公益社団法人 日本精神神経学会

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立花良之先生に「保護者のメンタルヘルス」を訊く

更新日時:2024年1月24日
 立花 良之 先生
信州大学医学部
周産期のこころの医学講座

※所属は掲載日のものです
子育てをする中で保護者自身が心の疲れのサインに気づく大切さ、心の不調の時にはどんなふうに対処すればいいのか、保護者のメンタルヘルスについてお伺いしました。(掲載日:2024年1月24日)

①保護者自身が心の疲れのサインに気づく大切さ

 子育てをする中で、お子さんのことで悩むことや、イライラしてしまうことはすべての保護者の方にあることでしょう。心身の疲れがたまると誰でも心の不調をきたすことがあるため、自身の心の疲れのサインに気づき、早めの対処をすることが重要です。
保護者の心の不調には様々なものがありますが、ここでは、誰でもなりうる「うつ」について取り上げます。
 「うつ」はこころ(精神)のエネルギーが全体的に下がった状態で、一日中気持ちが沈んだり、楽しいことが楽しいと思えなくなったりする状態が長く続きます。
 うつは、「心のかぜ」とたとえられることがあります。どんなに健康な人でも疲れがたまると風邪を引いてしまうことがあるように、どんなに心が健康な人でも精神力の強い人でも心身の疲れがたまると「うつ」になってしまうことがあります。うつは決して珍しいことではありません。
本人あるいは家族の方などが「うつ状態」かどうか判断するために、下記の2つの質問を使ってセルフチェックしてみるとよいでしょう。どちらか一つでも「はい」であった場合、「うつ状態」になっている可能性があります。

① この1か月間、気分が沈んだり、憂鬱な気持ちになったりすることよくありましたか。
はい・ いいえ
② この1か月間、どうも物事に対して興味がわかない、あるいは心から楽しめない感じが良くありましたか。
はい・いいえ

 気持ちがつらいときは、早目に保健センターの保健師または心療内科や精神科の医師などに相談してみるとよいでしょう。早めの相談や治療が早期の回復につながります。

②こころの不調のときには、どんなふうに対処すれば良いですか

 こころの不調が日常生活に著しい支障をきたしているレベルであれば、まずは精神科医療機関に相談してください。予約が取れなかったりしてどこを受診すればよいか困っているときは、保健センターや精神保健福祉センターが相談にのってくれます。
 そこまでではなく、ある程度日常生活は送れているけれども、心の不調で苦しいようなときは、こじらせないためにも、無理をせず負担を減らす、休む、人に相談することが大切です。子育てや家事、仕事などであまりにもやることが多いと、心も体も限界に達してしまいかねません。やれることをやれる範囲でやっていけばよい、といった割り切りも大切です。やることが到底できなそうなことを無理してなんとか頑張ろうとすると、無理がたたってメンタルヘルスの不調をきたしてしまいかねません。
 疲れが溜まっているようなときは、「これをしなければならない」などというふうに自分に課す目標をあまり高く設定せずに「ほどほどで良いのだ」くらいに思うとよいでしょう。また、自分がやってきたことやいまできていることをポジティブに捉えて、自分をいたわってあげるとよいでしょう。
 休息も大切です。疲れはできるだけ何日も持ち越さず、できるだけその日のうちにやりくりすると良いでしょう。心の健康には、良い睡眠がとても大切です。睡眠不足は禁物です。しっかりと睡眠時間を確保することを心がけましょう。
 乳幼児のいるお子さんがいる家庭では、子どもの世話や授乳などでなかなか睡眠時間が確保できずに睡眠不足になりがちでしょうが、睡眠不足が続くと誰でも心の不調をきたしかねません。夜に十分に寝られないようであれば、昼間お子さんが寝ている時に自分も休んだり、夜のお子さんの世話を他の家族に任せたりして、なんとか一日トータルである程度の睡眠時間が確保されるように意識すると良いでしょう。不登校やいじめなどお子さんのことで悩んでいるようであれば、教育相談などでお子さんのことを相談されると良いでしょう。一人で悩みを抱え込まずに、まわりの信頼できる人や相談機関に相談することも大切です。また、ヘルパーなど使える社会サービスを積極的に利用するのも良いでしょう。
 

③保護者がメンタルヘルス不調のとき、まわりの家族はどのようにサポートすればいいですか?

