公益社団法人 日本精神神経学会

English

医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

精神科医のキャリアパス

更新日時:2018年5月16日

精神科医のキャリアパス←インデックスへ戻る

稲村 圭亮 先生
東京慈恵会医科大学附属柏病院

「患者さんにもそれぞれ個性があるように、精神科医にも個性があって、それぞれの精神科医が自分の言葉を持っている」

(掲載日:2018年5月16日)※所属は掲載日のものです

稲村先生が精神科医を志した理由を教えてください。

 初期研修で森田療法という精神療法を学ぶ機会がありました。昔の用語になりますが、いわゆる「神経症」と呼ばれる患者さんを対象とした精神療法です。研修期間中、幸いなことに、指導医の先生の許可で、患者さんとの面談を自分だけでできる機会を作っていただけました。

 私が担当した入院患者さんは、不登校となった高校生の方でした。3か月ほどの入院中、週に2回、30分じっくりと面談をするのですが、研修医である自分が多くのことを聞き出せるはずもなく、当初は緊張と疲労のみが重なるといった状況でした。何とかうまく問診しようとメモを片手に面接に挑んでもかえって空回りしてしまったり、といった具合で、「自分には何ができるのだろう」と悩む日が続きました。

 そのようなことを重ねていくうちに、ある日の夜、その患者さんから「話したいことがある」と突然言われました。面談室が埋まっていたため、仕方なく病棟の外を散歩しながら話すことになりました。今になって考えると、患者さんは、年代も近い研修医の私ともっとフランクに話が出来る場所が欲しかったのかもしれません。その時の会話は、今までの面談室で聞くことの出来なかった、音楽の趣味や将来の夢、そういったものでした。

 病気の症状・病態を把握しようと必死になっていた私はその時初めて、彼がとても個性のある高校生である、ということに気付かされました。そして、自分が彼の個性を尊重し、伸ばしていく役割を担う必要があると、改めて考えさせられることとなったのです。彼の個性が周囲から否定されても、絶対に自分は肯定して、「そのままでいいんだよ」と言い続けることにしました。

 「ちょっと型破りだけど、患者さんに個性があるように、精神科医にも個性があってよい」と、指導医の先生も後押ししてくださいました。

 患者さんが退院した後も、その患者さんに伝えた「そのままでいい」という言葉は、自分自身に対する言葉にもなり続けました。

 自分が精神科医を志したのは、このような患者さんや指導医の先生との出会いがあり、言葉の力の大きさを知ったからかもしれません。患者さんにもそれぞれ個性があるように、精神科医にも個性があって、それぞれの精神科医が自分の言葉を持っている、そんな魅力があると感じました。

現在はどのような働き方をされていますか?また、なぜ今の働き方を選んだのか、理由を教えてください。

 精神科医の勤務体系には、大学病院・民間病院・クリニック勤務といった様々な選択肢がありますが、ライフスタイルに合った選択ができる、また、融通も利くといった点が特徴でもあるかと思います。

 自分は、大学病院に勤務しており、外来診療が主な業務となります。若い方から高齢の方まで、幅広く診察させていただく機会があり、人数としては再診の方が1日あたり30人から40人くらい、初診の方が1-2人くらいです。また総合病院ということもあり、他科からの依頼で入院・外来患者さんのリエゾン・コンサルテーション診療にも対応することとなります。研究に関しては、主に外来患者さんを対象とした臨床研究を行っております。

 大学病院に籍をおいている理由は、若手精神科医の個性を伸ばす役割を担いたいと思ったからです。自分自身がそうであったように、後輩医師達にも、一つの考えに固執せずに活発な意見交換できる、そんな場所を提供することが自分の役割だと考えています。
 

精神科を選んで良かったことは何だと思いますか?

 精神科医にとって臨床では、問診による診断の技術・精神療法や薬物療法といった治療の技法が重要となります。しかし、それ以前に、まずは患者さんとの関係をいかに構築するかという点が求められます。これは、医療の原点とも言えることでしょう。もちろん他科にも共通することでしょうが、精神科では特に、その原点に立ち返るために様々な試行錯誤が必要であると思います。難しいことではありますが、「どうしたら患者さんが話しやすくなるだろうか」「どう説明すれば理解してもらえるか」と反芻する中で、疾患の理解も成熟し、徐々に自分の診療のスタイルが確立していきます。

 これは何を意味するかというと、精神科臨床というものは自分のライフワークに生かすヒントにもなるのではないかということです。ふとした時に口から出る患者さんへのアドバイスが自分自身を見直す機会になると思います。
 

最後に、医学生、研修医の方へのメッセージをお願いします。

 自分自身がそうであったように、精神科のイメージは漠然としたものだと思います。精神科を研修・実習する機会があったら、自分の個性を十分に発揮し、積極的に患者さんと話し、指導医とそれを共有して下さい。皆さんの個性によって引き出されたものが、将来の新しい治療や研究、そして今後の医師としての人生のヒントになるかもしれません。

このページの先頭へ