公益社団法人 日本精神神経学会

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日本精神神経学会 精神療法委員会に「精神療法について」を訊く

更新日時:2021年7月20日
日本精神神経学会
精神療法委員会
※所属は掲載日のものです
精神療法とはどのような治療か、また、それぞれの特徴について当学会の精神療法委員会の先生方にお伺いしました。(掲載日:2021年7月20日)

①精神療法とはどのような治療ですか? 私の主治医の10分程の診察も精神療法なのでしょうか?

 人間同士の交流を通して症状や苦痛、様々な窮屈感や不自由感に介入する治療を精神療法といいます。「人間同士の交流」というのは、絵画や、音楽、ダンス、遊戯など言語以外の手段によることもありますが、通常は言葉のやり取りによって行われます。もちろん、そこでやり取りされるのは単に言葉の意味だけでなく、声の調子や速さ、頷きや目配せといった治療者の態度も含めた総合的なものであることはいうまでもありません。

 さて、私たちは精神療法を大きく2つに分けて考えています。対象となる人のパーソナリティや考え方の変化や成長を積極的に目指していく治療と、そうした変化は目指さず、その人が現在持っている資質を十全に活かせるようにすることで適応力を挙げることを支援する治療です。

 前者の例としては、力動的精神療法、認知行動療法、森田療法や内観療法などが挙げられます。これらの説明についてはQ2.以降に譲りますが、これらは一定の訓練を受けた治療者でないと充分に効果的な介入を行えないという事情や、精神療法を受ける側にも積極的にチャレンジする意欲が求められるというような事情があり、常に実施可能なものではありません。

 一方、後者は、わが国では「支持的精神療法」と呼ばれることが多いのですが、普段の診察場面でも主治医によって幅広く実施されています。私たちは診察場面が話しやすい雰囲気になるよう気を遣っていますし、「薬を飲みたくない」と言う人がいれば一体何を心配しているのかを明らかにして、その解決を試みます。医師からの直接的働きかけを好むように感じられる場合には「〇〇しましょう」と明確な指示や指導を行ってみますし、直接指示されることを好まないと推定される場合では選択肢を示唆する程度に留め、本人の積極性を引き出そうとします。短時間の診察であっても、主治医はこうした精神療法的配慮のもとで、伝えるべき言葉を取捨選択しています。

 本学会では、全会員がこうした精神療法的マネジメントのスキルをより高めることができるよう、研修の機会を定期的に提供しています。

池田 暁史先生(文教大学人間科学部臨床心理学科)

 

②力動的精神療法とはどのような精神療法でしょうか? 向き不向きはありますか?

 力動的精神療法は、症状や悩みの背景にあるもののまだ十分に意識されていない、無意識的な葛藤や自分の傾向を知ることでそれらの改善を目指す精神療法です。しばしば精神分析的精神療法とも呼ばれます。

 不安や抑うつ気分などの症状や、人生における慢性的な不全感などの訴える方の中に、この治療法が勧められる方がいます。この治療法では、十分な長さの面接を定期的にもち、多くの場合、話題を特に限定せずに自由に話してもらいます。そのような面接を通して、同じような葛藤や傾向が繰り返し問題になっていることが次第に明らかになってきます。さらには治療者との間でも同じようなかかわりが繰り返されていることにも注意が向けられるようになります。以上のような過程を通して、意識できる範囲が拡大し、それまでは考えることの難しかった自分のあり方について考えることができるようになっていくことが期待されます。

 目指すゴールの性質から、治療に要する期間は比較的長く、年単位で続けられることがしばしばです。しかし場合によっては、問題を絞り短期で行われることもあります。薬物療法などの他の精神科治療と並行して行われる場合もあれば、単独で行われる場合もありますが、その判断は個別のケースによって異なります。

 この治療法は、時間をかけてじっくりと自分の問題に取り組みたい方、話し合いを通して自分のことを考えることが好きな方に向いています。自分の内面を見つめていく作業は、時に自分が目を向けたくない面にも及びます。また短期間で急速な改善をめざすものではありませんので、長期的な視点で治療に臨み、きちんと通い続けることが重要です。幻覚や妄想、重度のうつ症状やアルコール関連の深刻な問題などを持つ方、定期的に治療を受け続けることの難しい方、また治療者と言葉を通して一緒に考え続けることの苦手な方には、あまり向いていないかもしれません。主治医と向き不向きについて十分に話し合って選択することが重要です。

吾妻 壮先生(上智大学)

 

③認知行動療法とはどのような精神療法でしょうか? 向き不向きはありますか?

 うつ病やパニック症・社交不安症などの不安症にかかると「認知の歪み」と呼ばれる物事の捉え方の偏りが見られるようになり、抑うつ気分や不安といった不快な情動が引き起こされ、非適応的な行動が生じます。認知行動療法は、この認知という情報処理プロセスに焦点を当てた介入を行い、気分や行動の変化を促しつつ患者の問題対処能力を伸ばし、結果として精神症状の改善やストレス対処能力の向上を目指します。うつ病や不安症のほか、強迫症、心的外傷後ストレス障害、摂食症などの改善に有効であることが多くの研究で証明されています。

