公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

精神科医のキャリアパス

更新日時:2020年2月18日

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久保 彩子 先生
国立病院機構琉球病院

「医療観察法病棟で勤務しながら3人の子の妊娠出産を経験。妊娠や出産、育児で休みその後復帰することを考えると、女性医師にとっても専門性を高めることは重要だと実感しますし、医療観察法医療はそのような女性医師も研鑽を積むことのできる場になると思います。」

(掲載日:2020年2月18日)※所属は掲載日のものです

久保先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 幼少期より、女性が仕事を得てやりがいを持って働き続けることの意味と難しさを母親から聞いて育ちました。母親がキャリア志向だったのに対し、当時は女性が家庭を持ちながら働き続けることが今ほど受け入れられていなかった時代だったのでしょう。振り返れば、それが医師という職業選択をしたことに影響したのだと思います。

 医学部に入学してすぐに父親が急病で倒れ、昏睡状態のまま長らく看病するという状況になり、医療者ではなく医療を受ける側となって日々を過ごしました。家族としていわゆるムンテラを受け主治医に対面し、その言葉の重みを知らされました。その頃から「人に配慮できる医者になりたい」と感じるようになり、臨床実習を経て様々な先輩医師と出会う中で精神科医を志すことを決めました。

 

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 国立病院機構琉球病院で、常勤医師として週5日勤務しております(沖縄らしい青い海を見下ろすことができる眺めのいい病院です)。

 当院は全国で10番目に医療観察法病棟を立ち上げており、開棟当初からその病棟で勤務し現在は病棟医長として業務に携わっています。3人の子の妊娠出産はここで勤務しながら経験し、お腹の大きい中で対象者の治療に携わることを心配してくださる声もありましたが、むしろ多職種のスタッフが緊密に連携しリスクマネジメントを実践している病棟なので、安心して出産直前まで業務に携わることができました。国立病院機構の育児支援の制度は充実しており、子供の成長に合わせて育児時短制度などを活用させて頂いたことは大きな援けとなりましたが、前の院長であった村上優先生が、女性医師にとって働き続けるために専門性を持つことが重要であると背中を押してくださったことや、それに対し理解を示し温かく業務を引き受けてくださった医局の先生方に恵まれたことが何より大きな援けでした。

 

精神科を選んで良かったと思うことは何だと思いますか?

 私が精神科を選んだ理由の一つが「言葉の力」を感じたことにありますが、そのように人を動かす言葉を持った諸先輩方に出会えたことが良かったと思います。

 育ててくださった琉球大学の近藤毅教授、前院長の村上優先生はじめ、多くの諸先輩方に学ぶことができました。国立病院機構や携わる医療観察法医療では、全国各地でご活躍される先生方に出会える機会が多くあるのが魅力の一つです。また、多職種チーム医療のスタッフや、出会った社会復帰調整官、司法関係者、そして一緒に社会復帰を目指す対象者らからも、多くの「言葉」を頂いて今があると感じます。

 その「言葉」を積み重ね、「言葉」によって人としての存在に配慮できる医師になれればと日々診療に励んでおりますが、まだまだ道半ばです。若い時だけではなく、年齢を経てもなお高みを目指せる、そのような良さが精神科臨床にはあると思います。

 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 医療観察法医療には、治療共同体として医療を実践できる仕組みが多くあります。心身の状態を維持することだけでなく社会参加や活動の維持にも重点を置いた社会復帰について、対象者と関係者同士が良いことも悪いことも同じテーブルで話し合う、SDM(Shared Decision Making)が実践できる貴重な場であり、精神科臨床全般にかかわる力を身に着けることができると思います。私自身、医師の力だけでは何も変えられないと実感することが多く、多職種チームや他機関のスタッフと協働し同じ目標を目指して対象者の日々の変化を喜び合いながら、チーム医療の中での医師の役割やアイデンティティを探る良い機会にもなっています。

 女性医師がご自身のライフプランの中で妊娠や出産、育児を想定する場合に、仕事との両立を不安に思う方は少なくないかもしれません。専門性を高めることは男女問わず重要ですが、そのような女性医師が長く働き続けるためにはより重要だと感じます。また昨今ではそのことに理解を示し機会を与えてくれる職場も少なくなく、医療観察法医療はそのような女性医師でも専門性を諦めず研鑽を積める場になると思います。

 医学教育ではなかなか取り上げられない医療観察法医療ですが、多職種のスタッフとワイワイやっておりますので、興味がある方はぜひ見学実習にいらしてください!
 

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