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林直樹先生に「パーソナリティ障害」を訊く

林 直樹 先生
帝京大学
※所属は掲載日のものです
パーソナリティ障害とはどんな病気でどのようにして診断されるのか、また、その治療法や対処法、周囲の人からのサポートの方法をお伺いしました。(掲載日:2016年10月13日)

①パーソナリティ障害とはどのような病気ですか?

パーソナリティ障害の基本的な特徴は、認知・行動特性の著しい偏りです。従来からその特性は、一般的な特性(平均値)からの違いが著しいもの、言い換えるなら、一般の人々との間に本質的な違いはないけれども、程度の差が特に大きいという性質のものだと理解されています。

従来の定義では、パーソナリティ(性格)とパーソナリティ障害の関係は明確にされていませんでした。その結果、名称からの単純な推測によって、パーソナリティ障害は、「パーソナリティ」の障害だと誤解されることがあり、それを「性格が悪いこと」とか「回復が難しいもの」と見る向きがありました。しかしそれは、決して性格の問題ではありませんし、十分に改善することを期待できます。なお、2013年に刊行された米国精神医学会の診断基準(DSM-5)に収載されている診断基準の一つでは、パーソナリティ障害が「パーソナリティ機能の減損」であると明快に定義されています。

パーソナリティ障害にはさまざまなタイプがあります。それを次の表1に示します。
 

表1.パーソナリティ障害のタイプの概略 (米国精神医学会の診断基準 DSM-5)


※表1の注:現在の世界保健機構(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)の診断基準でもほぼ同じ分類が採用されている。両者の相違点は、ICD-10の不安性パーソナリティ障害、情緒不安性パーソナリティ障害境界型が、この表の回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害にそれぞれ対応していること、ICD-10では統合失調型パーソナリティ障害がパーソナリティ障害でなく、統合失調型障害として精神病性障害に分類されていることである。


表1に示されているタイプでは、それぞれの臨床的特徴や適合する治療法に大きな違いがあります。この分類を簡便に把握するのには、表の左端の列の3つのクラスター分類が役に立つでしょう。それは、パーソナリティ障害を奇妙で風変わり(A群)、演技的・感情的で移り気(B群)、不安で内向的(C群)、の3つに大別して把握しようとするものです。

 

②どのような症状があり、どのようにして診断されるのでしょうか?

パーソナリティ障害の診断には、上記のような認知・行動の特性(症状)が比較的持続的であること、広い範囲の(複数の)精神機能の減損があること、多くの生活場面で症状が認められることが必要であり、さらにそれが他の種類の精神疾患によって説明されないことが条件とされています。パーソナリティ障害のタイプの診断は、それぞれのタイプに特徴的な症状セット(診断基準)の項目を一つ一つ、その患者に当てはまるかどうかを吟味して、決められた数以上の症状(診断基準)項目が該当するとき、そのタイプの診断が考慮されるという手続きで進められます。特に多くの問題となる認知・行動の特性が見られる場合、複数のタイプのパーソナリティ障害の診断がなされることがあります。

表2に例として簡略化されたDSM -5の境界性パーソナリティ障害の診断基準を示します。
 

表2.DSM -5の境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断基準(簡略化されたもの)


 (1)見捨てられる体験を避けようとする懸命の努力。
 (2)理想化と過小評価との両極端を揺れ動く不安定な対人関係。
 (3)同一性障害(自己像や自己感覚の不安定さ)。
 (4)衝動性によって自己を傷つける可能性のある、浪費薬物常用といった行動。
 (5)自殺の脅かし、自傷行為の繰り返し。
 (6)著明な感情的な不安定さ。
 (7)慢性的な空虚感、退屈。
 (8)不適切で激しい怒り。
 (9)一過性の妄想的念慮もしくは重症の解離症状。
 


境界性パーソナリティ障害では、表2の診断基準が5つ以上あるなら、診断の条件を満たすことになります。

 

③どのような治療法があるのでしょうか?

