公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

精神科医のキャリアパス

更新日時:2018年10月12日
加藤 温 先生
国立国際医療研究センター病院精神科
診療科長

※所属は掲載日のものです
 
 
「精神科医にとっては、どのようなことも無駄にはなりません。世の中の動きを感じ、人との関わりを持つことは、精神科診療においても大事な基盤になりえます。」(掲載日:2018年10月12日)

加藤先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 もともと身体に対する心の問題には興味があり、以前から池見酉次郎などの心身医学に関する書籍を読んでいました。精神科へグッと近づいたのは、西丸四方の「精神科の臨床から」(みすず書房)を、書店でたまたま手に取ったことにあります。大学4年生の夏、同書を部活動の合宿に持っていきました。診断学や精神療法、身体医学との絡みや精神医療の問題点など多岐にわたる論文、随筆集であり、すきまの時間で一気に読み上げました。合宿から帰り、古本屋で同氏の「精神医学入門」(南山堂)をみつけました。豊富な写真と教科書とは思えない生き生きとした語りが、精神科を学びたい気持ちをより強くしたのは間違いありません。

 また、臨床実習に出て実際の患者を診ていくなかで、消化性潰瘍、気管支喘息、過敏性腸症候群などでは、内科的なアプローチだけでは十分に病状コントロールできないことを多く経験しました。そうしたなかで、心理的、社会的な観点の重要性を感じ、精神科へ進みたい思いが強くなりました。

 当時はストレート研修であり、卒業時点で科を決める必要がありました。精神科を学びたいことに迷いはなかったのですが、一般的な身体問題への対応や器質的な問題を評価できる力を先につけておきたいと思い、臨床研修病院である当院の内科研修医として勤務した後、精神科へ進みました。

 

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 当院はいわゆる総合病院精神科です。通常の精神科外来・入院診療のほか、他科からのコンサルテーション・リエゾン業務に携わっています。また、精神科リエゾンチームの一員として、多職種メンバーと定期的にカンファや病棟ラウンドを行っています。

 これまで総合病院のほか、精神科病院、矯正施設での勤務経験がありますが、身体状態と精神症状の関わりに興味があること、他科から相談を受け、若手医師や多職種スタッフと関わることが好きなこともあり、総合病院での勤務を続けています。その他、院内産業医としての活動もしています。

 院外では、精神科関連学会の委員会活動として、診療報酬問題に携わっています。当初はなじみのない分野でしたが、診療報酬という観点から医療現場をみる機会を得、勉強になっています。将来、視野をひろげる意味でも、学会の委員会活動に積極的に関わることをおすすめします。

 

精神科を選んで良かったことは何だと思いますか?

 精神科は「難しいけれど面白い」ということに尽きると思います。たとえばうつ病診断ひとつとっても、やればやるほど難しさを感じます。逆にそこを考える面白さがあります。時代を経ても古い教科書が十分に使え、むしろ今を考えるヒントになっているところも精神科ならではと思います。

 精神科は、医学であるとともに、歴史、哲学、法学など他分野とも近い位置にあり、学びの幅が広いです。病院以外でも、精神保健行政、矯正施設、精神科産業医としての活動など、様々な分野で働くことができるのも精神科のよさだと思います。

 また、精神科が好きなことが前提になりますが、日常生活そのものが診療の下支えとなります。あらゆる分野の読書、ニュースからスポーツ観戦に至るまで、日々の生活すべてが診療につながり、自身のリラクセーションにつながるともいえます。あえてオンオフを切り替えようとしなくても、自然と心身のバランスをとれるよさが精神科にはあります。

 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 精神科医にとっては、どのようなことも無駄にはなりません。医学以外のことでも、興味のあることは何でもやってみるのがよいと思います。世の中の動きを感じ、人との関わりを持つことは、精神科診療においても大事な基盤になりえます。

 医学的な面では、まずは身体面、とくに内科的な基礎を初期研修医の間にしっかりと学ぶべきです。近年は高齢者も増え、精神面に影響する身体的な基盤に目を向けなければならないケースが増えてきました。急性精神病状態の患者では、身体疾患が隠れていることも珍しくありません。内科との二刀流をというのではなく「何か変だ、内科医に相談する必要があるのでは?」と気づける能力は身につけておきたいです。

 また、精神科のどの分野に進むにしても、ある時期には多くの統合失調症をみるべきだと思います。うつ状態、幻覚妄想状態などあらゆる状態像を評価する際には、器質因の関与、精神科の代表的疾患である統合失調症の可能性はつねに頭に入れておく必要があります。

 精神科の基礎を学んだあとは、是非総合病院精神科で勤務してもらいたいです。総合病院のリエゾン業務は、診療報酬の支えも整ってきました。精神科リエゾンチーム、緩和ケアチーム、認知症ケアチームなど院内における関わりはもちろんのこと、最近ではリエゾンの観点を地域へ展開する方向性も模索されつつあります。総合病院精神科で一緒に働けることを楽しみにしています。
 

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