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精神科医のキャリアパス

更新日時:2024年7月16日

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村上 忠先生
医療法人赤城会 三枚橋病院

「精神科は、医師としての成長も、患者さんとの関わりも、他科と比べてタイムスパンが長い領域なのかもしれませんが、自身の人生経験の積み重ねが臨床につながり、臨床を通じて患者さんの人生に触れ、その経験に学び、これらがまた自分の人生や別の患者さんの治療に還元されて行く… 生きている限り治療者として成長をする余地がある。これも精神科ならではの醍醐味ではないかと感じています。」

(掲載日:2024年7月16日)※所属は掲載日のものです

村上先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 私の出自を少なからずご存知の先生方には驚かれるかもしれませんが、明確に精神科医を志したのはかなり遅く、医師国家試験を数ヶ月後に控えた頃でした。沖縄県立中部病院の卒後臨床研修プログラムの選考試験を受けた帰路の新幹線車中での決断だったと記憶しています。精神科医である父は、定年までのほとんどを公務員として勤め上げたため継がせるべき「物」はなく、私の医学部志望に関してはむしろ抑制的でした。そんな父の助言を押し切る形で医学部に進学した私は、外科系の診療科を念頭に置いてスーパーローテート型の研修施設を探していました。その土壇場になってようやく、自分がいずれ精神科医を志すであろうことに気づき、悟ったような感覚でした。そこに至った理由がなんだったのかというと、結局のところ人というもの、とりわけ心というものに興味があったからということになるでしょう。そしてそのバックグラウンドには、私に物心がついて以来、しばしば我が家でお酒を酌み交わしておられた多くの精神科医の先生方から知らず知らずのうちに受けていた薫陶があったのだと思います。

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 1週間のうち4日は単科精神病院(専門研修プログラム基幹病院)の理事⻑・院⻑として勤務し、1日は群馬県立がんセンターで緩和ケア診療に 携わっています。理事⻑を拝命してからは県の精神医療審査委員(退院請求の審査や県内の病院の実地指導等) や精神科病院協会の県支部監事などの職務にも従事しています。週末にはIT企業で医療DX関連の仕事にも関わら せていただいています。教育、管理、経営、指導、助言と担当範囲が広がってきたことに合わせ、臨床の縮小を余儀なくされていることには少しばかり複雑な心境を抱いていたりもします。
 この働き方は目指して確立したものではありません。ここに辿り着くまでの私のキャリアは偶然の産物です。精神科医を志したのが遅かったせいで応募が間に合わなかったはずの東京都立松沢病院で初期研修を受けさせていただけたのも、その後、東京大学の精神医学教室に入局させていただけたのも、たまたま参加した学会で琉球大学への割愛人事が決まったのも、赴任した沖縄でサミットが開催され、それを機にサイコオンコロジーと巡り会ったのも、医局から派遣されたパート先の病院を継承させていただくことになったのも、本当に偶然としか言いようのない出来事の連続でした。と同時に、これらの偶然の裏には間違いなく人とのつながりにより頂いたご縁がありました。そしてこれらの偶然に、ただ流されてきたわけでもないつもりです。都度、自ら選択をし、与えられた環境の中で自分にできることを考え、実践してきた結果が今の働き方につながっています。
 精神科医として30年を迎えつつありますが、全開放医療を掲げ日本の精神医療に一石を投じた三枚橋病院で、当事者を地域で支える時代に何ができるのかに考えを巡らせながら、今しばらくは身を投じて行きたいと考えています。

精神科を選んで良かったことは何だと思いますか?

 精神科を選んだもう一つの理由に、人の心のメカニズムが自分の生きている間に解明されることはないだろうという漠然とした確信がありました。誤解を恐れずに言えば、生涯、飽きることなく興味を持ち続けられるだろうと期待をしていましたし、実際にこれまで飽きることなく興味を持って精神科医療に取り組めています。
 精神科は、医師としての成長も、患者さんとの関わりも、他科と比べてタイムスパンが長い領域なのかもしれませんが、自身の人生経験の積み重ねが臨床につながり、臨床を通じて患者さんの人生に触れ、その経験に学び、これらがまた自分の人生や別の患者さんの治療に還元されて行く… 生きている限り治療者として成長をする余地がある。これも精神科ならではの醍醐味ではないかと感じています。

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 心と体の間に密接な関係があることは言うまでもありません。精神科医を志望するしないに関わらず、医学生、研修医の方々には広く精神科的な知性、感性を涵養していただくことを望みます。それは身体疾患の治療においても必ず役立つはずですし、精神疾患に対するスティグマ解消にもつながるはずです。そして精神科を専攻されるのであれば、(精神科医歴の)若いうちにいろいろな職場で経験の幅を広げることも重要ですが、つながりを保ちながら、いずれかは少し腰を据えて仕事をなさることをお奨めします。患者さんとの治療関係にせよ、上司や同僚・後輩との人間関係にせよ、人と人とのつながりにおいては、ある程度の時間を共有することで初めて見えてくるもの、芽生えてくるもの、そしてその結果得られるものがあります。
 先生方のキャリアのどこかでお会いする機会、つながりが得られることを楽しみにしています。


 

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