一般の方へfor the Public

今村明先生に「ADHD」を訊く

今村 明 先生
長崎大学
※所属は掲載日のものです
ADHDとはどのような状態なのか、どのような治療を行うのか、周囲のサポートや本人が注意するべき点などについてお伺いしました。(掲載日:2016年8月24日)

①ADHDとはどのような状態ですか?

ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorderの略、日本語訳は「注意欠如・多動症」あるいは「注意欠如・多動性障害」、「注意欠陥・多動性障害」など)は、「忘れ物が多い」、「課題が間にあわない」、「うっかりミスが多い」などの「不注意」症状と、「じっとしていられない」、「落ち着かない」、「待つのが苦手」などの「多動性・衝動性」症状がみられる神経発達症(「発達障害」とほぼ同じ意味で使われる言葉)の一つと考えられています。

頻度としては、子どもで20人に一人程度にみられると言われています。おとなになるともともとの傾向は変わらないものの、症状の一部(特に「多動性」)が目立たなくなって、診断の枠に入らない状態になる人もいると言われています。また以前は男性が何倍も多いと言われていましたが、報告される男女比は徐々に同程度に近づいてきています。

自閉スペクトラム症(社会的コミュニケーションやこだわりの問題)や限局性学習症(読み、書き、算数能力の問題)、発達性協調運動症(不器用の問題)などの、その他の神経発達症の症状が同時にみられる場合があります。またまわりから実際よりも能力が低いと思われて罵倒されたり、ふざけていると誤解されてしかられたりすることが多いため、不安やうつなどのいわゆる「二次障害」症状が出てきたり、おとなへの反抗や非行、反社会的行動がみられたりすることもあります。

一方で、ADHD傾向のある人の中には、普段は不注意が目立つが大事な時にものすごい集中力を発揮したり、多動性が「高い活動性、積極性」として評価されたり、衝動性が「優れた決断力、発想力」として認められたりすることもあり、その傾向がうまく生かされて社会の中で活躍している人もいると考えられています。しかしこのような人は通常はADHDと診断されることはありません。

ADHDは、不注意や多動性・衝動性の症状が同年代よりも強く認められ、症状の少なくとも一部は小さいころから連続して存在していたと考えられ、さらに学校や職場や社会で、その症状のためにうまくいかず困っている状態が確認された場合に診断されます。診断はこれまで児童精神科や小児科で行われてきましたが、最近一般の精神科でも診断されることが少しずつ増えてきています。それぞれの病院で、その人の年齢や症状によって対応できる場合とそうでない場合があるため、受診の前にあらかじめ問い合わせをした方がよいと思います。

治療としては上記のようなADHDの問題となる部分が軽減できるように、またADHDの良い面が引き出せるように、支援や心理的治療と薬物療法とを組み合わせて行うことが望ましいと考えられています。
 

②子どもとおとなではどのような症状の違いがありますか?

表1に子どもとおとなのADHDの症状の違いを示します。一般的には子どものときにはどちらかというと多動性が目立ち、おとなになると多動性が外面的には目立たなくなるため、相対的に不注意が目立つようになると言われています。

ADHDの人は感情が爆発しやすい傾向もあり、子どもでは学校の場でいじめの加害者、被害者のどちらにもなりやすく、先生との関係もうまくいかないこともあり、不登校になる場合もあります。おとなでは、職場や家庭内で暴言、暴力が目立ったり、ネット上で不適切な書き込みをしたり、消費者としてはクレーマーとなったり、学校で親として先生たちと対立したりすることがあります。
また何かへの過集中、のめりこみ、依存傾向が問題となる場合があります。子どもではインターネットやゲーム、おとなではそれに加えてアルコールや薬物、ギャンブル(日本ではパチンコが多い)、買い物などへの依存が問題となる場合がみられます。
 

表1.子どもとおとなのADHDの症状の比較

 

③ADHDではどのような治療をするのですか?

まず、周囲がADHDの人の困難に気づき、本人を不当にしかったり、傷つけたりしないように注意する必要があります。また授業に集中できない子は席を一番前にして、先生がうまく注意を起こさせるようにしたり、忘れ物が多い子は学校へ行く準備を親がサポートしたりする(一緒にチェック表を作り、確認する)などの工夫が必要となります。こどものADHDの場合は特に、後述の「ペアレント・トレーニング」の考え方が重要となります。おとなの場合は上記のような環境調整と同時に、認知行動療法やコーチングなどを行う場合があります。

次に薬物療法について検討します。ADHDの原因として、脳内の神経伝達物質の働きがうまくいっていないことが考えられています。日本で現在使用されているADHDの治療薬としては、ドーパミンという神経伝達物質の伝達を助けるもの(メチルフェニデート徐放剤)とノルアドレナリンという神経伝達物質の伝達を助けるもの(アトモキセチン)とがあります。それぞれ効果発現の時期や副作用の出方が違うため、うまく使い分けていく必要があります。

ADHDの治療は、まず上記のような環境調整・支援・精神療法を行い、その後薬物療法を行うことが推奨されていますが、本人や家族へ十分説明を行ったうえで、初回から薬物療法を開始する場合もあります。

また、二次障害の治療が必要となる場合があります。図1に示すように、ADHDでは2つの悪循環のパターンがあり、「不注意優勢タイプ」は不安やうつが多くみられ、「多動・衝動・優勢タイプ」は好ましくない行動や何かへの依存が多くなると考えられています。このような場合、悪循環の鎖をどこで断ち切るかを検討し、まずは二次障害をターゲットとして治療を行う場合もあります。

また、本人だけではなく家族のサポートも重要となります。子どものADHDの場合は特に、親が周囲との対応に追われて疲れ切っていることも多いため、心理的なサポートを行うことが必要です。


 

④まわりはどのようなサポートをすればよいですか?

