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井上幸紀先生に「摂食障害」を訊く

井上 幸紀 先生
大阪市立大学
※所属は掲載日のものです
摂食障害とはどんな病気か、なぜおこるか、どのような治療や対応方法があるのか、お伺いしました。(掲載日:2015年5月20日)

①今までで一番印象深い患者さんは、どんな方ですか?

精神科医1年目に、神経性やせ症として最初に入院主治医をしたAさんのケースをご紹介します。(プライバシー保護のため文意を損なわない範囲で生活史などを改変してあります)
Aさんは中学生時代に足が太いと言われてからダイエットをはじめました。女子高に入学後、体重や体型へのこだわりがより強くなり、食事内容を工夫したり、過剰な運動を行ったり、体型の気になるところをラップで巻いて圧迫したり、自分なりにやせる努力を続けていたようです。1年前に体重減少を心配した親につれられて摂食障害専門外来を受診しました。食事日誌をつけ規則正しい食生活を目指すよう外来主治医に指導を受けていましたが、それでも持続する体重減少を認め(身長157cm, 体重36kgが半年で28kgに減少)、食事を取ることさえ困難な体力低下を自覚し、高校3年の夏休みを利用して開放病棟に入院となりました。
入院直後から、行動制限下で決まった食事の全量摂取を行い、定期体重測定の結果により行動制限と食事量を決めていくという治療を行い、最初は食生活の改善にともない体重も増加しました。足にむくみがみられ体重が30kgを超えたあたりから、「このまま際限なく太るようで怖い…」と漏らすようになりました。状況に応じた説明を行うと頷いてくれましたが、むくみがとれ体重が一旦30kgを下回った後は、なぜか体重増加を認めなくなりました。その後、食事を隠して夜にトイレに捨てていることや、夜中に腹筋やスクワットをしていることが明らかになりました。本人は十分良くなったと退院を希望したため入院加療の必要性を家族にも伝えましたが、結局退院となりました。退院後、再び体重が低下し食事もとれなくなったことから本人希望で入院し、数kg程度の体重増加でやはり退院、次に入院してきた時の体重は24kgで、徐脈、不整脈、低体温、様々な身体症状を呈していました。本人の治療意欲を繰り返し確認し、閉鎖病棟で厳密な行動制限や食事管理を行い、3ヶ月以上かけて体重が32kgを超えた時点で外来診療につなげました。
神経性やせ症では患者自身の意志で体重減少を目指しますが、食べられなくなるほど体力が低下すると自分でも不安が生じ治療を希望します。ただ、「再びダイエットができる程度には食べられる」自信と体力がつけば治療から離れるため、次に医療者の前に現れる時にはさらに症状が進んでいます。神経性やせ症の治療では患者の病気理解と治療意欲を強化することがいかに大切であるかを痛感しました。

②摂食障害はどんな病気ですか?

摂食障害として、神経性やせ症と神経性過食症が多いのですが、新たな診断基準DSM-5から過食性障害なども示されました。神経性やせ症では、食事を制限し有意に低い体重に至る、肥満に対する恐怖がある、体重や体型に対する極端な考え方がある、などを認めます。また、自己誘発性嘔吐や緩下剤・利尿剤などの反復的使用の有無により、過食・排出型と摂食制限型などに区別されます。重症度はBody Mass Index (BMI: 体重kg÷{身長mの2乗})で判断されることが多く、BMIで17 (kg/m2)以上は軽症、16~16.99は中等度、15~15.99は重度、15未満は最重度とされています。上記AさんのBMIは、初回入院時11.36、3回目入院時9.74なので、各々最重度ということになります。
神経性過食症は反復する過食エピソードが特徴となります。他とはっきり区別できる時間帯に他の人より明らかに多い食物を摂取し、そのエピソードの間は食べるのを抑制できないと感じています。また、自己誘発性嘔吐や緩下剤・利尿剤などの反復的使用や過剰な運動などにより体重増加を防ごうと試み、過食エピソードと不適切な代償行動が週1回以上でそれが3ヶ月以上継続し、自己評価が体重や体型の強い影響を受けています。またこれらは神経性やせ症のエピソードの期間にのみおこるものではないとされています。重症度は不適切な代償行動の頻度によって考えられることが多く、それが週に1〜3回ならば軽度、4〜7回で中等度、8〜13回で重度、週に平均して14回以上あれば最重度とされています。過食性障害は新たに提唱された病態で詳細は割愛しますが、神経性過食症と同様に過食エピソードを認めますが、それが反復する不適切な代償行動とは関係しないとされています。

