公益社団法人 日本精神神経学会

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田邉等先生に「ギャンブル依存症」を訊く

更新日時:2016年3月7日
田邉 等 先生
北海道立精神保健福祉センター
※所属は掲載日のものです
ギャンブル依存症はどんな病気なのか、具体的にどのような症状があるとギャンブル依存症と診断するのか、どのような治療方法があるのか、お伺いしました。(掲載日:2016年2月26日)

①「ギャンブル依存症」とはどのような病気でしょうか?

ギャンブル依存症とは、娯楽で始めたギャンブルが、既に自分に不利益、有害な結果を生じていて、やめたほうがよいと考えることはできても、強烈な再体験欲求(渇望)により、自己制御できずにギャンブルを反復継続する状態を言います。

公式病名は、世界保健機関(WHO)では「病的賭博」、米国での最新の診断基準の病名は「ギャンブル障害」です。また、アルコール・薬物依存症との同質性が分かり易いので「ギャンブル依存症」の病名も社会でよく使われます。

高額な借金、夫婦関係や親子関係の悪化など、ギャンブルが招く重大な負の結果を認識していても、ギャンブルをやめられないのは、アルコール依存症で肝硬変のある人が、医師の禁酒の指示を熟知しながらも、コップ酒を一杯隠れ飲みし、一杯ではやめられず、酔うまで飲み、翌日も飲酒を続けてしまうのと同様です。米国では、アルコール・薬物の依存症と症状、経過、治療で同質性があること、脳機能の面でもアルコール・薬物の依存症と共通の病理の存在を示唆する研究結果が集まってきたことで、2013年から同じ診断カテゴリーに包含しています。

ギャンブルは、何かの結果を予想して金銭を賭ける行為で、国や文化、世代により好まれる種目は多様です。わが国のギャンブル依存症には、パチンコ、スロットのゲームマシンが極めて多く、続いて競馬、マージャンで、ポーカーなどのカードゲームやバカラなどは少数です。

パチンコとスロットが圧倒的に多いこと、薬物乱用や反社会的パーソナリティ障害の合併が少ないことが、欧米と異なる特徴で、これはわが国でパチンコ、スロットの遊技場がどこにでもあり、日常的にギャンブルを楽しめる社会であることを反映しています。普通のサラリーマン、主婦、学生にギャンブル問題は蔓延していて、平成21年の全国的な調査では、成人男子の9.6%、女性の1.6%と、欧米に比し高率のギャンブル依存症がいると推計されました。

②具体的にどのような症状があると、ギャンブル依存症と診断するのでしょうか?

以下に、簡易なモデルを示します。(いずれも合成事例)

①おとなしい大学生の息子がスロットで学費も家賃も滞納し、学生ローンで借金を50万円以上していた
②まじめな夫が競馬で200万円を越える借金を3度も繰り返し、退職金まで前借していた
➂妻がパチンコのために無断で消費者金融から200万円もの借金をし、子どもの進学ローンも解約していた

特徴的症状は、1)ギャンブルへの強烈なとらわれ、2)勝負の結果への慣れ(多少勝っても興奮しなくなり、負けても取り返せると考え、高額な借金も平気になる)3)ギャンブルへの強烈な欲求(渇望)、4)自己制御の困難などです。結果として、5)経済的危機・家庭的危機・職業的危機などの心理的社会的問題が随伴し、進行すると自殺や経済犯罪もありえます。

米国では、こうした症状を以下の9項目でチエックし、過去12か月で4項目以上あれば診断し、4,5項目は軽度、6,7項目なら中等度、8,9項目を重度としています。

米国の診断基準(DSM-5)

1 望むような興奮を得るために掛け金を増額したギャンブルが必要になる
2 ギャンブルを切り上げたり、やめたりすると落ちつかなくなったり、いらいらする
3 ギャンブルを控えよう、減らそう、止めようと努力を繰り返したが成功していない
4 ギャンブルにとらわれている(過去のギャンブルを生き生きと思い浮かべたり、次のギャンブルのハンディ付けや計画を考えたり、ギャンブルの資金を得る方法を考えるなど、いつもギャンブルのことを考えている)
5 苦痛な気分(無力感、罪悪感、不安、抑鬱)のときギャンブルをすることがよくある
6 負けを別の日にとり返そうすることがよくある(負けた金の“深追い”)
7 ギャンブルに熱中している程度を隠そうと嘘をつく
8 ギャンブルのために重要な人間関係、仕事、教育または職業上のチャンスを危険にさらしたり、失ったりしたことがある 
9 ギャンブルが原因の絶望的な経済状況を救済する金を出してほしいと他人に頼る

③どのような治療方法があるのでしょうか?

