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塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く

 塩入 俊樹 先生
岐阜大学
※所属は掲載日のものです
パニック障害/パニック症とはどのような病気で、何が原因となって起こるのか、どのような治療法があるのか。また、周囲の人はどのようにサポートすればよいのかをお伺いしました。(掲載日:2017年2月16日)

①「パニック障害/パニック症」とはどのような病気ですか?

 体の病気はないのに、突然、動悸、呼吸困難感、発汗のような身体症状が急激に出現し、そのために「死んでしまうのではないか」と恐怖する、典型的な「パニック発作」。この発作が2回以上起こり、そのために「あの発作が起こったらどうしよう」と過度に心配となり、外出などが極端に制限されてしまう病気、それが「パニック障害」です。

 かつて有名なスポーツ選手や芸能人の方々が、「自分はパニック障害(パニック症)という病気です」と公表したこともあって、皆さんの中には、すでにこの病名を「聞いたことがある」あるいは「よく知っている」という方もおられると思います。一般の方の8割でこの病名を知っているとのアンケートもあり、「うつ病」、「適応障害」などと並んで、「パニック障害」は最も身近に感じる病名の1つかもしれません。しかしながら、私がこの病気を研究し始めた1990年代初頭では、「(我が国には)パニック障害などいない」と豪語していた専門家もいました。それから20年ほど経った今、このような状況になっていることに驚きを隠せません。

 では、この「パニック障害」、いつからあるのでしょうか。実はこの病名、1980年に世に出たもので、つまりまだ30年余りしか経っていない、比較的新しい概念の病気なのです。でも本当のところは、19世紀にイギリスの心臓学者の記載があるほど古い病気です。そして1894年、かの有名なフロイトにより「不安神経症」という病名が提唱されましたが、まさに「パニック障害」はこの概念に当てはまる病気と言えます。「不安神経症」ならば、知っている方も多いと思います。さらに、19世紀終わりから20世紀中ごろにかけて、戦争が勃発し、兵士が同様の症状を起こすことから、「兵士心臓」、「飛行士症候群」、その他、「心臓神経症」、「神経疲弊」、「神経循環無力症」など、さまざまな病名が付けられてきました。つまり、「パニック障害」という病気は150年以上前から知られてはいましたが、現在の病名が採用され、きちんとした診断基準が出来たのが1980年以降ということになります。ちなみに、「パニックPanic」の語源には諸説ありますが、ギリシャ神話に出てくる山羊(やぎ)の耳と足を持った牧神パンPanが怪物の出現に“慌てふためき(パニックになって)”川に飛び込み、その時に水に浸った部分は魚に、水面に出ていたところは山羊の姿になったというやぎ座の伝説が有名です。
 

②「パニック発作」があれば「パニック障害/パニック症」になるのでしょうか?

 「パニック障害」の診断には、①2回以上「予期しないパニック発作(後述)」があること、②少なくとも1カ月の間、次の発作が起こることへの持続的不安(「予期不安」といいます)や発作の意義や結果についての心配、発作と関連した行動上の変化(外出などが制限される等の「回避行動」が典型的)、のどれかがあること、そして③カフェインなど物質や医薬品、あるいは身体の病気(甲状腺機能亢進症など)によらないこと、の3点すべてがそろうことが必要です。

 特に①が重要ですが、“予期しない”とは、何のストレスもない時に、突然、青天の霹靂(へきれき)のように、発作が出現することです。ですから、例えば、誰かと口論をしたといった何らかのストレスがあった直後起きた「パニック発作」は「予期しないパニック発作」ではありませんので、このような発作が何回起こっても「パニック障害」とは診断されません。

 また、「パニック発作」とは、以下の13の身体症状および精神症状のうち、少なくとも4つ以上の症状を認め、さらにその発作は急激に始まり、数分以内にピークに達するものを言います。

①動悸、心悸亢進、②発汗、③身震い、④息切れ、⑤窒息感、⑥胸痛、⑦嘔気(おうき)、⑧めまい、⑨現実感喪失、⑩コントロールを失う恐怖、⑪死の恐怖、⑫異常感覚(うずき感)、⑬冷感・熱感。

 つまり、「パニック発作が一日中続いています」という訴えは、「パニック障害」ではありません。ちなみにこの「パニック障害」、一生のうちで全人口の2~3%の人が罹かかり、好発年齢は20~30歳代、女性が多いとされています(男性の約2倍)。
 

③原因はわかっているのでしょうか?

 残念ながら、原因はわかっていません。しかし、これまでに多くの研究がなされ、その結果から少しずつ体のどの部位でこのような症状が生じているか、脳のどの部位に原因がありそうなのか、が推測されるようになってきました。以下に、「パニック障害」の病態仮説を説明します。

 まず、パニック障害の患者さんには、体質的に延髄にある中枢化学受容器という器官に過感受性があると推測されています。この器官は二酸化炭素(CO2)を感知する働きを持っています。そのため、パニック障害患者さんでは睡眠中や安静時など、ほんのわずかなCO2の上昇を酸素不足と捉えてしまい、呼吸促進や心悸亢進などの身体症状が生じてしまいます。

 そしてこれらの身体症状の情報(内臓感覚という)は、危険を察知し、それを回避する防御装置の役割を担っている扁桃体という器官に伝わります。そこで扁桃体は、この状態を“生命に危機的な状況”と間違って認識し、危険を回避させるために交感神経を亢進させるなどして、さまざまな身体の反応を起こさせます。具体的には、動悸・呼吸困難感・窒息感・発汗・ふらつき・震え、などです。さらに患者さんはこの状態を「死んでしまうのでは」「コントロールできなくなっている」と強く恐怖します。これらの状態は急激(数分以内)に出現しますので、「パニック発作」といいます。

 さらに患者さんでは、扁桃体も過敏になっていると推測されており、この病的過活動が継続しやすいものと思われます。加えて、通常ではこの扁桃体の過活動を抑える働きのある前頭前野にも何らかの機能不全が想定されており、そのために扁桃体の病的過活動はさらに持続し、「パニック発作」が繰り返されてしまうのです。そのため患者さんは、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安が強くなり、行動は極端に制限されてしまいます(例:外出困難)。
 

④どのような治療法があるのでしょうか?

