「パーソナリティ症」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A

Q18 「パーソナリティ症」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A

  • 18-1 パーソナリティ症とはどのような病気ですか?

    18-1 人とは違う反応や行動をすることで、本人が苦しんだり、周囲が困ったりする場合に診断されます。パーソナリティ症では、もののとらえ方、感情、対人関係などが極端になってしまう傾向があります。

    アドバイス

    • パーソナリティ症は、その人の人格の病気ではありません。
    • パーソナリティ症は回復します。
    • 信頼できる治療者や支援者などに出会い、周囲に、少しずつ心を開くことで、回復のきっかけをつかむでしょう。
    • 治療には、ルールが設けられることがありますが、少しずつでも守るようにするとよいでしょう。
    • 遺伝に関しては、Q2-3をご覧下さい。

    説明

    • パーソナリティ症には様々な種類が知られていますが、ここではボーダーラインパーソナリティ症について述べます。ボーダーラインパーソナリティ症には、次のような特徴があります。
      • 「いい人」と「悪い人」の境界がはっきりしています。悪いところもあるけれど仲よくできる人などというあいまいな評価が苦手です。そのため、仲のよい人も、相手の悪いところが見えると、急に「悪い人」と考えてしまうようになりがちです。それを自分にも当てはめて、自分を悪い人と決めつけると、ひどくつらくなります。
      • そのため、「今は仲よくしてくれている人からも、いつか自分は見捨てられるのではないか」という「見捨てられ不安」につきまとわれます。
      • 「見捨てられ不安」が強くなると、相手を自分から離さないために様々な行動を起こすことがあります。具体的には、友人に「もう死ぬ」と電話をする、リストカットをするなどの行動があります。「もう死ぬ」と言われると、相手はその人のことが心配になり、そばについてあげます。これによって、見捨てられるという不安がやわらぐという図式です。しかし、このような方法は一時的な効果しかありませんので、同様の行動が繰り返される傾向にあります。
  • 18-2 パーソナリティ症を抱えていますが、妊娠・出産・子育ては可能でしょうか?

    18-2 可能です。

    アドバイス

    • 信頼できる方がそばにいてくれるような環境を作るとよいでしょう。

    説明

    • パーソナリティ症を抱えていても、出産・子育てをすることは可能です。人によっては、出産・子育てを経験することで、症状がやわらぐことがあります。
    • 妊娠・出産・子育てにおいてもキーワードは「見捨てられ不安」になります。これがやわらぐ環境では、よい状況で出産・育児ができることでしょう。
    • 育児ヘルパーや産後ケア事業などを利用する場合も、相手の人に対し(相手がいい人なのかどうかなどという評価を下すのではなく)自分が安心できる人かどうかという目で見ることが必要です。
  • 18-3 妊娠・出産・子育てをしている時の、パーソナリティ症の治療はどのように行われるのでしょうか?

    18-3 様々な職種で協力しながら、妊娠・出産・育児をサポートできる体制を作っていきます。

    アドバイス

    • 基本的には、以前からの治療を継続するのがよいでしょう。治療の連続性は大切です。
    • 強い負荷がかかるような精神療法などは避ける方がよいでしょう。
    • 気分や感情を安定させる薬の中には、妊娠などに不向きな薬もあります。可能であれば妊娠中から、妊娠判明後であっても早めに処方している医師に相談しましょう。(Q3-1もご覧下さい)
    • 可能であれば妊娠前から、妊娠が判明した後からでも、アルコールやタバコをやめるなど、生活習慣を見直すとよいでしょう。(Q2-6もご覧下さい)

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    説明

    • パーソナリティ症の治療において、精神科医の役割は、「本人が破綻しないように、人生という道にガードレールをもうけてあげること」と例えることができるかもしれません。本人の生き方は、崖道を猛スピードで走るような感じです。一歩間違えれば大怪我をしてしまいかねません。もし、崖から落ちないようにガードレールをもうけることができれば、安心につながるでしょう。
    • パーソナリティ症に対する薬物療法は、本人のつらさに合わせて、最小限の量が用いられます。
    • 様々な職種で協力しながら、出産・育児をサポートできる体制を作っていきます。(Q1-5Q2-5Q4-5もご覧下さい)
  • 18-4 パーソナリティ症の診断を受けている方の出産・子育てを見守るためのアドバイスを下さい。

    18-4 なるべく多くの人で見守るとよいでしょう。

    アドバイス

    • 周囲の方は、できる限り本人の行動に振り回されず、落ち着いて行動するとよいでしょう。
    • 精神科医やカウンセラーなどにも知恵を借りるとよいでしょう。

    説明

    • 本人の「見捨てられ不安」(Q18-2もご覧下さい)に着目するとよいでしょう。もし、本人が、「誰かに見捨てないでいてもらえる」と思うことができれば、様々な問題が解決することがあります。周囲に協力的な方がついている場合、妊娠・出産は、本人にとって、よい結果につながることがあります。一方、そのような人がいない場合は、なるべく多くの人でサポートする必要があります。この場合、本人には、「特定の人でなくても、必ず誰かが見捨てずにいてくれる」という感覚を養っていただくことが大切です。

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  • 18-5 パーソナリティ症があり、ちょっとしたことで激しい怒りが出てしまいます。どうしたらいいですか?

    18-5 自分が話しやすい、接しやすいと感じる治療者と一緒に、感情のコントロールに取り組むとよいでしょう。

    アドバイス

    • 怒りは自然な感情です。怒っている自分に気がついてみるとよいでしょう。
    • 自分の怒りに気がついた時には、自分が困っているのだと自覚する癖をつけるとよいでしょう。
    • 困っていることに気がついたら、その原因が不安、寂しさ、認めてもらいたい気持ちなど、何であるかを探すとよいでしょう。
    • このように、怒っている自分を嫌うのではなく、怒りの感情から一歩ひいて、自分の内面をみていく練習をしてみましょう。

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    説明

    • 怒りは自然な感情です。動物が群れの中で、自分が困っていることを示すサインに使っています。人にとっても他人にアピールする手段ですから、怒る自分を毛嫌いすることはありません。
    • 怒りが出る時、その裏側に、自分でも気づいていない様々な感情が隠れています。そもそも物事がうまくいっていれば人は怒ることはありません。そのため、怒っているということは何かうまくいかなくて困っている状態にあるというわけです。
    • 何に困っているのか探してみるとよいです。何か不安なのでしょうか、あるいは寂しいのでしょうか、自分のことを認めてもらえないと思っているのでしょうか。その気持ちに気がつくことが大切です。次に、その困っている何かをケアしてあげることです。
    • 気持ちをケアしていくと、自分の中にはいい自分や、あまりよくない自分もいることに気がつくでしょう。それらをありのままに受け入れることが大切です。悪いところもあるのが人間ですから、様々な要素が組み合わさって自分という人間が形作られていると考えてみてはどうでしょうか。
    • 怒りの対処法は、ここに紹介したもの以外にもたくさんありますので、その人にあったものを探すのが大切です。ただ、これを一人で行うのは難しいことかもしれません。自分が話しやすい、接しやすいと感じる治療者と一緒に取り組むと、失敗しにくいです。