公益社団法人 日本精神神経学会

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松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く

更新日時:2015年4月7日
松永 寿人 先生
兵庫医科大学
※所属は掲載日のものです
強迫性障害とはどんな病気か、どのような治療、対処が有効か、周囲の人はどのようにサポートすれば良いか、お伺いしました。(掲載日:2015年4月7日)

強迫症(強迫性障害)にはどの様な症状があるのでしょうか?

「ドアに鍵をかけたかな?」「ガスの火を消したかな?」と、不安になって家に戻ったということは多くの人が経験していることでしょう。また、ラッキーナンバーなどの縁起にこだわることもよくあることです。しかしその不安やこだわりが度を超しているとすれば、また戸締まりや火の元を何度しつこく確認しても安心できなかったり、4や9など特定の数字にこだわるがあまり、生活に不自由が生じていたりする場合は、強迫症の可能性があります。
一般的な強迫症では、「手が危険なウイルスで汚染されている」などという考えやイメージなどの強迫観念と、強い不安を駆りたてられ、何時間も手洗いを続けたり、肌荒れするほどアルコール消毒を繰り返したりなどの強迫行為とが見られます。これらが無意味で過剰なものとわかっていても止めることができず、とても苦痛に感じており、生活あるいは仕事に著しい不自由や支障を来している状態であれば、治療が必要と考えられます。

表1に我が国の患者さんにおける強迫症状の内容を出現頻度と伴に示します。


この様に強迫症状の内容は多彩ですが、強迫観念では、汚染の心配や、「運転中に誤って人を傷つけていないか」といった攻撃性に関するもの、「きちんと左右対称にしないと不吉なことが起こるのでは」など、しばしば不吉感や気持ち悪さを伴った対称性へのこだわり、物事の正確性の追求、数字へのこだわり(例;4や9を避ける)などを多く認めます。一方強迫行為には、長時間の手洗いや入浴、掃除などの洗浄、人に害を加えていないか、間違いがないかなどの確認、繰り返しの儀式、物を対称に並べる、何度も数える、心の中で呪文唱える、などがあります。患者さんの多くは、これらを複数有し経過中に症状の内容が変わることも少なくありません。この様な強迫症状の内容、あるいは各々の出現頻度は、社会文化的背景や民族の相違などに影響されず、世界的にも概ね共通と考えられています。

どの様な治療、対処が有効でしょうか?

強迫症の主要な治療は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を主とした薬物、および認知行動療法(CBT)です。さらに病気自体や治療、対処法などについて、患者さんや家族に十分な理解を促す心理教育は、治療的動機づけを高め、周囲からの一貫した支持を得て安定的治療環境を築く上で重要です。患者さん個々の治療は、症状の特性や精神病理、併存症、治療的動機づけの程度、身体状態などを考慮し選択する必要があります。多くの場合、薬物を先行させ、抑うつや不安を軽減し治療的動機づけを強化後、CBTに導入するといった併用療法を行います。薬物療法の第一選択は、SSRI(フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、パロキセチン(パキシル)) 、あるいはクロミプラミン(アナフラニール;適用外)など、強力なセロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬です。これらの有効性は概ね同等で、いずれも副作用や効果を見ながら漸量し、2-3カ月かけ反応性を評価します。SSRIは、三環系など他の抗うつ薬と比べ、より安全性に優れていますが、吐き気や不安増強などを一過性に認めることがあります。

これらの効果が不十分な場合、診断は正しいかなどその要因を検討し、治療法の再考が必要です。薬物療法では、他のSSRIへの変更、SSRIと少量の(非定型)抗精神病薬との併用などを試みます。抗精神病薬はOCDの適用を有しませんが、SSRIが奏功しない場合、これを追加投与する方法が、現時点では最も有効性が期待できます。

一方、強迫症に対するCBTでは、不安を引き起こす対象や状況 (先行刺激)を、不安のレベルが強いものから弱いものへの順に並べた一覧、すなわち不安階層表を作成し、これに従って曝露反応妨害法を段階的に行うことが一般的です。これは曝露法と反応妨害法から成り、前者は強迫症状の引き金となる先行刺激に、不安や不快が下がるまで長時間直面し、徐々に馴らしながら不安の低下を図るものです。また後者では、不安や不快を軽減する為に行ってきた強迫行為を、衝動が下がるまで止めるよう我慢します。すなわちこれは、「逃げない、繰り返さない」を継続的に練習し身につける治療です。

回復のために心がけた方が良いことはありますか?