 ご家族だけで何とかしよう思わず、困ったら、気軽に相談機関に相談してみましょう。育児や家庭のことで悩んでいるようであれば、保健センターの保健師が相談に乗ってくれます。メンタルヘルスの不調で日常生活に支障がある場合は、精神科受診の必要がある可能性があります。精神科受診の場合には、本人に付き添って心療内科あるいは精神科を受診するとよいでしょう。
 本人の話に耳を傾け、つらい気持ちに寄り添うことが大切です。そのような心身の疲れを癒やすためには、本人の日常生活の負担をできるだけ減らしてあげると良いでしょう。うつのひとを無理に励ますことは避けるべきです。また、本人は気がのらないのに、気分転換に外出や旅行などをすすめるのも避けましょう。元気なときは外出や旅行などで気持ちもリフレッシュしますが、うつのときは、心のエネルギーが下がっているため、楽しむことができず、楽しめない自分を責めたり、疲れを感じて更に具合が悪くなったりすることもあります。
 睡眠は回復にとても重要です。小さいお子さんがいる場合、夜のお子さんのお世話をまわりのご家族の方が対応することで本人がゆっくり休めれば、早い回復にもつながります。また、家事・育児を本人がなかなかできなくなってしまいがちですが、家のことは完璧を求めずほどほどで済ませられることはできるだけそのようにすると家族全体で考えると良いでしょう。
 ご本人のケアや家事・育児で頑張りすぎて、まわりのご家族が疲れて具合が悪くなってしまうこともあります。共倒れにならないように、ご家族も自分自身の心の状態に気を配り、自分自身の心身の疲れを貯めないように気をつけることも大切です。

④子どもがかわいいと思えないのですが、どうすればいいですか?

 子どもがかわいいと思えない、イライラしやすいという場合には、いろいろな原因がありえます。「自分の子どもがかわいいと思えなければならない」と過度にとらわれないようにするほうが良いでしょう。どの親御さんにも、子どもに対する否定的な気持ちが出てくることがあります。そのような気持ちは他人に打ち明けにくいものですが、一人で悩まずに、信頼できる周囲のひとに相談すると良いでしょう。また、子育てについての相談機関も対応してくれます。
 子どもと一緒にいて気持ちが煮詰まってしまうようであれば、少し子どもと離れて自分の時間を持つことも良いでしょう。自分の時間を持つために安心して任せられるような預け先は、地域でいろいろあるはずです。わからなければ、地域の保健センターや子育て世代包括支援センターといった母子保健サービスを行う行政機関などで情報を教えてくれます。

⑤育児で悩んだとき、どんな社会サービスがありますか? 

下記のように地域には色々なサービスがあります。相談窓口に気軽に問い合わせてみると良いでしょう。

育児で悩んだ時の社会サービス

ご自身を大切に

 育児は24時間年中無休ですが、お子さんが健やかに幸せに育つためには、保護者の方自身が幸せでいることがとても大切です。育児に追われる生活の中でも、自分の好きなことをする時間、ほっと一息する時間を意識して作ってみてはいかがでしょうか。「親だから」などと、自分自身に厳しく、思い込みにとらわれると苦しくなるかもしれません。保護者の方が完璧な親である必要はありません。
 もし、自分が困っていたり苦しかったりするときは、信頼できる人にぜひ相談してみてください。ご家族やお友達などに話しづらいときは、相談機関に相談してみると良いでしょう。保護者の方は、日々の生活の中で、ご自身をいたわり大切にしてください。

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