公益社団法人 日本精神神経学会

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岡崎祐士先生に「統合失調症」(全般)を訊く

更新日時:2015年1月28日
岡崎 祐士 先生
都立松沢病院
※所属は掲載日のものです
統合失調症とはどんな病気か、患者さんにどのように説明されているか、また、統合失調症になっても軽くすむ人、治りやすい人はあるのかお伺いしました。(掲載日:2015年1月28日)

①統合失調症とはどんな病気か、先生は普段の診療で患者さんにどのように説明されていますか?

我々は普段は習慣化したことは特別意識しないで何でもやっていますよね。自然にというか…慣れと言おうか…当たり前にこなしています。
しかし統合失調症になると、これらが当たり前ではなく、一つ一つが意識されるようになります。

今まで出来ていたことができなくなるのではなく、意識されてしまうのです。なので、ものを扱うこと、ほとんどすべての運動、特に人間関係のちょっとしたことも、全て強く意識しないと出来なくなる。そういった、生活の全体的な変化が、患者さんに取ってとても困ることになる病気だと思います。
いいかえるなら、こころも体もぎこちなくなる病気です。

いろいろな感覚と刺激も強くなるので、人のちょっとした動きや物音も強く響いてしまいます。そのため、電気を消したり、弱めたり、日光を遮ったりして、結果的に引きこもる人もいます。人とちょっと目が合ったとか、そう言うのが強く響くようになり、「にらんでいる」とか「自分に好意を持っている」とか、特別な意味があるように感じられて、被害妄想とか、命令する幻聴とか、自分の考えが外に漏れてしまうと考えて、恐ろしくなってしまう、という症状が起こる人も居ます。

今まで何でもなかったことに、たくさんの特別な意味が出てくると、「世界から圧倒される感じ」になり、自分という存在が、ひっくりかえってしまいます。この「ひっくりかえり」が統合失調症のはじまりだと思います。感覚が過敏になることは神経症でも、うつ病でも起こります。でも自分(主体)と他者(客体)がひっくり返ることはありません。最初は自分の感覚が鋭くなったから…と思っていたのが、自分の中の変化ではなくて、外部の誰か、あるいは何かが作り出しているという、逆転現象が起こるのが、統合失調症の特徴と考えます。その結果、さまざまな症状が起こり、生活全体に影響が出る病気と考えます。

②統合失調症の治療のために必要な、精神科医としての心がけはなんでしょう?

ある人が統合失調症を発症する時に、辛い思いをした背景があるでしょう。家庭や学校が、歪んでいたりして、本人の意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていることが多く、それが発病のきっかけになっていることもよくあります。
精神科医は、そういうことからまず聞いて、理解すること、少なくともサポートしようとしている姿勢が患者さんに伝わることが必要だと考えます。
一言で言えば、治療関係ということになるかもしれません。

「この人に相談してみよう」とか、「少し頼ってみようか…」といった感覚を、少しでも持ってもらえるように専念しなくてはならないと思います。
特に初診が重要で、そういう感覚を、相手に感じてもらえるような診察が出来るかどうかが、いわば私たち精神科医にとっての勝負なのです。良好な関係作りのためには、自分のメンテナンスも必要とします。睡眠不足は良くないし、自分の中のごちゃごちゃした問題も、ある程度解決する必要はあると思います。精神科の面接とは、患者さんの気持ちを写す鏡のような役割もあるとおもいます。精神科医は面接の中で鏡をかざします。ですから、鏡が歪んでいたり、くもっていないようにしなくてはなりません。つまり、知識と適切な内容の質問と、距離感、相手の言うことを整理してあげる力が、必要と考えます。

今まで述べたことは、統合失調症以外のほかのこころの病いについても言えることです。では統合失調症の診療で特別な配慮が必要かと言われると…私はあると思います。それは、アンビバレント(両価的)な感情に目を向けることです。統合失調症の方は、しばしば、憎しみと愛情、憧れと侮蔑のような、相反する感情が同時に起こっていることがあり、それが苦しみの元になっていることがあります。幻聴の内容も、ネガティブなのとポジティブなのと2種類あります。その両方を理解してあげることが必要である。これは境界型パーソナリティ障害の方にも言えることかもしれません。

アンビバレントの問題を精神科医が知っていても、理解することは難しいと思います。しかし、多くの人はネガティブな方ばかりに注目されるので、本当はポジティブなものも出ているのではないかと、聞いてみると、違う見方も出来るかもしれないです。アンビバレントな感情によって、患者さんと医師の関係がうまく行かなくなることも、よくあることと思います。でもだれでも救いを求めざるを得ないことを覚えておく必要はあるでしょう。

③統合失調症になっても軽くすむ人、治りやすい人というのはあるでしょうか?

私は統合失調症を片親に持つ家庭の調査と研究を長年していました。片親のうちのどちらかが統合失調症を持つ家で子供さんが発症しなかった家庭、あるいは発症してもすごく軽く済んだ家はどういう家という研究です。
なので、患者さんの生活している環境と病気のなりやすさについてお話しします。

子供さんの具合が悪くなる家庭には、「ギリギリ」したものがあると思います。窮屈さがある。一方、良い経過を辿る家庭は、ゆるく、ほんわりしていました。細かく詮索はせず、指示や命令をしない家です。いろんな物事が起きてもニコニコしている事が多いです。
たとえば子どもさんが、「外に別の両親がいる」という妄想で、突然遠くに出かけてしまう、保護されて帰ってきたとします。そこで厳しく怒ったりせず、「ああ、そう、どこにいっていたの?」と聞いて、何ごともなかったように次の日からの生活がはじまるような、深刻味がない方がよい経過をたどってきました。
いろいろなことが深刻にならずに、「病気だからそう言うこともあるんだなと」と受け止めることが大事です。
これは治療者にとっても同じことが言えると思います。

家族の中にどっしりした明るい人がいて、問題が起こってもなんとかなるという思いの元で、対処してくれる存在が、病気の治療でも重要な存在です。家族がいない人なら、家族的な人…その人の一番身近な小さなコミュニティの中にそういう存在の人がいるかどうかが重要です。これからの時代どんどん家族が小さくなっているので、神経質で細かい人ではない、おおらかで明るいピアサポーターがいることも、これからは統合失調症を持つ人の経過において重要だと思います。

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