公益社団法人 日本精神神経学会

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松下幸生先生に「アルコール依存症」を訊く

更新日時:2022年11月17日
松下 幸生 先生
久里浜医療センター
※所属は掲載日のものです
アルコール依存症とはどんな病気か、どのような治療が有効か、周囲の人はどのようにサポートすれば良いか、お伺いしました。(掲載日:2015年4月27日)

①アルコール依存症とはどのような病気ですか?

アルコールは少量であれば、社交の場で緊張をほぐして潤滑油のようになってくれたり、お祝いの席を盛り上げたり、沈んだ気持ちを楽にしてくれるなどの効用がみられます。しかし、慢性的な飲酒は精神的にも身体的にも依存を形成することが知られています。“毎日の飲むことは気になるけどやめられない”、“仕事帰りにいつも飲んで帰る”、“飲まないと寝付けない”、“健診で注意されたけど、つい飲んでしまう”などと感じていらっしゃる方は、依存症に要注意です。最近実施された全国調査によりますと、国際疾病分類第10版(ICD-10)のアルコール依存症の基準に合致する人は109万人と推計されており、決して珍しい病気ではありません。

アルコール依存症の形成には、アルコールに対して弱い・強い(アルコールに弱い体質の方は少量のアルコールで顔が赤くなります)を決めるアルコールを代謝する酵素の遺伝子型を含めた遺伝の他、養育環境、家族のアルコールへの態度などさまざまな要因が関与します。親しい人との離別、失職などの強いストレスや退職なども依存症を形成する多量飲酒のきっかけになります。また、うつ病、不安障害、不眠、摂食障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった病気の人はいわゆる自己治療としてアルコールを利用することがあり、依存症の形成につながることがあります。

②どういった症状になるのでしょうか?

アルコール依存症は、精神的にも身体的にもアルコールに依存した状態であり、飲酒のコントロール喪失(精神的依存)や離脱症状(身体的依存)のどちらか、または両方が認められる場合に依存症と診断されます。
飲酒のコントロール喪失とは、飲酒量、時間、状況などにおいて飲酒のコントロールが利かなくなる状態です。例えば、今日は飲まないつもりでもつい飲んでしまう、飲み始めると酔っぱらうまで飲んでしまう、昼間や朝から飲んでしまう、長い時間飲んでしまう、量を減らそう・止めようとしても止められない、自動車運転の前など飲んではいけないような状況で飲酒するといった症状です。ひどくなると、連続飲酒と呼ばれる依存症に特徴的な飲酒になります。これは、1日に何度も飲酒して24時間身体からアルコールが消えないような飲酒の仕方で、こうなると自力でアルコールを止めることは難しくなります。
離脱症状とは、アルコールが身体から消えていくときに現れる症状で、飲酒を止めたり、量を減らして数時間経った頃から出現します。手の振るえ、発汗(寝汗など)、食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢、苛々、気分の落ち込み、不眠などの症状がみられます。

③どのような治療があるのでしょうか?

(1)アルコール依存症の治療目標

アルコール依存症の治療は、まず治療目標を決めることから始まります。以前は、“アルコール依存症の診断イコール生涯の断酒”と考えられていました。断酒とは、アルコールが含まれている飲料を一滴も口にしないことです。なぜ生涯の断酒が必要かと言いますと、アルコール依存症になった人はどんなに長く飲酒しない生活を送ったとしても、再びアルコールを口にすると以前の病的な飲酒に戻ると考えられているからです。残念ながらすべての依存症の人がコントロールして飲めるようにする治療法は存在しません。特に、人間関係や社会の信用が失われるような破壊的な飲酒をする人、肝硬変など身体合併症が重篤な人、過去に節酒(アルコールをコントロールして飲むこと)に挑戦しても失敗して依存症の再発を繰り返している人などは、生涯の断酒が必要と言えます。しかし、依存症には至っていない段階の多量飲酒者は節酒が治療目標になりますし、依存症と診断されるケースでも、止められないにしても減らすだけでも効果があると考える、いわゆるハームリダクションの考え方が医療者の間にも徐々に受け入れられています。ただし、依存症の人が節酒を治療目標とすることには条件があります。長期間続けられること、健康への影響がないこと、家族・友人、職場の人間関係など社会的にも悪影響のないこと、といった点です。

(2)アルコール依存症の治療

依存症の治療は、アルコール離脱の治療、断酒継続のための治療、飲酒量低減を目標とした治療があります。離脱の治療は、主にベンゾジアゼピン系薬物を用いた薬物療法が中心です。断酒の継続を目的とした治療は、心理社会的治療と薬物療法の組み合わせです。心理社会的治療法は、集団精神療法や認知行動療法が主流です。また、医療機関以外では、自助グループといって、依存症の人達が集まって互いに断酒継続を助け合う集まりに参加することが効果的です。全国的な自助グループには断酒会とアルコホーリクス・アノニマス(AA)があります。これは他の依存症の人の話を聞いて共感してもらったり、他人の姿を通して自分の病気への認識を深めることや12ステッププログラムなどが目的です。その他にも依存症の人は社会や家族から離れて孤立して飲酒していることが多いので、孤独から解放されることなどのメリットがあります。

