「統合失調症」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A
Q14 「統合失調症」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A
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14-1 統合失調症とはどのような病気ですか?
14-1 幻覚や妄想が出たり、意欲が出にくくなったり、記憶力や理解力が低下する病気です。100人に1人がかかる病気で、珍しい病気ではありません。
アドバイス
- 統合失調症は、その人の性格や親の育て方などが悪くてなる病気ではありません。
- 適切な治療と休養が大切です。
- それにより回復し、症状がまた悪くなる(再発する)ことを抑えることもできます。
- 遺伝に関しては、Q2-3をご覧下さい。
説明
- 統合失調症の主な症状には、以下のようなものがあります。
- 陽性症状:幻覚(何もないところから自分の悪口が聞こえてくる幻聴など)や妄想(実際にはないのにもかかわらず誰かに嫌がらせをされていると確信してしまうことなど)など
- 陰性症状:感情鈍麻(喜怒哀楽にとぼしくなってしまう)や意欲低下など
- 認知機能障害:注意や記憶及び情報の処理が難しくなる。
- 本人が受ける治療は、薬による治療が主となりますが、陰性症状や認知機能障害に対して、日々の生活を整えることや社会生活スキルトレーニング、作業療法などの心理社会的療法があります。
- 周囲の方が、病気をよく理解すること、治療に協力すること、落ち着いて対応すること、過干渉にならないこと、病気から回復していくプラス面に目を向けることなども大切です。
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14-2 統合失調症と診断されていますが、出産・子育ては可能ですか?
14-2 可能です。治療を続けることが重要で、誰かのサポートがあるとさらによいでしょう。
アドバイス
- 薬は必ず続けましょう。薬で心配なことは精神科医などに質問するとよいでしょう。(Q3-1もご覧下さい)
- 周囲の方たちにサポートしてもらうとよいでしょう。公的なサポートも数多くあります。(Q1-5、Q2-5、Q4-5もご覧下さい)
- 出産した施設や母子健康手帳(母子手帳)を発行してもらった窓口などから育児ヘルパーを紹介してもらうとよいでしょう。
- お母さんや周囲の方の中には、何らかのサービスを使うのは、きちんと母親ができていないからだなどと思う方もいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。様々な人が、自分に合った様々なサポートを受けます。どのお母さんも赤ちゃんと一緒に成長していくのだ、と考えてみてはどうでしょうか。
- 遺伝に関しては、Q2-3をご覧下さい。
説明
- 多くの方が統合失調症の薬を飲みながら出産されています。(Q3-3もご覧下さい)
- 育児というのは想定外のことが起こるので、誰にとっても、ひとりですべてに対応するのは難しいです。
- 育児ヘルパーは、自宅にヘルパーが訪問し、洗濯、掃除、買い出し、食事の準備、沐浴補助などをしてくれます。統合失調症の診断を受けている方は、自立支援医療制度を用いて家事援助が受けられることもあります。
- 具体的に、どのようなサポートを受けられるかについて、出産した施設や助産師、精神保健福祉士などに問い合わせてみて下さい。
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14-3 統合失調症の診断を受けている本人や周囲のものが、妊娠する前に気をつけておくことがありますか?
14-3 精神科の担当医や周囲の方たちを含め、皆で相談するとよいでしょう。
アドバイス
- 妊娠を希望していることを精神科の担当医に伝え、アドバイスをもらうとよいでしょう。(Q2-1、Q2-8もご覧下さい)
- できれば妊娠する3~6ヶ月前には病状が安定していることが望ましいので、妊娠時期について、パートナーともよく相談しましょう。(Q2-4もご覧下さい)
- タバコ・お酒は控えるようにしましょう。
- 周囲の方たちが、いつ、どのようなことができるのか相談しておくとよいでしょう。
- 月経不順や月経が止まる薬を飲みながらでは妊娠しづらいので、その場合は、精神科医に相談しましょう。
説明
- 喫煙や飲酒はおなかの赤ちゃんへの影響が出やすく、妊娠中のお母さんにもよくありません。
- 妊娠中や産後は心身の変化が著しく、特に産後は授乳のため、睡眠が取りにくくなります。サポートなしでは、精神状態が悪くなりやすくなります。
- 妊娠前に、できるだけ薬の種類を少なくするなどの準備ができれば理想的です。(Q2-2もご覧下さい)
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14-4 統合失調症の診断を受けている本人や周囲のものが、妊娠した時や妊娠中に注意することは何ですか?
