このページの場を借りて、初期研修医の皆さんに、精神科という選択肢の魅力をお伝えしたく思います。
心の健康は現代社会の大きな課題である、ということは長く言われていることですが、21世紀の最初の4分の1が過ぎたところで、精神科医に求められる役割がますます拡大する気配があります。たとえば生成AIの普及によって、人類がこれまでに経験したことのないような、まったく新しい種類の心の健康の問題が浮上してきています。これから精神科医として歩み始める人にとって、何十年にもわたるその長い職業人生は、「驚き、考え、行動し、そして何らかを達成する」という刺激に満ちたものとなるでしょう。
精神科が対象とする疾患は、統合失調症、自閉スペクトラム症、うつ病、認知症など、多岐にわたります。そして、その活動の場も、救急医療、総合病院でのコンサルテーション・リエゾン診療、学校や職場でのメンタルヘルス、司法や行政など、実に多彩です。精神科には興味があるけれど自分自身が精神科医に向いているかどうか心配だ、という方もいらっしゃるかもしれません。大丈夫です!精神科は(意外に思われる方がいるかもしれませんが)、様々な診療科の中でもキャリアパスとしての出口が特に広い診療科です。それぞれの皆さんに合った活躍の場が必ず見つかります。
皆さんのお一人お一人が、これまでの人生の中で、様々な人生経験を重ねてこられたことと思います。その中には、挫折や喪失など辛い体験もあったかもしれません。精神科医は、日々の診療の中で、患者さんやご家族の思いに耳を傾け、一緒に悩み、考え、そして解決の糸口を探していくことになります。そのような時に、皆さんの人生経験が必ず生かされます。精神科医は高度な知識や技能を必要とする専門職ですが、その一方で、私たち誰もが人生の中で抱く根本的な問いや悩みと非常に近いところにある、そういう職業でもあります。
最後に、これは私自身の個人の印象に過ぎませんが、精神科医という集団は、どこか「アットホーム」なところがあります。これから精神科医になろうという人たちを、医局や医療機関の枠を超えて、皆で大切に育てていこう、という思いに満ちています。日本精神神経学会の会員一同、皆さんとご一緒に仕事ができる日を楽しみにしています。
日本精神神経学会理事長
村井 俊哉