こころの薬(精神科の薬)と妊娠・出産・授乳に関するQ&A

Q3 こころの薬(精神科の薬)と妊娠・出産・授乳に関するQ&A

  • 3-1 精神科の薬を飲みながら妊娠できますか?

    3-1 妊娠することができます。精神科医との共同作業で、処方を事前に調整できるとよいでしょう。

    アドバイス

    • 薬を飲まれている方は、なるべく早めに精神科医に相談し、出産や子育てのために、ひとりひとりの状況に合ったよい方法を探してもらうとよいでしょう。(Q2-2Q2-6もご覧下さい)
    • 精神科の薬は一部を除き、赤ちゃんに危険を及ぼすことがないと考えられています。
    • もし、担当医が妊娠などについてくわしくない場合、このガイドをお見せして、一緒に考えてもらうのもひとつの方法です。専門家向けには以下のガイドがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.総論編(sALL_s.pdf (kyorin.co.jp))、各論編(kALL_s.pdf (kyorin.co.jp))」
    • 以下の薬を飲まれている方は、危険性があるとまでは言えませんが、妊娠前あるいは妊娠がわかった後にでも、できるだけ早く精神科医と相談するとよいでしょう。
      • 炭酸リチウム(リーマス、炭酸リチウムなど)
      • バルプロ酸(デパケン、セレニカ、バルプロ酸など)
      • カルバマゼピン(テグレトール、テレスミン、レキシン、カルバマゼピンなど)
      • 睡眠薬及び抗不安薬
    • 精神科の薬は、人によっては月経の不順や性的興味の減退などの副作用を伴うものがあります。このような症状が妊娠を妨げていると思われる場合は、医師と相談して調整することが望ましいでしょう。

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    説明

    • 精神科の薬を飲みながら妊娠できますし、飲んでいる間に妊娠がわかってもあわてて薬をやめたり減らしたりする必要はありません。(Q3-5もご覧下さい)
    • 日本の薬の添付文書(医療者向けに医薬品などに添付されている説明書)では、妊娠や授乳を避けるように書かれているものが多いのですが、同じものでも海外では妊娠中も飲めるものが多く、必ずしも薬をやめる必要はありませんので、落ち着いて医師に相談して下さい。日本の添付文書も今後は訂正されていくと思われます。
    • パロキセチン(パキシル)の添付文書には、赤ちゃんが先天性心血管疾患になる可能性があることが書かれていますが、最近の研究では、他の抗うつ薬と比較して変わらないという結果も出てきていますので、落ち着いて医師に相談して下さい。専門家向けには以下のガイドがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-2うつ病の治療と対応(kG47-54_s.pdf(kyorin.co.jp))」
  • 3-2 妊娠中に精神科の薬を初めて処方されましたが、飲み始めても大丈夫ですか?

    3-2 精神科の薬は、妊娠中に始めても安全です。

    アドバイス

    • まずは、薬を飲んでこころを安定させることを優先してみてはいかがでしょうか。
    • 心配でしたら医師(あるいは薬剤師)に、妊娠していることを承知しながら薬を出したのかどうか確認するとよいでしょう。
    • 医師や薬剤師と話し合いながら、状況に合ったよい方法を探していって下さい。
    • 以下の薬は、危険とまでは言えませんが、赤ちゃんに影響する可能性があります。
      • 炭酸リチウム(リーマス、炭酸リチウムなど)
      • バルプロ酸(デパケン、セレニカ、バルプロ酸など)
      • カルバマゼピン(テグレトール、テレスミン、レキシン、カルバマゼピンなど)
      • 睡眠薬及び抗不安薬
      • このような薬を初めて出された方は、医師と相談しながら続けて下さい。
    • 妊婦健診を積極的に受けて下さい。

