「うつ病」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A

Q12 「うつ病」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A

  • 12-1 うつ病とはどのような病気ですか?

    12-1 気分が落ち込む、もともと好きだったことへの興味や関心がなくなる、眠れない、食欲がないなどの症状が2 週間以上続く病気です。

    アドバイス

    • うつ病は、その人の性格や親の育て方などが悪くてなる病気ではありません。
    • 適切な治療と休養が大切です。
    • それにより回復し、症状がまた悪くなる(再発する)ことを抑えることもできます。
    • 遺伝に関しては、Q2-3をご覧下さい。

    説明

    • うつ病の症状には以下のようなものがあります。
      • 気分が落ち込む、体が思うように動かない、やる気が起きない、楽しくない。
      • 必要以上に自分の経済状況や体の病気などを心配する。
      • 重くなると、自分の命を投げ出したくなってしまったりすることもあります。
      • これらの症状が続くと、生活に大きな影響を及ぼします。仕事や家事をしている方は、それまで普通にできていた仕事や家事が十分にできなくなります。
      • 時間によって症状に変動がある(朝に調子が悪く夕方に少し楽になるパターンが多い)ことも知られています。
    • 治療は、症状の重さによって変わります。
      • 比較的症状が軽い方は、精神療法を主体とした治療を行います。
      • 症状が中等度以上では、薬(抗うつ薬など)を用いた治療を行います。
      • 治療は個々人によって変わるため、精神科医と相談するとよいでしょう。

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  • 12-2 うつ病にかかっていますが、これから出産や子育てをすることは可能ですか?

    12-2 可能です。うつ病の治療をしているからといって、妊娠をあきらめる必要はありません。

    アドバイス

    • 精神科の担当医に、妊娠したい気持ちがあることをお伝え下さい。(Q2-8もご覧下さい)
    • 「ひとりでやろうと力まない」ことが大事です。
    • 周囲の方や行政のサポートを得られるようにしておくとよいでしょう。精神科医や相談員、役所などに相談するとよいでしょう。(Q1-5Q4-5もご覧下さい)
    • 理想的には、妊娠前の3 ヶ月〜 半年間、精神状態を安定させておくとよいでしょう。

    説明

    • 多くの女性がうつ病の治療をしながら出産・子育てを経験されています。
      日本うつ病学会双極性障害委員会「妊娠・出産を体験した双極性障害患者さんの事例紹介」Q2-1もご覧下さい)
    • 抗うつ薬を服用していても妊娠・出産はできますし、出産後、抗うつ薬を飲みながら授乳をすることもできます。(Q3-4Q3-7もご覧下さい)
    • うつ病にかかっていなくても、出産・育児は大変な仕事です。できる限り理解のある周囲の人の助けを得られるようにすることが大切です。(Q1-5Q4-5もご覧下さい)
    • 妊娠前に3 ヶ月〜 半年間、精神状態が安定していると、妊娠中・産後に精神状態が不安定になりにくいといわれています。(Q2-4もご覧下さい)
  • 12-3 妊娠中も、うつ病の薬(抗うつ薬)を続けた方がよいですか?

    12-3 妊娠中にも、抗うつ薬を飲み続けた方がよいですが、人にもよりますので精神科医に相談して下さい。

    アドバイス

    • 妊娠がわかってから、自分の判断で抗うつ薬をやめることはお勧めできません。(Q3-5もご覧下さい)
    • 計画的に妊娠する場合は、自身の飲んでいる薬と妊娠の関係について精神科医と相談するとよいでしょう。(Q2-2Q3-4もご覧下さい)
    • 抗うつ薬服用中に妊娠が判明した場合は、早めに精神科医に相談するとよいでしょう。(Q2-8もご覧下さい)

    説明

    • 抗うつ薬は、妊娠を安全に続けるためにメリットがあります。抗うつ薬のデメリットもないことはありませんので、そのバランスを考えることが大切です。
    • 急に抗うつ薬を中断すると、不安などの離脱症状が出ることがあります。中断したままだと、安定していた症状が再び悪くなることがあります。
    • 薬の害を心配される方は多いですが、薬を中止して症状が悪化することの方が、お母さんと赤ちゃんの両方によくありません。
    • パロキセチン(パキシル)の添付文書には、赤ちゃんが先天性心血管疾患になる可能性があることが書かれていますが、最近の研究では、他の抗うつ薬と比較して変わらないという結果も出てきています。専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論1-2うつ病の治療と対応(kG47-54_s.pdf (kyorin.co.jp))」を参考にして下さい。
  • 12-4 妊娠中にうつ病の薬(抗うつ薬)を飲み続ける時、注意することは何ですか?

