公益社団法人 日本精神神経学会

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精神科医のキャリアパス

更新日時:2018年3月9日

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樫林 哲雄 先生
兵庫県立リハビリテーション西播磨病院 精神科医長/認知症疾患医療センター長

「学生の頃、精神科は狭い範囲の分野と思っていましたが、実際は精神科の中の認知症診療だけでも、数多くの疾患を対象とする広い分野だということが分かりました」

(掲載日:2018年3月9日)※所属は掲載日のものです

樫林先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 私は新医師研修医制度開始前の平成14年卒業です。研修医は卒後入局を決めてから1年間の他科研修をする人と1年間の研修の後に入局を決める人がいましたが、私は最初に精神科の入局を決めてから研修を行いました。精神科医を志そうと考えたのは、2-3年目の総合病院精神科で2年間の実務を終えて、神経心理学を専門にしている愛媛大学精神科で勉強を始めてからの事でした。神経心理学とは精神科の一領域で失語、失行、失認や認知機能障害、精神症状、行動障害と脳の構造や機能の関係を研究する学問です。それまで3年間に出会った様々な症状を神経心理学的に考える事を学んだ時、精神科医として症状を診ることがとても面白いと感じました。これが、私が精神科医を志した理由です。

 神経心理学は精神科、神経内科やリハビリテーション科、また医師や心理士や言語聴覚士や作業療法士が同じフィールドで臨床と研究を行います。神経心理学の知識は臨床能力と直結しており、特に認知症の症状を正しく理解して治療、ケアをする上で必要な知識です。患者さんの様々な臨床症状を対象とする学問で、勉強することで臨床能力のレベルアップを15年目の現在も実感することができます。

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 当院は、脳卒中等の亜急性期を対象とした回復期病棟50床、パーキンソン症候群などの神経難病や脊髄損傷を対象とした難病病棟50床のリハビリテーション専門病院です。そこに地域型の認知症疾患医療センターが併設されています。

 仕事内容①は認知症疾患医療センターの運営です。仕事内容は厚生労働省が定めた要綱に記載されています。その一つは認知症の鑑別診断と周辺症状や合併症への対応です。我々独自の取り組みとして、鑑別診断をして薬物治療を開始するだけでなく、初回診断を受けた後に専門相談員や保健師が診断を踏まえてケアを考える個別の専門医療相談を行っています。また、専門相談でも解決しない場合に初診の患者さんの家族を対象として私や認知症看護認定看護師、社会福祉士やベテランの介護者家族が参加して、思いを言い合える家族勉強会を定期的に開催しています(写真1)。その他、かかりつけ医や地域の基幹病院、地元医師会と定期的に研修会や会議を開催し(写真2)、円滑な紹介や逆紹介を行えるように、時には訪問をして関係を構築します。研修会は主催、医師会や公的機関の包括支援センターと共催でかかりつけ医向け(写真3)、医療従事者向けや介護者や地域住の方を対象に行っています。また病院があるたつの市と連携して、認知症予防介入を実践するなど地域でも幅広く仕事をしています(写真4)
 


 

 仕事内容②は、病棟業務は精神症状や行動障害、失語、失行、失認などの高次脳機能障害を呈する脳卒中回復期の方の担当やパーキンソン症候群の中で、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症や進行性核上性麻痺など認知症の原因となる疾患の方の担当をしています。神経心理学的なスキルアップや臨床研究のために病院長と相談して、担当する疾患を決めています。

 仕事内容③はせん妄やその他の原因で精神症状、行動障害をきたしている患者さんに対してリエゾンチームによる介入を行っています。認知症看護認定看護師、社会福祉士、保健士と専門医2名によるチームで、週に一回治療の方向性を相談するリエゾンカンファレンスを行い(写真5)、必要に応じて回診を行なっています。平成28年度から開始している認知症ケア加算の算定のために業務を整理して、チームを作り開始しました。

精神科を選んで良かったことは何だと思いますか?

 私が考える「精神科を選んで良かったこと」とは、「認知症疾患医療センターで精神科をしていて良かったこと」です。

 認知症をきたす疾患は数多く、鑑別診断を行う上でアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患をはじめ、神経内科や脳外科疾患であるパーキンソン症候群や正常圧水頭症、内科疾患である代謝性疾患など幅広い知識が必要です。そして症状を正しく理解する際には神経心理学の知識が必要です。また、多くの方が精神症状を伴うので、治療には精神科の知識が必要になります。それぞれの疾患に対して診断、治療や症状に対する対応方法と長期的な視点で介護者への助言を行う必要があり、精神科領域の知識に加えて、幅広い知識を学ぶことができます。

 疾患によっては薬物治療よりも症状への非薬物対応の方が有効な場合もあり、訪問などのアウトリーチやリハビリテーションを含めた他職種によるケアが必要になります。病院ですと所属機関の理解と許可があれば独自の取り組みを展開できる事もメリットの一つです。実際に全国の認知症疾患医療センターでは独自の取り組みをしているところがあります。また、かかりつけ医の先生方、市役所の担当部署、地域の介護職の方と連携を構築して多方面に人脈を作ることができることも醍醐味だと思います。

 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 私は学生の頃、精神科は扱う疾患も少なく、治療法も限られており狭い範囲の分野と思っていました。しかし実際は精神科の中の認知症診療だけでも、数多くの疾患を対象とする広い分野だということが仕事を始めてから分かりました。また、精神科の一分野である神経心理学は古くからの歴史もあり、とても広い分野です。知識を広げれば広げる程、臨床能力が向上することを実感できるところが面白いと思います。近年、画像診断や神経病理学の進歩があり、ますます発展していく分野だと思います。今後わが国では高齢化が進み、患者数が増えていくことからも、認知症診療ができる数多くの医師が必要とされています。

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