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    説明

    • 精神科の薬のほとんどは、赤ちゃんに危険を及ぼすことがないと考えられています。
    • 日本の薬の添付文書(医療者向けに医薬品などに添付されている説明書)では、妊娠や授乳を避けるように書かれているものが多いのですが、同じものでも海外では妊娠中も飲めるものが多いのです。
    • 薬をやめることによって症状が悪化することは赤ちゃんにとっても危険です。
    • パロキセチン(パキシル)の添付文書には、赤ちゃんが先天性心血管疾患になる可能性があることが書かれていますが、最近の研究では、パロキセチンは他の抗うつ薬と比較して変わらないという結果も出てきています。専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-2うつ病の治療と対応(kG47-54_s.pdf (kyorin.co.jp))」を参考にして下さい。

    参考

    「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-12妊産婦と向精神薬(kG114-126_s.pdf (kyorin.co.jp))」

  • 3-3 どのような抗精神病薬が、おなかの赤ちゃんに影響しやすいですか?

    3-3 すべての抗精神病薬は、赤ちゃんへの影響が小さいと考えられています。

    アドバイス

    • 抗精神病薬を飲まれていると、妊娠中に糖尿病にかかる確率が高くなる可能性があり、糖尿病になると、おなかの赤ちゃんに影響する可能性もあります。定期的に健診、検査を受けるとよいでしょう。(Q1-2もご覧下さい)
    • 多くの種類、多量の薬を飲まれている場合、お産の後、赤ちゃんに薬の離脱症状が起こることがありますので、お産をする施設と前もって相談しておくとよいでしょう。(Q2-9もご覧下さい)
    • 医師や薬剤師と相談すれば、妊娠や出産を可能にする最善の処方を考えてくれるでしょう。

    説明

    • 抗精神病薬は、統合失調症、双極性障害(双極症)、うつ病などの治療に使われます。代表的なものには、ハロペリドール(セレネースほか)、リスペリドン(リスパダールほか)、アリピプラゾール(エビリファイほか)、クエチアピン(ビプレッソ、セロクエルほか)などがあります。
    • オランザピン(ジプレキサ)は、他の薬に比べて糖尿病の副作用が出やすいといわれています。
    • お母さんが抗精神病薬を飲むこと(注射などの場合もあります)で流産や早産、赤ちゃんに形態や発達の異常が起こることなどは知られていません。

    参考

    「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-12妊産婦と向精神薬(kG114-126_s.pdf (kyorin.co.jp))」

  • 3-4 どのような「うつ」の薬(抗うつ薬)がおなかの赤ちゃんに影響しやすいですか?

    3-4 ほとんどの抗うつ薬は、赤ちゃんにあまり影響しないと考えられています。

    アドバイス

    • ほとんどの抗うつ薬は、安心して飲んでいただけます。
    • 複数の抗うつ薬を飲まれていたり、他の薬もたくさん飲まれている方は、お産に際しお母さんの出血量が多くなったり、お産の後の赤ちゃんに薬の離脱症状や新生児遅延性肺高血圧症と呼ばれる疾患が現れたりする可能性がありますが、いずれも一時的で重症にはならないことがほとんどです。前もって、産科医に知らせておくとよいでしょう。(Q2-9もご覧下さい)
    • 三環系抗うつ薬を使用している場合、新しいタイプの抗うつ薬に変更できないか精神科医と相談されるとよいでしょう。

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    説明

    • 抗うつ薬による流産の危険は、ほとんどないと考えられています。むしろ抗うつ薬を中止することでお母さんの状態が悪くなると、早産や赤ちゃんの発育に悪い影響があるといわれています。
    • パロキセチン(パキシル)の添付文書には、赤ちゃんが先天性心血管疾患になる可能性があることが書かれています。他の抗うつ薬では、同様のことは知られていません。なお、最近の研究では、パロキセチンは他の抗うつ薬と比較して変わらないという結果も出てきています。kG47-54_s.pdf (kyorin.co.jp) もご覧下さい。
    • 抗うつ薬による治療は、心理的な治療よりも、妊娠中の「うつ」に効果があること考えられています。
    • 日本では、妊娠がわかった後に抗うつ薬を飲まなくなってしまう人が多いというデータがありますが、むしろ、抗うつ薬を続けていた方が、お産と子育てにとってよいといわれています。
    • 抗うつ薬には妊娠中のうつ病の再発(一度治ったうつ病に再びかかること)を予防する効果が示されています。

    参考

    専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-2うつ病の治療と対応(kG47-54_s.pdf (kyorin.co.jp))」

  • 3-5 妊娠したので、薬をやめて(やめさせて)よいですか?

