公益社団法人 日本精神神経学会

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樋口進先生に「ゲーム行動症」を訊く

更新日時:2023年12月19日
樋口 進 先生
独立行政法人国立病院機構
久里浜医療センター

※所属は掲載日のものです
「ゲーム行動症」はどんな病気なのか、周囲の人はどのようにサポートすればいいのか、お伺いしました。(掲載日:2023年12月19日)

①ゲーム行動症とはどのような病気ですか。

最近、スマートフォン(以下、スマホと略)やゲーム機を使ったデジタルゲームやビデオゲームを多くの人が楽しんでいます。しかし、このゲームには依存性があることが分かっています。依存にまでに至らなくとも、長時間のゲームにより学業、仕事、日常生活に悪影響を受けている人も多数います。このような事態を受けて、世界保健機関(WHO)は様々な医学的知見を踏まえ、新しい国際疾病分類(ICD-11)に、ゲーム行動症(一般的にはゲーム依存と呼ばれています)を収載しました。つまり、ゲーム行動症は病気であることが正式に認めたわけです。WHOによればゲーム行動症は、持続的または反復的なゲーム行動に加えて、以下の4項目を満たす場合に診断されます。
・ゲームのコントロールができないこと(例えば、ゲーム時間を減らそうと思ってもなかなかできない状態)。
・生活の中でゲームの優先度が非常に高くなっていること(例えば、仕事や勉強、家族行事などよりゲームを優先させ、ゲームを中心に生活が回っている状況)。
・このようなゲーム行動により、学業、職業、家庭生活等で明確な問題または健康問題が起きていること。
・ゲームにより上記のような問題が起きているが、ゲームを続けるまたはエスカレートさせていること。
さらに、持続期間については、ゲーム行動が長期(例えば12ヵ月)に継続している必要があるが、ゲーム行動の症状と影響が深刻な場合にはそれより短くとも診断が可能である、となっています。
 一般にインターネット(以後、ネットと略)依存やスマホ依存という用語はよく使われていますが、医学的には病気とは認められていません。

なお、ゲーム行動症に関する簡便なスクリーニングテストも公表されていますのでご参照ください。

②患者さんの特徴や症状を教えてください。

ゲーム行動症は女性よりも男性に多く見られ、年代的には思春期の若者に多く、年齢が上がるに従い少なくなっていきます。2019年に実施された10歳~29歳の一般人口を対象とした調査では、男性の7.6%、女性の2.5%、全体で5.1%の者にゲーム行動症が疑われました。ゲーム行動症の疑われる者の割合が男性や若年者に多いのは世界的な傾向で、その割合は年々増加する傾向にあります
 症状とすると、睡眠障害はゲーム行動症患者のほぼ全てに見られます。部屋にこもりがちなため、体力低下も多くの患者に認められます。不規則な食事が原因で低栄養状態が続き、BMIが正常の下限以下になっている者が多くみられます。また、ゲーム行動症は、脳の様々な部位の構造的・機能的障害に関係しているとのことです。
図1は久里浜医療センターを受診したゲーム行動症患者が示した家族・社会問題の割合です。図のように、「朝起きられない」が80%、「欠勤・欠席」が51%、「昼夜逆転」が62%、「学業成績・仕事のパフォーマンス低下」が57%、「物を壊す・家族への暴言」が55%など、深刻な問題が高率に認められました。
2020年から始まった新型コロナパンデミックにより、わが国では学校閉鎖、ステイホーム推進、移動制限などの対策がなされました。世界的には長期にわたる都市のロックダウンが行われた国も多くありました。このような対策はいずれも自宅で過ごす時間の延長に繋がり、その結果、ネット・ゲーム時間の延長、ゲーム行動症の増加、症状の悪化を引き起こしていると示唆されています。


図1. ゲーム行動症患者が示す様々な問題の出現率(N=189)

注. 受診前6ヵ月間に見られた問題。「朝起きられない」から「ひきこもり」までの項目は、
     6ヵ月のうち半分以上の期間に認められた場合に「あり」としている。

