公益社団法人 日本精神神経学会

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田辺等先生に「ギャンブル依存症」を訊く

更新日時:2024年6月3日
田辺 等 先生
北海道立精神保健福祉センター
(現所属)北仁会旭山病院
※所属は掲載日のものです
ギャンブル依存症はどんな病気なのか、具体的にどのような症状があるとギャンブル依存症と診断するのか、どのような治療方法があるのか、お伺いしました。(掲載日:2016年2月26日)

①「ギャンブル依存症」とはどのような病気でしょうか?

「ギャンブル依存症」とは、娯楽で始めたギャンブルが、既に自分に不利益、有害な結果を生じていて、やめたほうがよいと考えることはできても、強烈な再体験欲求(渇望)のため、自分ではコントロールできずに、ギャンブルを続けている病的状態を言います。 

 高額な借金、夫婦関係や親子関係の悪化など、ギャンブルが招いた負の結果をわかっていて、ギャンブルをやめられずに反復継続している状態です。有害な問題が生じていてもやめられないのは、お酒のために肝障害や肝硬変となったアルコール依存症の人が、医師の禁酒指示をわかっていながら、少しだけと隠れて飲み、やめられずに翌日も飲み、結局は飲酒を続けているのと同様です。

 自分の意志でコントロールできないギャンブルは、米国の2013年の診断分類(DSM-5)でアルコール・薬物の依存症と同じカテゴリーの病気と判断されました。症状や経過、治療において他の依存症と同質性があること、脳機能研究の面で薬物依存症と共通の病理を示唆する研究が集まってきたというのが、その理由です。

 脳では報酬系という部位の神経活動で様々な快感が伝達されていますが、ギャンブルの勝ち体験の興奮でも報酬系が反応します。ギャンブルを過度に反復すると心理的には勝ち体験へのとらわれができてきますが、脳の報酬系では勝ち体験に慣れができ(神経順応)、その反応が低下してきて、より大きな勝ち体験を欲して止められなくなると考えられています。

 現在、国際的な診断名はgambling disorderで統一されていますが、米国診断分類(DSM5)の日本の訳語は「ギャンブル障害」で、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)での最新の訳語は「ギャンブル行動症」となりました。現時点で、2種類の公式訳語があります。

 また日本の法律・行政対策では、パチンコとスロットは「遊技」と規定していてギャンブルとしていません。そのため法律・行政用語では、パチンコ・スロットでのgambling disorderを含めるために「ギャンブル等依存症」と表記しています。
 本欄では社会的に理解されやすい「ギャンブル依存症」の用語を使用していますが、わが国ではWHOの診断用語を基本とするので、社会的にも徐々に「ギャンブル依存症」から「ギャンブル行動症」という用語に変わってくるかと思います。

②ギャンブル依存症の人はどのくらいいるのでしょうか?どのようなギャンブルで依存症になるのでしょうか?

 ギャンブルは、何かの結果を予想して金銭を賭ける行為で、そもそも国や文化、世代により好まれる種目は多様です。またギャンブル産業がどのようなギャンブルを提供するか、どのようなアクセスでギャンブルができるのかという社会的な要因によって、ギャンブル依存症の発生状況や統計の結果も変動します。

 我が国で問題が出現してきた1990年代では、パチンコ、スロットのギャンブルが多く、次いで競馬でした。有病率(人口に対する病気の人の割合)が高いこと、パチンコ・スロットの電動マシンギャンブルが圧倒的に多いこと、反社会的パーソナリティ障害や薬物乱用の合併が少ないことなどが、我が国の特徴的な点でした。これはパチンコ・スロットのホールが町の繁華街にあり、気軽にギャンブルにアクセスできたことの反映でした。近年の全国調査(2021 松下ら)では、調査前1年間の状態の有病率は全国平均2.2%(男性3.7%,女性0.7%)でした。それを2023年1月の成人人口に当てはめてみると220万人ほどになります。スマートフォン、インターネットの普及でオンラインでのギャンブルが増加してきています。

 診療場面では、問題を生じたギャンブル種目の多種目化(オンラインでアクセスしやすい競馬、競輪、競艇、時に違法カジノなども同時に行う)、短期間の高額債務化、問題発生・受診年齢の若年化という現象が急増した印象です。性差は圧倒的に男性優位になってきています。

③どのような症状があると、ギャンブル依存症と診断するのでしょうか?

