公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

2. 生物、心理、社会を統合した幅広い視野からの臨床

更新日時:2015年1月28日

精神科では、生物学的側面、心理学的側面、社会学的側面を統合しながら診て行くという他の診療科にない特色を持っている。実際の臨床場面を紹介してご理解を頂きたい。

1)面接場面

まず初診の場面では、訪れた患者が精神科を受診するという負担や様々な心理的な問題を乗り越えてこの場にいるという事実に対して「よく来られましたね」と慰労する気持で迎える。自己紹介の後に、何を目的に来られたかを傾聴しつつ問題点を把握し、どのような病態であるかを診断し、対応の仕方(治療)を判断し、分かりやすく説明して了解を得てから治療を始める。面接中は患者が気持ちや考えをできるだけ自由に表現できるよう配慮するとともに、治療者は患者の立場になって心理状態を理解するよう努める。

2)現病歴・生活史の聴取と症状の把握

例えば憂うつで不眠を訴えて初診した患者に、いつから、どのような出来事があって、どのような症状がでてきたかを聞き、身体症状・精神症状の特徴を把握する。憂うつな気持ちは別な言葉で言うとどんな感じでしょうかと問う。「躰が沈んでいくような感じ、頭が重くて締め付けられるような感じ、胸がずんと沈み込んでいくような感じ」などとしばしば表現する。感情の障害が身体の変化として受け取られている。「感情が湧いてこない、涙が出てこない」など喜怒哀楽の感情が湧いてこないと述べることもある。また、「億劫で何もしたくない、考えが纏まらない、頭が働かない」等は制止の表現である。また、しばしば「じっとしていられない、なんだか分からない不安」などと強い不安と焦燥を示し、訴えが多い場合がある。これらはいずれもうつ病に特徴的な症状である。自殺念慮があるか、自殺企図の既往があるかなどを確かめつつうつ状態の特徴と深刻さを把握する。また、躁的な要素が存在するかどうかも躁うつ病に発展する可能性という面からも重要で、薬物の選択に関係してくる。症状の発症経過が、特徴的な病前性格(執着性格等)―慢性ストレスの存在―発症の形式をとっているか、発病前の適応状態はどうであったかについての情報も重要である。

うつ状態が起こってきた背景を知るために、以下のような事柄を聞いていく。但し病状が重く一度の面接では負担になるようであれば数回の面接の中で聞いていく。幼少時期から青年期にかけての生活史を聞き、両親との関係、対人関係の持ち方の特徴、困難に会った時の対応の仕方、仕事や勉強に対する取り組み方、性格の特徴、などである。

3)診断

抑うつ状態が把握できたら単極性うつ病か双極性感情障害か適応障害か診断する。認知症を含む器質性障害を除外する。この時点で国際診断基準を適応する。

4)治療の選択

ⅰ)薬物療法等
薬物療法に反応するか、反応するとすればどんな抗うつ薬を処方するか、第1の抗うつ薬が効かない場合あるいは副作用で続けられない場合は第2選択薬をどのようにするかも考えておく、気分調整薬の併用が必要か(躁的成分がある場合)、睡眠薬をどうするか、薬物に反応しない場合はどうするか、認知行動療法の併用はどの時点で行うか、薬物療法の効果が不十分で身体合併症がある場合、修正型電気けいれん療法をいつ用いるかの判断が必要である。躁うつ病の場合は基本的には抗うつ薬を用いず、炭酸リチウムやバルプロ酸、カルマゼピン等の抗てんかん薬を中心にして、非定型の抗精神病薬を併用する。

ⅱ)精神療法
傾聴しつつ理解し、健康な部分に働きかけていく支持的精神療法がどのような症例にも、どのような場面にも用いられる。うつ病患者は否定的な考え方・行動のもとに抑うつ状態に陥っていることが多いので、思考・行動・感情を患者と一緒に吟味しながら適応的な思考・行動をとってうつ的感情にならないという体験をしてもらい、それを通して思考・行動を変えていくよう働きかける(認知行動療法)。その他内観療法、対人関係療法など患者が希望したとき、必要とするときに適応できるようにしていく。とくに薬物療法に限界が見えたときに精神療法が中心的になっていく。

ⅲ)心理社会的治療
回復期・遷延期には心理社会的な治療が特に重要になってくる。例えば職場の対人関係、役割の変化、挫折体験などが関係している場合が多く、対人関係の修復や再構築が必要になる。

5)回復期

うつ病の回復が遷延化する要因としては何があるか、職場の環境、家庭環境はどうか、治療に対する協力体制はどうかなどを予め検討しておく。

病状が改善すれば職場の産業医や上司などに病状を報告し、受け入れ態勢の準備について協力を依頼する。会社の復帰プログラムがある場合はそれに従うことがよいか検討し、従う場合は準備を十分する。また、病状が改善してきたが不安や自信が持てない場合は病院のリワークプログラムに乗ってもらい社会復帰に向けての準備をしてもらう。不安要因は何かを調べる必要がある。しばしば発症のきっかけになった職場の環境、とくに上司との関係が問題の場合がある。不安やストレスを強く感じた場面を思い出してその時の状況を詳しく聞いて原因となる対人関係の在り方を把握する。上司や総務関係の人との話し合いが良い結果をもたらす場合がある。どのようにしたら話し合いがもてるかなど臨床心理士、精神保健福祉士などと相談しながら対応していく(チーム医療)。場合によっては精神保健福祉士に会社訪問してきっかけを作ってもらうこともある。

6)遷延化

休職期間を何度更新しても復職できない場合がある。遷延化したうつ病である。症状は軽症化しているが職場に行こうとすると不安が強くなり行けなくなる。その場合には多くは遷延化している要因がある。それが何かを探って明らかにし、どのようにして乗り越えていくかを患者と主治医・医療スタッフが共同で見つけて行くことが必要である。患者の病前性格、考え方、こだわり方、挫折、喪失体験、生き方、生活史などが関係してくることが多い。遷延した状態が長期化すると引きこもって自閉化するか、神経症化することが多い。自閉化に対しては代替えの対象を見つけることを援助し、神経症化に対しては継続的な精神療法を行って精神的成熟を支援する。

7)精神科医のやり甲斐

うつ病の治療ひとつとっても以上のように生物学的側面(薬物療法、無けいれん性の電気治療)心理学的側面(精神療法、支持的精神療法、認知行動療法、内観療法、森田療法など)、社会学的側面(職場の調整、家庭の調整など)があり、あるときは薬物療法が中心になり、ある時は精神療法が中心に、そしてあるときは心理社会的方法が中心になって治療が進められる。そしていずれの場合でも、これら3つの領域については統合して治療を行うことが精神科の最も重要な治療法といえる。

また、精神科の場合何年、十数年と長期にわたって患者に寄り添い、患者が精神的に成長することを支援し見守ることがあり、その成長を確認し合う時の充実感は精神科医でなければ味わえないものである。言い換えれば多くの患者の個人史にお付き合いをして多くのことを学ばせてもらい治療者も成長していく。そして修練と経験を積めば積むほど患者の生活の充実に役立つことができ、やり甲斐を感じることができる。医学の中でも素晴らしい領域である。

(大宮厚生病院 小島卓也)

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