 認知行動療法は目標志向型の短期精神療法で、1回30〜50分、計10〜16回を目安に実施されます。再発予防の目的で終結後に数回追加実施する場合もあります。全体としては①治療の導入、②問題への取り組み、③終結と再発予防、の3つに大別できます。まず問題点や長所などの情報を収集し、症例のみたてを行い、治療方針を立てます。そして自分の置かれている状況や気分、行動、どのようなことを考えているのか(認知)についてモニタリングします。その上で物事の捉え方の偏りや非適応的な行動の有無を検証し、認知修正などの認知的アプローチと行動変容を促す行動的アプローチを組み合わせた介入を行います。この介入により気分の改善や具体的な問題の解決、対処能力の向上や再獲得を目指していきます。最後は治療全体の振り返りを行い、習得した技法や病状の変化を確認し、再発予防法を検討し終了となります。

 認知行動療法は多くの精神疾患に対して適応があり、効果が期待できます。しかし病状によっては薬物療法や電気けいれん療法、磁気刺激療法といった生物学的治療を主体に行った方がよい場合があります。例えば重度のうつ状態、強迫制縛状態の場合などです。また性格傾向や特徴によっては他の精神療法(力動的精神療法、内観療法、森田療法など)がより適応がよい場合があります。

中尾 智博先生(九州大学大学院医学研究院精神病態医学)

 

④日本発祥の精神療法があると聞きました。どのような精神療法でしょうか?

 日本で生まれた代表的な精神療法に森田療法と内観療法があります。森田療法は精神科医、森田正馬によって創始された精神療法で、元来の治療対象は不安症や強迫症、身体症状症などでした。これらの人々は神経質性格を有するがゆえに、しばしば注意と感覚の悪循環から心身の不調に過敏になります。さらにはこうした不調や不安を「こうあるべき」という知性によってコントロールしようと努める結果、益々それにとらわれ症状として固定されていきます。このような悪循環から脱し、不安は不安のままに置いて現実の生活を充実させていく姿勢(あるがままの心的態度)に導くことが森田療法の核心です。

 森田療法の基本型は臥褥と作業療法を骨子とする独特の入院療法ですが、近年は外来で
も広く実施されています。また今日では、上記の病態の他に遷延性うつ病、種々の心身症、癌の患者のメンタルヘルスにも適応が広げられています。

 内観療法は、民間の篤信家であった吉本伊信が浄土真宗の一派に伝わっていた身調べという方法を自ら体験し,それをヒントに宗教色を薄めて心理的な援助手段へと発展させたものです。内観療法では,過去の対人関係のなかでの自分の態度を徹底的に内省させ、自分の罪,他者から受けた恩愛を自覚することで,自我執着の状態を打ち破ることを目指します.具体的には,「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3点について,父親や母親,その他の身近な人に関してそれぞれ年代を追って思い起こしていく作業を、7日間,毎日朝から晩まで続けます(集中内観).内観者は2時間ごとに面接に訪れる指導者に内観の内容を報告し,指導者は解釈を加えず傾聴します.こうした集中内観の他に,毎日自宅で一定の時間内観をする日常内観というやり方もあります。

 内観療法は非行や犯罪者に対する矯正教育として普及しましたが,アルコールや薬物依存,不安症やうつ状態の治療にも適用されています。

 加えて、統合失調症の再発予防に焦点をあてた生活臨床、動作の変容を通して心身の状態の改善を目指す動作法も我が国独自の精神療法です。更には、独創的な臨床の知を有する日本の精神療法として、統合失調症や外傷体験にまつわる回復・治療論を展開した中井久夫、当事者向けに心身養生のコツを伝える神田橋條治、さまざまな表現活動を通じて治療を進める山中康裕の業績もあります。

中村 敬先生(東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科・森田療法センター)

 

⑤個人以外を対象にした精神療法もあるのでしょうか?どんな場合に用いられますか?

 あります。代表的なものとして家族・夫婦療法と集団精神療法が挙げられます。

 まずは家族・夫婦療法について説明しましょう。患者と家族の相互関係は長くて深いものです。同居、別居を問わず、相互に影響し合い続けており、患者の示す症状や問題行動は家族に影響を与え、逆に家族から影響も受けます。とりわけ患者が児童思春期(不登校、摂食障害、発達障害、強迫性障害、自傷や暴力などの問題行動、適応障害など)の場合では家族との相互関係を理解することがとても重要です。また、がん、難病。認知症の家族への支援も行われています。家族療法では「膠着した関係性を変化させる」ことを目指します。ですから患者を含む家族との合同面接で介入するのが効果的です。外来や入院でも最低30分もあればできますし、個人精神療法よりも患者の良好な変化が比較的早く得られることがあります。夫婦療法はとりわけ配偶者がうつ病(とりわけ産後うつ病)である場合に、配偶者と同席で夫婦面接おこなうことで薬物療法以上の効果があることが実証されています。その他、セックスレス、浮気によるトラウマ、依存症などに効果的です。より理解を深めたい方には日本家族療法学会編「家族療法テキストブック」(金剛出版、2013)を推薦します。

 次に、集団精神療法ですが、これは1人またはそれ以上の治療者と、複数人の患者という設定で行います。集団のもつ治療促進的な力(支える力、育む力)を活用する精神療法です。そこでは、治療者と患者の交流に加えて、患者同士の交流も重要な治療促進的な力になります。集団設定で行う力動的精神療法や認知行動療法など、言語的交流を通して自己理解を深めるもの。グリーフワークのように、同じ体験をもつ人たちが互いに支え合うもの。集団で行う心理教育のように教育的なもの。集団で対人交流技術を練習し習得するSST。演技やダンス、芸術などの活動を通して行うアクティビティグループ。このように、その種類は多岐にわたります。

家族・夫婦療法:中村 伸一先生(中村心理療法研究室・本郷東大前こころのクリニック)
集団精神療法 :白波瀬 丈一郎先生(東京都済生会中央病院)

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