    3-5 妊娠中に自分の判断で薬をやめるのは危険です。医師と相談して下さい。

    アドバイス

    • 薬をやめる必要はありません。医師は、相談に応じて、必要ならば薬を変更します。薬を飲みながらの妊娠や出産は十分可能です。(Q2-2Q3-1もご覧下さい)
    • 周囲の方は、本人が薬を飲むことを温かく見守って下さい。
    • ただし、以下の薬を飲まれている方は、大きな危険はないものの、なるべく早めに妊娠したことを担当医や薬剤師に報告し、相談するとよいでしょう。
      • 炭酸リチウム(リーマス、炭酸リチウムなど)
      • バルプロ酸(デパケン、セレニカ、バルプロ酸など)
      • カルバマゼピン(テグレトール、テレスミン、レキシン、カルバマゼピンなど)
      • 睡眠薬及び抗不安薬

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    説明

    • ほとんどの精神科の薬は、おなかの中の赤ちゃんにも安全です。
    • 日本の薬の添付文書(医療者むけに医薬品などに添付されている説明書)では、妊娠や授乳を避けるように書かれているものが多いため、専門家の中にも、それに沿った説明をする方がいます。しかし、実際にはほとんどの場合、薬をやめる必要はありません。妊娠や授乳などにくわしい専門家と相談するとよいでしょう。日本の添付文書も今後は訂正されていくと思われます。
    • 薬を自分の判断だけで中止すると、お母さんの病気が悪くなったり、一度治っていた病気が再び悪くなったりする危険性があります。
    • お母さんの病気が悪くなることは、赤ちゃんにとっても良いことではありません。
    • パロキセチン(パキシル)の添付文書には、赤ちゃんが先天性心血管疾患になる可能性があることが書かれていますが、最近の研究では、パロキセチンは他の抗うつ薬と比較して変わらないという結果も出てきていますので、落ち着いて医師に相談して下さい。
    • 専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-2うつ病の治療と対応(kG47-54_s.pdf(kyorin.co.jp))」を参考にして下さい。

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  • 3-6 いわゆる安定剤(抗不安薬)や睡眠薬を飲んでいますが、妊娠中に続けてもよいですか?

    3-6 続けられます。可能であれば無理のない範囲で減らしてく ださい。

    アドバイス

    • 安定剤(抗不安薬)や睡眠薬を飲んでいる方は、そのことを産科医にも伝えておくとよいでしょう。
    • 日本ではひとりの患者さんに処方される安定剤(抗不安薬)や睡眠薬の量や種類が比較的多いことが指摘されていますので、なるべく量や種類を減らすことをお勧めしますが無理はしない方がよいでしょう。医師や薬剤師と話し合えば、状況に合わせて薬を調整し妊娠や出産を可能にしてくれるでしょう。(Q2-2もご覧下さい)
    • バルビツール酸系の睡眠薬(ラボナ、イソミタールなど)、ブロモバレリル尿素(ブロバリン)を服用されている方は他の薬への変更について担当医と相談することをお勧めします。(Q21-5もご覧下さい)
    • 市販の安定剤(抗不安薬)や睡眠薬の方が、医師から処方される薬よりも危険なことがあります。薬剤師や精神科医及び産科医と相談するとよいでしょう。
    • 多量の安定剤(抗不安薬)や睡眠薬を妊娠の初期に飲まれていた場合、赤ちゃんに形態異常を生じる可能性が否定できません。それを予防するためには、前もって葉酸(1日0.4mg程度)を飲んでおくとよいでしょう(葉酸を飲めば多量に安定剤及び睡眠薬を飲み続けてよいという意味ではありません)(Q20-7もご覧下さい)
    • 安定剤(抗不安薬)や睡眠薬は、より安全と考えられている抗うつ薬などで代用できる場合がありますので、精神科医と相談するとよいでしょう。

