医学生・研修医の方へfor Residents and Medical Students

精神科の専門研修を考えている先生へ

 日本精神神経学会は115年の歴史と伝統をもち、現在の会員数は約17000名(うち専門医11000名)にのぼり、50を越える委員会がそれぞれ活発に活動しています。その目標は、一人でも多くの方に優れた精神科医になって頂くこと、精神医学・医療をさらに発展させること、患者さん・ご家族の権利を擁護することなどであり、すべての活動のゴールは、患者さん・ご家族から深く信頼して頂ける精神医療をこの国に築くことなのです。

 ちなみに、精神疾患は5大疾病の一つに位置づけられており、WHO (世界保健機関)は、世界的に精神疾患は今後ますます重要になるだろうと予測しています。主な精神疾患の例を挙げると、発達障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、パニック症などの不安症、強迫症、適応障害やPTSDなどのストレス関連疾患、物質依存・嗜癖行動、睡眠障害、てんかん、認知症、コンサルテーション、精神科救急などがあり、専門医研修では、これらの基本的な診断と治療の力を身につけて頂きます。加えて精神科医は、周産期メンタルヘルス、児童虐待、不登校、いじめ、ひきこもり、職場や学校のメンタルヘルス、緩和ケア、精神鑑定などにも関わります。

 したがって精神科医が活躍する場も多岐にわたります。病院やクリニックに加えて、産業精神衛生の現場、県や市の精神保健福祉センター、大学の学生相談センター、心理・教育系の学部、司法関係の職場などがあります。このように選択肢が多いので、妊娠・出産、子育てや介護などのために仕事を休むことがあっても、現場復帰がしやすい診療科であるといえます。

 同じく学問の幅も広く、精神医学の射程は、精神療法、心理学、精神病理学、精神薬理学、神経生理学、脳画像研究などに加えて、神経心理学、社会学、脳科学、分子生物学などにもおよび、「こころと脳」の謎に迫っています。

 「先生にとって精神医学の魅力は何ですか」と聞かれれば、ぼくは「こころと脳」という謎に満ちた世界を対象としていることだ、と答えます。実際の臨床に即して言えば、目の前の患者さんのこころを、且つまた脳・神経の働きを知ろうと試みることです。傷ついたこころを知り癒すためには、精神科医自身のこころを動かす必要があります。相手の脳・神経の働きを知ろうとするためには、脳科学や神経学の最新知識が必要です。つまり精神科医は、自らの「こころと知識」を総動員して、相手の抱える「こころと脳」の問題を知ろうとするのです。このときに私たちは、患者さんに寄り添いながら、相手の希望や価値観を中心に置いて、患者さんの生活の質を最大化することを目指して診療にあたります。

 一言付け加えると、自らのこころを治療手段とする精神科医にとって、無駄な人生経験というものはないのです。誰一人避けることのできない苦しい体験、例えば失敗、挫折、喪失など、それがどのような経験であれ、すべての経験が、患者さんの抱える苦悩や窮境のより深い理解とより適切な診療へと生きるのです。プロフェッショナルとしての経験に加え、人生の経験を積み重ねることで、さらにひと味違う診療ができるようになる、そのような職業です。精神科医は何とも人間的な職業ではないでしょうか。

 最後になりましたが、一人でも多くの方が、この素晴らしい職業に就き、私たちの仲間の一人となってくださることを切に願っています。

 

日本精神神経学会理事長
神庭重信(かんば しげのぶ)

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