パーソナリティ障害の治療では、精神療法(心理療法)が重要な役割を果たします。精神療法は、患者が治療者と協力して、問題への認識を深め、それへの対処法を築き上げる、自分の思いや気持ちを整える、といった作業を進めることによって克服しようとする治療法です。取り扱われる問題は多様なものになりますので、さまざまな治療アプローチが組み合わされて用いられることがあります。そして多くの場合、それらの治療アプローチをしばらく積み重ねることが必要になります。欧米では、比較的短期間の集中的治療によって大きな成果を得ることができる精神療法プログラムがいくつも開発されています。しかしそれらの治療は、医療経済的な事情などから、わが国ではまだ十分普及していません。しかし、日常生活の中で対処法を積み重ねること、さまざまな精神療法の技法を組み合わせることで、十分に改善を期待することができます。

薬物療法も症状の一部を緩和する効果が期待されます。薬物療法は、実施している期間しか有効でないなどの限界がありますが、問題をしばらく抑えることができるだけでも、患者に大きなメリットをもたらすことがあります。従来の薬物療法についての知見をまとめるなら、統合失調型パーソナリティ障害などの受動的なタイプには少量の抗精神病薬、境界性、反社会性パーソナリティ障害の衝動性や感情不安定には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や気分安定薬(双極性障害の治療薬)、回避性パーソナリティ障害の不安や抑うつにはSSRIがそれぞれ有効だとされています。さらに最近では、境界性、統合失調型、反社会性パーソナリティ障害に対する非定型抗精神病薬の有効性が確認されています。ただし、これらの薬物療法は有効性が示されていますが、精神療法などとの併用の必要があります。

 

④どういった対処法があるのでしょうか?

パーソナリティ障害では、一定の認知・行動のパターンが問題になります。その認知・行動のパターンに対して自分でうまく対処できるならば、問題を回避することが可能になります。さらにそれを積み重ねることによって、そのパーソナリティ障害の特性を修正できるようになるでしょう。

このように対処法を新たな習慣として身につけていくことは、パーソナリティ障害の重要な回復の道筋の一つだということができます。また、さまざまな人生経験を積むことも、回復に役立つはずです。人生経験は、パーソナリティ障害の問題への対処法を考えるための重要な基礎になります。他にも、周囲の人々に相談をして知恵を借りることや、医療機関の治療スタッフから助言をもらうことも回復の重要な契機となります。

 

⑤周囲の人はどのようにサポートすればいいでしょうか?

周囲の人々とその人との関わりは、普段のその人との関係を基本とするべきです。特別に構えることは必要ありません。もちろん、過剰な反応が見られる時は刺激にならないようにする、調子が悪い時はいたわりの気持ちで接する、関わりを求めている時は負担にならない範囲で関わるといったことは必要です。パーソナリティ障害の問題への対応は長くなることが多いので、長期的視点から見て持続可能な関わり方の形を作ってゆくことが大切です。その際、関わり方が社会で一般的なものかどうかは、そこで無理が生じるかどうかをチェックする大事なポイントになるでしょう。もしもその人との関わりが、負担が大きすぎると感じられたなら、別に相談できる人やサポーターを捜すことは一つの重要な対応法となります。

社会的に容認できない行動が見られた時には、それをしないように忠告するといった一般的な対応をするべきですが、すでに警告がなされていたり、処罰が行われたりしているのなら、追い打ちをかけるようなことは避けるべきでしょう。相手を傷つけないように、同時に自分が傷つかないようにという一般的な原則は守られなければなりません。
周囲の人々に理解していただきたいのは、その人が自分の問題に本格的に取り組むまでに準備期間を長くとらなければならない場合があるということです。その人に問題に取り組む姿勢が長く欠けていたとしても、悩んだ末に自分から精神科治療を求めるようになることは稀ならず起こります。治療が開始されない段階でも、その人は問題解決のための準備を進めていると考えるべきでしょう。焦って治療を無理に勧めるのは、よい結果を生まないことが多いようです。むしろこの時期には、周囲の人々は、その人がじっくり考えることができるように配慮していただきたいと思います。

ともあれ、周囲にいる人々が、その人に対する愛情、親しみ、友情など、長い時間培われた結びつきを大事にして関わることこそが、よい成果を産みだすということができると思います。

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