ADHDを持つ人は、図1に示すように、「自己不全感」や「疎外感」に悩まされていることが多いため、まわりの人はまずADHDについて理解し、本人が悩んでいる点について理解を示してあげる必要があります。図にあるような自己不全感や疎外感を助長するような声かけは、事態をさらに悪化させる場合が多いと考えられています。

子どものADHDでは特に、親の対応が変わることによって、子どもの行動も変化することが知られています。たとえば表2の③のケースでは、これまで悪いことをしてもなかなかあやまることのなかった子どもに対して、「あやまる」という重要な社会的スキルのめばえを見落とさずに肯定的に注目し評価することで、子どもは「あやまることは大事なんだ」と思うかもしれません。一方で「もっと心を込めてあやまれ」という否定的な注目を行うと、子どもは「二度とあやまるもんか」と思うかもしれません。このように同じ状況でも親の声のかけ方によって、その後の子どもの行動が大きく変わってくる可能性があります。

ペアレント・トレーニングとは、上に例を挙げたように、親がほめたり、注目したり、評価したりするポイントが変化することによって、子どものよりよい行動が強化され、相対的に問題となる行動が減っていくことを目標としたプログラムです。ADHDをはじめとした神経発達症の子どもたちには有効な場合が多いと言われています。ペアレント・トレーニングは、児童相談所や子どもの心の問題を扱う医療機関などで講習会やワークショップが実施されています。また何冊かの解説書が出版されており、本でもペアレント・トレーニングを学ぶことができます。最近では学校や保育園や幼稚園の先生方に向けたティーチャー・トレーニングも行われています。またおとなのADHDの場合にも、本人のよい行動の芽生えに注目し、強化するというペアレント・トレーニングの考え方は有効となります。

その他にも神経発達症については、各地域で様々な家族支援の活動が行われています。社会資源を有効に活用して親同士でのネットワーク・仲間関係をつくり、ADHDの人のサポートに対して、勉強会に参加したりだれかに相談したりすることができる体制づくりが望まれます。
 

表2.肯定的注目と否定的注目

 

⑤本人はどのような点に注意をすべきでしょうか?

ADHDを持つ人で、病院を受診する人の多くは、図1に示すような悪循環に巻き込まれてしまっている人です。あまりにも長くうまくいかないことが続いているため、現在の状態から自分が変化をすることは考えられない、と言う人もいるかもしれません。しかし、①の回答にも書いたように、ADHD傾向を持つ人の中には、その傾向のプラスの面が評価され、世の中で活躍している人もいます。現状としてうまくいっていない人でも、適切な支援や治療を受けることにより、ADHDの特性自体は変わりませんが、学校や職場、社会への適応の度合いは向上することが多いと考えられています。

ADHDという診断を受けた場合には、まずは主治医との治療関係が良い形で築かれることが大切です。おとなのADHDの人は、もともとの特性から通院日や通院時間を忘れてしまったり、服薬が規則的にできなかったりするので、主治医や家族とも相談して、服薬や通院が安定してできるシステムを構築していく必要があります。通院日や通院時間に関しては、手帳やスマートフォンのスケジュール管理アプリを使用したり、家族にも予定を伝えて当日の朝に確認してもらったりする工夫やサポートが必要となります。服薬に関しても、百円均一ショップなどで手に入る1カ月や1週間単位で服薬状況を確認できる「服薬カレンダー(1日ごとにポケットがついていて、その日に服用する薬を入れておく)」や「週間ピルケース(1週間の薬を曜日ごとに入れて整理する)」などを活用して自分でチェックできるシステムを構築するとともに、家族にも日々チェックしてもらうようにするサポートも考えていく必要があります。

また、ADHDへの理解とそれに伴う自己理解を進めていく必要があります。医療機関や専門機関などが主催する勉強会や講演会に参加したり、当事者向けの本を読んだりすることをおすすめします。インタートネットから情報を得る人も多いですが、ネット上で匿名の個人が質問に答えるサイトや個人が運営するまとめサイトの情報は、あまり信用しすぎない方がよいでしょう。ADHDに関連した学会・研究会 などのウェブサイトで得られる情報は、比較的信頼性が高いと言えます。このように様々な形で得られた情報でADHDの理解が進み、「安心できた」とか「勇気づけられた」という人も多く存在します。

また、自分をサポートするネットワークを作っていくことも必要です。ADHDの人にとって、安心感のある居場所・行き場所や達成感のある仕事・課題・趣味活動が設定できることは、社会で生きていく際に最も大事なことだと思います。医療機関や地域の生活支援、就労支援事業など、社会資源をうまく活用し、自助グループ、当事者の会などに参加して、できるだけ社会の中で孤立せずに生活していくことが大切です。

ページトップへ