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田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く

田ヶ谷 浩邦 先生
北里大学
※所属は掲載日のものです
睡眠障害はどんな病気なのか、居眠りはどのような場合に起こり、どのような治療があるのか、嗜好品は生活習慣による不眠とはどのようなものでどのような対処法があるのか、お伺いしました。(掲載日:2015年7月16日)

①「睡眠障害」とはどのような病気で、何科にかかればよいのですか?

「睡眠障害」とは一つの病気ではありません。睡眠と関連して起こる医学的な問題を全てまとめて睡眠障害と呼んでいます。睡眠障害には様々な病気が含まれており、1)眠り始めると呼吸の異常が生じる睡眠関連呼吸障害、2)睡眠中や睡眠の前後に不随意運動(身体の一部が勝手に動くこと)や異常な感覚が出現する睡眠関連運動障害、3)夜に十分な睡眠をとっているのに日中に居眠りを繰り返す中枢性過眠症、4)睡眠そのものには異常がないのに望ましい時間帯に眠れず、目覚めていなくてはいけない時間帯に眠ってしまう概日リズム睡眠・覚醒障害、5)眠りながら異常な行動をしてしまう睡眠時随伴症、6)不眠(眠ろうとしても眠れない、あるいは、夜の睡眠で疲れがとれない)のうち1〜5の睡眠障害によるものではない不眠症、に大まかに分けられます。
睡眠関連呼吸障害の一つである閉塞性睡眠時無呼吸症候群は比較的ありふれた病気ですが、生活習慣病を悪化させ心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすく、注意すべき睡眠障害です。また、不眠を引き起こす身体の病気、こころの病気、睡眠障害はたくさんあります。これらの多くは睡眠薬では効果がなく、なかには睡眠薬でかえって悪化したり、思わぬ副作用が出現する病気があります。
原因は様々ですので、診断に必要な検査、治療法もそれぞれの病気によって異なります。睡眠障害の知識がある医師による問診と診察だけで十分診断可能な病気もありますし、短期間の検査入院をして専門的な検査を受けないと診断できない病気もあります。治療は、病気により、人工呼吸器、手術、マウスピース、薬物療法、生活改善など異なります。呼吸器科、耳鼻咽喉科、神経内科などの専門的治療が必要な場合があります。睡眠障害を専門とする医師は少ないので、まずはかかりつけの医師に相談し、専門医療機関の紹介など、どのような方法が適切か判断してもらってください。

②閉塞性睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気で、どのような症状があり、どのような治療があるのでしょうか?

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、眠り始めると呼吸運動(胸や腹の動き)は続いているのに、喉が詰まり呼吸が止まってしまう病気です。空気の通り道(気道といいます)は喉のあたりでは筋肉だけで支えられており、眠り始めるとこの筋肉の「張り」が弱くなります。太っている、元々した顎が小さいなど、気道が狭い人では、眠り始めると気道の筋肉の部分がつぶれてしまいます。気道がつぶれて呼吸が止まったままだと死んでしまうので、目が覚め、気道が開いて呼吸できるようになりますが、また眠り出すと呼吸が止まってしまいます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、眠り出す➡呼吸が止まる➡目が覚める➡呼吸が再開➡眠り出す、というサイクルを一晩中繰り返します。日本人成人男性の4人に1人に無呼吸が見られ、治療が必要な中等症〜重症の方は2-3%もいます。女性ホルモンは気道がつぶれることを防止する作用があるので、女性の方ではもっと少ないですが、閉経後には男性と同様の頻度となります。
軽症のうちは夜何度も目が覚めるため不眠を自覚しますが、睡眠薬は無呼吸を悪化させてしまいます。重症になってくると1時間当たり40回以上呼吸がとまる、あるいは換気不十分となりますが、自分では気がつきません。深い睡眠が全くとれず重度の睡眠不足となり、日中の居眠りや倦怠、眠気による交通事故や転落事故が増えます。毎晩、長時間にわたって血液中の酸素濃度が低下するため、脳に酸素を供給するために心臓などの循環器系に負担がかかり、高血圧、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞を起こしやすくなります。重度の睡眠不足や心臓への負担によって、ストレスホルモンが増え、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームが悪化します。重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群を放置すると、12年間で17-18%の方が心筋梗塞で死亡し、18年間で40%以上の方が様々な原因で死亡することが報告されており、非常に危険な病気といえます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群による日中の倦怠、眠気などをこころの病気の症状と考えて、精神科に通院している場合があります。家族から、激しいいびきや、睡眠中の呼吸停止を指摘された場合には、すぐに呼吸器科を受診してください。
残念ながら閉塞性睡眠時無呼吸症候群に有効な薬はなく、経鼻持続陽圧呼吸という人工呼吸器や、気道を広げるためのマウスピースの装着を、毎晩、長年にわたって続ける必要があります。扁桃腺や舌が大きい場合には手術による治療もあります。

