妊娠中・出産後に「死にたく」なったり「自傷したく」なったりした方のためのQ&A

Q10 妊娠中・出産後に「死にたく」なったり「自傷したく」なったりした方のためのQ&A

  • 10-1 妊娠中・出産後に「死にたい気持ち」が出てきた時はどうすればよいですか?

    10-1 信頼できて相談しやすい誰か(周囲の方、精神科医、電話やSNS のホットライン、助産師や保健師など)に相談して下さい。(Q10-2もご覧下さい)

    アドバイス

    • 死にたいほどつらい気持ちを他人に話すのは勇気のいることでしょう。そのことを誰かに話すのは大変なことかもしれませんし、自分が弱いのだからと思ってちゅうちょしてしまうかもしれません。また、恥ずかしいと考えたり、こんなこと話していいのかなと、ためらったりするかもしれません。それでも、どこかにつながることをあきらめないでほしいと思います。
    • いのちの電話(全国のいのちの電話一覧 | TOP ページ | 一般社団法人日本いのちの電話連盟 (inochinodenwa.org))などを利用されるとよいでしょう。電話がなかなかつながらないこともあります。それは、同じ悩みを持つ人がそれだけ多いということです。決して自分の運が悪いからとは考えないで、かけなおしてみて下さい。他の連絡先にも連絡してみて下さい。「信頼できる人」とは、あなたの話を最後まで聴いてくれる人、一緒に考えてくれる人です。そういう人を大切にするとよいでしょう。

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    説明

    • こころがつらくなっている時は、自分でその気持にあまり気づかなくても、体の症状に強く出ている時があります。たとえば、眠れなかったり、動悸が止まらなかったり、食欲が出なかったり、おなかが痛かったりなどの症状として現れることがあります。そのような時は、自分の心がSOSを出していると考えてみはいかがでしょうか。
    • 死にたいほど気持ちがつらいような時は、元気な時に考えられるようなことが考えられなくなり、問題の解決策も見えなくなることがあります(心理的視野狭窄といわれています)。そのような時、苦しい状態を終わらせる手段として、「死ぬこと」しか見えなくなってしまうことがあります。誰にでも起こりうることですが、それは視野が狭くなっているから、そう思うだけで、そう思う時にも必ず「死ぬこと」以外の解決策があるのだということを覚えておいて下さい。
  • 10-2 妊娠中・出産後に、死にたい気持ちが出ている時の相談先はどこでしょうか?

    10-2 精神科の病院や通院先があれば、そこに相談するとよいでしょう。休日・夜間は、精神科救急情報センターに連絡するとよいでしょう。

    アドバイス

    • 信頼できる周囲の方にも気持ちを打ち明けてみるとよいでしょう。
    • 自殺の危険が高いと感じる時(たとえば、まったく落ち着くことができない、実際にタオルで首を絞めたなど)は、警察や保健所に連絡して保護を要請しましょう。救急車が対応してくれる場合もあります。

    説明

    • 精神科救急情報センターが各地域に設置されています。緊急で病院に対応してもらう必要がある場合などに連絡します。「精神科救急センター ○○県」などとキーワードを検索すると検索できます。夜間は、以下のURL を見て下さい。
      夜間休日精神科救急医療機関案内窓口|メンタルヘルス|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
    • 自傷他害の恐れがある時に警察に保護してもらうと、警察が精神科医療機関などに連絡して診察対応をしてもらえます。入院について検討されることもあります。
  • 10-3 妊娠中・出産後の本人が「死にたい」と言っていますが、周囲のものはどうすればよいですか?

    10-3 とにかく本人の話をよく聞いて、精神科の医療機関に相談して下さい。そして「心配している」「死んでほしくない」という周囲の方の気持ちを伝えて下さい。

    アドバイス

    • 身内などで抱え込もうとせずに、周囲の方から精神科医療機関に相談するとよいでしょう。(Q4-1もご覧下さい)
    • 「死にたい」という発言の裏には「生きたい」という気持ちがあることがほとんどですから、周囲の方は決してあわてないで、本人を治療に結びつけることを考えるとよいでしょう。
    • 本人の「死にたい」という発言が長引くなどして、周囲の方も悩むようなった場合は、その方の悩みについても、地域の保健センターなどの相談機関や信頼できる人などに相談するとよいでしょう。(Q4-1もご覧下さい)

    説明

    • 誰にとっても、自分の気持ちに共感してくれる人は大切です。自殺を考える人にとっての命綱ともいえます。
    • しかし、「救えるのは自分しかいない」という過度の気負いには注意が必要です。「私が何とかしてやる」と思いこみすぎないで下さい。病院や相談員などは、経験に裏打ちされた自殺予防のノウハウを持っています。そういう人たちと連携することは大切です。
    • 周囲の方は「これはできない」「これならできる」というふうに、できること、できないことをはっきりと伝えておくことも大切です。たとえば、「病院に送ることはできるけれど、帰りは一人で帰ってきてほしい」「帰ってきてから、また必ず話を聞くから会社には行かせてほしい」「一緒にいるから、その代わり、ご飯はデリバリーで済ませてね」などのようにです。
    • 逆に「今まで面倒見たのだから、明日からは自分でどうにかしてよ」などと突然突き放すような対応はよくありません。
    • なるべく大勢で、できるところを分担し合うことはよいことです。病院に入院するという方法もあります。
    • 本人の気持ちに寄り添わず、無理矢理に自分の言うとおりにさせようとすると、本人との関係がこじれてしまいます。対応がうまくいかないと感じた時には、周囲の方自身が誰かからサポートを受けることも必要です。

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  • 10-4 妊娠中・出産後の本人が死にたいと言っていますが、赤ちゃんがおなかにいて(産んだばかりの赤ちゃんがいるのに)本当に自殺などするでしょうか?

