公益社団法人 日本精神神経学会

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久住一郎先生に「統合失調症」(薬物療法)を訊く

更新日時:2022年11月17日
久住 一郎 先生
北海道大学大学院
※所属は掲載日のものです
なぜ薬物療法が必要なのか、薬物療法の副作用にはどのようなものがあるか、自分に合う薬剤をどのように見つけたら良いか、お伺いしました。(掲載日:2016年3月5日)

①なぜ薬物療法が必要なのでしょうか?

統合失調症の薬物療法には、大きく分けて二つの役割があります。一つには、さまざまな精神病症状、例えば、自分に命令してくる声が聞こえる(幻聴)や自分がまわりからねらわれている(被害妄想)などの症状が強く現われて、通常の日常生活を送ることが難しくなっている時期(急性期)に、抗精神病薬はそれらの精神病症状を和らげる役割を果たします。もう一つには、急性期の精神病症状が軽快して、通常の生活がある程度可能になっている時期(維持期)に抗精神病薬の服薬を継続することで、再び精神病症状が出現すること(再発)を防ぐ働きがあります。

統合失調症は非常に再発しやすい病気であり、初発の精神病症状が軽快しても、服薬を中止した場合、1年以内に約80%、2年以内に98%の方が再発するという報告もあります。再発を繰り返すと、次第に薬物療法の効果が低下し、再発前のレベルにまで症状が改善しなくなって、自立した生活や就労のために必要な様々な能力(社会的機能)が低下する原因となります。ですから、病気を抱えながらも、精神病症状などの辛い症状がなく生活を送り(寛解)、自立したり、働いたりしながら、生きがいのあるいきいきとした生活を送る(リカバリー)ためには、再発をできるだけ少なくすることが大切です。そのためには、適量の薬物療法を継続することが大変重要になります。

②薬物療法の副作用にはどのようなものがあるでしょうか?

統合失調症の薬物療法には、幻覚や妄想などの精神病症状を改善させる抗精神病薬が主に使われますが、不眠に対する睡眠導入剤、不安やいらいらして落ち着かない症状に対する抗不安薬、うつや気分の不安定に対する気分調整薬、抗精神病薬の副作用に対する治療薬などが一時的に併用される場合もあります。

どの薬剤にもあてはまりますが、薬剤には必ず効果がある反面、多かれ少なかれ副作用も存在します。効果が副作用を明らかに上回っていることが、その薬剤を使用する条件になります。そして、効果や副作用の出方には非常に大きな個人差があります。別の方にとって良かった薬剤がご本人に有効とは限りませんし、逆に強い副作用が出ることもあります。

抗精神病薬は、他の薬剤に比べて、副作用が比較的出やすいと言われています。ハロペリドールやクロルプロマジンなど少し以前に使用されていた抗精神病薬(第一世代抗精神病薬)では、体の震え(振戦)、筋肉のこわばり(ジストニア)、体の動きにくさ(筋強剛)、口のもつれ(構音障害)などのパーキンソン病症状や体がそわそわして落ち着かないアカシジアを含む錐体外路症状と言われる副作用が多く見られました。リスペリドンやオランザピンなど最近使われている抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)では、アカシジア以外の錐体外路症状の頻度はかなり減りましたが、時に見られることはあります。これらの錐体外路症状に対しては、抗精神病薬の用量を減らしたり、別の抗精神病薬に変更したり、時には錐体外路症状に対する治療薬を併用して対処します。

また、抗精神病薬全般にあてはまりますが、特に第二世代抗精神病薬では、食欲が亢進して、体重が増加し、場合によっては脂質異常症や糖尿病にまで発展することがあります。日頃から体重を測定し、定期的に採血してもらうとともに、食事に気をつけ、運動を心がけるなどして積極的に予防していくことが大切です。

抗精神病薬の他、抗不安薬や睡眠導入剤によっても、日中に眠気が強く、頭がぼーっとして何もできない症状(過鎮静)が見られることがあります。特に急性期が過ぎて、症状が落ち着いてきた頃に出やすい症状ですので、主治医と相談して、抗精神病薬の用量調整、抗不安薬や睡眠導入剤の整理(減量・中止)をしてもらうと改善する場合があります。

必ずしも薬剤の副作用だけによるものではありませんが、多量の飲水(一日3〜4L以上)が認められ、長期間持続すると、噴水状の嘔吐、けいれん、意識障害が現れることがあります。特に採血で血清ナトリウム値の低下が見られる場合には水制限が必要になります。