③レストレスレッグス症候群とはどのような病気で、どのような症状があり、どのような治療があるのでしょうか?

レストレスレッグス症候群(別名:むずむず脚症候群、下肢静止不能症候群)は、夜の時間帯に、脚や腕に異常感覚と不随意運動が出現します。じっとしていると、脚や腕を動かしたいという強い衝動と、何ともいえない不快な異常感覚が脚や腕に出現してきます。この異常感覚は人によって異なり、「むずむず」「びりびり」「火照る」「だるい」などと表現されます。強い衝動と異常感覚は、脚や腕を動かすと軽くなりますが、眠るためにじっとしているとまた強まってきます。このため、眠くてたまらないのに、布団の中でじっとしていることができず眠れなくなります。寝付けたとしても、途中で目覚めた際に同様の状態になります。この衝動と異常感覚は、夕方頃からじっとしていると自覚されるようになり、明け方3時頃まで続きます。さらに、脚や腕がぴくんぴくんと勝手に繰り返し動く不随意運動(周期性四肢運動)も出現し、睡眠を妨害します。この結果、非常に強い不眠、睡眠不足による日中の眠気、倦怠、意欲低下などの影響が見られます。
日本人では1-3%の方で週1晩以上この症状が出現するといわれています。じっとしていられず眠れない病気ですので、睡眠薬は効きません。かえって転倒やもうろう状態などを引き起こします。パーキンソン病の治療に用いるドパミンアゴニストという薬剤をごく少量使用します。ただし、量を増やしていくと却って症状が悪化することがありますので、極力少ない量にとどめることが必要です。
鉄の欠乏、人工透析など他の病気や状態によって起こることもあります。体内の鉄の貯蔵量を反映するフェリチンの値を血液検査で確認して、これが低い場合は鉄補充療法を行うことがあります。

④居眠りはどのような場合に起こり、どのような治療があるのでしょうか?

昼間に居眠りが多いとナルコレプシーなどの過眠症が疑われて睡眠障害専門医療機関を紹介される場合があります。居眠りは様々な原因で起こります。一番多いのが睡眠不足による居眠りです。日本人成人での調査では、眠るために布団の中で過ごす長さ(習慣的床上時間)が6時間を切ると、半分以上の人が居眠りをするようになります。「睡眠は短い方が格好いい」「睡眠が短い方が有能」というイメージがあるようですが、実際には睡眠が足りなくなると、学業成績や仕事の能率が落ち、ミスが増えます。新しいことを覚えたり、技能を身につけるためにも十分な睡眠が必要です。必要な睡眠時間には個人差がありますが、7-7.5時間確保しましょう。休日に目覚まし時計をセットしなければ午前10時過ぎまで眠ってしまうようであれば、慢性の睡眠不足があることは確実です。
睡眠を妨害する病気(咳、腰痛、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群など)も睡眠不足による居眠りを引き起こします。また、様々な病気の治療に用いられる薬の中には強い眠気を引き起こすものがあります。
ナルコレプシーなどの中枢性過眠症では、覚醒を維持するために精神刺激薬という薬の服用が必要です。2000年以降、精神刺激薬の濫用が問題となり、現在では厳しい規制が行われています。精神刺激薬を入手するために「医師をだますマニュアル」「ニセ診断書」などがインターネットで出回ったため、睡眠障害専門医療機関では、睡眠を十分に確保し、眠気に影響する薬を中止してから検査を行い、慎重に精神刺激薬を開始することとしており、治療開始まで数ヶ月かかることもあります。

⑤嗜好品や生活習慣による不眠とはどのようなもので、どのような対処法があるのでしょうか?

