公益社団法人 日本精神神経学会

English

一般の方へ|for the Public

小林聡幸先生に「身体表現性障害」を訊く

更新日時:2022年12月28日
 小林 聡幸 先生
自治医科大学
※所属は掲載日のものです
身体表現性障害とはどのような病気で、何が原因となって起こるのか、どのような治療法があるのかをお伺いしました。(掲載日:2022年12月28日)

①身体表現性障害(身体症状症)とはどういう病気でしょうか?

 めまい、腹痛、しびれなど、体に何かの症状があるのに、内科などを受診して検査しても「異常はない」「精神的なものだ」などと言われる。身体症状症とは大雑把にいってこのような状態のことです。また、大した不調はないのに自分は重大な病気ではないかと思い悩む、従来、心気症といわれた病態や、身体的欠陥について過剰に悩む、従来、醜形恐怖といわれた病態もここに含まれます。つまり訴えは身体のことなのに、その原因は心理的なものと考えられる状態をこの病名のもとにひとくくりにしているわけです。アメリカ精神医学会の診断基準DSMの第4版までは身体表現性障害という名称でしたが、最新の第5版で、ほぼ内容は一緒ながら身体症状症と名称が変わりました。

 精神的悩みが体の症状として表れたものだとしても、精神的悩みと体の症状との関係を客観的に確実に証明する手段がないのが現状です。よって診断は症状のわりに身体的な所見がないということから推測するしかありません。診断する医師のほうも確実なことをいえないこともあって、しばしば患者本人は身体症状が精神的な原因によるものと認めることができず、あちこちの医者で診察を受け、検査を受けることになります。
 

②どのような症状になるのでしょうか?

 何でもありです。

 立てない、歩けない、目が見えないなど体の機能が麻痺する症状から、身体各所の痛みや、だるいとかクラクラするとか漠然とした身体的な訴えまで、考え得る身体的訴えはどのようなものであれ、精神的原因から生ずる可能性があるといっていいでしょう。他方、明らかな精神的原因があって、内視鏡検査で胃潰瘍があったとか、高血圧が認められたとか、身体に病的な変化が客観的に確認されるような場合は心身症と診断されます。

 数年にわたっていくつかの身体症状を訴えるもの(身体化障害)、運動や感覚の麻痺を訴えるもの(転換性障害、変換症、機能性神経症状症)、慢性的な痛みを訴えるもの(疼痛性障害)、重大な病気ではないかと強い不安を抱くもの(心気症、病気不安症)、外見上の欠陥にとらわれるもの(身体醜形性障害)などと分類されます。
 

③どういった治療があるのでしょうか?

 恐らく原因や病態はいろいろで、一概に言えるものではありません。

 体のことが心配になりやすい性格の持ち主ならば、症状が精神的・心理的なものであることを認め、それと付き合っていこうとすることで軽快することもあります。背後にうつ病など他の病態がかくれている場合はその治療を行うことで身体の症状もよくなることがあります。職場の問題や家族の問題など周囲の状況が原因となっている場合には、その問題を解決したり、解決できないまでもそこから受けるストレスを軽減する方法を見出すことで軽快につながります。

 症状に伴ううつ状態や不安に対して薬物療法を併用することもあります。

 症状を長引かせずに早めに精神科に受診していただくほうが治りがよいようです。ただ、身体症状があることで現実的な問題に直面しないですんでいるような場合には、なかなか難治ですし、そうした方では自分の身体症状が精神的な原因によるものと認め、受け入れることが難しく、そこが治療の第一関門となることも珍しくありません。

このページの先頭へ