断酒を目標とした薬物療法には、昔から使われている抗酒剤という薬の他に、飲酒欲求を減らすアカンプロサートという薬も使われるようなりました。抗酒剤は、薬が効いているときに飲酒すると顔が赤くなったり、胸がドキドキしたり、気分が悪くなるなど不快な反応を起こさせる薬です。飲まないという気持ちをより強く持ってもらうのが目的です。アカンプロサートは、飲酒しても不快な反応は起こりませんが、飲みたい気持ちを減らして断酒継続の一助になります。一方、飲酒量を減らす目的の薬として、2019年からナルメフェンが使用できるようになりました。飲酒する1~2時間前に服用することで、飲酒量を減らすことができる薬です。アルコール依存症の人がこの薬の適応になりますが、アルコール依存症の治療目標は、断酒の達成とその継続が最も安全であるということは知っておいていただきたい点です。また、重症のアルコール依存症、明確な身体的・精神的合併症を有する場合、または、深刻な家族・社会的問題を有する場合には、治療目標は断酒とすべきです。ただし、このような場合でも、ご本人がどうしても断酒に応じていただけない場合には、治療から脱落しないようにするために当面の目標として、飲酒量低減を目指して、うまくいかなければ目標を断酒に切り替えるようにする場合もあります。軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは、患者さん自身が断酒を望む場合や断酒を必要とするその他の事情がない限り、飲酒量低減も目標になり得ます。飲酒量低減を目標とする場合、その飲酒量は、男性では1日平均40g以下の飲酒、女性では平均20g以下の飲酒が理想的には目安になります。ちなみに、ビール500ml缶1本や日本酒1合に含まれる純アルコール量が、約20gです。この目安は、厚生労働省による第二次健康日本21の「生活習慣病のリスクを上げる飲酒」の基準を基に作成されています。上記目安にかかわらず、飲酒量を減らすことは、飲酒に関係した健康障害や社会・家族問題の軽減につながると考えられます。

 

④家族はどのようにサポートすればよいでしょうか?

(1)アルコール依存症の家族の特徴

アルコール依存症は、家族を巻き込んで家族の在り方を変化させるという特徴があります。依存症のご家族によく認められるパターンとして、問題が初期の間は、泥酔して家に帰れなくなるなどの問題が起こっても家族も本人も、深刻な問題とは思わずに、たまたま飲みすぎただけなどと問題の過小評価をする傾向があります。しかし、依存症に特徴的な飲酒(隠れて飲んだり、朝から飲んだり、連続飲酒など)になったり、飲酒の結果が問題になる(暴力、欠勤、ケガ、失禁など)ようになると、家族はその対応に追われていきます。そして、“共依存”という依存症のご家族によく見られる行動をとるようになります。例えば、二日酔いによる欠勤なのに、嘘をついて会社に伝える、酔って壊したものを片づけるといった依存症者をサポートする行動です。また、本人に対しては、飲酒のコントロールができないことを病気ではなく、本人の意志の弱さや性格の問題として説得したり、非難したり、過去の飲酒にまつわる鬱積した怒りをぶちまけるなど感情的に依存症者を責めるといった行動です。飲酒の結果生じた問題を隠そうとすることは、依存症者が問題を自覚できないようにしてしまいます。また、感情的に依存症の人を非難することは、本人との関係も悪くなり、現実的な話し合いができなくなります。ご家族は本人のためと思って、このように行動して、一時的に奏功する場合もあるのですが、長い目で見ると依存症からの回復を妨げてしまい、さらに家族の疲労感も強くなって、家族自身の健康が損なわれてしまいます。

(2)家族への支援とは

ご家族のサポートとしては、まず、依存症が性格の問題などではなく、病気であることを正しく理解して、依存症の本人との接し方について専門家や自助グループなどで相談していただくのが良い方法です。もしかしたら、知らず知らずに後始末などをしているかもしれないので、依存症の人との関係についてお話しいただき、ご本人が問題を認めたり、飲酒行動を変える気にさせたり、治療を求めるようになるように、ご家族にも付き合い方を見直していただくのが良い方法です。専門家や自助グループへの相談は傷ついたご家族がその辛さを理解されて回復するという効果もあるのです。ご家族の相談窓口として、自助グループには全日本断酒連盟(全断連)、アラノンジャパンなどがあります。医療機関については、行政機関(精神保健福祉センター、保健所)に問い合わせれば、地域の専門医療機関に関する情報を得ることができます。

 

⑤予防法はありますか?

当然のことですが、飲酒しなければアルコール依存症になることはありません。従ってアルコール依存症は予防がとても大切です。
まず、どの程度の飲酒量が適当かということですが、厚労省が定める第1次健康日本21では、1日の飲酒量がアルコール換算で60g(ビール1500ml、日本酒3合、焼酎1.5合に相当する飲酒量)を超える飲酒を多量飲酒としました。また、第2次健康日本21では、男性では1日の飲酒量が40g(ビール1000ml、日本酒2合、焼酎1合に相当する飲酒量)、女性では20gを超える飲酒を生活習慣病のリスクを高める飲酒と定義しています。

アルコールに関連した問題がないかセルフチェックすることもできます。何種類かのテストがありますが、AUDIT(オーディット)と呼ばれるテストがよく使われます。10問のテストですが、自分で答えることができます。厚労省が提供するe-ヘルスネットなどに紹介されていますので、ネットで検索してみてください。このテストで8点以上の場合には何らかのアルコール関連問題がある可能性があります。さらに15点以上では、依存症の可能性もあるとされていますので、早期発見に役立てることができます。毎日飲酒すると耐性といって、同じアルコール量では酔わなくなってくる現象が起こります。耐性は依存症になる最初の1歩ですから、耐性ができないように、飲まない日を作ることが安全な予防法です。週に2~3日は休肝日を作ることが理想的ですが、できるところから始めましょう。自分の飲酒に問題がないか意識することから予防が始まります。
 

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