14-4 妊娠したことを精神科医に伝え、自己判断で服薬や通院をやめないで下さい。
アドバイス
- 妊娠中も薬を飲み続けて下さい。(Q3-5もご覧下さい)
- タバコ・お酒は控えるようにしましょう。(Q2-4もご覧下さい)
- 体重増加に気をつけましょう。
- 本人の体調や精神状態が悪い時、疲れがたまっている時などに、十分休めるように、周囲の方たちに何ができるか話し合っておくとよいでしょう。
説明
- 「統合失調症の薬を飲んでいたらおなかの中の赤ちゃんに悪いのではないか」と心配になって薬をやめてしまう方がいらっしゃいますが、統合失調症の薬は、赤ちゃんにほぼ影響がないことが明らかになっています。(Q3-3もご覧下さい)
- 薬の中断により、統合失調症の症状が悪くなってしまうと、むしろ、赤ちゃんに悪い影響が出たり、思うように育児などができなくなったりしてしまいます。(Q3-5もご覧下さい)
- 喫煙は母児にとって好ましくありません。できるだけ禁煙にもっていくことが大事です。医師から禁煙の方法を教えてもらうこともできます。
- 食生活に気を配って下さい。急激な体重増加は妊娠糖尿病につながりかねません。統合失調症の薬によって、赤ちゃんは影響をほぼ受けないのですが、お母さんが妊娠糖尿病に少しなりやすくなるといわれています。(Q14-6もご覧下さい)
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14-5 妊娠中は、統合失調症の薬をやめた方がよいですか?
14-5 お薬はやめることなく、飲み続けることがとても大事です。
アドバイス
- 妊娠中も、統合失調症の薬は必ず続けて下さい。(Q3-3もご覧下さい)
- 妊娠がわかった時には、なるべく早く精神科の担当医に相談して下さい。
- 産科医にも、薬のことを伝えて下さい。
説明
- 統合失調症の薬は、おなかの赤ちゃんにも、産後の赤ちゃんの発達にも、ほとんど影響しないことが知られています。
- 統合失調症は、薬を飲み続けることで症状を落ち着かせることができます。薬の中断により、統合失調症の症状が悪くなると、おなかの赤ちゃんに様々な影響が出る心配があります。また、心のバランスを崩した状態では、思うように出産・育児などができなくなってしまいかねません。
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14-6 妊娠中に、統合失調症の薬を飲み続けながら、注意することは何かありますか?
14-6 食欲や体重の増加に注意しましょう。
アドバイス
- 食生活に気をつけて、急激に体重が増えないようにしましょう。
- 精神科と産科の担当医と相談し、必要な検査を受けましょう。
- 無理のない範囲で、薬の種類や量を減らしてもらうとよいでしょう。
説明
- オランザピン(ジプレキサ)は食欲や体重が増えやすい薬です。そのほかの統合失調症の治療薬の中にも、多少ですが、食欲や体重が増す副作用を持つ薬があります。食生活に気をつけて、急激に体重が増えないようにしましょう。妊娠糖尿病を避けるために、定期的に血糖値を調べてもらうとよいです。血糖値は精神科医にも知らせて下さい。
- 精神科で処方される薬(抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬)を妊娠後期に服用すると、生まれてきたお子さんに、眠気や哺乳力の低下、下痢、腹痛、ぴくつき等が一時的に生じることがあります。ただ、これらは、数日で自然に回復することが多いです。また、薬の種類が少なければ、これらの症状も起こりにくくなります。
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14-7 母乳をあげたいので、統合失調症の薬をやめた方がよいですか?
14-7 統合失調症の薬を飲みながら、母乳をあげることはできます。
アドバイス
- 産科医や精神科医などにも相談するとよいでしょう。(Q3-7もご覧下さい)
- 「授乳中のお薬相談」を利用する方法もあります。
授乳中のお薬相談(電話相談)
説明
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14-8 統合失調症の薬は、子どもの発達に影響がありますか?
14-8 子どもの発達には影響はないと考えられます。
アドバイス
- 統合失調症の薬は子どもの発達に影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。
説明
- 様々な研究で、お母さんが妊娠中に抗精神病薬を飲むことが、子どもの発達に影響を及ぼさないことがわかっています。また、授乳中にお薬を飲んでいた場合でも、母乳に含まれる薬はごくわずかで、赤ちゃんの発達に影響を与える可能性は低いと考えられています。
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14-9 出産した後、統合失調症を悪くしないための工夫がありますか?
14-9 「睡眠時間を確保できるようにする」ことと「薬をきちんと飲む」ことが大切です。
アドバイス
- 夜は、なるべくまとまった時間眠られるとよいでしょう。
- 薬を飲んでも授乳はできますので、薬は飲み続けましょう。(Q3-7もご覧下さい)
- 夜の睡眠や日中の休養のために、なるべく周囲の方たちにも育児に協力してもらうとよいでしょう。
説明
- 統合失調症は、ストレスがかかりすぎると症状が悪くなりやすいことが知られています。ストレスになるようなことを周囲の方と分担すること、睡眠時間を確保することが大切です。たとえば、深夜の1~2回は周囲の方に授乳してもらうなどの工夫を考えて下さい。
- 「薬をきちんと飲む」ことができているかどうか、周囲の方と一緒に確認することも、よい方法です。