アルコール・薬物依存症では、渇望を抑制する薬物が開発途上にありますが、ギャンブル依存症では薬物の効果は確立していません。仮に薬物で渇望が抑えられるようになっても、ギャンブルのために虚言や偽装を繰り返してきたこと、ギャンブル最優先の自己中心的思考で家族の役割を放棄してきたこと、借金を肩代わりさせてきたこと、離婚や別居に至ったことなどの問題や、その反作用的な罪悪感、自責、自殺願望などの心理的問題は薬で解決しません。心理療法・精神療法で問題に向き合う必要があります。具体的には、アルコール依存症や薬物依存症で有効な集団(精神)療法、認知行動療法、内観療法などがギャンブル依存症にも効果があります。

ギャンブルの渇望に対抗するスキルを学習し、心理的・社会的問題を積極的に取り上げて、自分の問題を内省し、生き方を改めていく、人間的な変化・成長を促す心理療法(精神療法)が効果的です。また、うつ病や発達障害などの併存する精神的な問題があれば、必要な治療や対応を行います。

そして、当事者だけで自主的に集まり、例会活動で支え合うギャンブラーズ・アノニマス(略称GA)という自助グループを積極的に活用してください。GAは、アルコール依存症の当事者の自助グループであるアルコホーリクス・アノニマス(略称AA)を参考にして創設され、世界的に普及してきたもので、わが国でも現在150余りのグループがあります。

この自助活動の例会参加を長期に続けると、安定し、回復につながります。実は、ギャンブル依存症を治療する医療機関は数少ないので、自助グループGAの活用が重要です。ギャンブルから離れ、生き方を変えながら健康に生きていくには、同じ問題を持つ仲間と定期的にグループミーティングを持ち、自分を内省する機会を長期に持ち続けることが最も大切なのです。

④周囲の人はどのようにサポートすれば良いでしょうか?

一般に依存症関連の障害は、本人より先に家族が問題性、異常性に気付きます。当初は“意志が弱い”と考えがちですが、高額の借金、嘘をつく、家族を顧みない等々を本来の人柄と照らし合わせて考えると、「ギャンブルで別人格のようになった」と考えることができるはずです。

ギャンブルの多額の借金に家族が驚き、皆で先に借金を返し、2度としないと約束させても問題は解決しません。周囲が尻拭いすると、本人は修羅場を見ずにやりすごし、「やり過ぎた」との反省はしても、本質的な対策はとらないので、小休止の後にギャンブルを続けることが可能になります。これは、イネイブリングenabling(同じことが続くのを可能にする)という現象で、周囲の人の協力があだになる現象です。第一段階、家族はイネイブリングにならないよう、借金問題などの問題の責任は本人に返します。

責任を突き付けられた本人は解決に困り、問題を直視し、結果として周囲の言葉に耳を傾けるようになります。このタイミングで家族が声をそろえ、依存症は治療や自助グループで回復できるので、回復のための行動を一緒にとってほしいと強く提案します。問題を共有できる家族の“同盟軍”をできるだけ増やし、強い決意で本人に提案しましょう。依存症の回復プログラムへの導入がまず優先です。治療的な対応の伴わない借金返済は逆効果になることに留意しましょう。

もし依存症かどうか家族も自信がない時は、都道府県、政令市にある精神保健福祉センターか、依存症を診る医療機関に家族だけで先に相談に行きましょう。

また、他の家族の対応が参考になりますので、ギャンブル依存症の家族の集いである「ギャマノン」に参加してみましょう。この家族自身の自助グループであるギャマノンの例会場は全国に130ほどあり、インターネットで検索できます。

⑤本人はどのような点に気を付けて生活すればよいでしょうか?

回復のための大事な点を箇条書きにしてみます。
1) 依存症を診療する医療機関か、精神保健福祉センターに相談に行く
まず恐れずに、専門家のアセスメントを受けてみましょう。ギャンブル依存症だから薬を飲むとか、直ちに入院するとかいうものではありません。問題の本質は何かを、専門家の力を借りて明らかにし、十分な説明を受けてください。
2) 全てを正直に明らかにする
この時点で全てをオープンにすること、特に債務は些細な額も正直に明らかにすることが再生の鍵です。借金の一切合切を明らかにし、司法書士や弁護士を活用して対策を進めると楽になるはずです。
3) 半信半疑でよいから回復プログラム(治療プログラムやGAミーティング)に参加してみる
問題なのは「ギャンブル依存症」なのですが、自分がそうとは中々受け容れられないものです。ギャンブルが病気?などと思うでしょう。半信半疑で良いから回復プログラムに参加して何が得られるのかを体験してください。特に、他の経験者や回復者が参加する集団のプログラムがお薦めです。
4) 1年ほどはギャンブルをやらないことにこだわり、プログラム参加をとにかく続ける
実際に参加すると精神的、身体的な調子も良くなり、「自分は軽い」「もう自分の力で治せる」などと考えて,プログラムや自助グループに行きたくなくなります。ギャンブル依存症の多くの人が、もう参加しなくてよい理由を探します。そこで早期にプログラムから離れた人は、問題が再燃しやすくなります。まずは、1年位を目標に参加を続けましょう。
5) 自助グループを活用する
3年後くらいに「治った」と考え、ギャンブルをしてしまうこと(「スリップ」と呼ぶ)があります。放置すると、すぐに再燃します。これを防ぐには、自助グループに参加し、自分のこころのうちを吐き出す習慣をもち、仲間と問題を分かち合うのが一番です。GAの仲間の体験が役に立ち、不要なスリップも避けることができます。
終わりに)
依存症はいつ爆発するか分からない休火山にも似ています。自然界の火山の爆発を防ぐのは困難ですが、自助グループに無理なく長期に参加することで“依存症火山”の爆発を予防し続けている人は世界中にたくさんいます。

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