頻度はあまり多くはありませんが、注意すべき重篤な副作用に悪性症候群があります。通常、抗精神病薬を開始して間もない時期に現れますが、38℃以上の発熱・発汗、筋強剛、ぼんやりとしていて周囲からの刺激に適切に反応できない状態(意識障害)などが認められます。悪性症候群は対処が遅れると死に至ることもありますので、この副作用が疑われる場合は、すぐに受診する必要があります。まずは抗精神病薬を中止して、点滴などの全身管理を行います。

以上、統合失調症の薬物療法に伴う代表的な副作用を挙げましたが、いずれの場合も、副作用が疑われる場合には躊躇なく医療機関に相談して、適切な対処をしてもらう必要があります。自分で判断して薬剤を勝手に中止してしまうと、思わぬ離脱症状(急激に薬剤を中止することで一時的に現れる不快な症状)が現れることがあり、再発の危険も非常に高くなります。

③自分に合う薬剤をどのように見つけたら良いのでしょうか?

現時点でご本人が最も困っている症状、気になっている副作用をその都度主治医とよく相談することが重要です。このような症状や副作用は、時期に応じて刻々と変わっていく可能性があるからです。それによって、必要な薬剤の種類や用量も変わりますので、よく主治医と相談しましょう。

次に、より症状に合った、より副作用の少ない薬剤を見つけていく作業を主治医と共同して行っていきましょう。ある症状に対して有効な薬剤には非常にたくさんの選択肢があります。また、同じ薬剤であっても、通常錠、口腔内崩壊錠、液剤、散剤、注射剤、持効性注射剤(デポ剤)など様々な剤型があります。薬剤の飲み方(用法)も一日1回から、何回かに分けて服用する方法まで、薬剤の特性に応じていろいろと工夫ができます。これらの点について、自分にとってどのような選択肢があって、それぞれの長所と短所は何なのかを主治医とよく話し合ってみましょう。その上で、家族や信頼できるまわりの人たち、主治医の意見なども参考にしながら、最終的には自分で納得できる薬剤、剤型、用法を選択していきましょう。

「こんなことを聞いたら主治医に嫌がられるのではないか」と心配する方もいるかもしれませんが、思い切って聞いてみましょう。その対応から、主治医との関係がよりはっきり見えてくるかもしれません。「主治医は十分な診察時間が取れないのではないか」と心配する方は、受診する際にその時点で最も重要なことから順に話題にする習慣をつけてみてください。

④薬物療法はいつまで続けなければならないのでしょうか?

一般的に、ストレスの大きな社会的出来事や環境の変化(例えば、受験、進学、就職、結婚、転勤、転居など)をきっかけにして再発が起こりやすいと言われています。ですから、近い将来に上記のような出来事が予測される場合には、それが終わってある程度落ち着くまでの時期は再発のリスクが非常に高くなりますので、薬物療法を継続した方が良いと言えます。

初発の場合は、①でも述べたように、統合失調症の再発のしやすさを考えて、少なくとも1年以上は抗精神病薬の服薬を継続した方が良いと言われています。その後の服薬を継続するかどうかについては、今後起こることが予想される社会的な変化を考えて、服薬を継続することの長所と短所を主治医とよく話し合って決めていく必要があります。2回目以降の再発が起きてしまうと、初発の時に比べてさまざまな症状が治りにくくなり、社会的機能もそれ以前のレベルに戻りにくくなってしまいますので、慎重に判断していきましょう。

再発を繰り返している場合については、原則的に薬物療法をずっと長く継続していくことが推奨されます。再発が起こる最大の原因は服薬の中断です。服薬を継続していながら再発した場合は、社会的な変化にストレスを受けやすい特性を持っていると言えますので、なおさら薬物療法の継続による再発予防が重要になります。再発を繰り返すごとに、症状が治りにくくなり、必要な抗精神病薬の量が増える傾向にあります。さらに、社会的機能が低下して、以前のレベルで自立した生活を送ることや就労することが困難になる傾向がありますので、積極的な再発予防がとても大切です。

症状がある程度落ち着いていて、リカバリーを目指している場合は、今後、自立や就労のための社会的な変化が次々に起こっていくことが予想されます。そのような変化に際して、再発の兆しが現れる場合もありますので、注意が必要です。ある程度、社会的な役割を安定して果たせるようになってくると、服薬や通院を続けること自体がさまざまな意味で負担になってくることもありますが、この時期は、薬物療法を終結させるということよりも、社会的な変化にさらされても安定した状態を保ち、より充実した社会生活を送ることができるように自らをレベルアップしていくことに価値観を置いた方が良いと思われます。

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