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加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く

加藤 忠史 先生
理化学研究所
※所属は掲載日のものです
双極性障害ではどんな症状があるのか、どのような治療、対処が有効か、回復のため心がけたほうがよいことはあるか、必要なことをお伺いしました。(掲載日:2015年6月4日)

①双極性障害ではどのような症状があるのですか?

双極性障害は、以前、躁うつ病と呼ばれていた通り、躁状態とうつ状態という二つの状態が現れます。躁状態は、気分が高ぶり、自分が偉くなった気がして、眠らなくても平気で、次々とアイデアが湧く一方、何事にも集中できなくなり、お金を使いすぎたり性的逸脱行動に走ったりして、人生に大きな打撃を与える結果となります。同じような状態でも、入院を要する程ではない場合は、軽躁状態と呼ばれます。4日程度気分が高ぶるというだけであれば、誰でもありそうに思えますが、双極性障害の軽躁状態というのは、いつものその人とは全く違う状態になってしまっている、まるで人が変わってしまったようだ、というのがポイントでしょう。躁状態を伴う場合を双極Ⅰ型障害、うつ状態と軽躁状態しかない場合を、双極Ⅱ型障害と言います。以前、躁うつ病と呼ばれた病気は、ほぼ双極Ⅰ型障害に相当すると考えて良いでしょう。双極Ⅱ型障害は、ほとんど躁うつ病に近い場合もありますが、うつ病やパーソナリティーの問題に近い場合もあり、現状では、少々輪郭のはっきりしない病名です。
うつ状態のほうは、症状の上ではうつ病と大きな差はありません。気分がうっとうしくなり、何事にも興味が持てず、何も楽しいと思えず、身体の調子が悪くて疲れやすく、頭も働かず、自分を責め、死にたい気持ちになります。身体の症状は、眠れない/寝すぎてしまう、食欲がない/食べすぎてしまう、身体の動きがゆっくりになってしまう/じっとしていられなくなる、という風に、両極端な症状のうち、どちらも現れる場合があります。そして、これらのエピソードが治ったときには、何も症状がないのがこの病気の特徴です。

②どのような治療、対処が有効でしょうか?

躁状態には、有効な薬物療法がたくさんありますので、治療しさえすればたいてい良くなります。問題は、特に初めての躁状態の場合、ご本人は病気と思っていないため、治療する気が全くない場合が多いということです。そのため、心配して治療を勧める周りの人たちを邪魔者だと思って、激しく怒ったりすることもあるので、周囲の人たちも困ってしまいます。しかし、放置すると、その人が長年培った信頼や社会的な地位を失い、人生に大きなダメージを与えることになりますので、早めに治療することが必要です。まずは、「問題行動」を指摘するのでなく、寝ていない、このままでは身体が参ってしまう、といったように、身体の問題として説得して治療を勧めるのが良いと思います。それでも難しい場合には、ケースワーカー(精神保健福祉士)がいる精神科の専門病院や自治体の精神保健福祉センターなどに相談して、どうすれば治療の軌道に乗せることができるか、相談してみるのが良いと思います。
双極性障害、特に双極I型障害の場合は、早い段階から、予防ということを考えなければなりません。双極性障害には、リチウムを初めとして、ラモトリギンなど、予防に有効な薬がありますので、これらの薬を使い、心理・社会的な治療を受けることによって、多くの場合、かなりコントロールできます。
双極Ⅱ型障害の場合は、ほとんど双極I型障害と同じ治療で良い場合から、薬物療法だけでは不十分で、精神療法が重要になるようなケースまで、色々なタイプの方が含まれていますので、治療についても、一概には言えない部分があります。

③回復のために何か心がけた方がよいことはありますか?

まずは、病気を受け入れるということです。慢性の病気に罹ったということを認めることは、簡単ではなく、多くの方が、「自分だけは再発しない」「自分で何とかするから治療はいらない」などと考えます。しかし、それによって再発を繰り返し、人生に取り返しのつかない大きなダメージを負ってしまっては大変ですので、なるべく早いうちに病気を受け入れて、病気とつきあう覚悟をすることが大切です。薬を飲んでいる限り、治ったとは言えない、と考えて、気に病む方がおられますが、双極性障害で予防療法をするのは、高血圧で降圧剤を飲んだりするのと違いはありません。薬を飲みながら充実した人生を送ろうと考えを切り替えてしまえば、この病気を克服できたようなものです。
生活上の注意として、一番大切な点は、生活リズムを守ることです。双極性障害の方は、たった一晩の徹夜でも、一気に躁転(急激に躁状態になること)してしまうことがあります。また、例えば正月で親戚一同が集まるといった、社会的な刺激の強い状況を機に再発する方も少なくありません。そのため、毎日の生活リズムを保ち、躁状態になりそうな徴候がある時などは特に、過度の対人的刺激を避けた方がよいでしょう。
また、躁状態になった時にどのような行動面の変化が現れるのかについて、事前に家族とよく話合っておきましょう。躁状態の前触れの症状が出てきたら早めに主治医に相談することで、再発を予防することができるでしょう。

④周囲の人はどのようにサポートすればいいでしょうか?

躁状態の時には、患者さんは気持ちが高ぶっていて、自分が偉くなったように感じているので、普段は大切に思っている家族や周囲の人に対して、尊大な態度を取ったり、激しく罵倒したりすることもあります。ひどいことを言われて悲しくなったり、腹が立ったりするのは当然のことですが、躁状態が治れば、普段のその人にまた戻りますので、ひどいことを言われても、その人の人格ではなく、「病気」が言わせているのだと考えて、いつものその人に戻れるように、サポートすることが大切です。
また、患者さんにとってはうつ状態が一番辛いものであり、患者さんは躁状態を軽く考える傾向があります。一方、家族にとっては、躁状態が一番心配なので、家族はうつ状態を軽く考える傾向があります。このように、家族と本人の間では、考え方にギャップがあって当然だと考えた方が良いでしょう。患者さんの症状によって、家族が感情的となり、家庭内のいざこざがストレスになって、また再発を繰り返す、という悪循環を防ぐためにも、よく話し合って、お互いに理解を深めることが大切です。特に、躁状態の初期徴候については、事前によく本人と話し合っておき、躁状態の前兆が出てきた時には、早めに病院にかかることよって、激しい再発に進展する前に対処することができます。
この病気は、症状が現れるのは患者さん一人でも、家族全体に大きな影響を与えます。家族全員にとっての課題と考え、協力して取り組むことによって、乗り越えていくことができるのです。

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