もちろん米国でも自殺未遂者への対応は大きな課題である。保険制度や標準医療の考えかたは両国で異なるが、米国では、救急医療でのアセスメントの欠如といったシステム問題が指摘され、アセスメントや介入の実効性が、NIMHのgrantを得た大規模研究プロジェクト(ED-SAFE Study)により試行、検証されたばかりである。

わが国では、平成の自殺激増後の2005年に、「自殺対策のための戦略研究」という厚生労働科学研究費特別事業が実施され、ACTION-J研究という多施設共同無作為化比較試験が実施された。そして、アサーティヴ・ケース・マネージメントが、自殺未遂者の自殺再企図抑止に有効であることが検証され、厚生労働事業を経て診療報酬化にまで到達した。筆者らは、その経緯と後続研究、診療報酬制度の運用実態について話したが、Schwartz教授が開口一番、実感を込めて「日本が羨ましい」と申されたのが、たいへん印象的であった。

本シンポジウムでは、相互に最新の学術成果を情報共有し、日米共同研究・活動の契機を作ることにその意義があると筆者は考えるが、次回以降は、また視聴者との相互討議が可能となり、熱いセッションが復活することを願うとともに、「自殺予防医療」という日米共通の課題がまた取り上げられる機会が訪れることを、願っている。


■氏名:岡村 和哉

■所属:奈良県立医科大学

■発表日:2021年5月(オンデマンド)

■発表演題名:
Dissemination and implementation of an evidence based care for suicide attempters in Japan

■感想:
2020年に予定されていたアメリカ精神医学会(APA)の年次総会における日本精神神経学会(JSPN)との自殺予防をテーマとした共同シンポジウムが、COVID-19パンデミックに伴う大会の中止のため2021年にオンデマンド発表となり、改めて上記の演題を発表させていただいた。札幌医科大学の河西千秋教授が、我が国の多施設での大規模な自殺予防介入研究であるACTION-Jについて、またその後「救急患者精神科継続支援」として診療報酬化されるまでの経緯や課題について発表され、私がその後の要件研修会における自殺予防教育の有効性や、AMED研究「自殺未遂者支援のための社会実装研究:効果的な自殺再企図防止方略の開発と普及、制度化を目的とした研究」の現状の研究結果について報告させていただいた。準備において河西先生の多大なご支援をいただき、無事に発表を終えることができ、セッションの中で日米における自殺予防についての課題について、自殺予防に関する教育や治療技術の普及の重要性について議論することができた。今回学会会場に足を運ぶことが叶わなかったことは残念であったが、日米両学会の交流を通して得られた刺激は今後の発展のために重要な経験になると確信している。この場をお借りして、精神神経学会、特に国際委員会の先生方に感謝申し上げます。

2019年派遣者

■氏名:秋山 剛

■所属: NTT東日本関東病院

■発表日: 2019年5月20日

■発表演題名:
American Psychiatric Association and Japanese Society of Psychiatry and Neurology: history and future visions for collaboration

■感想:
アメリカ精神医学会(APA)の年次総会における日本精神神経学会(JSPN)との共同シンポジウムは、2016年の”The Evolving Role of Psychiatrists in Medicine: From East to West”、2017年の”Collaboration with other specialties of medicine: Pacific Rim leaders’ perspectives”、2018年の”Hikikomori: recent findings and their relevance to American psychiatry” と回を重ね、今年は、APAの175回総会という歴史の節目にあたり、総会全体で歴史の振り返りが行われたことにあわせ、APAのPresident、Dr Altha Stewart から、”American Psychiatric Association and Japanese Society of Psychiatry and Neurology: history and future visions for collaboration”を、Presidential session として行いたいという提案があった。
2019年5月20日に行われたシンポジウムでは、Dr Altha Stewart から2018年のJSPNの神戸総会で、Women’s leadership をテーマとしたLeaders Round Table に参加した経験、佐藤光源先生からJSPNの2002年までの国際活動の振り返りと統合失調症呼称変更の効果、若手精神科医の代表としてAPAの理事も務めているDr Ayana Jordan から、国際的な精神保健システムの比較と若手精神科医が寄与できる可能性、Dr Michael Hann から、2018年のJSPN総会にFellowship Award受賞者として参加した経験および、横須賀の米海軍病院がJSPNの会員と臨床ネットワークを築き始めている現状、青木藍先生から2002年以降のJSPNの国際活動のまとめと統合失調症の呼称変更に関するご自分の研究成果について発表があり、APAの次期President のDr Bruce Schwartz から、「リーダーは時代を先読みして組織に常に変化を起こし続けなければいけない」というDiscussion があった。
シンポジウムには、JSPNからの参加者、日系または日本滞在歴があるAPA会員のほか、一般の聴衆も大勢参加し、発表、質疑応答ともに非常な盛り上がりをみせた。この歴史的シンポジウムの座長をさせていただけたことは、私とってとても名誉なことでした。ありがとうございます。


