公益社団法人 日本精神神経学会

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田中康雄先生に「不登校、ひきこもり」を訊く

更新日時:2015年1月23日
田中 康雄 先生
北海道大学
※所属は掲載日のものです
不登校、ひきこもりの問題と関係の深い精神障害は何か、現在の青少年が抱えている「生きづらさ」とは何か、また、不登校・ひきこもりの問題を相談できる医療機関以外の窓口についてお伺いしました。(掲載日:2015年1月28日)

①精神科医の立場から、不登校、ひきこもりの問題と関係の深い精神障害は何でしょうか?またどのくらい関係は深いのでしょうか?

 不登校とは、学校という場との関わりがうまく行かないことで、長期間学校を休んでいる状態のことです。ひきこもりは、社会という場との関わりを避けている状態といってよいかと思います。この関わりがうまくいかない、あるいは関わりを避ける理由は、非常に多様です。精神科医は、不登校やひきこもりの意味を考え、面接し、前景にある精神・身体症状や環境状況を検討し、背景に精神障害があるかを考えます。

 精神障害の可能性としては、
①学校、社会生活の不安定さ(いじめや友人、教師、会社の同僚・上司との対人関係の躓きなど)、家庭生活の不安定さ(家族の死や転居、両親の不仲など)といった環境、状況を誘因として生じる抑うつや不安のほか、頭痛、腹痛、めまい、嘔気といった身体症状が生じるといった神経症圏による場合
②発達障害のため集団参加に著しい緊張や不安が生じる場合
③統合失調症や気分障害といった精神病圏により不登校・ひきこもりを呈している場合
が考えられます。

 その関連性や深刻さは、それぞれの病態の程度や環境の程度によります。支援は休息と環境整備が必須です。さらに②の発達障害圏では正しい診断が求められ、③の精神病圏では精神科治療に集中すべきです。

②多くの少年、青年たちと関わってきた立場から、現在の青少年が抱えている「生きづらさ」は何だと思われますか?

 生きづらさとは、生命を維持してこの世にあることや生活を営むこと自体が困難であること、さらに生き生きと存在し役立つ働きを示すことが困難で、そこに価値を見いだしにくく、心情的に辛いと感じることといえるでしょう。

 私は、その背景に生きがいの喪失があるように思います。「生きがい」とは、未来に向かう前向きな心の姿勢で、自分の人生に良い意味をもたらせるものです。
 これを踏まえたうえで、現在の青少年が抱えている「生きづらさ」を考えると、

①生命を維持し生活を営むことの難しさ:被虐待体験や性暴力を含む被害体験にさらされ、貧困のため食事も満足に摂れない。
②生活に魅力を持たせることの難しさ:高学歴社会のため、高校進学は当たり前、大学進学率も高い現代において、画一化した価値観のなかで、学校生活そのものが魅力ある空間でなくなってきた。
③生活にゆとりを持たせることの難しさ:遅れることを怖れ、競争し続けるため、学習時間は増し、習い事も増え、自分の時間をゆっくりと取ることができず、常に携帯機器でのゲームなどで隙間時間の気分転換をはかるしかない。
④円満な対人関係を形成することの難しさ:同じ空間で一緒の時間を共有することが難しいなかで、円満な対人関係を維持しようと必死に携帯機器で繋がり続けようとする。孤立を怖れて繋がり続けることに強迫的になる。

という4つの難しさがあると考えます。
さらに養育者や大人たちも、実は同様の生きづらさを抱えています。

③学校関係者へアドバイス

 学校関係者は、子どもたちが将来への夢を抱けるよう、未来を信じ続ける力を育てることに心を砕いてほしいと思っています。子どもたちの生活に、最も近くで関わっているという自負を持ってほしいと思います。

 発達障害のある子どもたちに関しては、彼らの集団参加のしにくさの背景にある「特性」をまずは理解してほしいと思います。彼らの感覚の過敏さやじっとしていられない特性などは、我慢させるのではなく配慮した環境整備を提供することで良好な変化を見せます。

 学習成果や対人関係に傷つき思い悩み苦しんでいる神経症圏の子どもたちに関しては、特に心を支えてほしいと思います。林竹二は、「教育の根底にあるもの」(径書房、 1991)で 「教育というものは、教師の力で子どもを変えることじゃないんです。子どもの中には生命があって、生命というものはふだんに自分を成長させ、自分を変化させる力であるわけですね。そういう力が働く場所を用意することが教育なんですね。」と述べています。つまり、子どもの生命力、回復力を信じ待つことです。はらはらと心配しながらも待つことです。

 精神病圏にある子どもたちについては、できるだけ早く家族と相談し、医療へ橋渡ししていただきたいと思います。子どもたちと日々、最も近くで関わっている中で感じる「いつもと異なるという感覚」を大切にしてほしいと思います。

 教育と医療は異なる言葉を持っているので、医療との連携が時に難しい場合もありますが、それでも諦めずに、つながりを持ってください。子どもと家族を支えたいという思いは一緒のはずです。

④今、悩んでいる親へのアドバイス

 これまで、特に大きな心配もなく生活していたわが子が急に朝から体調が悪いと言い始め、結果的に登校できなくなっていくと、多くの親は、どうしてしまったのだろうかと不安になります。当初は身体の調子が悪いのかと心配しますが、徐々に精神的なものではないだろうか、あるいは、いじめやからかいといった辛い状況で生活しているのではないかと思い始めます。しかし、このままずっと家にこもってしまったら学習も遅れ、戻りにくくなるだろうと悩み、登校させようします。すると多くの子どもたちは、より頑なになり、時には自室にこもり、昼夜逆転したり、追い詰められたりします。それで親は、また悩みを深くします。

 どうか、家族だけで抱え込まず医療機関などに相談してください。

 私は、親御さんには、はらはらと心配するものであること、しかし焦らないことが大切で、目を離さず、話しかけられたら落ち着いて向き合える心の準備をしていてくださいとお願いします。それでも2日に1回は「そろそろ学校に行けないかな」と催促してしまうものです、と伝えます。

 決して親、家族が自責的にならないでほしいと思います。不登校、ひきこもりはいずれも家庭、自室という安心した場所を親が提供してくれているからこそ、できるのです。その意味で親、家族がすでに充分に保護的な機能を果たしていることを誇りに思ってください。

⑤不登校・ひきこもりの問題を相談できる医療機関以外の窓口について

 一概にはいえませんが、親がまず相談しやすいところというと、児童相談所、児童相談センター、児童家庭支援センターなどでしょう。学校環境や学習面に心配な面があるときは、教育センターもよいかもしれません。

 発達障害圏を心配している場合は、発達障害者支援センターが役立つ場合もあります。ひきこもりについては、まだ全国で39カ所程度ですが、ひきこもり地域支援センターが力になってくれるかもしれません。

 地域によっては、発達障害の親の会や不登校の親の会があります。学校の教員やスクールカウンセラーなども役立つかもしれません。

 最初は、本人も一緒に行くことはまれですので、親や家族が本人の様子を時系列に沿って簡単にメモしたものを持参して、相談に行かれる方がよいかもしれません。

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