よく見られる不眠の原因で、ご本人が自覚しにくいのが嗜好品や生活習慣による不眠です。
エタノール(酒類)、ニコチン(タバコ)、カフェインの3大嗜好品はいずれも不眠の原因です。酒類は、一旦強い眠気が出現するので、睡眠薬代わりに用いる人がいますが、眠気は2-4時間程度しか持続せず、その後は逆に覚醒作用が出現します。夜中や明け方に目が覚めやすくなり、一晩全体の睡眠の量、質ともに悪化します。寝酒を続けると、だんだん効かなくなり、同じ量では寝付けなくなり量が増えます。この段階で寝酒をやめると、寝酒を始める前よりもひどい不眠が生じます。睡眠薬代わりの寝酒はやめましょう。ニコチンとカフェインには覚醒作用があり、摂取後4-5時間持続します。カフェインはコーヒー・紅茶だけでなく、緑茶、ほうじ茶、ウーロン茶、コーラ、エナジードリンク、チョコレートなどにも含まれていますので、注意が必要です。
毎晩、大体同じ時間帯に眠くなるのは体内時計の働きですが、夜遅くなってからの激しい運動、パソコン作業・ネットでのチャットなどによる精神的興奮は、眠気を吹き飛ばしてしまいます。このような原因による不眠は若い人〜中年で多くみられます。夜遅くなったら激しい運動、パソコン作業、ネットでのチャットなどは避けましょう。
健康な人でも、必要な睡眠時間を大幅に上回って眠ろうとすると、寝床内で目覚めて過ごす時間が増え、強い「不眠」を自覚します。既に十分眠っていますので、睡眠薬は効きません。高齢者でこのタイプの不眠がよく見られます。「自分は不眠だから」と長時間寝床内で過ごすことはやめましょう。昼寝や仮眠なども夜の睡眠の必要性を減らし、不眠を引き起こします。必要な正味の睡眠時間は年齢とともに変わります。小学生以下は9時間以上、中学生から20歳頃までに徐々に減少して、20-50歳代で7-7.5時間です。60歳以降正味の睡眠時間は少しずつ減っていきますが、トイレ覚醒など中途覚醒が増えるので、睡眠に当てる長さは7-7.5時間程度と考えて結構です。

⑥睡眠薬は危険な薬なのでしょうか?連用すると効果が弱まり、やめられなくなるのではないでしょうか?

睡眠薬には大きな誤解があります。1つは「危険な薬である」という誤解、もう1つは「強力な催眠作用がある」という誤解です。
20世紀初頭から1950年代まで用いられた古い睡眠薬は、連用すると効果が弱まり依存となりやすく、大量に服用すると死亡してしまうという危険な薬剤でした。1960年代以降に使われるようになった睡眠薬は安全性が高く、致死量は数千錠-1万錠であり、これだけの錠剤を一度に服用することは不可能で、事実上服薬自殺は不可能となっています。また、常用量の範囲内で薬物依存が成立することはなく、認知症など後遺症も報告されていません。ただし、高齢者では服用開始直後に転倒しやすくなること、量が多いと交通事故や転落事故が増えることがわかっています。
ドラマや映画などで、こっそり飲み物に睡眠薬を入れると、それを飲んだ人がコテリと眠ってしまうシーンがよくあります。睡眠薬はそんなに強力な薬ではありません。いつもより早い時刻に服用したり、心配事があったりすると、すぐに効かなくなってしまう弱い薬です。睡眠薬を服用していてもよく効く日と、あまり効かない日が出てしまうのはやむを得ません。「この薬はそんなに効かない」と思うだけで効かなくなってしまいます。これが、睡眠薬の効きが悪くなると感じる原因です。
「通常の処方範囲の量の睡眠薬を服用するとよく眠れるのに、やめると眠れない」状態のことを「依存になったのではないか」と心配する方がいますが、これは「薬物依存」とは違いますので心配しないで下さい。
(ただし、ベンゾジアゼピン系の薬剤は慣れや依存性が認められていることもまた事実なので、安易な増量は避けることが望ましいと考えられています。)
不眠は慢性の状態で、服薬で症状を抑えていますので、薬をやめれば不眠が再び出現してきます。また、「今日は薬を飲んでいないが大丈夫だろうか?」という不安だけでも不眠が引き起こされます。不眠を引き起こしている原因が解消され、睡眠に自信がつくまでは一定の期間服薬を続ける必要があります。

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