■氏名:佐藤 光源

■所属:医療法人恵風会 高岡病院

■発表日:2019年5月20日

■発表演題名:
Overview: International Activities of the Japanese Society of Psychiatry and Neurology

■感想:
APA創設175周年の記念大会に参加し、今後の日米協力関係の促進に向けて従来のJSPNの国際活動とJSPN、日本の精神医学の変遷について発表した。その要旨はつぎのようである。
日本の精神医学は精神病学として19世紀に始まり、欧州で研鑽を積んだ呉秀三らが1902年にJSPNを設立した。第二次世界大戦の終戦(1945)まではドイツ精神医学が主流であったが、終戦後、日本の精神保健政策や精神医学、JSPNは大きく変化した。精神衛生法の公布(1950)で精神病者監護法が廃止され、フルブライトプログラムなどで欧米を視察した精神科教授らの影響もあり、精神分析や心身医学、児童精神医学、社会精神医学、精神科リハビリテーションが導入され、従来の病因論から精神発達や心理社会的次元へと展開した。一方、1960年代にはライシャワー事件、大学紛争やJSPN総会の混乱があり、第66回総会(1969)ではすべての学術発表が中止され、精神医学に深刻な影響があった。日本生物学的精神医学会や日本てんかん学会など多くの精神医学関連学会が新設され、加盟した国際学会で精神医学の進歩に貢献した学会も少なくない。
  JSPNの本格的な国際活動は世界精神医学会加盟(1961)で始まった。また、1963年には第1回日米合同会議が開催され、翌年には第2回会議が開催されたが、ライシャワー事件とそれに伴う法改正への緊急対応のため第2回で中止となった。当時、WPAからJSPNに地区大会の開催要請がくりかえされたが、実現したのはThe Kyoto Symposium (1979)とThe WPA International Conference on Psychiatric Therapy(1987)である。
JSPNの国際活動が画期的に躍進したのは第12回WPA横浜大会(2002)の開催であり、JSPN提案の横浜宣言が採択された。同時開催のJSPN創立百周年記念大会では学会認定医制度と精神分裂病の呼称変更などが決定し、横浜宣言もあってJSPN国際委員会活動が本格化した。委員長を務めた秋山剛氏がJSPNから初めてWPA理事に選任され、APAを含む多くWPA加盟学会との国際交流が本格化し、今日に至っている。


■氏名:青木 藍

■所属:東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻精神医学分野 博士課程

■発表日:2019年5月20日

■発表演題名:
American Psychiatric Association and Japanese Society of Psychiatry and Neurology: History and Future Visions for Collaboration

■感想:
セッションについて:
今回参加したセッションはAPAの175周年を記念した歴史に焦点を当てたセッションのうちの一つであり、APAと日本精神神経学会の関わりの歴史に焦点を当てたものであった。両学会の関わりについては知らないことばかりであったが、主に秋山先生から教えていただきながら準備し、2002年のWPA横浜大会以降の歴史について発表させていただいた。発表を通じて、精神神経学会の若手精神科医の国際交流を促進するプラットフォーム、特にフェローシップアワードなど、は素晴らしいものであり、他国の学会もほとんど実践していない貴重なものであることを知った。社会の多様性が増して行く中で、異なる背景、環境で働いている精神科医との交流から得られる刺激、治験はますます重要になって行くだろう。APAも同様の交流を活性化させて行くという意欲を感じた。

APA全体について:
アメリカは医療保険システムが日本と異なり、精神科医療が、社会的弱者にどのように関わっているのかということに強い関心があった。しかしAPAは、健康を規定する社会的な因子に挑戦し、重たい障害を抱えた人を支えて行くことが精神科医の責務であるというメッセージを発信していたように思う。また様々なセッションからは臨床的に精神科医が直面している困難には共通することが多いということも感じた。
APAに参加し、精神神経学会を代表して発表する機会をいただいたことはとても大きな刺激、経験になった。報告書を借りて、精神神経学会、特に国際委員会の先生方に感謝を申し上げます。

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