 特徴的症状は、1)ギャンブルへの強烈なとらわれ、2)勝負の結果への慣れ(多少勝っても興奮しなくなり、負けても取り返せると考え、高額な借金も平気になる)3)ギャンブルへの強烈な欲求(渇望)、4)自己制御の困難などです。
 結果として5)経済的危機・家庭的危機・職業的危機などの心理的社会的問題が随伴し、進行すると自殺企図や自殺、横領・着服などの経済犯罪にいたることもあります。
 とくに近年増加したオンラインのギャンブルでは短期間で債務を増やし、精神的に追い込まれる若者が多くなりました。犯罪傾向など全くなかった若者が、横領・着服、会社の物品を持ち出しての転売、窃盗、詐欺の手先等々に至ってしまうことも珍しくないのですが、家族がすぐに弁償することで逮捕や立件を免れ表面化しないケースも多いのです。

 米国では、以下の9項目でチエックし、過去12か月で4項目以上あれば診断し、4,5項目は軽度、6,7項目なら中等度、8,9項目を重度としています。

米国の診断基準(DSM-5) 

  1. 望むような興奮を得るために掛け金を増額したギャンブルが必要になる
  2. ギャンブルを切り上げたり、やめたりすると落ちつかなくなったり、いらいらする
  3. ギャンブルを控えよう、減らそう、止めようと努力を繰り返したが成功していない
  4. ギャンブルにとらわれている(過去のギャンブルを生き生きと思い浮かべたり、次の ギャンブルのハンディ付けや計画を考えたり、ギャンブルの資金を得る方法を考えるなど、いつもギャンブルのことを考えている
  5. 苦痛な気分(無力感、罪悪感、不安、抑鬱)のときギャンブルをすることがよくある
  6. 負けを別の日にとり返そうすることがよくある(負けた金の“深追い”)
  7. ギャンブルに熱中している程度を隠そうと嘘をつく
  8. ギャンブルのために重要な人間関係、仕事、教育または職業上のチャンスを危険にさらしたり、失ったことがある
  9. ギャンブルが原因の絶望的な経済状況を救済する金を出してほしいと他人に頼る

註)このDSM-5訳は gambleを「賭博」ではなく「ギャンブル」と田辺が訳出した

一方、WHOのICD11では、以下のような項目で診断します。

世界保健機関(WHO)のICD11の診断基準
持続的または反復的なギャンブル行動のパターンでオンラインの場合もオフラインの場合もある。以下の3項目を全てみたす。

  1. ギャンブル行動に関するコントロール障害
  2. ギャンブルの優先度が増しており、他の生活の楽しみや日常活動よりもギャンブルが優先されている
  3. 悪影響が出ているにもかかわらず、ギャンブルが持続またはエスカレートしている

 
そして、これらの特性は通常1年以上継続しているが、全てが3か月以上、毎日かほぼ毎日継続されている場合に診断を下せる。

註)以上のWHOの診断基準の訳は樋口進氏の訳出部分から一部引用した(樋口進:物質使用症または嗜癖行動症群 精神経誌(2022) 第124巻第12号)

④どのような治療方法があるのでしょうか?

 アルコール・薬物依存症では、渇望(=強烈な欲求)を抑える薬物が試みられたりしていますが、ギャンブル依存症では薬物の効果は確立していません。仮に薬物で渇望が抑えられるようになっても、ギャンブルのために虚言や偽装を繰り返してきたこと、ギャンブル最優先の自己中心的思考で家庭内の役割を放棄してきたこと、借金を親兄弟に肩代わりさせて責任をとらなかったこと、別居や離婚などを招いたことなどの問題や、その反作用的な罪悪感や自責の念、自殺願望などの心理的問題は薬では解決しません。心理療法・精神療法のなかで、これらの問題に向き合う必要があります。

 具体的な方法は、アルコール依存症や薬物依存症で有効な治療、たとえば認知行動療法、集団(精神)療法、内観療法などがギャンブル依存症にも効果があります。
 認知行動療法ではギャンブル欲求に対処する工夫(対処スキル)など再発を防ぐ考え方や行動を学習していきます。それにとどまらず、同じ病気のメンバーでの集団話し合いで、内省を深め、考え方や生き方を改めていく、集団の心理療法・精神療法に参加できると効果が増強します。認知行動療法も、集団で行う集団認知行動療法が増えてきています。
 またギャンブル以外に、うつ病や発達障害などの併存する精神的な問題があれば、その程度を判断して必要な治療や対応を行います。
 
 以上のような治療は、依存症専門治療機関または精神保健福祉センターで取り組みがなされています。精神保健福祉センターは各都道府県、および大きな都市にあり、全国で69か所あります。
 これらの治療機関やセンターの情報は、依存症対策全国センターのホームページで知ることができます。

 さらに大切なこととして、当事者だけで自主的に集まり、例会活動で支え合うギャンブラーズ・アノニマス(略称GA)という自助グループの活用があります。
 GAは、アルコール依存症の当事者の自助グループであるアルコホーリクス・アノニマス(略称AA)を参考にして創設され、世界的に普及してきたもので、わが国でも現在200以上のグループが各地にあります。これについてもGAのホームページで調べられます。この自助活動の例会参加を長期に続けると、症状は安定し、回復につながります。

 ギャンブル依存症の治療ができる医療機関は、推定される患者数に比べ、まだまだ少ないです。自助グループGAの活用は推奨されるべきです。ギャンブルから離れ、生き方を変えながら健康に生きていくには、同じ問題を持つ仲間と定期的にグループミーティングを持ち、自分を内省する機会を長期に持ち続けることが最も大切なのです。

⑤ 周囲の人はどのようにサポートすれば良いでしょうか?

