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野村総一郎先生に「うつ病」を訊く

野村 総一郎 先生
防衛医科大学
※所属は掲載日のものです
うつ病とはどんな病気か、患者さんにどのように説明されているか、また、うつ病から回復するために心がけたら良いこと、必要なことをお伺いしました。(掲載日:2015年1月28日)

①うつ病とはどんな病気か、先生は普段の診療で患者さんにどのように説明されていますか?

どんな人でも経験したことがある「ゆううつ感」という心理がありますが、それが非常に強くなり、しかも何週間にもわたって長引くような場合、「うつ病」の可能性を考えます。うつ病はいつ誰がかかってもおかしくない、一般的かつ人間的な病気なのです。その症状の多くは、「ゆううつ」「無気力」「いらつき」「食欲低下」「不眠」「体の不調」など、誰でも理解できるようなものなのですが、つらさの程度が半端ではなく、仕事や家事などの社会生活を営みにくくなったり、時にはもう生きていたくないなどと、極端に悲観的な考えに陥ったりするなど、大変に苦しいものです。

このような状態を軽くするために、医療者としてお手伝いをしたいと心から思います。うつ病の治療法はまだ完璧ではないかもしれませんが、多くの医学的、心理学的なノウハウが蓄積されています。それらの力も借りて、ともにうつ病を克服して参りましょう。

②今までで一番印象深い患者さんは、どんな方ですか?

うつ病を病むことで人生が大きく展開したAさんのケースをご紹介してみます(プライバシー保護のため、生活背景等を改変してあります)。

証券マンだったAさんが、産業医の勧めで初めて受診されたのは37歳の時のこと。残業が深夜に及ぶ激務が続き、すっかり参ってしまったAさんはうつ病になったのです。この時は、病休を取り、抗うつ薬を含む積極的な治療を受けた結果、3か月ですっかり回復しました。仕事の無理を重ねすぎた、という反省もあって、最初はゆっくり仕事をしていたのですが、いつまでもそうは行かず、やがてまた激務へ。1年後にはまたうつ状態に陥り、上司から「使えないな」という言葉を浴びせられたこともあり、うつ病は再発しました。

また数か月で回復したものの、すぐに再発を繰り返すというパターンを3回繰り返し、そうしているうちに奥さんとも不仲となり、別居から離婚へ、人生のピンチと言える状況で自殺企図。1か月の入院を経て、復職リハビリテーションのプログラムに参加。そこで同じうつ病を病み、リハビリ中の女性と知り合い、42歳の時に再婚にこぎつけました。それを機会に「仕事で同じことを繰り返していてもしょうがない。」と考えるようになり、証券会社を退社し料理学校に入り、調理師の道を目指すようになりました。もともと料理が好きという背景はあったものの、年齢を考えるとかなりの思い切った行動であって、主治医としてはやや反対したのですが、奥さんや両親の応援もあって決断したのです。

その後もこれまでとは違った苦労が続き、主治医も内心はらはらしましたが、投薬と合わせて、その場その場での事態をどう考えるのかをAさんと確認する形で心理的サポートを継続しました。こうして、多少の揺らぎはあるものの、Aさんのうつ病は再燃することはなく、44歳の時には旧友の援助を得て、小さな街の食堂を奥さんとともに開き、3年を経た現在、盛業中です。抗うつ薬はゆっくり減量し、1年前から中止しました。しかし、2か月に1回の診察は続けたい、というAさんの希望があり継続しています。

Aさんとは10年にもわたる付き合いで、紆余曲折があり、「右から左に順調に回復した」とは言えず、その点ではうつ病治療の難しさを語るようなケースかもしれません。また、職を変えることによりうつ病は良くなる、という一般論にまとめることもできません。Aさんの場合、時間はかかったものの、うつ病を病むことで、「人生観を変え」、「考え方が安定し」、「新たな仕事を得て」、「伴侶を得た」というポジティブな結果が生じていること、また回復の過程で、両親や友人からの温かいサポートを目の当たりにすることができ、主治医もいくばくかの役割を果たせたことを実感できたこと、そのような意味でやはり印象深い存在なのです。

③うつ病から回復するために、心がけたら良いこと、必要なことは何でしょうか?

基本的に大事なのは、生活のパターン、心理的な面、薬の3つだと思います。

生活面については、「休息する」ということがまず大事です。物理的な休息、つまり仕事を休み、横になっている(ごろごろする)、というのが、初期には基本的に大事です。また昼に眠らず、夜に寝る、という昼夜のリズムを崩さないことです。うつ病を回復させようと思って飲酒やカフェイン摂取が過度になることも避けた方が良い。回復期には適度な運動も、無理のない範囲で行うようにします。

心理面ですが、やはり「今は心を休ませることだ」と考えるのが基本です。できるだけ、嫌な状況から物理的、時間的な距離を取るようにします。たとえば、仕事のことを考えない、苦手な人の顔を思い出さない、言われたことを思い出さない、などを、しばらく続けることです。そして、この姿勢を続ければ、うつ病は治るはずの病気なのだ、とともかく信じること。ひどく悲観的な考えや、自分でも偏っているかなと感じるような考えが生じてきた場合には、「この他にどんな考えが出来るかな」と他の可能性を出来るだけ沢山思い浮かべる。そして、物事にそもそも絶対の正解というのは無いのだ、と合わせて考えることです。

過去の出来事へのこだわり、特に恨みつらみ、行き過ぎた自負心もうつ病を長引かせることがあります。「こうあるべきだ」という硬い考えは、それがたとえ正論だとしても、自分を縛ることになりかねません。ある点ではいい加減な考え方、「できないものはしょうがない」くらいに考えることも必要かもしれません。まあ周囲を見回すと確かに立派な人もいますが、立派な人とそうでない人との差はいくらのものでもないのです。あまり人と比較しないことも大事です。

かなり回復してきた場合にも、三寒四温、つまり多少は悪くなったり、また良くなったりの揺らぎが生じますが、これは良くなる兆しなのだ、と考え、焦らないことです。回復期には人の言う事に特に過敏になりがちですが、「人はいろいろ何の気なしに言うものだ」と考え、あまり解釈をしない方が良いと思います。

薬物療法も大事です。うつ病の症状やタイプによって有効な薬が異なるのですが、よく体質に合っていた場合、とても頼りになる存在と言えるでしょう。ただ、副作用や逆作用(たとえば、かえってイラつきがひどくなるなど)が出ることもあり、効果があったとしても中止がしにくい場合もあるなど、うつ病治療薬の使用法は決して簡単ではありません。したがって経験があって、信頼の置ける医師によって行われるべきであり、そのような医師からしっかりと説明を受けること、疑問があれば遠慮なく相談することが大事です。

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