公益社団法人 日本精神神経学会

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医学生・研修医の方へ|for Residents and Medical Students

9. 一生続けられる臨床科

更新日時:2015年1月28日

医学生や研修医にとって、将来、医師として活動する専攻科を決めることは多くの場合、悩ましいことです。医師として最大限の活動可能年数も考慮すべき一つの選択基準でしょう。精神科はよく云われるように、医師として「一生続けられる臨床科」です。実際に、多くの高年精神科医が精神科診療に携わり、また、本学会活動にも参加しています。それはただ、若い時に、修得した知識や技能が通用するという消極的理由からではありません。そもそも精神医学は、医科学、それも発展し続ける神経科学を基盤にし、人間性や社会的条件を統合した臨床科です。人間性や社会的条件の理解にはその人の学習や人生経験が深く関与します。精神科医として長く勤める過程で知識や技量に加えて人間理解の英知がつくのです。それが当の精神科医に臨床活動を続ける魅力の源となるのでしょう。貝原益軒はその著、『養生訓』のなかで、“人生50にならざれば血気定まらず、知恵開けず、古今にうとく、世変になれず、云うことに誤り多く、行ないに悔い多し、人生の道理を楽しむこともかなわざれば長生きするを要す”と書き記しています。これは1つの老人観ですが、年と経験を重ねることで英知が得られることを指摘していると思われます。社会変動や価値観の変化が続き、精神障害を患う人の多発が予想されますが、精神科医の深い人間理解にもとづく関与は貴重です。現在も多くの高年精神科医が現役としてそれぞれの事情に応じて勤務しているのはそのような役割が果たせているからです。

(福岡大学名誉教授 西園昌久)

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