    説明

    • 以前は、安定剤(抗不安薬)や睡眠薬が、赤ちゃんの先天性異常の原因になる可能性が指摘されていましたが、その後の研究で特に大きな危険があるわけではないことがわかってきました。
    • お母さんが安定剤(抗不安薬)や睡眠薬を飲みながらお産すると、赤ちゃんに様々な症状が起こることがありますが、一時的で過剰に心配することはありません。

    参考

    専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論12妊産婦と向精神薬)(kG114-126_s.pdf(kyorin.co.jp))」

  • 3-7 精神科の薬を飲みながら母乳を与えることはできますか?

    3-7 できます。なお、最近は人工乳の良さも見直されてきています。(Q12-6もご覧下さい)

    アドバイス

    • ほとんどの薬は、飲みながら母乳を与えることができます。母乳を希望されることを産科医や精神科医と話し合えば、状況に合わせて協力してくれるでしょう。
    • 赤ちゃんに、よく吐く、何となく元気がない、体重が増えないなど気になることがある場合は、小児科医に相談するとよいでしょう。その際には、ご自分が飲んでいる薬についても伝えましょう。
    • たくさんの種類の薬を飲まれていたり多量の薬を飲まれていたりする方や、赤ちゃんに薬がいくことが気になる方などは、母乳と人工乳を交互に与える方法(混合栄養と呼ばれています)や初乳のみ与え、それ以降は人工乳にする方法などもあります。
    • バルビツール酸系睡眠薬(ラボナ、イソミタールなど)及びブロモバレリル尿素(ブロバリン)についての安全性は不明なため、薬の変更について担当医に相談するとよいでしょう。
    • 処方箋がなくても薬局で購入可能な薬の中には、授乳に関するデータのないものがあります。薬剤師や精神科医及び産科医と相談するとよいでしょう。
    • 日本の薬の添付文書(医療者向けに医薬品などに添付されている説明書)では、授乳を避けるように書かれているものが多いため、精神科医や薬剤師などの中にも、それに沿った説明をする方がいます。しかし、母乳を希望する場合には、担当医だけでなく、あなたが信頼できる身近な医療者にアドバイスを受けるとよいでしょう。場合によっては、他の精神科医や精神保健福祉センター(地域によって心のケアセンターなどの名前になっていますので役所などに問い合わせるとよいです)などにも相談してみるとよいでしょう。国立成育医療研究センターではWEB などで相談を受け付けています(有料)授乳中のお薬相談 | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)

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    説明

    • お母さんが飲んでいる精神科の薬は、少量だけ母乳に含まれます。しかし、赤ちゃんの身体の中に入る薬の量はとても少ないため、実際に問題になることはほとんどありません。
    • 多少薬が含まれていても、母乳には多くのメリットがあります。たとえば、母乳を与えることで母子の絆が強まります。
    • ただし、人工乳でも赤ちゃんは問題なく成長しますから、母乳にこだわりすぎないことも大切です。(Q3-8もご覧下さい)
    • 専門家向けには以下のサイトがあります。精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論12妊産婦と向精神薬(kG114-126_s.pdf(kyorin.co.jp)
  • 3-8 薬を飲んでいることが心配だったり、授乳が負担だったりした場合には、人工乳で育てても構わないでしょうか?

    3-8 人工乳だけで育てることに問題はありません。

    アドバイス

    • 症状がつらくて母乳を与えることができない方、赤ちゃんに薬が行くことがどうしても気になる方などは、人工乳だけで育てたり、母乳と人工乳を交互に与えたりする方法(混合栄養と呼ばれています)を採用されるとよいでしょう。
    • 授乳することがつらい時は、周囲の方に凍結した母乳や人工乳を与えてもらうという方法もあります。
    • 母乳を与えない場合、途中でやめる場合などは乳腺の炎症などを予防するために産科医や看護師、保健師などに相談するとよいでしょう。

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    説明