    12-4 続けることの必要性と適切な量について、精神科医などと相談して下さい。

    アドバイス

    • 抗うつ薬が赤ちゃんに与える害について、心配しすぎないようにしましょう。
    • 妊娠中に服用する薬の種類や量について、妊娠前から精神科医・心療内科医と相談するとよいでしょう(妊娠中でも可能です)。(Q3-4もご覧下さい)

    説明

    • 妊娠中に薬を飲むことで、赤ちゃんに先天異常が出るのではないかと心配される方が多くいらっしゃいますが、抗うつ薬が赤ちゃんに与える影響は少ないことが知られています。(Q3-4もご覧下さい)
    • しかし、妊娠中は、薬の種類をできるだけ少なく、適切な量にすることも大切です。
    • お母さんが抗うつ薬を飲みながらお産すると、まれに、赤ちゃんが眠くなったり、ミルクなどの飲み方が弱くなったりすることがありますが、一時的で過剰に心配することはありません。念のために、産科や小児科の先生にも治療を受けていることを伝えて下さい。

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  • 12-5 出産した後、うつ病にならない、あるいはもともとのうつ病を悪くしないための工夫がありますか?

    12-5 「すべてを完璧にやろうと思わない」「できるだけ多く休息を取る」「周りに助けを求める」ことが大事です。

    アドバイス

    • 出産は女性の体に大きな負担を与えます。勇気を持って「助けてもらえたらうれしい」と周囲に伝えてみましょう。
    • 周囲の方は、まずはしっかり体を休ませてあげて下さい。
    • 赤ちゃんを育てるというのは試行錯誤の連続です。できることからやっていきましょう。
    • 育児はチームワークで行いましょう。支援をする仕組みもあります。(Q1-5Q2-5Q4-5もご覧下さい)

    説明

    • 血液中の女性ホルモンは、妊娠中に上昇し、出産と同時に一気に低下することが知られています。女性ホルモンの低下は不安やうつ症状に影響することが知られているため、産後2週間はおおよそ8割の女性で気分の不安定さを自覚するといわれています。
    • うつ病にかかる方は、責任感が強く、なかなかヘルプを求めることができない傾向があることも知られています。勇気を持って「助けてもらえたらうれしい」と伝えてみましょう。
  • 12-6 抗うつ薬を飲みながら、母乳をあげられますか?

    12-6 母乳を与えることはできます。

    アドバイス

    説明

    • 「産後うつ」になられた方から、「つらいけど、母乳をあげているのでお薬は飲めないですよね?」と質問されることがたびたびあります。過去には医療関係者の間でも「薬を飲んでいる人は授乳しないように指導する」という流れがありました。しかし、研究が進むにつれ、「薬を飲んでいるから授乳してはいけない」というのがもはや正しくないことがわかってきています。(Q3-7もご覧下さい)
    • たとえばある抗うつ薬の添付文書には次のような記載があります。産後3 ヶ月の授乳婦6 人の方に抗うつ薬を4 日間飲んでもらいました。母乳の中の抗うつ薬の濃度を調べたところ、お母さんの投与量の約1 万分の1 でした。この量は、赤ちゃんに影響を与える量ではなく、実際、多くの論文でも、抗うつ薬を飲んでいるお母さんが授乳をしたことによって赤ちゃんに影響は出なかったと報告されています。

    参考

    専門家向けには以下のサイトがあります。「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド.各論12妊産婦と向精神薬(kG114-126_s.pdf(kyorin.co.jp))」も参考にして下さい。

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