    10-4 自殺してしまうこともありえます。つらい気持ちに寄り添い、精神科などに相談するとよいでしょう。

    アドバイス

    • 「おなかに赤ちゃんがいるから大丈夫」などとは決して考えないで下さい。
    • 本人の様子が心配であれば、まずはつらい気持ちに寄り添い、保健師や精神科医療機関などに相談するとよいでしょう。(Q4-1もご覧下さい)

    説明

    • 妊娠中は体がつらかったり、産後は赤ちゃんの世話が大変だったりするので、むしろ自殺の危険が普段より高くなるかもしれません。
    • 先進国における妊産婦の死亡理由は、自殺が最も多いのです。
    • よくいう「死にたいという人は自殺しない」「本当に自殺をする人は、口には出さないものだ」などというのは間違った理解です。(Q10-3もご覧下さい)
  • 10-5 妊娠中・出産後に自傷行為をしたくなります。どうすればよいですか?

    10-5 自傷行為に駆り立てる気持ちを鎮める方法を試みるとよいでしょう。

    アドバイス

    • 気持ちを静める代表的な方法として、呼吸法、イメージ法、置換法などがあります(下記の説明を参照して下さい)。
    • 行動の記録をつけ、自傷行為が起きやすい状況を見えるようにするとよいでしょう(下記の説明を参照して下さい)。
    • 信頼できる医師、看護師、臨床心理師、周囲の方などと一緒に、気持ちを静める方法を考えてもらうとよいでしょう。
    • 薬を使うことも考えるとよいでしょう。

    説明

    • 呼吸法は、吐く息、吸う息に意識を向け、深呼吸を繰り返します。呼吸を通して「今、ここ」に集中することで、過去や未来にとらわれていたことから楽になっていくことが期待できます。
    • イメージ法は、安らぎを感じるような雄大な自然の情景を思い浮かべ、自分が「あるがまま」に自然に包まれて存在していることを想像します。想像しながら、深呼吸を繰り返すことで「不安」「怒り」「とらわれ」などの感情が楽になっていくことが期待できます。
    • 置換法は、自傷を別の行動に置き換えます。具体的には、サインペンで赤く跡をつける、紙を手でビリビリ破く、ランニングや激しいリズムダンスなどをして体を動かす、輪ゴムを手首に巻きつけて弾く、刺激の強い香水をかぐ、などの方法があります。
    • 普段の過ごし方を点検し、自傷行為が起きやすい状況などを把握するために、行動の記録をつけてみましょう。一日を時間ごとに区切って記録できる表(一日単位のスケジュール表などを利用できます)に、自分の行動を記録していきます。数週間記録をつけてから見直すと、どのような時に自傷をしやすいのか、逆に、どのような時に自傷をせずに穏やかに過ごせているかが、わかることがあります。自傷をしやすい状況を避け、逆に、穏やかな状況を増やします。分析をする時は、信頼できる人(医師、看護師、臨床心理士、周囲の方など)と一緒に行うとさらによいです。

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  • 10-6 妊娠中・出産後の本人が自傷行為をしている時、周囲はどのように対応すればよいですか?

    10-6 自傷をやってはいけない、と叱ったり説得したりすることは、功を奏しません。

    アドバイス

    • 「自傷を繰り返す人は自殺しない」というのは間違った理解です。自傷という行動の背後にある心のつらさに寄り添ってあげられるとよいでしょう。
    • 対応法について、精神科医などに相談するとよいでしょう。(Q4-1もご覧下さい)

    説明

    • 自傷を減らす根本的解決方法は、自傷を引き起こすほどの心のつらさを減らすことです。
    • 根本的解決には時間がかかりますので、つらくなった時に、自傷以外の方法で対応できる方法を身につけてもらうことが有益です。
    • 自傷を、見て見ぬ振りをしたり、逆に騒ぎ立てたりするのも、よくありません。叱ったり、脅したり、威圧的な態度でやめさせようとするのもよくありません。「切りたいなら切ってみな」などの挑発的な態度も有害です。傷の手当てを手伝いながら「私は切ってほしくない」と伝えるなどの方法がよいでしょう。
    • 自傷の裏にある本人のつらい気持ちに耳を傾け、つらさを減らすためにどうすればよいかを一緒に考えることができれば理想的です。実際には難しいので、精神科医や臨床心理士などの力を借りることができます。
    • 行動を記録してもらい、一緒につらくなる状況を見つけたり、自傷することについて置き換え可能な別の行動を一緒に考えたりすることも有益です。つらい気持ちを鎮めるための練習をしてもらうことも有益です。医療現場でよく勧められる方法として、呼吸法やイメージ法があります。(Q10-5もご覧下さい)