③どのように治療しますか。

世界的にもゲーム行動症の治療は、まだ緒についたばかりです。2010年以後に出版された治療に関する論文の系統的レビューによると、認知行動療法(CBT)またはCBTをベースにした治療が最多で、その有効性が示されています。また、家族療法や本人のCBTと家族療法の併用などの有効性も示唆されています。しかし、ゲーム行動症の低年齢化が示唆されている一方で、若年者(8-12歳)の治療に関する知見は皆無で、今後の研究が期待されます。
ゲーム行動症の薬物治療に関しては、適応が認可された治療薬は世界的に存在しません。研究レベルでは、一部の抗うつ薬の有効性が示唆されています。ゲーム行動症には、注意欠如多動症(ADHD)が比較的高率に合併しますが、このADHDの治療薬がゲーム行動症にも有効という報告もあります。我々の日々の臨床でも、この点はよく経験されるところです。
久里浜医療センターは、2011年7月に全国に先駆けて、ネット依存専門診療を始めました。治療目標として、ゲームを完全に止めるのが理想ですが、様々な理由から実際にはゲームを減らすこととしています。これを達成する手段として、物理的にスマホやWiFiに制限をかけたり、取り上げたりはしません。単なるゲーム過剰使用の段階であれば、これらの方法が有効なことはあります。しかし、ゲーム行動症の場合には、事態が更に悪化することはあっても、このような方法で改善に向かうことは少ないでしょう。従って、治療の原則は彼らに自分の問題を理解してもらい、自らゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて努力するように導いてゆくことです。一つの方法として、リアルの活動を増やすよう働きかけ、ゲーム時間を減らすような介入は非常に重要です。
久里浜医療センターにおける実際の治療プログラムとしては、専門医による診療、臨床心理士による個人カウンセリング、運動・グループミーティング・集団認知行動療法をセットにしたNIPと呼ばれるデイケアプログラム、成人を対象にした外来グループミーティング、約2ヵ月の入院治療プログラム、ネット依存治療キャンプなどを行っています。また、家族に対する支援も必要なことから、受診者を対象とした家族会、および未受診者も対象とした家族ワークショップを行っています。

④予防はどのようにすればよいでしょうか。

予防でまず行われなければならないのは予防教育でしょう。若者はスマホやネットの使い方には長けていますが、その過剰使用の問題点や依存に関する知識は乏しいと指摘されています。適切な知識は、ゲーム行動症の予防に好影響があるでしょう。我々の治療チームの仲間が、某中学の学生にネット過剰使用に関する講義と学生同士による短時間のグループワークをセットにした授業を行いその効果を検証しました。その結果、ネット使用に問題のある学生の就寝時間が早まり、ネット時間が短くなったとのことです。同じような研究結果は他の国からも報告されています。
また、ゲームやスマホ使用のルール作りも重要です。このルール作りは、スマホやゲームを使う前に作るのが効果的ですが、もちろん、使い始めた後でも有効です。一方的に押し付けるのではなく、親子で相談して作るのが良いでしょう。以下は、両親からみたルール作りのポイントです。

  1. 使用時間または時間帯を決めましょう。こと細かに決めるより、例えば使用終了の時間、1日に使用可能な時間など、重要な時間を必要最小限決めるのがよいでしょう。
  2. 使用場所を決めましょう。子供部屋(自室)での使用は避け、リビングや家族の目の届くところで使用させましょう。
  3. 機器による使用制限、例えばピアレンタルコントロールを使うこともできます。これは、子供に悪影響を及ぼす可能性のあるスマホのサービスやコンテンツに対して、親が視聴・利用制限をかけることができる機能です。この機能は、本人の同意がないと効果的ではありません。また、依存に対する効果は限定的です。
  4. 多額のゲーム課金は小学生などでも大きな問題になっています。アプリのダウンロードや課金の限度額を決めておき、小遣いの範囲に留めさせましょう。
  5. 守れなかった時にはどうするかまで決め、必ず書面に残しておき、冷蔵庫など目につくところに貼っておくのがよいでしょう。
  6. 最後に、両親が率先してスマホ・ネット使用の模範を示すべきです。そうすれば、子どもたちは、それに従うでしょう。家族や周りの人とのネットを介さないコミュニケーションを大切にすることが重要です。

⑤ゲーム行動症が疑われたらどのように対処したらよいでしょうか。

ゲーム時間が長い、約束したゲーム時間が守れない、夜中までゲームをしている、そのために朝起きれない、課金額が多くなってきた、注意すると激昂する、ゲーム以外に興味を示さない、などはゲーム行動が悪化している兆候です。このような場合、まず、親子で話し合ってみましょう。その場合、ルールの必要性を説明し、ゲーム時間等について設定・確認をします。厳しすぎるルールは、守れないだけでなく親子の諍いの原因となるので、親から見ておおらかな設定の方がうまくいく場合が多いかもしれません。
問題が悪化すると、家族内で解決するのが、難しくなります。その場合、まずは相談機関に連絡をとってみてください。各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターには依存の相談窓口があります。また、ゲーム行動症を診療してしている医療機関でも相談対応しているところがあります。さらに、多額の課金問題に関しては、消費生活センターや国民生活センターに相談してください。
専門医療機関の受診については、早すぎることはありません。ゲーム行動症にまで至っていない場合でも、適切なアドバイスがもらえるでしょう。専門医療機関の情報については、最寄りの精神保健福祉センターに問い合わせるか、当センターのホームページを参照下さい。最近、このリストにない小児科や児童思春期精神科で診療している場合があります。その情報については、既述の精神保健福祉センターが把握しているかもしれなので確認ください。

 

 

 

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