③摂食障害の神経性やせ症と神経性過食症は違う病気なのですか?

ダイエットによる食事制限が摂食障害の入り口になることが多いようです。最初は不食や摂食制限のみであることが多いようですが、経過の中で過食も生じ、それによる体重増加を嫌悪して嘔吐や下剤などの乱用に結びつくことがあります。前者が摂食制限型、後者が過食・排出型です。摂食制限型の人が過食をしても嘔吐などの不適切な代償行動を認めない場合、体重は正常範囲内に回復し、その後肥満に傾く場合もあります。正常体重に回復後、肥満をさけるために不適切な代償行動を取るようになれば、神経性過食症という診断に移行する場合があります。昔は神経性やせ症が多かったのですが、ダイエットの既往がなくストレスなどを誘因としたむちゃ食いで発症し、不適切な代償行動を伴って最初から神経性過食症の診断となる患者も増えています。また結果として低体重となった場合には神経性やせ症の診断がつくこともあります。神経性やせ症と神経性過食症などの摂食障害の病型は、その長い経過の中で変化していくことが多いようです。

④摂食障害はなぜおこるのですか?

摂食障害の発症には様々な要因が関連していると言われています。当初はファッション誌などでやせた女性が好意的に掲載されるなどの社会文化的側面がやせ願望や肥満蔑視などと関連すると考えられました。また思春期に発症しやすいことから家族関係、独立と依存の葛藤や成熟拒否の心性などの心理的側面にも注目されました。最初は意識的に食べないのですが、そのうち食べられなくなったり過食衝動が生じることもあり、やせがもたらす生物学的側面、脳の萎縮など機能的・形態的変化や無月経など内分泌変化を含めた身体の変化、がその後の病態に影響するとも考えられています。今ではいずれの側面もそれだけで病気を説明できるわけではなく、複合的に関与していると考えられるようになりました。

⑤どのような治療や対応方法があるのでしょうか?

摂食障害患者の増加に対し、あるファッション誌は過度にやせたモデルを採用しないようにしました。これは治療ではありませんが、社会文化的側面からの対応と言えます。体重や体型への過度のこだわり、肥満恐怖ややせ願望などの偏った考え方は社会文化的側面と心理的側面の両者と関連しています。これらに対する、患者の物事の捉え方を変えるような認知行動療法を含めた精神療法が摂食障害の中心的な治療となります。神経性やせ症の死亡率は約20%と言う報告もあり、生命的に危機的な状況であれば栄養補給が、抑うつ気分や不安・焦燥感が強ければ薬物療法が、必要に応じて身体治療の一環として行われますが、あくまで補助的治療法であると考えています。
治療の目標は単に体重を増やすことではなく、年齢相応の行動が継続してできる体力を得ること、そのために規則正しい食習慣を再獲得することであり、入院環境のみでそれらは獲得できません。食事をする、一見普段の何気ない行動に潜む摂食障害という病気を正しく理解することはなかなか難しいものです。まず患者本人とそれを取り巻く家族が病気を正しく理解し、つらくても継続して向き合う強い意志が求められます。国も摂食障害治療支援センターの設置などの取り組みをはじめています。まず自分の状態や病気についてよく知るためにも、相談する専門医を見つけておきたいものです。

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