公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

1. 全人的医療を担当

更新日時:2015年1月28日

こころの病を扱うのが精神医学であることは間違いありません。だからといって、精神科医がこころの問題だけをみて、こころにのみ働きかけているわけではありません。

もしそうだとすれば、臨床心理学の専門職(カウンセラー)と違わないことになります。 精神科医は、精神現象には脳基盤があること、脳には無数の脳神経疾患が起こりうること、さらには脳の働きは身体状態の影響を常に受けていることを知っています。したがって、精神疾患の鑑別診断は、脳器質疾患と身体疾患の除外から始めるのです。

治療についても、脳機能へ働きかける薬物が幾つかの精神疾患に有効なことが示されており、これらを適切に用いれば大きな効果を期待できます。このときにも、私たちの注意は、循環器系、神経系、消化器系、内分泌系、血液系、皮膚過敏症へと向けられます。また数種の薬物の間に起こる薬物相互作用の知識も必須です。

このように、医学部6年間で習う医学一般の基礎知識は私たちの日常の診療に欠かすことができません。

次に、こころ(精神)と身体が切り離されたものではないことを別の側面からお話しします。脳は、生体の恒常性を維持する司令塔です。たとえば情動は、自律神経系、神経内分泌系を伝達路として、身体の隅々の機能に影響します。逆に末梢からは、知覚伝導路は言うまでもなく、各種のホルモン(免疫系のサイトカインさえも)、迷走神経反回枝を介して、身体の状態が常に脳にインプットされています。脳と身体は切り離して考えられるものではありません。

また、最近注目されていることは、糖尿病、心筋梗塞、がんなどの病気で、うつ病・うつ状態の併存率が高いという事実です。そして、うつ状態を併存している患者では、身体疾患の予後が悪化する。うつ病を適切に診断し、治療することで、逆に予後を改善できることが示されています。糖尿病を起こす分子メカニズムとうつ病やアルツハイマー病のメカニズムに共通性があるのではないかとすら推定され、酸化的ストレスや慢性炎症の観点から研究が行われています。

慢性に経過する精神障害の患者さんでは、薬の影響や生活習慣の乱れなどから、生活習慣病のリスクを背負います。精神科医は、生活習慣病の基本的な知識を身につけ、主治医として身体の管理にも気を配ることが求められています。

このように、精神医学の専門家となるためには、心理・精神病理に精通することに加えて、基本的な脳-心身相関の知識を身につけ、精神療法と向精神薬療法に精通し、さらには身体疾患の基本的なマネジメントができることが求められるのです。

(九州大学 神庭重信)

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