強迫症は、患者さんにとって、常に観念や不安にとらわれ、行為も止めたいけど止められず、非常に苦痛で障害的な病気です。この様な状態を自覚すれば、できるだけ早く治療を受けることが重要です。それは、病気が長引くほど不安に感じる対象が拡大し、観念も、その緩和に必要な行為も増していくからです。さらに怖いと感じる対象を避けるようになり、ますます生活上の支障が高まって疲弊していきます。そして多くの場合、生活全般に安全確保のためのルールを張り巡らせ、それに縛られた不自由な生活に陥ってしまいます。

この様な状態ですと、既に不安は圧倒的で冷静な判断も難しく、CBTに挑戦しようとしても、不安が高まるばかりでなかなか上手くいきません。ですので、症状の我慢やコントロールができないことを、自身の性格や意志の弱さなどと考えるべきではありません。まずはSSRIなどの薬物で、不安の制御や心身の疲労の回復を図ることが必要です。

治療を始めれば、自分のために自分で治そうと思うことが大切です。薬物も自己中断せず、決められた通りに服薬を継続するよう心がけて下さい。また強迫症には、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら経過する特性があります。このため、治療が長期にわたる場合もありますが、一喜一憂せず、しっかりCBTプログラムなどに従った練習を続けることが必要です。「逃げない、繰り返さない」という正しい行動がしっかりと身につけば、病気は良くなっていきます。

一方、この病気は引きこもりや生活リズムが乱れると悪くなります。できるだけ規則正しい生活や睡眠、外出を心がけ、学校や仕事など社会的関わりは、可能なら継続することをお勧めします。病気と自由に付き合える時間や空間、そしてエネルギーを持ってしまうほど、病気に全てを注ぎ込んでさらに悪化しやすいこと、不眠はコントロールや判断力を低下させることなどに注意して下さい。また後に述べますが、症状に家族を巻き込むことは、お互いにとって苦痛や負担を増すだけですから、できるだけしないよう心がけましょう。

周囲の人はどのようにサポートすれば良いのでしょうか?

強迫症では、本人のみならず、家族など周囲の人にも著しい影響が及びます。特に深刻なのは、巻き込み症状です。これは、例えば手洗いや確認などがちゃんとやれたかが心配で、大丈夫という保証を家族に繰り返し求める「保証の要求」や、ある儀式的行為(寝る前の鍵の確認など)を、大抵は本人の監視下で家族に強いる「強迫行為の代行」、そして自らが作ったルール(帰宅した際の手洗いや入浴など一連の洗浄行為など)を家族にも従うよう強制する「ルールの強要」などがあります。通常、巻き込み症状は、経過と伴に生活全般に拡大し、ルールはより厳密化していきます。これも強迫行為と同様で、より完璧を求めて切りがなくなり、家族はいずれ応えきれなくなります。例えば、患者さんから「大丈夫か」と繰り返し尋ねられる「保証の要求」は、返答を繰り返す中で却って要求がエスカレートし(もっと真剣に言えなど)、納得して終えることが難しくなります。すると患者さんの不安やイライラは高まりますし、一方家族には、長時間拘束されて疲労困憊するなど、心身に大きな負担がかかります。この場合、まず本人は、他者を巻き込みコントロールしようとすることが、結局は自分の思うようにならず、不安焦燥を招く不安定要因となりうるものと知る必要があります。一方家族は、しばしば過度の責任感や罪悪感を抱いており、要求に応えることが患者さんの為と考える傾向にありますが、結果的には要求に応えられず、不安や怒りを増幅させるだけとなります。この様な巻き込み症状の不合理性、非現実性を双方が理解し、ルールを決めて(例えば保証の要求は一回のみとする)、その実行を心掛けることは、病状の悪化を防ぎ治療環境を安定させる上でも重要です。

他にも、家族がこの病気の理解に努めること、患者さんが治療を受けるよう根気強く支えること、患者さん自身が最も辛く苦しんでいることを忘れず、病気について責めないこと、ご自身の健康にも気をつけつつ、主治医にも相談しつつ無理なく一貫した応援を心がけることなどが大切です。

 

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