公益社団法人 日本精神神経学会

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精神科医のキャリアパス

更新日時:2019年11月8日

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蒲生 裕司 先生
医療法人社団天紀会 こころのホスピタル町田 / 北里大学医学部精神科学

「精神科は客観的な指標に乏しい中で診断、治療を行わなければなりません。医学的な知識、技術だけでなく、医学以外のさまざまな知識を活用することで、より良い診療をすることができる点が、精神医学の魅力であり、精神科を選んで良かったなと思う点であります。」

(掲載日:2019年11月8日)※所属は掲載日のものです

蒲生先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 元々は医師になるつもりは全くなく、ロボットの研究をしたいと思っており、当時ロボット工学では最先端だった大学の系属校である高校に入学しました。ところが、在学中にサイケデリック音楽やらパンク音楽に傾倒してしまい、「大学の推薦?その成績で?」的な展開となり、ロボットとは全く縁のない人生を再スタートすることとなりました。そこで、改めて自分は何を学びたいのかを考えた時に思いついたのが臨床心理学でした。ということで、心理学科に入学したのです。一見、順調にカウンセラーへの道を歩んでいるかのように思えた私でしたが、大学3年の時に行動分析学に出会い、どんどんのめり込んでしまいました。結局、卒論、修論ともデンショバトを被験体とした実験を行いました。そんなある日、デンショバトの糞を片付けていると、「本当に自分はこんなことがしたかったのか?臨床への関心はどうしたのだ?」という声が聴こえたような気がして、思い切って医学部に編入したのです。私が入学した大学の精神科の教室に心理学科の後輩が勤務しており、そこの教室で行っている動物実験の手伝いをすることになり、他の選択肢を考えることなく、精神科医になりました。

 

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 研修医としてトレーニング先に選んだのは大学ではなく、国立精神・神経センター武蔵病院(当時)でした。研修医時代は病院内の敷地に住んでおり、2年間、朝から晩まで精神医学のことばかり考えておりましたが、この生活を続けては大変なことになると思い、研修が終わってからすぐに民間の精神科病院で勤務を始めました。その後、職を転々とし、紆余曲折の末、北里大学大学院医療系研究科の大学院生として、北里大学東洋医学総合研究所で漢方の勉強と研究をすることになりました。大学院修了後は、博士論文の副査をお願いした宮岡等教授が主任教授をされている精神神経科のお世話になることに決めました。そして、北里大学で教員をしたり、厚生労働省で依存症対策専門官をした後、北里大学東病院にギャンブル障害の専門外来を開設いたしました。現在は、北里大学医学部の診療講師として、こころのホスピタル町田という精神科病院に出向となり、通常の精神科業務を行う傍ら、ギャンブル障害に限定せず、行動嗜癖全般の診療を行っております。

 なぜ、今の働き方を選んだのかというと、運命に翻弄されたから(あるいは自業自得)とお答えする以外ないのですが、行動嗜癖に関しては、治療に行動分析学の考え方を用いることができるので、やっと自分の特色が活かせる仕事に出会えたなと、運命に感謝しております。

精神科を選んで良かったと思うことは何だと思いますか?

 アメリカの臨床医学を体系化した、内科医かつ医学教育者のウィリアム・オスラー先生は、「医学はサイエンスであり、かつアートである」と講演で述べられました。精神科は客観的な指標に乏しい中で診断、治療を行わなければなりません。そのような制約の下で診療を行うことは、医学の中でも特にサイエンスであり、かつアートである分野だと思います。特にアートという側面では、医学的な知識、技術だけでなく、医学以外のさまざまな知識を活用することで、より良い診療をすることができる点が、精神医学の魅力であり、精神科を選んで良かったなと思う点であります。私の場合では、嗜癖の診療に行動分析学や行動経済学の知識がとても役に立っておりますし、憑依の治療では宗教学や怪談などで得られた知識も役に立っております。格好つけた言い方ですが、その人の生き方が、その人の精神科の診療に反映されるということではないでしょうか。

 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 精神科は医療としても医学としても、とても面白い分野だと思います。ただ、面白がるためには、精神科以外の科の知識や技術も必要だと思っております。身体疾患で精神症状を呈するものはたくさんあります。逆に精神症状をきっかけとして身体疾患が明らかになる場合もあります。より幅広く精神科を楽しむためには、「精神科だから身体の知識は要らない」という、かつての私のようなことはおっしゃらず、しっかりと勉強なさってください。ついでと言っては何ですが、依存症、嗜癖の診療はとても奥が深いですし、精神科医としての幅が広がります。なので、精神科を目指すなら、是非とも依存、嗜癖の診療にもチャレンジしてください。よろしくお願いいたします。

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