 一般に依存症関連の障害は、本人より先に家族が問題性、異常性に気付きます。そして当初は“本人の意志が弱い”と考えがちです。高額の借金、嘘をつく、家族を顧みない等々の現状を、その人本来の人柄と照らし合わせて考えると、「ギャンブルで別人格のようになった」と考えられるケースが多いはずです。

 ギャンブルの多額の借金に家族が驚き、皆で先に借金を返し、2度としないと約束させても問題は解決しません。周囲が尻拭いすると、本人は修羅場を見ずにやりすごし、「やり過ぎた」との反省はしても本質的な対策はとらないので、小休止の後にギャンブルを続けることが可能になります。これは、イネイブリングenabling(同じことが続くのを可能にする)という現象で、周囲の人の善意の協力があだになる現象です。第一段階、家族はイネイブリングにならないよう借金などの問題の責任は本人に返します。

 責任を突き付けられた本人は解決に困り、問題を直視し、結果として周囲の言葉に耳を傾けるようになります。このタイミングで家族が声をそろえ、依存症は治療や自助グループで回復できるので、回復のための行動を一緒にとってほしいと強く提案します。問題を共有できる家族の“同盟軍”をできるだけ増やし、強い決意で本人に提案しましょう。
 依存症の回復プログラムへの導入がまず優先です。誓約書を書いても病気自体は直りません。治療的な対応を伴わない単なる借金返済は問題を長引かせる逆効果になることに留意しましょう。

 もし依存症かどうか家族も自信がない時は、都道府県、政令市にある精神保健福祉センターか、依存症を診ている医療機関に家族だけで先に相談に行きましょう。上で述べた依存症対策全国センターの情報を参照してください。
他の家族の対応は参考になりますので、ギャンブル依存症の家族の集いである「ギャマノン」にも参加してみましょう。この家族自身の自助グループであるギャマノンの例会場は全国に100数十か所ほどあり、インターネットで検索できます。

⑥    本人はどのような点に気を付けて生活すればよいでしょうか?

 回復のための大事な点を箇条書きにしてみます。
1) 依存症を診療する医療機関か、精神保健福祉センターに相談に行く
まず恐れずに、専門家のアセスメントを受けてみましょう。ギャンブル依存症だから薬を飲むとか、直ちに入院するとかいうものではありません。問題の本質は何かを、専門家の力を借りて明らかにし、十分な説明を受けてください。

2) 全ての金銭問題を正直に明らかにする。
取り組みの最初の時点で全てをオープンにすること、特に債務は些細な額も正直に
明らかにすることです。少額のお金を出し入れしているカード、少額の貸し借りをよくしている職場の友人への借金も、一切合切を明らかにし、司法書士や弁護士を活用した対策を考えます。

3) 半信半疑でもよいから回復プログラム(治療プログラムやGAミーティング)に参加してみる
問題なのは「ギャンブル依存症」なのですが、自分がそうとは中々受け容れられな
いものです。自分がギャンブルすることが病気?などと思うでしょう。半信半疑で
良いから回復プログラムに参加して何が得られるのかを体験してください。特に、
他の経験者や回復者が参加する集団のプログラムがお薦めです。


4)1年ほどはギャンブルをやらないことにこだわり、プログラム参加をとにかく続ける
実際に参加すると精神的、身体的な調子も良くなり、「自分は軽い」「もう自分の力で治せる」などと考えて,プログラムや自助グループに行きたくなくなります。依存症という病気では、多くの人が絶えず“治療に参加しなくてよい”理由を探すものです。そこで早期にプログラムから離れた人は、問題が再燃しやすくなります。まずは1年くらいをめどに参加を続けましょう。もし2年続けられれば相当安定します。

5)「治った」と考えない
もう良いのでは?と思って少ししてみることを依存症の領域では「スリップ」と呼ぶことがあります。これを放置すると、すぐに本格的に再燃します。万一、自分がスリップしても治療や自助グループに通い続けてください。依存症は一種の慢性疾患であって、そもそも再燃・再発の多い病気なのです。スリップは恥ずかしいことではありません。自助グループやグループの治療に参加を続けていると、仲間のスリップの問題を聴いたり、家族関係が回復した話を聴いたりできます。聴きながら自分の考えを深めることができます。自分のこころのうちを吐き出す経験を積むようになると、皆で問題を分かち合え、不要なスリップも避けることができます。

終わりに

 どのような依存症も、依存対象を必要とした生き方から脱却できると安定しますが、その精神的作業は1人では難しいものです。上述したように、まずは回復のためのグループに足を運びましょう。最初はただ通うだけでいいです。通う習慣がつき、参加者の話にひたすら耳を傾けていると、他の人の体験や考えが良く心にしみ込んできます。そうすると病気のこと自分のことが徐々に分かってきて、自分の体験や考えを話せるようになり、回復していきます。言わば、足→耳→口の順で回復していくのです。
 依存症はいつ爆発するか分からない休火山にも似ています。自然界の火山の爆発を防ぐのは困難ですが、自助グループに参加を続けることで、長期に“依存症火山”の爆発を予防し続けている人は世界中にたくさんいます。 
                                         以上

田辺 等 (北海道精神保健協会、北仁会旭山病院)

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