公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

精神科の専門研修を考えている皆様へ

更新日時:2022年3月22日

 このコラムに目を通していただき、ありがとうございます。精神科の専門研修に少しでも興味を持っていただいている皆様に一言メッセージをお届けしたいと思います。

 精神科に対して皆様はどのような印象をお持ちでしょうか。さまざまなストレスにさらされる現代社会において、精神疾患は今や5大疾病の一つに数えられ、WHO(世界保健機関)もその予防や早期診断・治療は今後ますます重要になると予測しています。精神疾患には、発達障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安症、強迫症、ストレス関連疾患(適応障害やPTSDなど)、物質依存・行動嗜癖、睡眠障害、てんかん、認知症などがありますし、精神科医が関与する領域は、救急、コンサルテーション・リエゾン、緩和ケア、周産期、職場や学校のメンタルヘルス、不登校、いじめ、ひきこもり、児童虐待、精神鑑定、地域の精神保健福祉行政などきわめて多岐にわたります。さらに、精神医学や精神医療が密接に関連する隣接領域は、心理学、病理学、薬理学、生理学、分子生物学、脳画像学などから、社会学、経済学、教育学、法学、文学・音楽・美術に至るまで非常に幅広く存在します。このことは、精神疾患の成り立ちや治療を考える上で、さまざまな切り口からの無限のアプローチの可能性が広がっていることを意味しています。

 精神科の診療場面では、十分な時間をかけて、患者さん(およびご家族や周りの方々)から生育歴、生活歴、既往歴、現病歴などを入念に聴き取ります。患者さんがこれまで体験してきた辛い症状や思いに共感しながら一つ一つ確認していく共同作業を重ねることが医師・患者関係を深め、ひいては精神療法的にも作用します。その意味では、現代の専門分化した医学では忘れられがちな、まさに「医」の原点を実践しているとも言えます。患者さんの体験や思いを真に共有するためには、診察者もさまざまな人生体験を経て成長・成熟していくことが求められます。精神科医は多くの臨床経験を蓄積して、診療技術を向上させるとともに、さまざまな人生経験を積むことによって、精神疾患の捉え方やそのアプローチの仕方がより多面的、より深化したものとなります。年齢を重ねるごとに熟練の域に近づいていくというパターンは、他の医学領域ではあまり経験されないかもしれません。これが、まさに精神科医の醍醐味でもあると考えます。

 日本精神神経学会は、19,000余名の会員と約12,000名の専門医を擁し、精神科専門医の育成や生涯教育に大いに尽力しています。学会内には60を超える専門委員会があり、会員が日本の精神医学・精神医療・精神保健を今よりも少しでも向上させようと、日夜、努力しています。皆さんも是非、私たちの仲間になって、精神科を取り巻く広範な領域のさらなる発展に貢献して、一人でも多くの人が希望を持って、自分らしく、生き生きとした生活を送れるように尽力してみませんか。熱意をもった皆さんを心からお待ちしています。

日本精神神経学会理事長
久住一郎

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