公益社団法人 日本精神神経学会

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精神科医のキャリアパス

更新日時:2018年3月9日

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鎌田 直樹 先生
富士電機株式会社 健康管理センター 産業医

「仕事を持つ方々の休職や復職の支援に十分な時間が取れないという現状や、職域におけるメンタルヘルス支援体制が十分とは言えない状況の中で、有効な仕組みづくりに関われる働き方をしてみたいと考え、今の働き方を選びました」

(掲載日:2018年3月9日)※所属は掲載日のものです

鎌田先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 大学入学時点では漠然と内科医になりたいと思っておりました。しかし、臨床実習、臨床研修と精神科での外来、病棟での診療に関わらせていただく中で、問診から診断を導き(もちろん身体疾患をきちんと除外した上での話ですが)、その結果、薬物療法、環境調整、時にはご家族への介入を実施して、疾患だけを見るのではなく、包括的に治療を行っていくことに診療科としての魅力を感じました。また、私が大学卒業当時、わが国における自殺者数は毎年3万人を上回り、また、WHOからも「うつ病は疾病負荷の第一位の疾患になると推測されている」というレポートが出された時期でもありました。そういったことから、精神科学の分野で、特に、産業保健の分野で働き盛りの方々を対象として、もっと精神科医が役立てる働き方があるのであれば、そういった働き方をしてみたいと思ったことが精神科医を志したきっかけとなります。
 

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 現在はインフラ関係の電機メーカーでの産業医として勤務をしております。これまでには、初期臨床研修終了後、大学病院、総合病院の病棟、外来で診療をし、大学院生活を経て、院卒後は指導医として大学病院で働く傍ら、嘱託産業医として週に1回勤務をしていました。その経験の中で、企業の中で関わるケースで、精神疾患を持つ従業員の方がうまく治療につながらなかった症例や、もう少し丁寧な介入を実施出来れば長期の休職に至らなかったのではないかという症例を複数経験しました。一方で、大学病院の診療ではどうしても、多くの患者さんに対応しなくてはならないことも多く、仕事を持つ方々の休職や復職の支援に十分な時間が取れないという現状や、職域におけるメンタルヘルス支援体制が十分とは言えない状況の中で、もう少し有効な仕組みづくりに関われる働き方をしてみたいと考えるようになりました。また、主として精神科医をしていると、産業医としての本来の職務を十分知ることができませんでしたので、産業医の職務もきちんと学んだ上で、精神科医としての臨床経験を生かした働き方をしたいと考え、その中で、常勤の産業医としての働き方を希望しました。


 

精神科を選んで良かったことは何だと思いますか?

 診療科として精神科を選ぶことで、様々な働き方ができるということが、他の診療科とは異なる良い面の一つではないかと思います。病院での勤務はもちろん、文系学部心理系の教育職、公的機関(精神保健センター、医系技官、児童相談所、刑務所など)、産業保健、研究職など様々な分野での活躍のフィールドがあります。私が携わらせていただいている、産業保健の領域では、休職者数の大部分が精神障害を持つ従業員の方々です。もし、将来、この領域でのお仕事を視野に考えておられるのであれば、精神科の知識は不可欠と言っても過言ではないと思います。また、これらの専門的な働き方の多くは、ワークライフバランスの視点からも時間を柔軟に活用することが出来、平日は仕事を早く切り上げ、週末の空いた時間に、平日出来なかった仕事をやるというような工夫もし易く、働き方の選択肢が多い分、女性の方であれば、産後の一定期間を非常勤契約で柔軟に働き、仕事の第一線から離れず、家庭と両立もしやすいのではないかと考えます。
 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 私自身の経験を通じて、精神科の専攻医として研修をする施設選びは大変重要と感じます。例えば、単科の精神科病院だけで研修が完結すると、おそらく、精神病圏の経験症例が相対的に増えるかもしれません。特定の領域に重きを置いた教育をしている大学病院で研修を受けると、その専門分野に傾倒し、バランス良く学ぶ機会が少なくなってしまうかもしれません。そういう意味で、外来から入院、軽症から重症まで幅広い症例を学ぶことが出来る研修施設を選ぶことは大変重要と思います。もう一つは、身体疾患と異なり、精神疾患は明確な検査方法や指標にかける部分があるため、自分の経験した症例の診断、治療については常に客観的に捉える様にしないと、誤った判断、診療に繋がりかねない可能性が常にあると思います。そういった意味で、診断、治療についてきちんと議論できる環境で研修できる環境を探すことは重要と思いますし、日常診療の中で生涯そういった視点を持ち続けることは重要と思います。最後に、一人でも多くの先生方が産業精神保健の分野にも興味を持って頂けると嬉しく思います。

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