 「パニック障害」の治療の目的は、「パニック発作」の頻度と程度を減少させ、病的状態を緩和し、行動の制限等の患者さんの社会的な機能障害を改善することです。治療法には、大きく分けて、① 薬物療法 と②認知・行動療法の2つがあります。そして、この両者を併用すると最も治療効果が高いと言われています。つまり、「パニック障害」という病気は、患者さんが自らは何もせずに薬だけ飲んでいて自然と治ってしまう「風邪」のような病気ではない、ということです。患者さん自身の勇気と努力が必要です。

 薬物療法で用いる主な薬には、抗うつ薬と抗不安薬があります。抗うつ薬はその名の通り、うつ病の治療薬ですが、不安にも効果があるため「パニック障害」のような「不安障害」にも使用されます。具体的には、現在4種類の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が使用可能です。これらが第一選択薬となります(ただし、全ての薬剤に保険適応があるわけではありません、専門家と相談して下さい)。副作用としては、投与初期(飲み始めの1週間以内が多い)には、吐気や下痢等の胃腸症状が出ることがあります。しかしながらほとんどの方で投薬初期を過ぎるとこれらの症状は消失することが多いです。それと頻度は多くはないのですが、抗うつ薬の服用によって、かえって不安やイライラが強くなり、怒りっぽくなったりする場合もありますので、専門家による慎重な投与が必要となります。

 また、一般に抗うつ薬は、効果が出てくるまで2~4週間ほどかかります。そのため服薬開始から約1カ月間は、抗不安薬を併用します。抗不安薬は抗うつ薬と異なり、服薬後すぐに効果が出るため、特に「パニック発作」が出現しそうな時などに頓服として用いる場合が多いです。抗不安薬の副作用には、日中ボーッとしてしまったり、眠気や倦怠感(けんたいかん)を感じたりすることがあります。こういった症状が出た時には飲む量が多いことが多いので、主治医と相談して徐々に減量するといいでしょう。さらに、抗不安薬を長期間服用すると、薬の効き目が弱くなってしまう、“耐性”という現象が生じる場合があります。このような症状が起きないように、抗不安薬はなるべく短期間(抗うつ薬の効果が現れてくるまでの約1か月間等)の投与にすべきとされています。

 また、認知・行動療法は、大きく5つからなっています。具体的には、①心理教育、②継続的なパニック症状の観察、③不安を抑える技術の習得、④認知再構成、⑤実地(避けている場所)での暴露(暴露療法)、です。これらの治療法は「パニック障害」に有効です。特に⑤は、患者さん側の“清水の舞台から飛び降りる”ような勇気が必要となりますが、効果が出ると薬物療法よりも再発が少ないとされています。
 

⑤周囲の人はどのようにサポートすればいいのでしょうか?

 「パニック障害」という病気は、さまざまな検査でも異常値を示しませんので、ご本人だけでなく、周囲の人々、特にご家族の方が「本当に、こころの病気なんだ」という気持ちを持つこと、つまり、この病気への十分な理解が必要となります。また、暴露療法などの治療法にはご家族や周囲の方々の援助が必要となる場合も多いので、その際のご協力(例:ご一緒に行けなくなってしまった場所に行く、等)をお願い致します。お忙しいとは思いますが、是非、少なくとも1回は患者さんの診察に同席していただければと思います。

 実は、患者さんによっては、「副作用がこわいから、薬を飲まない」、「薬に頼らず気力で治すべきだ」という考えをお持ちの方もおられます。そのため「パニック障害」は、治療が遅れやすく、また治療自体も不適切で不充分なために、慢性化してしまうことがすくなくなりません。また、「うつ病」や「アルコール依存症」を併発することもあります。そのため、もし専門医療機関への受診に戸惑われている患者さんがいましたら、是非、早期受診を勧めて下さい。そして、適切で十分な薬物療法を行い、「パニック発作」がなくなってから、認知・行動療法を行う、といった治療が大切になりますので、周囲に方々には、きちんと薬を飲んで、先生と一緒に治療を進めていくようにアドバイスしていただきたいと思います。さらに、患者さんは患者自身のメンタルヘルス全体を相談できる精神科医を持つことが大切です。医者が信頼できず、病院を転々とすることは望ましくありません。焦らず、決まった先生に罹るようにサポートしていただけると、助かります。

 なお、この病気のために、できなくなることはありません。病気に前向きに対処し、仕事やスポーツなどをいつもどおり行うぐらいの強い意志が必要です。また、疲労や睡眠不足は「パニック発作」を起こしやすくするため、十分休養を取ること、そして、アルコールやカフェインを含むコーヒーなどの嗜好品の飲み過ぎは症状を悪化させますので、注意することが重要です。
 

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